上 下
858 / 976

無垢なる綿に包まれて 9

しおりを挟む
 目の前は一面真っ白の銀世界、と言うほどでもない。だけどたった一日京都に行ってただけでこうもなるか?いやなるのがこの家だ。
 出かける前も少し雪が積もっていたがしっかりと降り積もった雪は本日のお天気に早々に溶け出している始末。
 だからこそなおの事氷になる前に通路の雪はかき分けて道をキープしないととせっせと雪かきを始める。
 有り難い事に屋根の雪はまだ融け落ちてくれるので屋根に上るまでもないけどそれでも滑り落ちて来るので注意が必要。昨日から一晩ストーブの火を切らさなかったおかげで先ほど屋根の雪が半分以上は落ちたがまだ残っている。
 綺麗に落ちてくれないのもこの時期の雪の特徴だなと溜息を零しながら離れとウコハウスの道を作る事にする。後五右衛門風呂の道も作っておかないとな。五右衛門風呂が凍りつくと釜によくないから火を入れて温めて凍結だけはしないように注意している。まあ、吹雪いてなければ家とお風呂の間を駆け足で通り抜けると言う絶対転んじゃいけない危険な遊びはやめられないけど。
 寒くても五右衛門風呂で温まった体はそれぐらいへっちゃらだからこそやれる若気のいたりだ。今はアイヴィーが居るのでジェントルマンとして家風呂で我慢する事にしているが。
 まだ凍り付いてない雪は水気が多くて重い。
 軒先からはみでた屋根の雪から滴り落ちる水滴に当らないように注意して雪かきをする。
 除雪機を使うにはまだ量が少ないし、何よりうるさい。
 お母さんと楽しくおしゃべりをしてるアイヴィーの邪魔をしたくもないし、それ以上にまだ除雪機用の燃料を購入してないのだ。使うならちゃんと用意してからだよなとここ数年留守にしてただけで冬籠り用のアイテムの準備がおざなりになってたとはと反省してスマホを取り出して宮下に帰る時取りに行くからお願いと至急購入したい一覧を送っておく。
 雪に覆われた山の上とは言えスマホ対応の手袋じゃなかったから素手になったおかげであっという間に手はかじかんだ物の温かな陽光のおかげで身体はポカポカと温かい。油断すると風邪をひく事になるのだが、そうなったら合言葉は「みゃーちゃん助けてー!」のコール。ぷりぷりと怒りながら小言が止まらないけど甲斐甲斐しく看病してくれる姿は何度見ても面白い。いや、面倒見てもらって思う事じゃないけど何だかそれがこそばゆくてこの時間が好きだなと思ってる事は未だに言えない俺の秘密。
 まあ、言ったからって何も変わる事がないのが宮下なのだが、それでもこの時間を守りたいと思えば口に出さないで素直に感謝するのが正解だろう。
 はーっと指先を温めるように息を吹き付けていれば

「アヤトいたー!
 ごめんね。サナちゃんから浴衣の話しを聞いてたら面白かったから」
 うっとりと夢見心地の表情に本当に好きなんだなと感心しながら
「明日麓の呉服屋さんに行こう。着物を専門で扱ってる店だよ。
 ついでに知り合いの奥さんに着付けの仕方を教えてもらう約束してみたから覚えてみるといいよ」
「嬉しい!ほんとにいいの?!」
「この時期に浴衣があるかはわからないけどね」
「それでも嬉しい!私も自分の着物もてるんだね!」
「期待はするなよ。お母さんの着物は本当に良い物ばかりだから。あれを見た後だとどれも見劣りするのは仕方がないからな」
「ううん、それは当たり前だよ。
 それに着方も知らない私があんなにも立派な着物持ってても着こなせないんじゃ仕方がないわ」
 なんて恥ずかしげに俯きながら、でも自分の着物が手に入ると思ってか顔は嬉しそうに染めていれば

 とささささ……

 「きゃっ!」

 目の前で軒先の雪が落ちて、思いっきりアイヴィーの頭の上に落ちた。
 少し前にも落ちていたから凍ってはないから危険はないとは思うも
「大丈夫か……」
「やだっ!冷たいっ!!!」
 慌てて雪を払うも水気を含んだ雪は髪や肩に絡まる様に溶けて行き
「ああ、もう。タオル取りに行こう」
 らちが明かないと手を引いて家の中に入ろうと振り向いた所で濡れた所が光で反射をしていた。
 
 全身真白に包まれた姿を思い出した。
 柔らかな真綿で大切に包まれたようなその姿。
 もともと白い肌と相成って融けそうなくらいの存在感に見惚れたばかり。
 雪をかぶり、光を反射する姿がその姿と重なった。

「つめた……」
 散々な目に遭ったと思ったアイヴィーは手を引いてくれた綾人が立ち止った事にどうしたのかと視線を上げれば真っ直ぐに見つめられた視線に息が止まった。
 怖いとかじゃなくって、綾人の視線の中には自分しか映ってない事に気付いてしまったから。
 頭の中ではエドガーからの忠告が何度も繰り返している。だけど、それを綾人は視線で一蹴した。
 嬉しい、だけどどうすればいいのか判らない。
 綾人が初めてアイヴィーを、ただ一人の女性として見てくれている事を理解するには十分な熱を持っている事を知ってしまったのだから。
 そっと俯いてしまう。
 どうすればいいか判らなくって、逃げようとするも……

 影が落ちてきた。

 期待しても良いのだろうか?

 同時に綾人がまた苦しむのではないかと言う恐怖に駆られるも、そんな事を考えている間に頬に手を添えられた。
 上げられた視線の先には酷く真剣な、見た事もない位にかっこよく見えた綾人が居て


 ああ、やっぱりどれだけ我慢しても綾人の事大好きだよ。

 
 そっと目を閉じれば綾人の温もりに包まれて行った。


 
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

アマツバメ

明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」 お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、 雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。 雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、 謎の多い彼女の秘密に迫る物語。 縦読みオススメです。 ※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。 イラスト:雨季朋美様

ハッピークリスマス !  非公開にしていましたが再upしました。           2024.12.1

設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

窓を開くと

とさか
青春
17才の車椅子少女ー 『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』 人間1度は訪れる道。 海辺の家から、 今の想いを手紙に書きます。 ※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。 ☆イラスト(大空めとろ様) ○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/ ○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg

処理中です...