人生負け組のスローライフ

雪那由多

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ゼロとイチのパズル　5

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　綾人はピザを齧りながら作業に没頭していた。
　あまりにも快適なコンピュータのスペックにやっぱり市販のPCとは違うなと滑らかな動作にお値段を聞いてみ買えない値段じゃないと思った物のメンテナンスや施設、何より基本となる電力が家庭用では足りない事が決定打となる。ただでさえ我が家は冷凍庫とかでギリギリなのだ。俺が実質使ってるのはPCと水回り位。熱量的な物は薪を使用しているのでほとんどない。吹雪いてる時か土砂降りの時のお風呂に使うかどうか。なのでサクッと諦めた。
　近しいスペックはカスタマイズした物で十分事足りているのだ。
　金曜日にみんなに来ないでくれって言うのもあの時の俺の様子を見られたくないし、集中もしたい。だけど高校の時には今よりも少ない電力で頃はよくヒューズを飛ばして失敗した記憶は痛い思い出となって綾人の中にこびりついている。
　何せヒューズを飛ばすたびにバアちゃんから拳骨を貰うのだ。
　肉体的な教育的指導はいかがな物かと思うが大体はバアちゃんが楽しみにしているドラマの時間にやってしまうので仕方なく殴られて謝るのが反省の証だ。
　なんか懐かしくなってきたなーと思う所で所長が去って行った。
　このブース所か部屋自体から退出したのを見計らって
「さて、やるか」
　持っていたピザをダイエットペプシで流し込むようにして食べた。
「やるかって……」
「さんざん裏ワザとか裏パスとか教えてもらったのにまだあるのか？」
「ただの小技だよ。むしろここからがアイスウォールの本領発揮だ」
　何て最初のスタート画面に戻り。俺は一番最初のパスワードを入力する。
　ポチポチと入れるパスワードに全員目が釘付けになる。
　何せ決して使う事のないキーを押しながらの
「何て技だ」
　画面のカラーリングが全く違う物になった
「裏ページにようこそ～。
　他のソフトを支配下に置いたアイスウォールの攻撃的な部分を集約したページだ。出入り口の管理ソフトを支配した部分を管理する所だ。勿論ミラーを作ってあるから人目がある時はあちらから入ればいい。だけどそこでは一時解除しか出来ないから万が一の時はこっちから入って制御してほしい」
「何て言うもん作ってんだ……」
　エドワーズがもうやってらんねーと言う様にピザを齧りだした。
「一応エドワーズが二重、三重にトラップを作って欲しいって言うリクエストをこなしただけなんだけど……」
「こんな攻撃的なモノを頼んだわけじゃない！」
　金髪の髪を掻きむしりながら涙を零して喚く様子はブースの外からも注目を浴びたためにすぐにすとんと椅子に座り直す。俺より十以上年上なのに可愛いなおっさんと既にメンタルをリセットした所はさすがおっさんと心の中で褒め称え
「ったく、何でこんな危ないプログラムになったんだか。もうすぐで人が一人死ぬところだったんだぞ」
「だねー。さすがにびびった。今時こんな風に泥臭いハッカーがいるとは思わなかったしね」
　泥臭いハッカーとは何だと思ったが
「二十年以上昔のスパイが今も居るんだからそこは俺も考えないとな」　
　反省と言うも二十年以上昔のスパイと言えば有名どころではあの映画の主人公だろう。まさかなと思うもこっそりと合わせた答えが正解なのだから
「映画と現実を一緒にしないでくれ」
　エドガーは酷く真剣な顔でと言った。
　あっさりスルーされたのは判っていたとは言え反省していないのは十年以上の付き合いで分かっている。
「これだけじゃないんだろ？」
　恐怖と期待を織り交ぜる声で聞けば絶対音感を持つアヤトはにたりと視線で笑い

「この時点でリンクするソフトは総て支配している。
　例えば無事ドアを、そうだな……
　物理的に支配したとしても監視モニターがハッカーを追いかける。
　そしてこの時代、有能なハッカーほど機械を使う。アイスウォールを中心とした所で電波含む総てをこの……
　氷の女王は絶対逃がさない。
　分身と言うべきプログラムの我が子を取り戻す為にどこまでも追いかける」

　どこまでも冷静な静かな声にエドワーズ以下リーヴスもグラハムも言葉を失う。
　まさかそんな執念をコンピュータが持つなんてと思いながらも綾人の生い立ちを知る人なら納得するだろう。
　
　それほどまでに親に求められたいと言う心がまだ残っていたと言う事を。
　
　プライベートまで知らない面々はぞっとするような、まるでホラーのような展開に逃げられねえと、いかにこの施設を含む周辺がコンピュータに管理されているのか理解した瞬間ぞっとするのだった。
「だけど相手は氷の女王。下々の訴えには耳を傾けてくれる。
　ここはその為の場所だ。
　だからしっかり覚えて行けよ」
　そう言って綾人はここからのページの使い方を教えた。
　
　高山と知り合う前のエドワーズとも知りあう前。
　完全に孤独だと思い込んでた綾人が抱いた夢と希望をあっさり無知と無力で叩きつぶされたこの場所を守る為にはただ防御だけでは何も守れない事を綾人は学んでいた。
　
　きっとこの氷の女王が攻略されるのは十年を必要としないだろう。
　それでも何年かは守る事が出来る。
　綾人が守るのはかつて手放したこの夢の場所と働く人を守る事。
　些細な事で家族との時間を壊される事もない様に無慈悲なまでに敵を逃がさず、経験を踏まえて成長をしていくだろう事をもう何も言わなくなった三人に淡々と落とし込んでいく。

　後から聞いた話だが、このハッカーはこの建屋で働く職員で、管理者権限を与えられなかった人だと言う。
　ここで実力を発揮すれば今以上によい待遇を約束されるからと言う安易なゲーム以下だった。
　当然彼が持つすべての管理者権限はく奪所かクビになり、セキュリティから法の下でさばいてもらう事になったが……
　数年後。

　刑務所から出てきたばかりのハッカーは物取りに刺されて帰らぬ人になった事を海を渡った遥か東の島国に居る綾人は興味も失っていた。　

　

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