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幸せは幸せを呼ぶ連鎖反応に対する準備はなんだ 1

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 アイヴィーは滞在期間を経てフランスへと帰って行った。
 俺が入院した事もあり、柊と今度は叶野も一緒に来て中部から電車での帰国方法を教えていた。
 確かにここに来るには東京経由よりも電車を一回乗り換えれば良い明らかに簡単な方法の為にこちらを覚えろと教えがてら帰って行った。
 すっかり痩せこけた俺を見て叶野は眉をひそめ、お土産一杯の荷物のアイヴィーに柊は苦笑していた。
 体調が悪いのだからと空港まで送って行こうとする俺を押しとどめて三人は電車に乗って行ってしまった。
 不満そうなアイヴィーに
「なに。久しぶりに会ったって言うのに俺達じゃ不満なのかよ」
 俺様何様叶野坊ちゃまのお言葉にアイヴィーは
「そんな事ないよ。久しぶりに会えて私も嬉しいよ」
 圧しには弱いのは相変わらずでそうやってドナドナされてしまった。
 因みにフランスではエドガーがお迎えに来てくれるそうだ。オリヴィエが忙しいので俺が依頼した形だが雑用まで引き受けてくれるとは……
「あ、有料懸案だからいくらでも頼んでもらって良いよ?」
 ちゃっかりしているのは相変わらずだなと思いながらもお金でアイヴィーの安全が買えるのなら安い物だなとエドガーの腹黒い笑みを思い浮かべながら割り切る事にした。

 そんな邂逅を終えた所でだ。

「綾人、少し相談に乗れ」

 週に一度の三日月でのミーティングの後珍しく圭斗がやって来た。
 何か込み入った話だったから俺は三日月の店主にコーヒーのお持ち帰りをお願いして圭斗の家で話しを聞く事にした。
 移動時間ゼロ分。道路挟んだお隣さんって便利だねと言いたいけど圭斗の真剣な表情にそう言う事も言えないまま事務所ではなく居間へと案内された所を考えるとかなりプライベートの事だと思う。
 コーヒーを出せば俺からのもらい物のクッキーを缶ごと並べ
「で、何があった?」
 まだ湯気の立ち昇るコーヒーを啜りながら話しを促せば、どこか消化不良と言わんばかりの顔で
「お前のせいだ」
「何故に?」
 何をやった?
 俺が倒れたかアイヴィーの事ぐらいしかここ最近のご迷惑はないはずだ。いや、買い物に行ってくれとパシリにした事か?それともこの冬の雪かきのスケジュールの相談か。よくよく考えれば思い当たる事ばかりだがこれはここまで言わせる事かと頭を悩ませるも
「お前がアイヴィーを連れまわって色んな人に紹介したり旅行に行ったり買い物しまくったりと言った行動を見て良く判らんがアイツにも焦りが出たみたいだ」
「なんだ?ついにかなと結婚決めたか?」
「昨日な」
 なんて言えば苦虫をかみつぶしたかのような顔でそうだと言う。
「おめでとう。香奈の初恋が実ったって言うかここまでの執念すげーと言うべきか」
 少なくともそれは宮下も同様と言う事。
「あいつ修行して一人前になるまでそう言う事は考えないって言ってたのにな。まあ、それを言い出したら一生結婚できないか」
 まあ、妥当な時期だなと言うも何で俺のせいになるのかと思えば納得はできない。
「お前はアイヴィーとは結婚しないんだよな?」
「まあ、うちの負動産の事を思えば将来的には国に返上するしかない価値の土地だからな。俺みたいに人生投げ捨てれるような道の後継者何て作りたくないし、正直に言うと相続税が半端ない。金額もさることながら遺産の大半は土地と古美術にあるから。金目の物の大半はオリヴィエに渡す事となるとその他の物のほとんどが支払う金額が無くなる。まあ、それだけの金額はあるかもしれないが、残して受け取った物を次の代に残そうとすると確実に破産する。そう言う事も含めてアイヴィーにも計算させているから俺の結婚は長期的にみると絶対幸せになれない」
「言ってる事はよくわからないが負動産とはよく言った物だ」
 重要な事を言ったのに理解してもらえなかった事を承知で言ったとは言え少し悲しく思いながらもだ。
「香奈が宮下の事好きなのは知っているし、宮下が香奈の事妹以上に思っていること知っていて何が不満だ」
 なんとなく煮え切らない圭斗に問えば
「知ってるからこそ今更だって言うのが半分、香奈が幸せになれるのか不安なのが半分」
「いつの間にか立派なお父さんになったな」
 妙に感心してしまった。
 そして自分でも判っていたのだろう。
 もともと自分の幸せより香奈と陸斗の幸せを考える傾向のある圭斗だ。
 不安なのはわからないでもあるが
「お父さん言うな」
 ふてくされる様子に認めているけど認めたくない、そんな困ったちゃんに俺は笑う。
「いいじゃん。宮下と親子って言うのはなんだけど、宮下家と家族になれてよかったじゃないか」
 その言葉にピタリと動かなくなる態度に疑問を持つ。
 人の話は真面目に聞くか斜めに聞くかの二択の圭斗にしては珍しく真面目に聞こうとする態度。ここに圭斗の葛藤があるのかと思って突っ込んで聞く事にした。
「何だ?ひょっとして今更宮下家に迷惑がかかるとか考えてるのか?」
 子供時代から宮下家を頼りにしていた三兄弟。 
 多分これは
「ひょっとして今更迷惑をかけて良いのかとか思ってるのか?」
 グッと眉間にしわがよる。
 だけど俺はこれが怒ってる時の表情ではなく葛藤している時の顔だと言うのを知っている。
 既に血縁上の親と兄は塀の中だし、帰る家もない。圭斗の家には内田さんや長沢さん、更には長谷川さん達がしょっちゅう出入りしていて圭斗の親達にとって立派に鬼門となっている。
「これは単に俺の我が儘だ」
「まぁ、仲良し兄妹だったからな」
 たとえ相手が宮下とは言え寂しいのだろう。
 すんと鼻を鳴らす圭斗をなんとなくかわいいなと思いながらも俺は一つの懸念材料を圭斗に聞く。

「そういやさ、宮下の奴、肝心のプロポーズを香奈に言ったのか?」

 宮下の事だからこれはきちんと問いただしておかないといけない事なので聞いておけば、少し逡巡した後首を横に振って我に返った。聞いてないなと……
「は?なんだ?
 じゃあ、あいつ俺に言っておいてまだ香奈に言ってないとか?!」
「いやいや、外堀を埋めるって事では計画的でいいんじゃね?」
 そんな高等な戦術が出来るとは思えないが、まあ、粘り勝ちの香奈の勝ちだなと俺はこのやっと決断した宮下の嬉しい知らせに色々思いをはせるのだった。
 


 
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