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「っざけるなよ……」
夏樹の地を這うような声にびくりと過剰なまでの反応をした浩志はさすがにこの年になって事の重大さを理解していたようだった。
あの時はまだ小学生だったとは言えども助けを叫ぶ姉の声に耳を塞いで何もしなかった選択をしたのは浩志自身。
怖くて何もできなかったとしてもだ。
二回も大きな命の危機を目の前にして声を上げるどころか何もせず目を閉じて耳を塞ぎ知らぬ存ぜぬを通した浩志のその根性に今更ながら怒りがわき上がったらしい。
俺はそれを肴に宮下にお茶が欲しいとおねだりしてまったりしている横で夏樹が浩志に罵声を浴びせていたが『ごめんなさい』『許してください』と土下座して謝る様は随分こなれた仕種だった。
小さくなって身を震わす浩志に誰が教え込んだのかと疑問を覚えていれば
「おい、いい加減にしろ。
ガキのこいつに出来た事はただ小さくなってただ固まってただそこにいるしか出来なかった事を大人になったからって責めるんじゃねぇ!」
圭斗さんがオコでした。しかもかなりに。
夏樹を掴み上げて部屋の隅に用意されていた布団の山へと投げ捨てた後起き上がるのを阻止する様に肺の上を踏みつけていた。
しまったなー。
一番圭斗に見せちゃいけない光景だった事に俺は先生をちらりと視線を送ればお前が蒔いた種だろうと言う様に日本酒を注文していた。
役にたたねぇ、なんて浩志を見れば今だ涙を流しながら土下座したまま小さく石のように固まって震えていて、圭斗は図体がデカくて自衛隊で鍛え上げたはずの夏樹をやすやすと放り投げて胸を踏みつけて起き上がれないようにした所で見下ろしながら
「全部自分達が蒔いた種だろう!
遺産目当てに好き放題金を使い込んだくせに!借金背負う度胸も無いくせに!
守りたいって言うんなら誰かのせいにするんじゃねぇ!
ガキは恐怖で何もできないのが当たり前なんだ!それを今更蒸し返して責任負わすんじゃねぇ!
なにも出来なかった?仕方ない事もあるんだよ!だから陽菜だって全部捨ててその身だけで逃げたんだろう!高校生一年生になって出来た事がそれでやっとだったんだ!小学生のガキに何が出来る!目を閉じて耳を塞ぐ事がやっとだって言うのが何で理解できないんだ!」
目を見開いて圭斗の言葉を受け止める夏樹はその正面にある顔がぼろぼろと涙を零している意味が出来ずに動けないでいれば
「圭斗よ、お前の家も大概だったな。
お前は小学生で既に妹と弟を親から守りながら何とか食べ物を貰えるようにがむしゃらに生きてたんだっけな」
そんな圭斗の過去に夏樹は勿論康隆も圭斗のこの怒り具合に少しは理解できたようだった。
「先生、俺はあんなクソに絶対負けたくないって、クソ以下になりたくないからここまでこれたんだ。香奈と陸斗を幸せにするまで俺が二人に生きる幸せを教えるんだ!
