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時間の流れにしみじみと……するにはまだ早い 4
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お盆も終わり、瞬く間に短い夏休みを終えた社会人と夏休みでも実験に休み返上の学生はあっという間に帰って行く後姿を眩しく見送った。
決してみんなでプチ旅行の雰囲気を羨ましいと思ったわけではない。
駅の帰り道に圭斗の家の裏と言う、街中からは外れた所に出来た立地条件の悪い場所で開店した高校時代の同級生の古民家カフェで軽食を取りながら珍しくカウンターに居座った俺はアンニュイ顔をしていたのか店主が気を使って
「先日山口師匠の所に行ってきたんだけどちょっと珍しいフラワリーオレンジペコー分けてもらったんだけどどうです?因みにディンブラです」
高校時代のバカな口調をやめて接客業受けする丁寧な言葉遣いの心地よい声量にまで気を配った気使いに
「もらおう。ストレートで」
フラワリーがあるなんて珍しい。さすが山口さんと褒め称えながら透明なガラスポットの中で花開くように茶葉が開いて行く様子を満足げに眺めている間に抽出時間を終えてウェッジウッドのティーカップに淹れてもらう。白磁のカップにブルーの小花模様の定番のカップが明るいオレンジ色を蓄えて行くのをうきうきとしながら待ってからの
「さすが山口さん。良い茶葉を見つけ出されて……」
香りもさることながら息を吹き付けてそっと一口、唇を舐めるようにそっと口をつけてればにんまりと笑みが浮かんでしまう。
「飯田さんに淹れてもらおう」
「よし、その喧嘩買った!負け確定だけど買った!」
「じゃあ、連絡しておく」
何て笑いながらメッセージを送っておけば暫くして
『では色々と良い茶葉を見繕いましょう』
嬉しい言葉が返ってきて負けること前提とは言え飯田さんのやる気に頭を抱える店主をお茶うけにお茶を頂く。
うまー。
暫くもしないうちに復活できたのは飯田さんを超える事はまだまだだと十分理解している所だろう。負けるしかない喧嘩を買うあたり見事だなと少しだけ尊敬しながら別のお客様の注文を取りに行って談笑してる様子を見てすっかりこの街になじんでいる様子を微笑ましく見守る。そうして戻って来た所で俺はお茶を飲み干して
「じゃあ、帰るわ」
「今日はもう家に帰るのか?」
「宮下も圭斗も今日は居ないからな。もともと後輩達が帰るのを見送りに来ただけだから」
「お前もまめだなあ」
言いながらお湯をかける様子を見ながらレシートを手に取り
「見送られる側は十分体験したからな。ここを出て行くようにそそのかした以上俺は見送る側になるよ」
「そうして町の人口はどんどん少なくなる」
「時々出戻って来る奴もいるけどな。宮下、圭斗、そして燈火。みんな街に貢献しているから悪いもんじゃない」
言ってお茶代をコーヒーチケットでお支払。イギリスから戻って来てから購入したコーヒーチケットは圭斗達の側に名前を連ねてある。燈火はこの名前の分だけ顔を覚えたと、数少ない特技だと自慢にならないけど社会人経験の時に培ったんだと言って誇らしげに笑う。
いや、何気にすごいから。
寧ろ接客業向けのスキルだけど何で営業なんてやってたんだと疑問を覚えないのはあの学校に来る求人の内容が問題なだけだろう。誰でも入社出来て誰でも受け入れてくれる、そんな夢のような会社なんてそれだけ人が減るからの補充以外なんでもない。あと会社的な都合と言う高校生枠とか。いや、ちゃんとした会社もある。ただの俺の偏見以外何もないけど、こうやって戻ってくるような例もあって自立してくれるならそれもありだなと応援する事に決めた。
と言ってもただ見守るだけだけど。
やりすぎないように今度また動画撮影に協力してもらおうと思う。留学後の俺の生活の一部として素材担当は美味しい紅茶を楽しみながら優雅に仕事をすると言う内容……
『お店とご近所に迷惑かけるから絶対ダメ!』
