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遅い春に芽吹く蕾 6
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その間にも家の中では並べられた料理を食べ始める高校生と元高校生達が騒ぎ出し、巻きこまれるように幸治と一樹も当たり前のように呼ばれて人数に数えられているのを当人達だけが居場所がないと言う様にまだ遠慮と言う物を覚えていると言う様子にかいがいしく面倒を見る宮下によって料理を食べ続けさせられるのだった。
そして石岡の所でもお祝いをしているようで羽田と柚木の声も聞こえて一層賑やかとなる。
「綾人さんどうぞ。レモンで良かったですか?」
「タバスコもお願いします」
言えば先生がビールをさっと出してくれた。よくわかってらっしゃるとプルタブを開けて飲めば飲みかけのビールは先生が引き取ってくれた。
その間にも高校生達はゲームを持って来てテレビに接続してスマブラ大会が始まっていた。いや、カオスすぎだろと大騒ぎの様子を見ていれば圭斗もこっちへ逃げてきた。
「あいつらのテンションについてけるか」
「まぁ、景色を眺め陽に当たりながらまったりするのが一番よ」
圭斗も先生からビールを貰えば本日車に乗らずにここでお泊りする予定でやって来てるので頂きますと言って飲み始める。
「所で先生は引っ越し終わったのかよ?」
「ん?まあね。ちょくちょくこっちに荷物運んで来てたから今日はもう身の回りのものだけで終わりだ」
「それが一番信用ならん……」
「大丈夫よ。陸斗がしっかり片づけてくれたから問題ないから」
ぶっ!!!
何て吹き出す圭斗はまさか陸斗が既にいいようにつかわれているとはと言う所だろうか。まあ、噴出しても庭だし良いかと取り皿とビールを持って守りに入ったけど落ち着いたのでまたまったりと頂く事にする。牡蠣うまー。
「今作業場の方で宮下が長沢さんと仕事してるだろ?
邪魔しないようにこっちの二階で、綾人が綺麗にしてくれた部屋を貰ったから」
「まあね、本部屋にしようとしてただけだから構わないけどね」
旅行先の旅館に憧れて作った部屋が先生の遊び場になってしまった。くっ……
「そうそう、悪いけど俺の仕事道具一式本棚に置かせてもらったから混ざらないように注意してね」
「それを先生が言うか」
俺の本が追いやられる未来しか想像が着かなくて渋い顔をしてしまうも焼けてふっくらつやつやとなった牡蠣を飯田さんが「ちょうどいい感じですよ」と差し出してくれた。
そしてにくい事に貝柱はちゃんとからから切り離されていて
「うわっ、いつみても絶対美味い奴って言う色艶してる!」
頂きますと何度も息を吹き付けて火傷しないように、でも目の前に出されたら止められないと悶絶しながらはふはふと食べる。
塩をパラリとかけただけの牡蠣と醤油を垂らして少し焦がせた奴と言う流れから、大根おろしを添えた物、お酒をかけて酒蒸しにした物。牡蠣を焼いただけなのに色々な食べ方を用意してくれる飯田さんはチーズを乗せて焼くと言う絶対テロる奴まで差し出してくれていた。
熱を孕む牡蠣に対抗するように冷たいビールで口の中を再度キュッと冷ます。
「む、は~……」
そんな幸せな余韻に浸りながらビールを片手に次の牡蠣へと手を伸ばす。もう箸何て使ってらんねーぜと言う様に牡蠣殻にそっと唇を付けて火傷する熱にびくびくしながらもちゅるんと一口で食べる勇者の俺!悶えて熱に耐えながらビールでキュッとリセットする無限ループ。
「幸せ……」
うっとりと宙を見上げながらの感動を零せば
「何よりです」
最高の褒め言葉だと言わんばかりに飯田さんは殻の片隅に味噌を乗せた味噌焼きとパン粉をまぶした香草焼きまで作り始めるのだった。王道は勿論変化球もサイコーです!
「綾っちー、今良い?