そうでしか、憎い相手のはずなのに優しくしてくれた人のおかげで俺は頑張って来れたんだから、そういうやり方しか知らないから後はとにかく突き進むしかやり方が分らなかったけど、絶対お前らみたいに自分が不幸だからって人のせいにする人間になんかなりたくねぇ!!!」
言い終えたと思ったら涙を拭って部屋を出て行ってしまった。
とりあえず宮下に追いかけろと言う様に顎をしゃぐれば直ぐに追いかける姿を見て暫くの間浩志の泣き声と鼻をすする音を聞いていた。
やがてそれも落ち着いて行き、三者三様誰とも目を合わせないように居住まいを正した所で俺は長い事灯のポツリポツリとしかない窓の外の景色を眺めていた視線のまま
「浩志はとりあえず俺があずかる。
浩志は一度住んでる所に荷物を取りに帰って職場に辞表を書け。理由は高認取得の為でいい。
ただし俺はずっと面倒見る気はない。
高卒の資格と就職のための訓練をして、改めて自活する為の力を付けてから一人立ちをしろ。そこまで手助けしてやる。
良いか、お前はどんな理由があってももう成人している。自力で飯を食って自分を養うのが最低限の大人でお前の目指す所だ。
手助け位してやるが山の生活は厳しいぞ。アホほど仕事押し付けるつもりだから覚悟しろ」
そう言って立ち上がって部屋の中を見回す。
「とりあえずここは康隆の部屋だから浩志は自分の部屋に戻ってもう寝ろ。で、先生も呑んだら行くぞ」
「あー、まだ頼んだの来てないのに……」
「下で呑めばいい。康隆ももう寝ろ」
よいしょっと立ち上がってふらりと歩く先生の背中を見ながら部屋を出た。
部屋を出た所で大矢さんがお酒を用意して立って居て
「ずいぶんと思い切りのいいことを」
窘めるような目だったが俺はその先にあるベンチに先生を案内して味気ない事にそんな所で日本酒を呑ませながら
「圭斗が言ったんだ。
『憎い相手のはずなのに優しくしてくれた人のおかげで俺は頑張って来れたんだから』
って、ジイちゃんの足が何の問題もなければバアちゃんもジイちゃんが逝った後あんな山奥で俺が行くまで一人で寂しい思いする事が無かったのに。林業仲間と一緒にきっと賑やかな山暮らししていたはずなのに、そんな目に遭わせた男の息子に毎日おにぎりを握ってくれた事を今も恩に思ってくれてるんだ。
圭斗が俺にこんなにもよくしてくれるのも婆ちゃんの優しさがあって……
圭斗の親には恨みがあっても圭斗にあれだけしてくれた事を思ったら俺もただ見ている事しか出来なかった浩志をそこまでひとまとめにして恨む事がなんだか難しいような気になってさ……」
まだムカつくけどと小さな声で呟けば、いつの間にか俯いていた俺の頭に先生の手が乗っかっていた。
「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
そして俺の代わりに大矢さんに謝ってくれていた。大矢さんはそんな先生に困ったかのように少しだけ唸った物の
「吉野の、今日はここに泊まっていくか?」
久しぶりだろうと言ってくれたが
「今日はお酒も飲んでるので先生の所で寝てきます」
そうかそうかと先生の声は少しだけ嬉しそうだがよくよく考えればだ。
「一応、あそこも俺の家なので」
「くうっ、住み込み管理人の身の置き場がない!」
涙ぐむ先生だが
「誰よりもあの家を満喫してる人に言われたくない!」
ムキになって言い返してしまうのは仕方がないだろ。
それを見てどこか安心したように大矢さんは笑い
「だったら風呂ぐらい入って行け。家に帰って今から風呂の準備するのも面倒だろう」