想像しただけで宮下の却下と下す声とカフェのオープン初日の長沢さんの個展の行列の混乱ぶりの様子が脳内に響いて俺は山に帰る事にした。
決してみんなでプチ旅行の雰囲気を羨ましいと思ったわけではない。
駅の帰り道に圭斗の家の裏と言う、街中からは外れた所に出来た立地条件の悪い場所で開店した高校時代の同級生の古民家カフェで軽食を取りながら珍しくカウンターに居座った俺はアンニュイ顔をしていたのか店主が気を使って
「先日山口師匠の所に行ってきたんだけどちょっと珍しいフラワリーオレンジペコー分けてもらったんだけどどうです?因みにディンブラです」
高校時代のバカな口調をやめて接客業受けする丁寧な言葉遣いの心地よい声量にまで気を配った気使いに
「もらおう。ストレートで」
フラワリーがあるなんて珍しい。さすが山口さんと褒め称えながら透明なガラスポットの中で花開くように茶葉が開いて行く様子を満足げに眺めている間に抽出時間を終えてウェッジウッドのティーカップに淹れてもらう。白磁のカップにブルーの小花模様の定番のカップが明るいオレンジ色を蓄えて行くのをうきうきとしながら待ってからの
「さすが山口さん。良い茶葉を見つけ出されて……」
香りもさることながら息を吹き付けてそっと一口、唇を舐めるようにそっと口をつけてればにんまりと笑みが浮かんでしまう。
「飯田さんに淹れてもらおう」
「よし、その喧嘩買った!負け確定だけど買った!」
「じゃあ、連絡しておく」
何て笑いながらメッセージを送っておけば暫くして
『では色々と良い茶葉を見繕いましょう』
嬉しい言葉が返ってきて負けること前提とは言え飯田さんのやる気に頭を抱える店主をお茶うけにお茶を頂く。
うまー。
暫くもしないうちに復活できたのは飯田さんを超える事はまだまだだと十分理解している所だろう。負けるしかない喧嘩を買うあたり見事だなと少しだけ尊敬しながら別のお客様の注文を取りに行って談笑してる様子を見てすっかりこの街になじんでいる様子を微笑ましく見守る。そうして戻って来た所で俺はお茶を飲み干して
「じゃあ、帰るわ」
「今日はもう家に帰るのか?」
「宮下も圭斗も今日は居ないからな。もともと後輩達が帰るのを見送りに来ただけだから」
「お前もまめだなあ」
言いながらお湯をかける様子を見ながらレシートを手に取り
「見送られる側は十分体験したからな。ここを出て行くようにそそのかした以上俺は見送る側になるよ」
「そうして町の人口はどんどん少なくなる」
「時々出戻って来る奴もいるけどな。宮下、圭斗、そして燈火。みんな街に貢献しているから悪いもんじゃない」
言ってお茶代をコーヒーチケットでお支払。イギリスから戻って来てから購入したコーヒーチケットは圭斗達の側に名前を連ねてある。燈火はこの名前の分だけ顔を覚えたと、数少ない特技だと自慢にならないけど社会人経験の時に培ったんだと言って誇らしげに笑う。
いや、何気にすごいから。
寧ろ接客業向けのスキルだけど何で営業なんてやってたんだと疑問を覚えないのはあの学校に来る求人の内容が問題なだけだろう。誰でも入社出来て誰でも受け入れてくれる、そんな夢のような会社なんてそれだけ人が減るからの補充以外なんでもない。あと会社的な都合と言う高校生枠とか。いや、ちゃんとした会社もある。ただの俺の偏見以外何もないけど、こうやって戻ってくるような例もあって自立してくれるならそれもありだなと応援する事に決めた。
と言ってもただ見守るだけだけど。
やりすぎないように今度また動画撮影に協力してもらおうと思う。留学後の俺の生活の一部として素材担当は美味しい紅茶を楽しみながら優雅に仕事をすると言う内容……
『お店とご近所に迷惑かけるから絶対ダメ!』
想像しただけで宮下の却下と下す声とカフェのオープン初日の長沢さんの個展の行列の混乱ぶりの様子が脳内に響いて俺は山に帰る事にした。
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