人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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袖擦り合った縁はどこまで許すべきかなんて考えてはいけない 7

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 まったくもって理不尽だとは思っているが、金は天下の回り物。収入がある以上使ってなんぼの物だし、滅多にできない経験をすると思えば挑戦しても良いとも思う。
 それからすぐに不動産屋の人が来て、この売買にかなり驚かれて俺を見る目がちょろいと見てかギラついていたのが癪に障り
「まぁ、折角購入したので当分は維持したいと思ってます。
 それに二度と手に入らない環境を思えば短い間旅館として使ってみるのも面白いですよね」
 なんて全くヤル気のない事を言ってすぐに売り払わない事を囁いてみる。
 顔は笑顔だけど目は少し焦った物。きっとこの家を手放す決心でもしたと思ってやってきたのだろ。
 俺の天邪鬼な所が断腸の思いをして手放す決断をした爺さんに対して意地の悪さが発動する。
「知り合いに頼んでレストランにしたら素敵だし、結婚式場になるくらいの面積もありますしね」
 そうなれば数年は継続されるだろう。不動産屋の年齢を考えればお勤めしている間にこの売買にかかわる事がないと言うような顔をしていた。
 それほどまでここの土地を手に入れたいのかと思いながら呆れていたが、最後のオアシスのように個人でこれだけの面積を持つ家屋は誰の目に見てもお宝にしか見えないのだろう。
「まぁ、裕貴さんが引退するまでには手放すと思って気長に待っていてください」
 にっこりと笑いながら俺の意地の悪さを良く知る沢村(父)は呆れたように、だけど手放す前からあれこれと計画を立てている皮算用に笑顔を浮かべながらもお怒りなのはこれまでの付き合いで学んできた事なので止めにも入ってこない。
「折角こんな立派な家を建てた職人さんに対する敬意として暫くはその腕を堪能させてもらいます」
 そこで頭を下げた。
 もちろん管理の話しなんて一切しない。
 爺さん達も俺が気に入らなかったと言う事を理解して、黙って納得してくれたどころか
「悪かったな。あれほどまでとは思いもしなんだ」
 何時もならこんな事はないのにとぼやくも
「まぁ、当面は爺さんに管理を任せます。浅野さんもよろしくお願いしますね」 
「はい。こちらこそお世話になります」
 パソコンで電気料金や水道料金と言った物の名義変更をし、電話の名義も変更して毎月請求をさせてもらう事になった。そこは電子マネーでお支払いと言う風に浅野さんにお願いすれば爺さんも便利になったなあと呆れていた。
 名義変更を裕貴さんにお願いしている間にメールで買って来て頂いた物を受け取って
「少しいじってきます」
 そう言ってドアノブの交換に励んだ。
 お宝部屋や、奥様の処分できない衣裳部屋。大粒の宝石類はの息子さんの奥さん方は趣味ではないと言う様に手を付けてないと言うか単に爺さんが怖くておねだりできなかったのだろうと言う様に宝石箱には埃が積っていたのが寂しかった。
 玄関の鍵も交換して電子キーに変えた。
 今時ホームセンターでも手に入るんだなーと感心しながらドライバー一本で変えれる俺有能と褒め称えておく。
 尤もこう言った工作キットは楽勝なのにアナログは何で駄目なんだろうと俺の謎の能力の欠点に涙が出そうだ……
 小一時間も格闘する事無く鍵のある部屋の総てを交換した所で戻ればさすがに沢村(父)は落ちていた。
 代わりに裕貴さんと桜井さんが色々取り決めをしていて、それを見守る爺さんは一つ一つ納得して頷いていた。
「戻りました。浅野さん、とりあえずスペアの鍵をお渡ししておきます」
 なんて出来た鍵の束を渡す。
 不用心と言われるかもしれないけどこの家の物に欠片も思い入れのない俺だからこそできる技。
「所でこの土地を売るとなれば購入金額以上で買い取ってもらえますかね」
 今だこの場に残る不動産屋に聞けば
「この地域はこれからどんどん発展する地区なのでそれはお約束できますし我々もお約束しますよ」
 なんてアレだけ嫌味を言っても購入金額を知る方の計算する本気の視線が怖くて身を震わしてしまう。諦めるつもりはないらしい。
 早く山に帰ってウコ達に癒されたいよ……
 ガチ泣きしそうだったけど各種の手続きを受け継いでいる裕貴さんの忙しさを眺めていればふと感情が融け落ちて行く。
 きっとホワイトと言われる環境で仕事をして来たのだろうがこれからのブラックな環境を思うと何故だか俄然やる気がわいてきた。
「爺さん、この家色々補修入れた方がいいと思うけどやっても良い?」
「ん?そのうち潰すのにそんな事して勿体ないだろ」
「まあね。だけどさ、爺さんの葬式をこの家でやったら話題に上がるよねー」
「また古臭い風習を持ち出しおって」
 鼻で笑われたけど
「葬儀場に頼めばどれだけお金をつぎ込んできたか試される程度だけど、ここでやったらどれだけの人が爺さんに対しての忠誠心が本物かどうか見分けられるね」
 死後行われる踏絵を想像すれば楽しそうでニヤニヤが止まらない所でふと不動産屋さんと目があった。
 思わずこの人はどっちだろうな?
 なんて考えてたのが筒抜けだったのか顔を青くして名刺だけを残し
「ではそろそろ込み入った話になって来たようなので失礼させていただきます。
 何かあればこちらの電話番号までよろしくお願いします。メッセージでも構いませんので今後ともよろしくお願いします」
 何て逃げ足の早さもさる事ながら最後まであきらめない根性は立派なもんだと少しだけ心の中だけで誉めておいてやる。 





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