そんな提案には俺も先生も乗る事にしてゆっくり一時間は堪能した後は出た所にあったビールの自販機でビールを買い、大矢さんに挨拶をした後先生と並んでぶらぶらとビールを飲みながら歩いて一緒に帰る事になった。
何故か俺は客間に通されて布団を敷いていれば先生がやってきて
「一応宮下に綾人はうちに泊めるぞって連絡しておいたぞ。ウコ達は大和に頼んであるから安心しろってさ」
「大和さんが絡むのが一番信用できないんだけど?」
「そこは妥協しろ。先生の場合だとウコ達が一羽のこらず焼き鳥になってるぞ」
「うん。ウコの多少の増加は大した問題じゃなくなったな」
酷い言いぐさだったが珍しくも先生は何もつっこまずにただ布団の上に座る俺の頭に手を置いて
「お前も早く寝ろ」
そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でられた後すぐに部屋を出て言った後姿を見てかなり気を使って励ましてもらっていた事にやっと気付いた。
夏樹の地を這うような声にびくりと過剰なまでの反応をした浩志はさすがにこの年になって事の重大さを理解していたようだった。
あの時はまだ小学生だったとは言えども助けを叫ぶ姉の声に耳を塞いで何もしなかった選択をしたのは浩志自身。
怖くて何もできなかったとしてもだ。
二回も大きな命の危機を目の前にして声を上げるどころか何もせず目を閉じて耳を塞ぎ知らぬ存ぜぬを通した浩志のその根性に今更ながら怒りがわき上がったらしい。
俺はそれを肴に宮下にお茶が欲しいとおねだりしてまったりしている横で夏樹が浩志に罵声を浴びせていたが『ごめんなさい』『許してください』と土下座して謝る様は随分こなれた仕種だった。
小さくなって身を震わす浩志に誰が教え込んだのかと疑問を覚えていれば
「おい、いい加減にしろ。
ガキのこいつに出来た事はただ小さくなってただ固まってただそこにいるしか出来なかった事を大人になったからって責めるんじゃねぇ!」
圭斗さんがオコでした。しかもかなりに。
夏樹を掴み上げて部屋の隅に用意されていた布団の山へと投げ捨てた後起き上がるのを阻止する様に肺の上を踏みつけていた。
しまったなー。
一番圭斗に見せちゃいけない光景だった事に俺は先生をちらりと視線を送ればお前が蒔いた種だろうと言う様に日本酒を注文していた。
役にたたねぇ、なんて浩志を見れば今だ涙を流しながら土下座したまま小さく石のように固まって震えていて、圭斗は図体がデカくて自衛隊で鍛え上げたはずの夏樹をやすやすと放り投げて胸を踏みつけて起き上がれないようにした所で見下ろしながら
「全部自分達が蒔いた種だろう!
遺産目当てに好き放題金を使い込んだくせに!借金背負う度胸も無いくせに!
守りたいって言うんなら誰かのせいにするんじゃねぇ!
ガキは恐怖で何もできないのが当たり前なんだ!それを今更蒸し返して責任負わすんじゃねぇ!
なにも出来なかった?仕方ない事もあるんだよ!だから陽菜だって全部捨ててその身だけで逃げたんだろう!高校生一年生になって出来た事がそれでやっとだったんだ!小学生のガキに何が出来る!目を閉じて耳を塞ぐ事がやっとだって言うのが何で理解できないんだ!」
目を見開いて圭斗の言葉を受け止める夏樹はその正面にある顔がぼろぼろと涙を零している意味が出来ずに動けないでいれば
「圭斗よ、お前の家も大概だったな。
お前は小学生で既に妹と弟を親から守りながら何とか食べ物を貰えるようにがむしゃらに生きてたんだっけな」
そんな圭斗の過去に夏樹は勿論康隆も圭斗のこの怒り具合に少しは理解できたようだった。
「先生、俺はあんなクソに絶対負けたくないって、クソ以下になりたくないからここまでこれたんだ。香奈と陸斗を幸せにするまで俺が二人に生きる幸せを教えるんだ!
