上 下
660 / 976

朱に交われば赤くなると言う元の朱は誰ぞと問えば白い目で見られる理不尽知ってるか? 3

しおりを挟む
 部屋は屋根裏の個室を与えた、
 半分ほど潰してオリヴィエのスタジオにしたけど、この大きな城の使用人向けに作られた屋根裏の部屋はバイト達をとまらせるための個室にするには丁度よく数があった。ちなみに陸斗達は合宿のせいで集団での雑魚寝の方が慣れているので二階の大部屋にベットを並べて集団生活をしている。むしろ
「これがキングサイズのベットwww
 しかもそれが四台入れられるってどんだけでかい部屋なんだよwww」
 うん。それは俺も思った。
 と言うかこの発想はなかったなと両壁際にベットを並べたベット部屋は中々にして壮観な景色。
「ほんとおまいら仲良いな」
 呆れると言うか何と言うかどんな合宿だよと思うも
「来年からこんな風に集まる事なんて出来ないだろうから思い出づくりだよ」
 言いつつも植田は陸斗の肩を抱き寄せて
「りっくんとは東京でご一緒できるけどな」
 何て水野も反対側から園田の肩を抱いて
「園田も地元じゃなくて東京に来てくれたからまた遊べるしな」
「やったね!水野先輩植田先輩ごちになります!」
 腰を直角に折り曲げての挨拶に植田も水野も一歩おののいて
「生活がやっとの新人のペーペーが他人に奢る余裕なんてねえ!」
「園田お前普通なノーマルの人生舐めるな!
 綾っちみたいな特殊事例が普通だと思うな!」
「思ってないよ!
 勉強頑張っても城何て買えるなんて欠片も思わないんだから!」
 そんな本音に水野と植田も固まって
「何当り前のこと言ってる!」
「お前社会人になったからってフランスまでほいほい人を招けるなんてサラリーの生涯賃金舐めるな!」
 園田を水野がバックドロップして気持ちよくベットの真ん中に落下した所を植田がエビ固めでタップして終了。
「園田、瞬殺すぎるだろ」
 広いベットからもそもそと這いながら落ちた園田を笑う。
「水野先輩のバックドロップ久しぶりでした。あざーっす」
「ははは、綾っちの家での合宿以来だな」
「なんか不穏な言葉聞こえたんだけどお前ら家で何をやってたか聞いても良いか?」
 って言うかデリケートな母屋の話しか新築に等しい離れの事か。どっちかだけでも教えろと思うも合宿同様集団生活を満喫する様に葉山と下田が荷物を片付けて
「陸斗、そろそろ庭掃除に行こうか」
 葉山の掛け声に
「うん。今日は日本庭園の方に行こう!随分枝が伸びてたから剪定したいから手伝ってもらえると助かるよ」
「ああ、それぐらい任せろ。ネコとかまた借りないとな」
 言いながら進路は別々になった三人だが相変わらず仲がよくって逆に他に友達がちゃんとできているのか不安になるも
『綾っちに言われたくないんだけど』
 そんな事を言われそうなので言わないけど。
 あ、また涙が出そう……
 久しぶりの再会と言う様に穏やかな声でおしゃべりをしながら部屋を出て行く三人を見送れば
「りっくん少し見ない間に随分大人になりましたね」
「だなー。最初はあんなにもきょどってたのに」
 まるで孫を見守るかのように目を細めて出て行ったばかりのドアを見守る植田と水野に俺はどうしても聞いてしまう。
「そのだよ、植田と水野は本当にお前の一つ上なのか?」
「少なくとも植田先輩とは幼稚園の時から知っていたので間違いないですよ」
 逆に思わぬ繋がりを見つけてそっちの方が驚いたと綾人はひとまず顔を出さないようにして
「とりあえずケリー達を回収して仕事を教えてやってくれ。叶野達には日本語禁止、お前らも日本語禁止で本場の英語圏の人達と話をして英会話の実力を上げろ。
 クイーンズイングリッシュとかの方が聞いた事があるけど、今も階級社会を意識するからポッシュな言葉使いを学ぶ機会にもなる。学べるものは学んでいけ」
「うん。俺達綾っちの英語で習ってるから大学で君の英語は随分ポッシュだけど誰か知り合いがあるのかいなんて言われたけど綾っちのせいだって今更ながら気づいたよ」
 そんな園田の普通の英語で良いのにと言う訴えと