魂飛ばしてないでちょっと戻って来てくれる?聞こえてる?」
至福の時間を邪魔しおってと振り向けば園田達が何やらどん引きした顔でいつの間にか揃っていた。
少し離れた所では宮下や植田、水野、上島がニヤニヤとこの様子を見ている所を見ると何か企んでいたのだろう。俺の魚介類はやらんぞと言えば飯田さんに残念な子を見るような目で見られてしまった。
まあ、当然か。
毎年とは言えこの流れは定番になっている。
宮下と圭斗を無事送り出して味を占めた先生による次々に送り込んできた後輩たちを無事送り出す儀式につきもの、つまり教え子の卒業式。
俺は一切セレモニー何てしないけど、代わりに自分達で自分達の卒業式を準備させてると言うイベントに毎年手を変え趣向を凝らし、去年は今とは違うゴミ屋敷を披露すると言うおまけがあった事を思い出してしまった。
今年は何があるのかなーなんて思いながらも牡蠣を取ろうとした手を飯田さんに叩き落とされた所でちゃんと向かい合う。
「綾っちには三年間お世話になりまして……」
「以下省略。んなひねりも笑いもない感謝ならここで終わりにしろ」
なんて言ってもめげないのがこの面子。
初めて見るだろう幸治と一樹は緊張するかのように顔がこわばっているものの既に全員この流れはとっくに通過儀礼と言う物。
さて、今年はどう来るかと逆に警戒をすれば園田、山田、川上は何故かアイコンタクト。
あ、これ絶対ろくでもないパターン。
瞬時に悟って逃げ出そうとするもそれより早く若さが俺を捕まえるように駆けだしていて
「「「綾っち大好き!ここまでありがとう!!!そしてこれからもよろしくね!!!」」」
スクラムを組んで襲い掛かってきた様子にさすがに飯田さんも先生も巻き込まれたくないからと逃げ出していた。
「うおっ!おまえら!!!」
飛びつかれて案の定押しつぶされて四人纏めて地面に転が…… らない。
「ふっふっふ、綾っち覚悟しろ」
「悩みに悩んだ三日間!」
「先輩達を上回る伝説を俺達は今作る!!!」
「ふぁぁぁあああっっっ?!」
宮下は幸治を、圭斗は陸斗を目隠しして。
先生はついにやったかと大笑いしながら、飯田さんは雪でぬかるむ庭先の出来事にああ、もうとあきれ顔。
頬に押し付けられた生暖かさに俺は何か大切なものを汚された気分になったが、園田達は何故かやりきったと言うような満足げないい笑顔。
ひねりもない感謝ならここで終わりにしろと入ったもののこんな風にねじ曲がった感謝だなんて誰が想像をする。
「まぁ、綾っちにキスするなんて二度と無いだろうから」
うんうんと頷く園田。
「全力で挑まないと俺のファーストキスを全力で拒否られるからな」
聞きたくなかった川上のファースト。
「まぁ、次からは二度と使えない手だったし、二度も使われる事はないからな」
頼むから二度とやらないでくれと山田に願ってしまう、
「うっ、うっ、うっ、俺もうお婿になれない」
打ちのめされたと言う様に泣いてしまえば
「何を言ってる。もともと結婚する気もないくせに。
考え方によってはこれが最後の期会と思えば良い思い出だろう」
呆れかえる先生の声。
「こんな思い出一生いらねー!一生思い出さないんだから!
