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今年もありがたい事にスケジュールがいっぱいになりそうです 4

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「そんなわけでこの秋にはイギリスに三年ほど留学に行ってきます」
 ポカンと俺の顔を眺める宮下と圭斗とゆかいな下僕達。
 陸斗、葉山、下田の卒業と進学祝いの場での俺の告白。
 先生と飯田さんはこのあまりな反応にせめて場を盛り上げようと拍手を響かせてくれるけど雪かき部隊の植田、水野、上島兄も揃ってポカンとした顔をしていた。ちなみに上島弟はまだ学校なので帰ったら働きに行くので美味しい物食べさせてくださいとお願いされている。たまには家を手伝え。
「綾っち質もーん!」
「綾っち言うな。で、植田、なんかあったか?」
 律儀に手を上げて質問する植田は
「綾っちが今更勉強する事なんてあるっすか?」
「綾っち言うな。学問だけが勉強じゃないんだよ」
「本末転倒な答えだな」
 先生のボヤキに俺も頷き
「まぁ、異文化体験にスキルアップを加えたイギリス長期滞在だと思ってもらえればいい。フランスにも近いしな。
 オヤジオフクロ問題も済んだから今までできなかった事を少しわがままにやりたい事をやろうと思う」
「綾っちいつもやりたい放題じゃないっすか」
「綾っち言うな。あと植田のバイト代時給五百円に決定だ」
「綾人様申し訳ありません!」
 秒で土下座。この反射はもはや芸術である。
「次はないと思え」
「ははー!」
 ひれ伏すように謝るまでがお約束のバカさ加減のツッコミに見事だなと思うのは多分全員一致した思いかもしれないが俺のオヤジオフクロ問題の深刻さをこの場の全員が大体知っているだけにそれを持ち出されては何とも言えないと言う所だろう。
「で、先生達は知ってたのかよ」
 圭斗の何処か拗ねたような声。
「そりゃ、綾人の進路相談するのは先生の役目だからね。
 行けるとは思ってたけど、本当に行けるんだと思うと感慨深いわぁ」
 俺が諸悪の根源ですと言う様に一年越しの計画を暴露するも
「綾人さんあまり勉強しているように見えなかったのに凄く努力してたんですね」
 陸斗の尊敬と言うようにきらきらとした目で見られても。ここ数年ずっとお前らの相手で高校受験の繰り返しだったんだぞ。むしろ一体何浪したんだと言うのは言わずにきりっとした顔で
「大人だからな。いろいろしながら合間合間に勉強はしてたさ。むしろ向こうでは働いてお金を貯めてから大学に行くって言うのも普通の話しだから特別な事じゃない」
 とは言え勉強に力を入れたのは主に英会話。ほぼラグなしの会話からラグなしの会話へとレベルアップし、エドガーに買い集めさせた教科書で既に予習は済ませてある。
「フランスに行った時イギリス生まれのバーナードや同じカレッジ出身のロードにも色々話を聞かせてもらって好奇心が止まらないって言うか。
 あ、安心しろ。長期休暇の時は戻るようにするから。土産は用意するから取りに来い」
「「楽しみにしてまーす!!!」」
 直角に腰を曲げて頭を下げると言う素直な返事の植田水野コンビの阿吽の呼吸に一気にこの場を和む明るさがある。
 さすがに真似できなからねとその一芸を誉めて遣わしておけば
「ではお料理もさめる前に頂きましょう」
 飯田さんももういいですよねと言うようにこの場を切り替えるような提案に
「いただきまーす!」
 テーブルに着いてからフォークを手放さずにいた俺は食事の挨拶をして真っ先に目の前に置かれたポテトグラタンを至福の顔で食べた所で皆さん手を伸ばして料理に手を付け始めてくれた。
「綾っち、ところで向こうではどうやって過ごすの?」
「綾っち言うな。
 とりあえず既に住処は確保して来た。
 家具とかもカールに頼んでバーナードに部屋の改造も頼んでおいたし、後は俺が入るだけだな」
「まさかまた古民家買って来たんじゃないだろうな……」
「大丈夫、ただの一軒家。赤い煉瓦の煙突が可愛いいかにもイギリスっぽい家」
 スパーンと先生に頭を叩かれた。
「ちょ、グラタン食べてる時に止めて!ポテトグラタン様に侘びろ!」
「意味わからんこと言う前に意味わからんもの買うな!」
「だって寮とかドミトリーって無理だしー。アパートとかも良かったけど結構古くってリフォームするなら資産価値の上がる一軒家の方がいいしー。一応カレッジの側のアパートも確保したけどこの家の方が可愛いいしー」
「卒業後は売り払うつもりとか?」
 宮下の疑問に
「結構広い庭も付いてるからな。綺麗にしておけばそれなりに買いたい人が現れそうな感じな家なんだ」
 言いながらスマホから写真を見せる。
 住所もあって植田達がサクッとググって笑っていた。
「まんま絵に書いたような煉瓦の家ですね!」
「伝統的で良いだろう。煙突とか家の中には暖炉もある。マントルピースって奴もあるぞ」
「暖炉の前で揺り椅子で揺られるのが似合いそうな家ですね!」
「推理小説とかミステリー小説の似合う家だろ」
「そして誰も居なくなった的な?」
「買い手はついて欲しいのでそれは止めて」
 げらげらと笑う植田と水野に
「でも綺麗なイングリッシュガーデンですね」
 手入れはされていて綺麗な庭にうっとりと陸斗が誉めれる。
「前の人がこだわり抜いた庭らしいからな。
 コッツウォルズとはまた別の良さがあるんだ」
 フランスの城もだんだん植物が育ち、植えたての頃のむき出しの地面もグラウンドカバーによってだいぶ見えなくなってきた。
 所々動物が荒らしたり、お客の子供が遊んで傷んだりした所はあるが、そこはマイヤー達が手を入れて世話をしてくれている。
 大きなつばの帽子に首にタオルを巻いて庭の植物の世話の仕方を覚えている世界的マエストロのマイヤーでも常連さん達には庭師のお爺ちゃんと思われているので世の中不思議だとおもう。もっともそれをマイヤーは喜んでいるので隙にさせとけばいいだろう。
「そう言えばコッツウォルズも地図を見ると遠くはないですね?」
「まあ100キロぐらいだから。一時間半とか二時間あれば車で移動できる距離だな」
「意外と近いですね」
 県内の南から北部に行く程遠くはない。
「俺の保証人になってもらってるロードに遠くはないから月に一度は顔を出せって言われてるくらいだしね。一度車で行って来たけど観光地に向かうから距離と時間とスピードは一致しないね」
 電車とバスとタクシーを乗り継いで足を運んだ絵本を切りぬいたような世界は今も時間に置いて行かれたような美しい村。
 この何もない村にもコッツウォルズのように愛され足を運んでもらい、癒される場所になって欲しいと頑張っているもののまだ道は険しく先は長い遠い夢の話しだけどやりがいはあると綾人はそっと笑みが浮かべた。



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