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夏の深山を快適に過ごす為に 8

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 オリヴィエの時は季節によっては水面が虹色に見える渓谷へと遊びに行ったが、今このくそ暑い下界ではその渓谷はバーベキューと川遊びのスポットとなっていた。生憎俺達は着替え所かタオルももってないので遊びには行かない。代わりにと言ってはいけないが

「多紀さん、撮影はどう?」
「やあ、綾人君。今日は珍しいお友達を連れて来たね。なんか見た事があるけど……」
「フランスの大広間のお披露目の時にアルバイトに居た子達だよ。
 今回は動画を見て古民家に実際泊まってみたいって来たんだ」
「改めまして、叶野稜です」
「柊奏多です。動画見させていただきました」
 言えばにぱっと笑う多紀さんだったけどすぐに俺へと視線を移し
「ねえ綾人君。
 この子達と僕の扱いの差酷くない?」
「えー?妥当だと思うよ。
 叶野と柊は家に遊びに来たり、フランスの方にバイトに来たり一緒に勉強したりちゃんと友達としての段階ふんだんだから遊びに来てもらうのふつーじゃね?
 あ、お茶ありがとうございます」
 何て話していれば多紀さん回収班の服部さんがやってきてお茶を出してくれた。
 この人もフランスに来てくれてあの演奏会の撮影に協力してくれた。
 さらにマイヤーの出演後に奏者さん達が即席でいくつも演奏会を披露してくれた時の撮影を多紀さんから替わって担当してくれた。
「そうそう、あの動画好評すぎて動画の収入だけど、マイヤーが主催している音楽家の教育の為の基金に振り込むけど、服部さん達の分はどうする?」
 演奏会が長くなるからいくつかに分けて動画をアップロードしたけど、やっぱりぶっちぎりでマイヤーの演奏が瞬く間に俺達の動画の中で記録的な再生回数を記録したし、うちでは上げなかった裏の様子をオリヴィエやオリオール、出演者達も服部さん達とは別の角度からの動画とか、俺の知らない合間に屋根裏のオリヴィエの練習場や庭の一角とか好き放題演奏して動画を上げていた。
 なるほど。
 前日入りした理由は宿泊費と食事代がかからないからだけの理由だけじゃなかったのかとか呆れ半分関心もしたが、まあ、楽しく滞在してもらえたようで何よりだと思う事にしている。もちろんその思いの中にはまた次に何かあったら使えるなと言う下心を隠してだが。どのみちこの動画収入の一割はこの時料理を作ってくれたオリオールにボーナスとして渡し、何か欲しい物があればと言う資金として使ってもらう事にすれば馬小屋だった裏庭の離れのキッチンの装備が色々追加してあったりして快適度が増し俺まで入りびたりになると言う面白い事になっていた。
 それはさておき服部さん達は動画収入に関しては
「俺達今映画を撮ろうとしてまして、それの資金にします」
 素晴らしい。
 夢に向かって誘惑に負ける事無く下した判断は俺には到底出来そうもない。
 まあ、俺の場合は目標なので単に夢と言う曖昧な物でないだけの話し。
 その辺を波瑠さんに聞かれると物凄い顔で説教されるだろうと言う予測が立つので黙ってはいるが、あの人勘が鋭いから何も言わなくても俺の心の内を見透かして怒りに来るのだろう。
 東京で同級生達に偶然はち会った時みたいに。
 妙な寒気を感じてぶるりと体を震わしていれば
「おー、綾人だ。久しぶりー?」
「何か微妙な空いた時間だけど久しぶりー。
 こっちで撮影してたんだ、蓮司」
「まあな。一応話の合間合間に入る時期が夏の季節だから。
 多紀さんにこっちの気候に合わせた体作りしろよって言われてるからね」
「だったら連絡位寄越せばいいのに」
「あー、しようと思ったんだけど圭斗が今めんどくさい事になってて野菜しか食わされたくなかったらもうちょっと待っててくれっていうからさ」
 って言うか野菜ってなんだ?
 小首かしげる蓮司にはまだ知らなくていいと俺は誤魔化すように笑いながら二人を紹介した。さすがに蓮司の事も多紀さんの事も知っていたようで、こんな所での対面にテンションも高く一緒に写真を撮ってもらっていた。
 そうしてやっと落ち着いた所で
「さっきから気になってたのですが、この家って綾人の家の離れに似てないですか?」
 柊の素朴な疑問。
 叶野も言われてみればとこの家の土間から吹き抜けの高い天井を見上げてそう言えばと言う。
 そこで多紀さん、蓮司と俺が一緒のタイミングで笑い
「多少の違いはあるけど、この家は離れを真似して作ってある。
 大きさも間取りも大体一緒。ただし居間と台所は床で繋がってたり、土間には長火鉢を置いた囲炉裏もないけどね」
 そんな微差を自慢げに言う。
 だけど叶野も柊も大喜びで写真を取ろうとするも
「写真はダメだよ。ここは映画のロケ地でセットだから。建物の写真を撮ってオンライン上で見せびらかしたらこの家を買い取ってもらうくらいは最低限の請求はさせてもらうよ」
 何て多紀さんが脅せば二人ともぎこちない動きでスマホをポケットの中に押し込むのを俺と蓮司で笑う。
「折角だからこの近くを散歩に行こう。
 そういえばさ、なんかとげとげしい花にやたらと綺麗な蝶が来るんだけど綾人知ってる?」
「あー、実際見てみないと判らないけど結構いるよな。
 海を渡ったりとか春と冬で姿が変わる奴とか。だけど温暖化でだいぶ姿見なくなった奴がいるからどれだろ……」
 むーんと悩んでいれば
「だったら昆虫採集なんていかがです?」
「良いねえ!」
 そんな柊の提案。叶野は嬉しそうに言うも
「昆虫採集なんてお断り。
 それより昆虫集計してみないか?」
 何だそれはと言う顔の三人。
 多紀さんにちょっと出てきますと断ってからの竹林。 
 誰も居ない竹林は綺麗に片づけられていて影の中を歩くのが気持ちいい。
 だけどそこにある人工的に作られた囲いの中に棒を突っ込んでガサガサとかき混ぜれば出てくる出てくる黒いダイヤ……
「うわっ!カブトムシ?!」
「何この数!」
「ぜんぜんありがたみがないんだけど、わっ!きもっ!とんできたー!!!」
 速攻で蓮司が逃げた。
 もちろん俺はかき混ぜた後全力ダッシュで逃げている。
 悲鳴を上げる柊と蓮司に笑うも
「うわー!まだまだ出てくるwww
 ちょwww どんだけでて来るんだよwww 昆虫集計ってこれを数えるとか無理wwwwww」
 一人笑いながらの大草原。
 囲いの中に詰めた粉砕した竹のチップの中をぐるぐるとかき混ぜながら囲いの中に隠れているカブトムシを強制的に引っ張り上げる叶野稜をやるなと思うもこんな事で張り合いたくないと思う綾人だった。

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