これを持って今のを忘れろ!!!」
投げつけたのは恒例の卒業プレゼント。
正方形に近い形の箱は去年同様お揃いの時計。
去年受け取った奴らが律儀に使っているのを見て三人お揃いの物を用意したけど
「中身熊の手にしとけばよかった!!!」
「綾っち、生臭はやめてください」
中身を知らない三人組は受け取ったばかりの箱にびくびくとしながらも悲鳴を上げながらリボンと包装紙を外し、やがて姿を現した植田達が身につけている物に似た時計を見て、今度は喜びの悲鳴を狭い谷間に響かせるのだった。
そんなまだまだ子供らしい喜怒哀楽を全力で表現する様子を見てもういいだろうとまた食事を楽しむ様に椅子に座りながら正面の山沿いを走る電車が駅に到着する景色を眺める。この冬、親父と再会してからの数か月の短い間に慌ただしくも俺のまだ決して長いとは言えない人生の中で大きな区切りがついた季節はまだ雪が舞いだすようなそんな寒い春の日だった。
そして石岡の所でもお祝いをしているようで羽田と柚木の声も聞こえて一層賑やかとなる。
「綾人さんどうぞ。レモンで良かったですか?」
「タバスコもお願いします」
言えば先生がビールをさっと出してくれた。よくわかってらっしゃるとプルタブを開けて飲めば飲みかけのビールは先生が引き取ってくれた。
その間にも高校生達はゲームを持って来てテレビに接続してスマブラ大会が始まっていた。いや、カオスすぎだろと大騒ぎの様子を見ていれば圭斗もこっちへ逃げてきた。
「あいつらのテンションについてけるか」
「まぁ、景色を眺め陽に当たりながらまったりするのが一番よ」
圭斗も先生からビールを貰えば本日車に乗らずにここでお泊りする予定でやって来てるので頂きますと言って飲み始める。
「所で先生は引っ越し終わったのかよ?」
「ん?まあね。ちょくちょくこっちに荷物運んで来てたから今日はもう身の回りのものだけで終わりだ」
「それが一番信用ならん……」
「大丈夫よ。陸斗がしっかり片づけてくれたから問題ないから」
ぶっ!!!
何て吹き出す圭斗はまさか陸斗が既にいいようにつかわれているとはと言う所だろうか。まあ、噴出しても庭だし良いかと取り皿とビールを持って守りに入ったけど落ち着いたのでまたまったりと頂く事にする。牡蠣うまー。
「今作業場の方で宮下が長沢さんと仕事してるだろ?
邪魔しないようにこっちの二階で、綾人が綺麗にしてくれた部屋を貰ったから」
「まあね、本部屋にしようとしてただけだから構わないけどね」
旅行先の旅館に憧れて作った部屋が先生の遊び場になってしまった。くっ……
「そうそう、悪いけど俺の仕事道具一式本棚に置かせてもらったから混ざらないように注意してね」
「それを先生が言うか」
俺の本が追いやられる未来しか想像が着かなくて渋い顔をしてしまうも焼けてふっくらつやつやとなった牡蠣を飯田さんが「ちょうどいい感じですよ」と差し出してくれた。
そしてにくい事に貝柱はちゃんとからから切り離されていて
「うわっ、いつみても絶対美味い奴って言う色艶してる!」
頂きますと何度も息を吹き付けて火傷しないように、でも目の前に出されたら止められないと悶絶しながらはふはふと食べる。
塩をパラリとかけただけの牡蠣と醤油を垂らして少し焦がせた奴と言う流れから、大根おろしを添えた物、お酒をかけて酒蒸しにした物。牡蠣を焼いただけなのに色々な食べ方を用意してくれる飯田さんはチーズを乗せて焼くと言う絶対テロる奴まで差し出してくれていた。
熱を孕む牡蠣に対抗するように冷たいビールで口の中を再度キュッと冷ます。
「む、は~……」
そんな幸せな余韻に浸りながらビールを片手に次の牡蠣へと手を伸ばす。もう箸何て使ってらんねーぜと言う様に牡蠣殻にそっと唇を付けて火傷する熱にびくびくしながらもちゅるんと一口で食べる勇者の俺!悶えて熱に耐えながらビールでキュッとリセットする無限ループ。
「幸せ……」
うっとりと宙を見上げながらの感動を零せば
「何よりです」
最高の褒め言葉だと言わんばかりに飯田さんは殻の片隅に味噌を乗せた味噌焼きとパン粉をまぶした香草焼きまで作り始めるのだった。王道は勿論変化球もサイコーです!
「綾っちー、今良い?
