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戦う為に 2

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「また面白い事を始めたなぁ」
「まぁ、先生の家には敵わないからラクショーでしょう」
 週末先生がやってきて一件の畑付の家を見上げていた。
 もちろんその荒れ果てた外観もながら雑草をかき分けて入った室内もだ。
 と言ってもある程度ちゃんと片づけてくれて人が生活していた名残がある程度なのでそこそこ綺麗な感じだったが、それでも何年も人が住んでなかった家のくたびれ具合は悲しい物だと言うしかない。
「屋根は、まぁ、雨漏りしてるな。後この臭いは住み着いてるだろうし」
「さっきから目の前をネズミーが全速力で走ってるしね。猫を放ちたい」
「今時の猫なんて鼠なんて知らないから捕まえないぞ」
「圭斗の家を縄張りにしている猫は通りすがりの蝙蝠を捕まえてお持ち帰りしてたぞ」
「タンパク質は自力で確保、綾人と仲良くなれそうじゃないか」
「家を傷つけるような奴はお断りだ」
 言いながら家の中を見て回る。
 さすがに納屋に水場を設置しただけの場所とは違いそれなりに居心地良く住もうとした努力の後は見れた。ただし昔ながらの田の字型の間取りで北の方角は薄暗い。南側の縁側は一間半あり雨の日も雪の日も洗濯物を干す場所には困らなさそうだ。
 台所と風呂とトイレはレトロなタイルが貼ってあって、でもトイレはここ十年前後以内に変えたのかちゃんとした今時風の物だった。
 ほら、一応下水通ってるからトイレはぼっとん系じゃないんだよねと羨ましく思いながらも一応手入れの対象としておく。
「最新のシステムキッチンじゃなくてもさあ、台所は明るい作りが良いよね」
「だな。ここに居た時の家は窓から近かったから明るくて気にならなかったが実家の台所って何で家のあんな奥まった所にあるのかって思ったな。
 朝一番に起きてご飯の準備してくれて夜は部屋が温まらないうちから晩ご飯の準備してくれて、それこそ一日三回は立つ場所が何であんな暗くて寒い場所なんだって、親父にお袋虐待してるのかって聞いたら喧嘩になった」
「せんせー、そこはせんせーがリフォームしますって手を上げるのが正解だったと思います」
「悪いな、すぐに家を出る予定があるし、弟が未だに嫁所か彼女募集段階で家に居着いているから弟が支払うべきものだと俺は思うんだ」
「それを聞くと反論できないな」
 寧ろそのまま老後の面倒まで見てくれと言う物だろう。
 階段を見つけて二階へと向かう。二階は何の変哲もない部屋が三部屋あるだけで、やはり雨漏りの痕跡が見れた。
 一階の雨漏りもだがどちらも小規模で匂いが酷い。
「先生、これって純粋な雨漏りだと思います?」
 鼻が曲がりそうな匂いに先生も渋面を作りながら
「純粋さはないだろうな。衛生面で凛ちゃんが心配だ」
「それー」
 意見は一致。屋根の様子は一度プロに見てもらい、それから一度考え直す。
 内装は全部変えなくてはいけない。さすがにカビは体に良くない。そして湿気をすってべこべこになった床もだ。たわむ床の上でジャンプなんてしようとすればあっという間に床が抜けるだろう。
「だが綾人よ、この家に手を入れるとなるとそれなりにかかるぞ」
「だよね。とは言っても俺が住み着くわけじゃないからどれだけ安上がりで済ませるかが挑戦だと思ってる」
「岡野夫妻も不憫」
「悔しかったらそれを覆すだけの甲斐性を見せろって言うんだ」
 家計を預かる嫁が実の親に騙されている時点でそれは厳しいだろうと高山は渋い顔をしながらも綾人と二階から降りて離れの納屋へと草原と化した庭を掻き分けて向かう。