そうでしか、憎い相手のはずなのに優しくしてくれた人のおかげで俺は頑張って来れたんだから、そういうやり方しか知らないから後はとにかく突き進むしかやり方が分らなかったけど、絶対お前らみたいに自分が不幸だからって人のせいにする人間になんかなりたくねぇ!!!」
言い終えたと思ったら涙を拭って部屋を出て行ってしまった。
とりあえず宮下に追いかけろと言う様に顎をしゃぐれば直ぐに追いかける姿を見て暫くの間浩志の泣き声と鼻をすする音を聞いていた。
やがてそれも落ち着いて行き、三者三様誰とも目を合わせないように居住まいを正した所で俺は長い事灯のポツリポツリとしかない窓の外の景色を眺めていた視線のまま
「浩志はとりあえず俺があずかる。
浩志は一度住んでる所に荷物を取りに帰って職場に辞表を書け。理由は高認取得の為でいい。
ただし俺はずっと面倒見る気はない。
高卒の資格と就職のための訓練をして、改めて自活する為の力を付けてから一人立ちをしろ。そこまで手助けしてやる。
良いか、お前はどんな理由があってももう成人している。自力で飯を食って自分を養うのが最低限の大人でお前の目指す所だ。
手助け位してやるが山の生活は厳しいぞ。アホほど仕事押し付けるつもりだから覚悟しろ」
そう言って立ち上がって部屋の中を見回す。
「とりあえずここは康隆の部屋だから浩志は自分の部屋に戻ってもう寝ろ。で、先生も呑んだら行くぞ」
「あー、まだ頼んだの来てないのに……」
「下で呑めばいい。康隆ももう寝ろ」
よいしょっと立ち上がってふらりと歩く先生の背中を見ながら部屋を出た。
部屋を出た所で大矢さんがお酒を用意して立って居て
「ずいぶんと思い切りのいいことを」
窘めるような目だったが俺はその先にあるベンチに先生を案内して味気ない事にそんな所で日本酒を呑ませながら
「圭斗が言ったんだ。
『憎い相手のはずなのに優しくしてくれた人のおかげで俺は頑張って来れたんだから』
って、ジイちゃんの足が何の問題もなければバアちゃんもジイちゃんが逝った後あんな山奥で俺が行くまで一人で寂しい思いする事が無かったのに。林業仲間と一緒にきっと賑やかな山暮らししていたはずなのに、そんな目に遭わせた男の息子に毎日おにぎりを握ってくれた事を今も恩に思ってくれてるんだ。
圭斗が俺にこんなにもよくしてくれるのも婆ちゃんの優しさがあって……
圭斗の親には恨みがあっても圭斗にあれだけしてくれた事を思ったら俺もただ見ている事しか出来なかった浩志をそこまでひとまとめにして恨む事がなんだか難しいような気になってさ……」
まだムカつくけどと小さな声で呟けば、いつの間にか俯いていた俺の頭に先生の手が乗っかっていた。
「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
そして俺の代わりに大矢さんに謝ってくれていた。大矢さんはそんな先生に困ったかのように少しだけ唸った物の
「吉野の、今日はここに泊まっていくか?」
久しぶりだろうと言ってくれたが
「今日はお酒も飲んでるので先生の所で寝てきます」
そうかそうかと先生の声は少しだけ嬉しそうだがよくよく考えればだ。
「一応、あそこも俺の家なので」
「くうっ、住み込み管理人の身の置き場がない!」
涙ぐむ先生だが
「誰よりもあの家を満喫してる人に言われたくない!」
ムキになって言い返してしまうのは仕方がないだろ。
それを見てどこか安心したように大矢さんは笑い
「だったら風呂ぐらい入って行け。家に帰って今から風呂の準備するのも面倒だろう」
そんな提案には俺も先生も乗る事にしてゆっくり一時間は堪能した後は出た所にあったビールの自販機でビールを買い、大矢さんに挨拶をした後先生と並んでぶらぶらとビールを飲みながら歩いて一緒に帰る事になった。
何故か俺は客間に通されて布団を敷いていれば先生がやってきて
「一応宮下に綾人はうちに泊めるぞって連絡しておいたぞ。ウコ達は大和に頼んであるから安心しろってさ」
「大和さんが絡むのが一番信用できないんだけど?」
「そこは妥協しろ。先生の場合だとウコ達が一羽のこらず焼き鳥になってるぞ」
「うん。ウコの多少の増加は大した問題じゃなくなったな」
酷い言いぐさだったが珍しくも先生は何もつっこまずにただ布団の上に座る俺の頭に手を置いて
「お前も早く寝ろ」
そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でられた後すぐに部屋を出て言った後姿を見てかなり気を使って励ましてもらっていた事にやっと気付いた。
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