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袖擦り合った縁はどこまで許すべきかなんて考えてはいけない 3
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床の間にかかる掛け軸ってひょっとして美術館にあってもよさそうな物だよな、いや、きっとコピーなんだろうなと自分に言い聞かせながら飾られてる古伊万里の絵皿を見たりしながらこの家の資産価値を計算しつつ現実逃避していくのは当然だ。
何て事に巻き込まれたと涙目になってしまう。
「わしの願いはそう難しくはない。
先日受けた余命宣告は三カ月。その間この邸を維持してもらえれば幸いだ。その後は煮るなり焼くなりしてもらっても構わん。侘び賃に家の中の物も総ておまけでつけてやる」
「いえ、焼くのは大問題かと思います」
水浸しにするのと放火では全然違ってくるのだと注意すればそこを心配するのかと楽しそうに笑ってもらえた。
「俺の親父も余命宣告されましたが嬉しい事に予定以上伸びましたし、役に立たない計算ですよ」
「それを目安と言うんだ。まあ、この爺の事を思ってくれればいずれ面倒にならないように不動産屋も紹介しておく」
「アフターサービス付きかよ」
呆れてしまう物の秘書さんが羊羹から夏らしく見た目の涼しげな霙寒へと切り替えてくれたのでありがたく口へと運ぶ。うまー。
こんな事で俺の気分をすくい上げてくれるなんて、俺ちょろすぎ。
少しだけ幸せになった俺に
「目の黒いうちに育った家が処分されるのは忍びなくてな。
誰に受け渡しても処分される運命と言うのは悲しい物だから……
こんな突拍子もない事に付き合ってくれそうなのは吉野ぐらいしか思いうかばなかったからの」
寂しげな、でも愛おしそうに柱や擦れた後の残る土壁を眺める視線は過去の思い出をなぞる物。
我が子のように、そして子が親に向ける眼差しで語る無償の愛は自分の命よりもこの家の命を乞うように。
あまりにもの単純すぎる愛情は俺の中にもある痛いくらいにわかり過ぎて爺さんの視線から逃げ出してしまう。
「まぁ、どっちにしてもルームツアー位はさせてよ」
じゃないと無理だ言えば浅野と声をかければすぐ側でくそ暑いのにクールビズ何て関係ないと言うきっちりスーツ姿の秘書さんが返事をしてくれた。
「少し疲れたから儂の代わりに案内してくれ。
見たい所は全部見せてやっていいぞ」
言いながら懐から鍵の束を取り出して渡していた所を見ると本当に見たい放題のようだ。
そして体調の悪さは本物なのだろう。
これだけ暑いのに汗をかく事なく顔色を悪くしているのだからすぐにこの場を離れ、廊下に待機している秘書その二にお世話をお願いするのが爺さんの為でもある。
そうとなればだ。
「では足もいい感じにしびれたので少し失礼します」
余裕ぶってお茶とお菓子を頂いていた物の足を崩せばまだまだ若造。急激に流れる血流にビックリしたかのようにしびれが暴れ出す足で四つん這いになりながら庭を眺めるのにちょうどいい縁側まで出て行けば情けないと笑いながら声を響かせていた。
俺は悶えながらもしびれが取れる間にメールを一件済ませてからまずはと言う様に門から見せてもらう事にした。
時代劇のセットのような立派な両開きの門から石畳を通って玄関に入る所から始めるのだった。
何て石だろうか、大理石ではない所にこだわりを覚え、ここに一人で暮しているとは言え何人もお手伝いさんがいる正真正銘の金持ちの家なのでちりも無ければ埃も落ちていないすがすがしい玄関だった。俺も家帰ったら掃除しよ……
広い玄関には俺には分からない置物がどんと置いてあってどこの旅館かよとつっこみつつも右回りで案内してもらった。
ダイニングにリビングが和風洋風とあり、キッチンは当然自分でする物ではないと言う様にどこの店かよと言うような大人数も賄える規模だった。
「飯田さんが見たら喜びそうだな……」
台所に関しては基準は飯田さんになっているのもおかしな話だが
「飯田氏と言うと動画のコックさんでしょうか?」
意外な事に食いついて来た。
「まあね。青山のMon chateau知ってる?
