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立ち止まって振り返って 8

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 滞在残り三日、植田と水野は出来るかぎりの綾っちの対応の仕方をケリー達に教え込んだ。とりあえずわけのわからない事は
「人の行動の理由なんて判らない物だ。綾っちの行動なんて判るわけない。ましてやこの城を買った理由は静かに寝る場所が欲しいからって言うどうしようもない理由だ。
 だから綾っちの行動でわけわからない事があったら言うとおりにするか手を貸せばいいのどちらからだから。機嫌さえ損なわなければ適当で良いから。ただし甘えすぎるのは禁止だ。ちゃんと甘やかした分取り返しに来るのが綾っちだから、このイースター休みって言うの?初めての農作業で終わる事になるんだよ。そんでもって次の学期に成績落ちたら盛大に馬鹿にしに来るから気を付けろよ」
 すぐ横で聞いていた綾人は腑に落ちない顔をするもうんうんと頷く水野と飯田さんに納得がいかず、そして今更ながらこの城に来て以来初日以外本にすら触れていない事に気が付いた新人達は今までこれほど長い時間勉強から離れていた事に今更ながら気が付いたようだった。
 朝は眠い体を無理やり動かして早朝の散歩の如く門から城までのアプローチを掃除して、屋根裏の音楽室で窓を開けてのオリヴィエの奏でるバイオリンの練習曲やその日の気分の曲に耳を傾けながら草取りをする。ちなみに自動草刈り機はマイヤーの愛車になっていた。
「芝生の庭を駆け回るのが男のロマンだよ。綾人にはまだ早いから分からないだろう」
「そうだね。車いす押すくらいなら芝生駆け回ってもらう方が健全ですよ」
 隣を自走タイプの草刈り機に乗って綾人は伴走する。
 草刈り機に慣れてないケリー達は地道に機械が入れない場所をひたすら這って草を刈る……
「アヤト~俺もそれ乗ってみたい!」
 ウィリスの訴えにアレックスも俺にやらせろと言うが綾人は鼻でその主張を笑い
「何事も段階を踏んでレベルアップする物だよ。
 草刈り機もろくに使えないお前達にまだまだここまで来るのは遠い道のりだ」
 はははははは!何て笑い声を響かせながら目の前を通り抜けて行く大人げなさに
「良いか、あれが綾っちだ。飽きる頃か飯田さんがご飯呼びに来る時間を逆算して後片付けを押し付けて来るから。押し付けられたらご飯のおかずへってるから気を付けろよ!」
「何それ!酷い!」
 水野の注意に悲鳴を上げる可能だがそれを植田が冷静に
「理不尽が服を歩いている、それが綾っちだ」
「植田も言うようになったな」
 いつの間にか自走式草刈り機をヒイラギに押し付けていた綾人が植田の肩に手を回し、二人してふふふ、ふふふ、と笑う。
「いやだなあ綾人さん。俺正直者だから正直に言ってみただけです」
「ああ知ってるぞ。植田は正直で素直な奴だって。
 せっぱつまってピーピー泣く可愛らしい所もちゃんと知ってるぞ」
 なぜかスマホを取り出して過去に綾人に泣きついて来た日の映像を見せ始めた。
「やだ!何動画撮ってんのwww」
「いや、基本だろ?基本。俺の家で好き勝手させてる理由はちゃんと笑わせてくれるシーンを思い出に集めているだけだ。安心しろ、お前の結婚式の時に流させてもらうだけだから」
「やーめーて―!マジやーめーて―!」
 ごめんなさいとそろそろご飯だから上がろうかと城に帰ろうとするアヤトの行先に回り込んでのスライディング土下座。相変わらずこの一連の動作の美しさは圭斗や陸斗、香奈がやるような重々しい物が一切の欠片もない滑らかな動きは年々上達してるなと感心するレベル。
 そしてそれを見守っていた周囲に
「良いか、綾っちに謝りたかったらあれぐらいの芸を披露できるようにスキルを上げて置け」
 スライディングにカーブを入れれるようになったとはまた腕を上げたなと感心する水野に叶野も柊も土下座文化を知るだけにそれはないと突っ込みたかったものの既に何やらエキサイトしているアレックス達にこうやって間違った文化が広がって行くのかと言う体験は感動の欠片もない。
 それどころか何やら聞こえてくるオリヴィエの本日の練習曲もネットで超絶技巧とされている事で有名なゲームミュージックだった。
 クラシカルな音楽を楽しみにしていた意外にも教養だけはおしみなく与えられた叶野はネットの動画でかするぐらいしか知らない曲だけどオリヴィエクラスが引くとこんなにも煌びやかな曲になるのかと感心しながら、まったく曲を知らないケリーは
「何て言う曲だろうか。あんな技術誰もが出来る物じゃない」
 押し寄せる音の暴力に圧倒される横で
「やっぱりオリヴィエすごいよね!ピアノの楽譜しか知らなかったけどバイオリン用に編集してくれてさ。あの真っ黒で塗りつぶされた譜面がこんな風になるなんてやっぱり天才だよね」
「ああ、マイヤーも手伝って再編集してくれたけど耳で聞くより視界の方が情報過多で暴力的だったな」
「言っておくけど綾っちの所に置いてあったゲームで遊ばせてもらったのが俺の初の出会いだからね」
「おかしいな。それじゃまるで俺の方がマニアックって感じだよな」
 クラッシックを聞かせながらの放置と言う幼少期を過ごして音楽が嫌いになったというわけではなく、絶対音感の呪いに憂鬱になる物の決して音楽は嫌いじゃない。僅かながらの愛されていた思い出が嫌いになれなく、それが唯一の思い出と言う様に音楽から切り離せなかっただけだけど、回り回ってこう言う繋がりが出来て音楽を純粋に楽しめるような出会いにやっと感謝が出来るようになった。
「それよりも朝食ミーティングの時間だからそろそろまいりましょう」
 唯一タイムスケジュールをしっかりと作って行動できる柊の指示にこう言う秘書が欲しいと綾人は叶野を羨ましく思った。