魂飛ばしてないでちょっと戻って来てくれる?聞こえてる?」
至福の時間を邪魔しおってと振り向けば園田達が何やらどん引きした顔でいつの間にか揃っていた。
少し離れた所では宮下や植田、水野、上島がニヤニヤとこの様子を見ている所を見ると何か企んでいたのだろう。俺の魚介類はやらんぞと言えば飯田さんに残念な子を見るような目で見られてしまった。
まあ、当然か。
毎年とは言えこの流れは定番になっている。
宮下と圭斗を無事送り出して味を占めた先生による次々に送り込んできた後輩たちを無事送り出す儀式につきもの、つまり教え子の卒業式。
俺は一切セレモニー何てしないけど、代わりに自分達で自分達の卒業式を準備させてると言うイベントに毎年手を変え趣向を凝らし、去年は今とは違うゴミ屋敷を披露すると言うおまけがあった事を思い出してしまった。
今年は何があるのかなーなんて思いながらも牡蠣を取ろうとした手を飯田さんに叩き落とされた所でちゃんと向かい合う。
「綾っちには三年間お世話になりまして……」
「以下省略。んなひねりも笑いもない感謝ならここで終わりにしろ」
なんて言ってもめげないのがこの面子。
初めて見るだろう幸治と一樹は緊張するかのように顔がこわばっているものの既に全員この流れはとっくに通過儀礼と言う物。
さて、今年はどう来るかと逆に警戒をすれば園田、山田、川上は何故かアイコンタクト。
あ、これ絶対ろくでもないパターン。
瞬時に悟って逃げ出そうとするもそれより早く若さが俺を捕まえるように駆けだしていて
「「「綾っち大好き!ここまでありがとう!!!そしてこれからもよろしくね!!!」」」
スクラムを組んで襲い掛かってきた様子にさすがに飯田さんも先生も巻き込まれたくないからと逃げ出していた。
「うおっ!おまえら!!!」
飛びつかれて案の定押しつぶされて四人纏めて地面に転が…… らない。
「ふっふっふ、綾っち覚悟しろ」
「悩みに悩んだ三日間!」
「先輩達を上回る伝説を俺達は今作る!!!」
「ふぁぁぁあああっっっ?!」
宮下は幸治を、圭斗は陸斗を目隠しして。
先生はついにやったかと大笑いしながら、飯田さんは雪でぬかるむ庭先の出来事にああ、もうとあきれ顔。
頬に押し付けられた生暖かさに俺は何か大切なものを汚された気分になったが、園田達は何故かやりきったと言うような満足げないい笑顔。
ひねりもない感謝ならここで終わりにしろと入ったもののこんな風にねじ曲がった感謝だなんて誰が想像をする。
「まぁ、綾っちにキスするなんて二度と無いだろうから」
うんうんと頷く園田。
「全力で挑まないと俺のファーストキスを全力で拒否られるからな」
聞きたくなかった川上のファースト。
「まぁ、次からは二度と使えない手だったし、二度も使われる事はないからな」
頼むから二度とやらないでくれと山田に願ってしまう、
「うっ、うっ、うっ、俺もうお婿になれない」
打ちのめされたと言う様に泣いてしまえば
「何を言ってる。もともと結婚する気もないくせに。
考え方によってはこれが最後の期会と思えば良い思い出だろう」
呆れかえる先生の声。
「こんな思い出一生いらねー!一生思い出さないんだから!
これを持って今のを忘れろ!!!」
投げつけたのは恒例の卒業プレゼント。
正方形に近い形の箱は去年同様お揃いの時計。
去年受け取った奴らが律儀に使っているのを見て三人お揃いの物を用意したけど
「中身熊の手にしとけばよかった!!!」
「綾っち、生臭はやめてください」
中身を知らない三人組は受け取ったばかりの箱にびくびくとしながらも悲鳴を上げながらリボンと包装紙を外し、やがて姿を現した植田達が身につけている物に似た時計を見て、今度は喜びの悲鳴を狭い谷間に響かせるのだった。
そんなまだまだ子供らしい喜怒哀楽を全力で表現する様子を見てもういいだろうとまた食事を楽しむ様に椅子に座りながら正面の山沿いを走る電車が駅に到着する景色を眺める。この冬、親父と再会してからの数か月の短い間に慌ただしくも俺のまだ決して長いとは言えない人生の中で大きな区切りがついた季節はまだ雪が舞いだすようなそんな寒い春の日だった。
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