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立ち止まって振り返って 4

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 歩けば枝が頭に当らず、伸びた枝が歩行を邪魔せず、そして踏みつけてもめげずに成長を続ける雑草たちも刈り取られ、すっきりと綺麗になった遊歩道を進めばそこには和風の庭園とも言うべき東屋があった。
 茅葺で作れればよかったのにな……
 作った人達は「井上パスポート位とれよ」と不満げにぼやいてみせるも、日本マニアな外人さん達には大うけの山川さん自慢の鏝絵は同じ国の人が見ても笑うしかない傑作だった。しかもウケを狙って七つのボールを集めると現われる的な竜の姿はちょっとググればヒットする程度に笑いを取れていた。山川さんもさぞ満足だろうと思うもリクエストは浩太さんだと言う。中々いい根性だよなと綾っちに大して恐れなしかと感心してしまう。俺なら後で何されるか怖くてそんなチャレンジャーにはなれないけどねと間違った日本文化に興奮するケリーを無視して
「陸、悪いけどこの人頼める?」
「ええー……」
 珍しい事に陸斗でさえ敬遠されていた。
 だけど俺はチョロイ陸斗を説得させるくらいわけない位の仲良しだと思っている。なんてったって綾っちの家でずっと陸斗と一緒に勉強してたからね。あの物音しない場所で陸斗と二人、無音の静けさに泣きそうになりながらも勉強に集中すれば怖くないとお互い声を掛け合って過ごした日々。現実逃避するよりも勉強に集中した方が周囲の静けさを気にしなくて済むと言う極致に至るまでになった俺達の集中力は多分間違ってない。
「ちょっとなんか拗らせててさ、とりあえず簡単な選定から教えてあげて」
「簡単な所で良いならいいけど」
 難易度が高い所は既に葉山と下田が木に登って枝を打ち落としていた。
 初めて会った頃は草刈り機も触った事もなく、電気のこぎりでさえ使った事が無かったのに今では足場の悪い木の上で枝の上で踏ん張って、幹にベルトとロープを使ってバランスを取って枯れ枝や育ちすぎた枝を落していた。
 綾っち、この子達をどう育てたいの?
 一度真面目に話し合いたいけど考えたら俺もそれぐらいできると気づいて全力でスルーする方に決めた。
 寧ろ綾っちの家で学んだ事が普通に活躍していた。

「えー?園田普通科出身だったよね?何で草刈りとか畑の畝作りふつー以上に上手いのwww」
「何で農業科と一緒のレベルで畑作りしてるのwww」
 動物のお世話をする為に餌を作る為に畑作りもしたりするけど耕運機や草刈り機は勿論
「いやぁ、園田インパクトドライバーとか使うの上手いな。牛舎のちょっとした手直しなら全然任せられる」
「この間のトイレの便座の交換とかウォシュレット付きとか実費だけですごく助かったよ!」
 気が付けば便利屋扱いされていた。