爺さんの名前なら入れるけど……」
「何度か付き添いでお邪魔した事があります……」
律儀に教えてくれたけど、え?あそこのシェフなのですか?と本気で驚く顔に俺は満足して
「何かあった時はあちらに駆け込む事にしてるから、もしここでの待ち合わせが厳しいようならあそこを頼ってください」
裏メニューの和食が絶品なんですよと内緒の話をして置いた。
「あ、あと今知人を呼んだのでもし来たら先程の部屋で待ってもらうようにお願いできますか?爺さんにもあってもらいたいので」
「はい。そう言う事でしたら」
すぐにインカムで連絡事項を襟元のマイクで連絡する。秘書兼護衛かと納得のお固さに部屋を次々見せてもらうようにうながすのだった。
一見和風の部屋だけど板張りの大正時代によくあるシャンデリアの似合う部屋は
「ひょっとしてダンスホール?」
「小さなコンサート位は出来ます。今は残念な事にプロジェクターを入れてのシアターになってます」
「いや、それだって十分でしょ」
笑いながらこの部屋を後にしていくつからなる大広間の部屋を見て渡り廊下の先にある侘び寂の世界で決めた茶室も見せてもらう。
「絶対縁がない所ですね」
「作法は知っていて損はないですよ?」
「知っていても役に立てない時点で損になってます」
飯田さんのお母さんなら喜んで遊び場にしそうだなとぐるりと見ただけで失礼したのを意外そうな目で見られた。
「こう言うのがお好きだと思いましたが?」
「嫌いじゃないけど、好きな物って自分好みで作り上げた世界じゃん?
悪くはないけどよしともせず、それぐらいに他人の世界だからねえ」
廊下を歩きながら
「趣味が悪くても金の茶室だったら大笑いするぐらいには時間を潰せたのに。あれだけ品が良すぎると寝転ぶのもはばかられる」
「茶室ですしね」
寝転ぶのはどうかと思いますよと遠回しに窘められた。
何て事に巻き込まれたと涙目になってしまう。
「わしの願いはそう難しくはない。
先日受けた余命宣告は三カ月。その間この邸を維持してもらえれば幸いだ。その後は煮るなり焼くなりしてもらっても構わん。侘び賃に家の中の物も総ておまけでつけてやる」
「いえ、焼くのは大問題かと思います」
水浸しにするのと放火では全然違ってくるのだと注意すればそこを心配するのかと楽しそうに笑ってもらえた。
「俺の親父も余命宣告されましたが嬉しい事に予定以上伸びましたし、役に立たない計算ですよ」
「それを目安と言うんだ。まあ、この爺の事を思ってくれればいずれ面倒にならないように不動産屋も紹介しておく」
「アフターサービス付きかよ」
呆れてしまう物の秘書さんが羊羹から夏らしく見た目の涼しげな霙寒へと切り替えてくれたのでありがたく口へと運ぶ。うまー。
こんな事で俺の気分をすくい上げてくれるなんて、俺ちょろすぎ。
少しだけ幸せになった俺に
「目の黒いうちに育った家が処分されるのは忍びなくてな。
誰に受け渡しても処分される運命と言うのは悲しい物だから……
こんな突拍子もない事に付き合ってくれそうなのは吉野ぐらいしか思いうかばなかったからの」
寂しげな、でも愛おしそうに柱や擦れた後の残る土壁を眺める視線は過去の思い出をなぞる物。
我が子のように、そして子が親に向ける眼差しで語る無償の愛は自分の命よりもこの家の命を乞うように。
あまりにもの単純すぎる愛情は俺の中にもある痛いくらいにわかり過ぎて爺さんの視線から逃げ出してしまう。
「まぁ、どっちにしてもルームツアー位はさせてよ」
じゃないと無理だ言えば浅野と声をかければすぐ側でくそ暑いのにクールビズ何て関係ないと言うきっちりスーツ姿の秘書さんが返事をしてくれた。
「少し疲れたから儂の代わりに案内してくれ。
見たい所は全部見せてやっていいぞ」