「俺の就職先でもたまたま来たイギリスの技術者と話をする機会があって『失礼だけどどなたか家名のある方から学んだのかい?』なんて言われてその時は判らなかったからそう言う人と交流ある人から英語を学んだだけって答えたけどどういう意味があるの?」
 水野の素朴な疑問に俺はそっと視線を逸らせ
「ポッシュな話し方はいわゆる上流階級な家の方達の話し方なんだ。
 俺も後から知ったんだけど、聞く人からは少し皮肉じみた言葉になるらしい。とりあえずコッツウォルズのロードから学んだ人に教えてもらったと言えば多分通じるから有効に使え」
 適当に窓の外に視線をそらしながら楽しげに一輪車を走らせながらかけて行く陸斗達を眺めながらどうでもよさそうに言った言葉が後にとんでもない事になった。
 俺の認識の甘さが一番の間違いなのだが、コッツウォルズの顔役と言うべきロードの知名度を舐めてたのもなるが。
 帰国後もう一度イギリスの技術者に水野はあって馬鹿真面目にロードから学んだ人から英語を教えてもらったと話したらしく、その人もネタとばかりに問い合わせればロビーで会う人に
「ああ、アヤトの事だね。ロードから学んだクイーンズイングリッシュを沢山の人に教えているんだね。本当に勉強熱心な話を聞けてうれしいよ。ロードはただいま不在だけどこの嬉しい報告は是非ともお伝えしますよ」
 なんて言われたらしく、水野はそれ以来英語圏担当となったらしい。是非とも英語力を上げてもらいたい。ではなく
「それよりもあいつらに庭仕事を教えてやれ。
 生まれも育ちも上から目線しか知らない奴らだから底辺から上を見上げる景色がどれほど素晴らしいか教えてやると言い。
 上に上がるしかない世界がどれだけ夢と希望と野望に満ちてるか教えてやれ」
「「イエッサー!!」」
 軍人でも自衛隊でも何も関係のない二人のノリのよさに呆れながらも駆けて行く後姿に園田も付いて行く。
 「さてと……」
 俺は三階へと続く階段を上がる。
 荷物を片付けたのか賑やかな会話が聞こえ、そこに向かう頃には表情を硬くしていた。
「何をしている」
 全員集まっていた場所はオリヴィエの練習場。ホールを模した三階の半分を使った部屋で彼らはバイオリンを弾いていた。
「アヤト!君は音楽の嗜みもあるんだな!」
 感心したぞと言うケリーとウィリスの持つバイオリンを俺は奪い取る様に回収してバイオリンケースを収納する棚に戻す。
 荒っぽい俺の態度に触ってはいけない物だと気づいたようで
「何でこの部屋にいる」
「悪い。こんな所にこんなすごい設備の音楽室があるのに驚いてお邪魔させてもらったんだ。そうしたらグァルネリとか、名前だけ知ってるバイオリンがあったからこの気概に弾かせてもらっただけで……」
 俺はケリー達をこれでもかというくらい冷たい視線で見下ろし
「人が楽器を選ぶように楽器も人を選ぶ。
 この名器には当然所有者がいて、お前達が勝手に触れる事は許されない」
 静かな怒りはさすがにアレックスは勿論叶野達にも理解が出来たようで、全員が反省する顔をし、ケリーが演奏する様子を見て凄いと言う様に興奮していたジェレミーはもはや泣いていた。
「ここにあるバイオリンはあのジョルジュ・エヴラールが最愛の弟子に譲ったバイオリン達だ。
 お前達が触れて良い魂じゃない」
 それだけを言って顎で出て行けと指示をする。
 ジョルジュの名前はさすがに今だ誰もが知るようで驚きに目を見開くケリー達から楽器を受け取って指紋を拭う様に拭いて棚に戻す。
 全員を音楽室から追い出した所で鍵を閉めて
「見晴らしが良いからとこの三階に案内したが許された部屋以外に足を運ぶとは思わなかった。二階の部屋に案内する。荷物纏めたら移動するぞ」
 俺の油断だ。
 少しだけ許した心は長い時間をかけて理解しあった植田達とは違う事を思い出し、ここに招き入れて本当に良かったものかと今更ながら後悔する綾人だった。

 

しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...