 あれ?なんか涙が……
「先輩どうしたの?目にゴミが入ったの?」
 いつの間にか俺より背の高くなっていた陸斗が覗きこむ様に視線を落して来て、不意にきゅんとしてしまう。
 お前どれだけ大きくなっても子犬属性だよなwww
 圭斗さんの弟なのでイケメン属性のくせに弟キャラは変らず、そして子犬属性まで付与されるとは陸斗の将来も心配だが既にこの子には守護神がいるから問題ない。
 何と陸斗君はお隣の森村さんの愛奈ちゃんに告白されてお付き合いをしている。とは言っても清い交際かどうかは見ていればわかると言う物。どっちにしても幾ら陸斗が草食でも愛奈ちゃんは立派な肉食だ。とは言え陸斗にはあれぐらいのぐいぐいくるこの方が良いだろう。主張できないせいか引っ張ってくれるような人が良いと俺も圭斗さんも宮下さんもみんな思っている。何より愛奈ちゃんが陸斗にべたぼれなのだ。高校三年間頑張って陸斗を守り続けた防御力はとき折り俺達にも発揮される位なのだからもう結婚しちゃえばと言えば真っ赤な顔で
「先輩気が早すぎ!やだぁ!!!」
 背中を遠慮なくバシバシと叩かれる始末。
 からかってごめんなさい。マジ痛いからやめてくださいとねがいつつも未だ一線は超えてないらしい。
 因みに愛奈ちゃんは美容師になりたく専門学校に行っている。つまりただいま遠距離恋愛中。遠距離恋愛って持たないよねーなんて定説がある物の彼女の陸への愛着はもう執着と言っても良い。
 前に陸斗のスマホをちらっと覗き見た事があったけど、LIMEのメッセージの数がね、半端なくて、それに真面目に返信している陸斗もおかしいし。
「愛奈ちゃんのメッセージの返信?学校があるから後で纏めて送ってるよ?」
 さも当然と言う様に言う陸斗の将来も心配なのだが、愛奈ちゃんは未だに陸斗が初めてこのフランスに来た時にお土産に買ったネコのネックレスをしているのを俺達は知っている。あまりに健気で一途な彼女の執着ぶりに綾っちも「リア獣なんてほっとけ」なんてクールに言ってくれる。そりゃあ、結婚所か恋愛なんて一切興味のない綾っちならそれでいいけど、俺は少なからずそう言った事も興味のあるお年頃。むしろ好奇心旺盛の頃を勉強一筋で過ごしたのだからそろそろわき道にそれても許されると思う。
 げんに上島先輩彼女がいるって上島弟からメッセージが来たぐらいだし。ほんと兄弟って素晴らしいね。
 それは置いておいて
「鋏で出来る剪定殻で良いからまず植物と触れ合う所から教えてあげてよ。まずはそこからだ」
「だったらこの先の植木のお花が枯れかけているので整理しつつ樹形を整えるように剪定したいと思います」
「うん、樹形を整えるとか判らないから任せるわ」
 何てケリーを手招きして陸斗の指示に従えとだけ言っておく。
 陸斗はまず何故か箒を持たせて小路の中を進み
「樹木の一年は花が咲き終わった年が終わりだからそこで次の年に向けて思いっきり手を入れるんだ」
 へーと言うような理論的な説明にケリーもなるほどと納得するも、その目は放棄に釘づけ。
「まずは枯れた花を落しましょう」
 そう言って陸斗は豪快にバンバンと枝が折れるんじゃないかと言うくらいに布団叩きの要領で樹木に直接箒を当てて花を落していた。これは本当に大丈夫だろうかというようなケリーの視線が俺に助けを求めて来たけど
「枝を折らないように力加減を学ぶのも大切なんだ」
 パタパタと狩れた花を落して行く陸斗を見習い、俺も花を落して行けばやっと真似をする様にケリーも枯れた花を叩き落とす。
「本当なら庭の植木だったらこれだけで良いけど、ここは通路だから、通る人の邪魔にならないようにしたいからね」
 なるほどと聞きながら枯れた花の落とし忘れがない様にやって行けばケリーも一生懸命真似ていた。
「こうやると樹が痛んで可哀想とか言う人もいるけど、花をつけたまま気に絡ませている方が葉っぱを広げるのに邪魔になって虫が付きやすくなるからそっちの方が可愛そうなことになる。ただでさえ今期は甘い蜜を含んでいて虫がたくさん集まるから、花が終わったらすぐに落してあげる方が樹の為でもあるんだ」
 説明しながらパンパンと気を叩く様子はハタキで障子の桟の埃を落すそんな様。器用だよなと感心しながら陸斗と反対側をケリーと二人で綺麗にしていく。
「リクトが言う事は説得力があるな」
 感心するケリーに陸斗は少し照れながら
「綾人さんに教えてもらった事をそのまま言ってるだけなので、そう言われると恥ずかしいです」
 耳まで真っ赤にして逃げるように仕事のスピードを上げて行く陸斗を相変わらず可愛いやつめとほっこしとした気分で見守っていれば
「綾人はこう言う事も精通しているのか。改めて見習うべき人物だな」
 何か勝手にこんな事でさえ綾っちの株を上げて行くケリーにだからお前はダメなんだよと頭を抱える園田だった。



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