言いながら懐から鍵の束を取り出して渡していた所を見ると本当に見たい放題のようだ。
そして体調の悪さは本物なのだろう。
これだけ暑いのに汗をかく事なく顔色を悪くしているのだからすぐにこの場を離れ、廊下に待機している秘書その二にお世話をお願いするのが爺さんの為でもある。
そうとなればだ。
「では足もいい感じにしびれたので少し失礼します」
余裕ぶってお茶とお菓子を頂いていた物の足を崩せばまだまだ若造。急激に流れる血流にビックリしたかのようにしびれが暴れ出す足で四つん這いになりながら庭を眺めるのにちょうどいい縁側まで出て行けば情けないと笑いながら声を響かせていた。
俺は悶えながらもしびれが取れる間にメールを一件済ませてからまずはと言う様に門から見せてもらう事にした。
時代劇のセットのような立派な両開きの門から石畳を通って玄関に入る所から始めるのだった。
何て石だろうか、大理石ではない所にこだわりを覚え、ここに一人で暮しているとは言え何人もお手伝いさんがいる正真正銘の金持ちの家なのでちりも無ければ埃も落ちていないすがすがしい玄関だった。俺も家帰ったら掃除しよ……
広い玄関には俺には分からない置物がどんと置いてあってどこの旅館かよとつっこみつつも右回りで案内してもらった。
ダイニングにリビングが和風洋風とあり、キッチンは当然自分でする物ではないと言う様にどこの店かよと言うような大人数も賄える規模だった。
「飯田さんが見たら喜びそうだな……」
台所に関しては基準は飯田さんになっているのもおかしな話だが
「飯田氏と言うと動画のコックさんでしょうか?」
意外な事に食いついて来た。
「まあね。青山のMon chateau知ってる?
爺さんの名前なら入れるけど……」
「何度か付き添いでお邪魔した事があります……」
律儀に教えてくれたけど、え?あそこのシェフなのですか?と本気で驚く顔に俺は満足して
「何かあった時はあちらに駆け込む事にしてるから、もしここでの待ち合わせが厳しいようならあそこを頼ってください」
裏メニューの和食が絶品なんですよと内緒の話をして置いた。
「あ、あと今知人を呼んだのでもし来たら先程の部屋で待ってもらうようにお願いできますか?爺さんにもあってもらいたいので」
「はい。そう言う事でしたら」
すぐにインカムで連絡事項を襟元のマイクで連絡する。秘書兼護衛かと納得のお固さに部屋を次々見せてもらうようにうながすのだった。
一見和風の部屋だけど板張りの大正時代によくあるシャンデリアの似合う部屋は
「ひょっとしてダンスホール?」
「小さなコンサート位は出来ます。今は残念な事にプロジェクターを入れてのシアターになってます」
「いや、それだって十分でしょ」
笑いながらこの部屋を後にしていくつからなる大広間の部屋を見て渡り廊下の先にある侘び寂の世界で決めた茶室も見せてもらう。
「絶対縁がない所ですね」
「作法は知っていて損はないですよ?」
「知っていても役に立てない時点で損になってます」
飯田さんのお母さんなら喜んで遊び場にしそうだなとぐるりと見ただけで失礼したのを意外そうな目で見られた。
「こう言うのがお好きだと思いましたが?」
「嫌いじゃないけど、好きな物って自分好みで作り上げた世界じゃん?
悪くはないけどよしともせず、それぐらいに他人の世界だからねえ」
廊下を歩きながら
「趣味が悪くても金の茶室だったら大笑いするぐらいには時間を潰せたのに。あれだけ品が良すぎると寝転ぶのもはばかられる」
「茶室ですしね」
寝転ぶのはどうかと思いますよと遠回しに窘められた。
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