「さあ、本日の予定はどうなってますか?」
 軽くシャワーを浴びてダイニングへ向かえば既に練習を終えたオリヴィエは食器を並べたりとお手伝いをしていた。
 それを見て手伝う柊を真似て全員が手伝う様子を見ながら
「今日は帰国だけの予定だから。早めに空港に行って土産を買わせるだけだよ」
「ほんと綾っち酷いよね。観光なんてこっちに来て一日しか行かせてくれなくてさ。
 だけどおかげで無駄遣いしないで済んだけど」
「植田よ、けなすか誉めるかどっちかにしてくれ」
「えー?べた褒めですよ?
 調子乗ってお土産買いまくったら新生活の食費が無くなる所だったんだから」
「うん。お前がエッフェル塔の置物とか買ってる姿を見て絶対目につく物全部買いつくすと思ったから観光を切り上げただけだ」
「くっ、原因はやっぱり俺だったか!!!」
 水野のこれでもかというくらいの冷たい視線にそっと背中を向ける植田だったが
「空港で土産買えばいいだけだし、それに綾っち、預かった土産はもうないですか?」
 園田が全員のトランクに分散させたお土産のリストを確認する横で
「凛ちゃんにくまのぬいぐるみを必ず渡せてもらえれば問題ないから。
 あと凛ちゃんにお前達がクリスマスに食い尽くしたクッキーをちゃんと渡して貰えればさらに問題ないから」
「「「すみませんでしたー!!!」」」
 さすがにあの凛ちゃんの悲しげな泣き顔は堪えたと見えてちゃんと我慢できる陸斗、下田、葉山は困ったような顔で焼き立てのパンを食べていた。
「柊、悪いけど俺空港まで送って来るから。あと頼むな」
「承りました」
 さすが秘書。飯田さんを初めとしたケリー達の教育チームの後も問題ないと言う様な安心感を覚える。こいつも苦労して来たんだなとそう言う土台があるから叶野の面倒何て見れるのかと謎の安心を感じてしまった。


 
 
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