 こちらの納屋は圭斗の家と違い作業場なんてなく
「打ちっぱなしのコンクリートの上に壁と屋根を乗せたのか」
「駐車場兼作業場だね。
 ありがたい事に草刈り機一式揃ってるよ」
 手に取って状態を見るも「宮下に任せればいいか」などと言う不吉な言葉を吐いていたが、そんな事でいちいち綾人に注意をしていたら話が進まない事を知る高山は
「もうかったわねえー」
 何て無難な返答。下手に突っ込んだら
「じゃあ先生が代わりにメンテナンスよろしく」
 と言って丸投げしてくるのは考えるまでもなく判りやすい。
 下手に口を挟まずに広い納屋をぐるりと見回しながら
「せめて座る所とか作業台とかは欲しいわね。植物取り扱うのなら広い水場が必要になるだろし」
「だね。だけどその前にだ」
「ああ、まさかの納屋が物置だなんて、納屋っていうか物置なのか?」
「兼用してるって言えば納得だけどね。だけど全く関係ないモノ溢れてるからね!」
 きっと亡くなった時片付けようとしたのだろう。だけどあまりの物の多さに挫折した、そんな匂いが漂うゴミが山積みとなっていて、それがまた獣たちの住処となっていて……
「雪が降り出す前に高校生達を出動させないとな」
「綾人よ、受験生の冬は短いんだ。
 長谷川さんに頼むのが筋じゃないのか?」
「受験生だろうが自分の為の未来に労働で手に入れる金銭を自分で可能な限り稼ぐ事の何が問題ある」
「受験生に勉強を集中させると言う大人の配慮と言うのを覚えると良いぞ」
「集中する奴はどれだけ声をかけても来ないだろうから声をかけるのは自由だ。逆に気を使って声をかけなくってこじれる信頼関係の方が俺は問題だと思う」
「おおっと、綾人からそう言う言葉が聞けるとはせんせーかんどー」
「かんどーしておけ。
 とりあえず冬休みに水野達三バカが帰って来るから畑と庭は任せるつもりだ。
 ビニールハウスは実桜さんの遊び場として残しておこう。事業スタートしたらお祝いに花輪ではなくビニールハウスのビニールをプレゼントすればいいだろう」
「くっ、ビニールの方がお値段的に高いけど実用的すぎてお祝いに思えないのに実桜さんが喜ぶ姿しか想像できないのは何故?!」
「それは花輪の花を自分で育てたい人種だから。
 当面園芸部も入り浸りになるだろうからこの程度の遊び場は大人しくさせるためにも必要だな」
「ああ、後ビニールハウスに浸食している竹も駆逐しないとな」
「地味に面倒で嫌なんだよ。
 竹が生えた時に踏んでおっておけばそれでいいけど、そのタイミングで全部踏み倒せないからな」
「竹ってそう言う物か?」
「葉っぱで光合成させなければそのうち枯れて行くから。
 根元で切るより一メートルぐらい、腰の高さ位で切る方が根っこからの水分が上がらなくって枯れやすいしね」
 手間だけど対処法を知っていれば一年ほどの時間をかければ案外難しくはないと言っておく。物凄くめんどくさいけどねと付け加えながらも圭斗の家ほどではないけどこの広い年季の入った家を見て
「さて、森下さんにお願いしたらどれだけ手伝いに来てもらえるだろうか」
「少なくとも来年の春になってからの話しだな」
 ん?なんて思えば先生が手を伸ばして俺に笑いかける。
「今年の初雪だ」
 意外な事にペンだこのある手の平の上には小さな水の結晶が舞い降りて、俺は空を見上げ薄っすらと刷く様な雲が色濃くなる先を見上げてそっと息を吐き出した。
「通りで寒かったわけだ」
「御山が白くなるのもあっという間だな」
 風で飛ばされてきた冬の使者の訪問に春までに出来る事を前倒しで考えながら圭斗達に早く帰って来いとメッセージを入れるのだった。



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