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冬の寒さに 5

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 それを切っ掛け、ではないが浩志はちょくちょく風邪をひくようになった。
 決して大した物ではないが良く熱を出すようになったので一度健康診断も兼ねて見てもらうも十分健康な体だと言う事を証明してっ貰っただけだった。

「要はこの新しい環境に身体が慣れてないからだな」
「お医者様と同じご意見ありがとうございます」
 
 何度目かの病院通いの帰り道に先生の家に寄ったら俺も当の浩志も思ってた事を言われてしまう。面白みがないと言えばとりあえず布団敷いて寝かせておけとテレビの前と言う落ち着かない一等地に用意してくれた。
 まあ、宮下のおかげで綺麗な床とお布団なので文句はわないけど……
 それを知らない浩志はありがとうございますとがらがらの声で感謝をして布団へと潜り込み、診察街で疲れたのかテレビの音もものともせずにすぐに眠りについてしまった。
 その様子をお茶を飲みながら見守り

「綾人よ、余計なお世話かもしれんが浩志を家で預かってもいいぞ」
「悪いが先生の飼育係にするつもりはない」
「それー、先生を何だと思ってるの。前にも陸斗に言ってたじゃない」
「一人で人間の住む家を維持出来るようになったら文句を言え」
「なにそれー。そんな事言ったら先生死ぬまで文句言えないじゃん」
「いや、そこは少しは成長して見せろよ」
 やだーと言って机にかじりつく先生に宮下の為にも睨みつけるも逆に見上げられる瞳で
「話を戻すがこれからお前の所は雪に閉ざされる。
 あいつを引き取ってこれで四回目か?
 いきなりあそこじゃ体が付いて行かないから今年の冬はここで少し馴らさせて春から山の気候に合うように調節すように仕切り直せば良いだろ」
 そんな提案。
 確かに俺も春から暮したからそこまで寒さを覚える前に春を迎える事になったから自然と山の気候に馴染んで行ったが……
「考えておく。あいつももうとっくに成人すぎてるからあいつの判断も聞きたい」
「そうだな……」
 と言いつつも何か言いたそうな顔を向ける先生を置いて俺は渡り廊下の向こうに居る長沢さん達に挨拶をしてくると言って浩志を先生に頼む事にした。

 これが引き金となる事を俺は何所か予測しながらもあえてこの少し夢のような穏やかな日常を維持しようと無視した結果あれだけのこと引き起こすなんて想像は完全に俺の落ち度となる事がおきる何て、今思えば先生の口に出すべきかだどうするべきかという言葉から逃げなければもう少しまともな結果になっただろうとおもう。

 猟友会の講習を終える頃にはすっかり深山は雪に囲まれる世界になっていた。
 先生の提案からまた熱を出した物のその頃には俺も浩志もまたかという様に薬の残りを飲ませ、薬を飲んだら部屋に引きこもると言う事になれていた。
 決して慣れてはいけない状況なのに繰り返す発熱にはもう病院にも行くのもめんどくさいし寝てれば大丈夫と山に引きこもる浩志にそんなもんだよなと思う俺も問題だった。
 これで何度目の発熱だろうか、部屋に引きこもるなか英語のリスニングの勉強をする音が聞こえてきた。
 こんな時にまで勉強するなんてと感心しながらも応援してやらなきゃなと思った所でガラリと扉が開いた。
 俺も部屋に戻る途中、マグカップとポットを持った姿でしばし硬直する様に浩志と向き合いながら
「喉乾いたか?」
「ううん?トイレ。お茶はまただ沢山あるから大丈夫だよ」
 そう言って冷たい廊下を小走りで駆けて行く姿を見守って俺は部屋へと向かった。

 それからどれだけ時間かかっただろう。
 ふと廊下を小走りに駆けて行く足音に少しドアを開けて覗いてみた。
 何やら耳に覚えのない音にそーっと忍び足で近くまで行けばそれの意味が分かった。
 寒い廊下が足元から俺を凍らせていく温度とは違い、それは俺の中心から凍らせる悲鳴だと言う事恐怖にすぐさま自分が最も安心と安全が保障されている場所へと戻った。
 
 そこからは総ての日常が偽りで彩られている事に気が付いた。
 雪に埋まった通路の雪かきをしに行くと言って家から出てそっと戻って耳を澄ませば拒絶する音が水音と共に流されていた。
「ちくしょう!何で!」
 そんな泣き言のような言葉と共に聞こえるのはくいしばって堪えるそんな声。
 雪が道路を埋め尽くされるようになってから街に行かなくなった代わりに宮下さんに食料の補充を頼むも、徹夜したからとか夜更かししたからと言ってはあまり顔を合わせない事に違和感として気付けばやっと避けてた理由を理解した。

 恐る恐ると言う様に一日三回の食事の時に顔を見合わせれば……

 俺は卑怯者だ。
 こんなにも良くしてもらって、こんなにも努力してくれている人のピンチに気付かず、さらに無邪気に笑って居たのだ。
 
 これをつかの間の幸せと言うのだろう。
 
 だけど、それが俺の目では見えない犠牲の上にある事に気付いてしまえば、俺の手で終わら紗なくてはと震える手と声で一本の電話を掛けた。

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