人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
709 / 976

脳筋なめんな! 10

しおりを挟む
 脳筋手ごわい。
 思うに宮下よりは難易度は低いのだろう。平均的な麓の高校からやってくる奴らと同レベルだ。
 頭が痛いが経験値が宿題をサクサクと進めさせる。六日滞在の内もう二日消化しているのだ。既に泥仕合どころか消化試合の如くなんの盛り上がりもなく俺からの一方的な指摘に三人共涙目だ。
「おら、泣いたって宿題は終わらんぞ」
「うっ、ぐすっ……」
「帰りたかったら帰っていいぞ。バスは動いてないしこの時間はみんなお休みの夜の早い村だ。そもそも人より動物に会う方が多い位だから、活動的な夏は気を付けないとな」
 サバイバルゲームで生き残れるだろうかと考えるも直ぐに無理だなと無駄に体力があるだけにショートカットしようとして道なき道に入って遭難した確率がぐんと上がった。
「田舎やだ……コンビニもないしスマホの電波はいらないし……」
 そういやWi-Fi繋げてなかったな……
 天気が悪くなると時々電波繋がり悪くなるんだよ。まあ、俺はWi-Fiだから問題ないけど。大手A社で元々通信会社だから安定してるのが嬉しいけど。
 国営放送ですらまともに入らないこんな山奥でテレビと言う娯楽すらないここではやっぱりさっさと寝るのが夜の正しい過ごし方となる。そして朝日の出と共に目を覚ますと言う事になる。くっ……
「良いじゃないか。どうせ勉強しに来たんだしスマホ要らないだろ。あ、ご実家の方には俺から電波環境悪い所だから連絡が取れにくいと思うからここの家電に連絡入れるようにお願いしてあるから」
「は?」
 意味が分からないと言う三人に
「なに、連絡したければ家電にかけてくれって奴だ。
 まあ、今時スマホが主流になって家電に電話かける勇気厳しいよなー。ましてや元気してる?ご飯ちゃんと食べてる?おやすみーなんてスタンプ投げれないしな」
 いつでも電話は通じる物の心理的に切り離した結果未だにうんともすんとも着信音を生らさずに電話機は沈黙を保っている。一応久しぶりに復活したから試しに駆けてみたらちゃんと通じる事は保証済みだから通じないと言う事はない。
 目の前の三人も家電に電話を掛ける事自体体験が乏しいだろうに一気にハードルを上げれば家電を掛けた経験も乏しい三人は完全にフリーズしていた。
 高校生ぐらいだとまだ可愛いよなといつの間にか可愛さもなくなった離れの住み込みの奴らを思い出して
「まぁ、今日はもう遅いしこのぐらいにして、着いて来い」
 簡単に片づけさせて三人に行くぞと声をかけて離れに向かう。
 慌てて着いて来る三人は零れ落ちる離れの扉の明かりが頼もしいと言う様に急ぎ足な所をやっぱり街の子供だなあと微笑ましく見守りながら
「今晩の夜食はなんだー」
 聞けば今日はスマブラ大会が開催されていて何とも言えない悲鳴が沸き立っていた。 
 そんな声に三人もどこかそわそわしだす中
「今日は綾人さんの畑で取れたトウモロコシで作ったトウモロコシご飯と虹鱒の塩焼きです」
 土間の長火鉢で焼かれていた虹鱒を見て
「綺麗に串刺し出来るようになったな」
「はい。飯田さんに教えてもらってます!」
 にこにこと誇らしげに陸斗が笑うからよかったなーと俺よりも高い所にある頭に手を伸ばして撫でてあげれば嬉恥かしと言う様に頬を染める。
 初めて会った時から変らないなとそれがどこか嬉しくて
「陸斗、悪いが三人にも夜食食べさせてくれ」
「はい。綾人さんの分もありますよ」
 すぐに電気釜を開ければバターとトウモロコシの甘い香りがふわっと広がった。
 匂いに負けてるけど食べると醤油の香ばしい匂いも舌の上に広がるんだぞと言う絶妙加減は初めてここで植田と水野に食べさせてもらってからの大のお気に入り。今思えばヒョロヒョロで抱きしめてあげたくなるはかなさ懐かしいと今ではすっかりこの家を使いこなすまでに逞しくなった陸斗は竈オーブンからラザニアまで取り出していた。他にもパイやら野菜にチーズを乗せた物などを取り出してきて
「じゃあ食べようか」
 夕食はなんなんだったのかと言うくらいの目にも鮮やかな料理が並べられた。
「って言うか、竈オーブン使うの上手くなったな」
「ええと、綾人さんがいない時に飯田さんにたくさん教えてもらいました」
 きらきらといい顔で誇らしげに言うものの、沢山作った料理の意味は未だに生家でろくにご飯を食べさせてもらえなかった経験から来ていると勝手に思っている。最初の頃は家で作ってたような、いわゆる田舎料理しか作れなかったけど、それから量を作る様になり、細っこい身体とは裏腹に食べまくる姿は美味しいからではなく次いつおなかいっぱい食べれるかという不安からの物。圭斗が引き取って先生はぶつくさ言ったけどいつも食糧に溢れて食べたい物を食べれる環境になってやっと無茶な食べ方をしてこっそりと吐く様な真似はしなくなった。
 勿論飯田さんの家に間借りする時にそれを事前に伝えれば痛々しそうな目でそうですかと考え込んでいたけど、そこは食のエキスパート。陸斗に台所を好きなだけ使わせて、そしてたまに一緒に食材の使い方や料理の言われを教えて無茶ぐいじゃないけどあじわう食べ方を教えてくれた。
 ポテトグラタンと飯田さんの料理以外にそこまで興味のない俺や、食べればいいと言うだけの圭斗では決して教えれない言葉に陸斗は少しずつ矯正されていまでは美味しい料理に目がない程度にとどまっていると思う。
 あかん。
 飯田さんの料理と言うだけで負けが見えている。
 だって俺も飯田さんの料理に負けっぱなしなんだから自信がある。
 しかたない。こればかりはもう別腹だと言って割り切る事にした。








しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...