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たまには色々と仕掛けをしておこうと思います 8

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 一日。
 高々一日だと言うのに素敵な位に筋肉痛になった。
 家に帰り五右衛門風呂にまったりと浸かってはいるが実際は体が筋肉痛で脱出できない。
 なわけではないが億劫になっている事は確か。
 だけど腹は減るし眠くもなる。
 ここで寝たら確実に明日の朝には警察をお迎えする事になるだろうし、何より先生に盛大に文句も言われそうだ。
 いや、先生だけじゃなく宮下や圭斗達、他にも今俺と関わる人達全員が一度始めた事をやりっぱなしにしてと偲ぶ前に文句言いたい放題の葬儀となるだろう。
 さすがにそんな葬式は嫌だと踏ん切りをつけて風呂から出る。
 来客予定がない俺の密かな至福。
 風呂から出てタオルだけを首にかけての家までの移動。
 男前だろぃ?
 何とも言えない解放感と雄大な景色。庭には烏骨鶏もおらずこの切り取られたような空間での自由ぶりは是非とも牛乳瓶で一杯とやりたい。
 しっかりとあったまった体にこの冷たい風が気持ちいいと先生じゃないが風呂の窓枠に置いておいたビールをぐびぐびと飲みながら母屋へと向かえば

「あら、立派になって」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 いつの間にか宮下のおばさんが台所で何やらビニール袋からいろいろ取り出していた。にっこりと笑いながら。
 俺は何も言わず扉を閉めてちょっぴり泣きながら玄関の方に回って部屋へと飛び込む。
 ベットに飛び込んでキャー!!!何て女の子みたいな悲鳴を上げてしまえば少し冷静になれてジャージを着こんだ。
 頭からタオルをかぶってすぐに台所に向かう。
「お見苦しい物をお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
 思わず土下座。
 台所が見える囲炉裏の部屋からだけどこの距離感が微妙におばさんとの距離感だと理解してもらいたい。
 だけどおばさんはコロコロと笑い
「気にしないで。うちの主人も大和も翔太もお風呂上りはそんな物だから」
 見慣れていると言うのもなんだが他所の子に対してもこの配慮、母強しと言う所だろう。
 とは言えそんな物と言われて何とも言えずに顔を合せられないと言う様にタオルを顔に巻いてしまえば
「お蕎麦打ったから持って来たのよ。
 今日はお疲れ様。ご飯の準備はしんどいでしょうから天ぷらも揚げたから一緒に食べてね」
「いつもありがとうございます!」
 日本酒が欲しいと先ほどの羞恥はもう綺麗に忘れて労働の後の空腹は欲求の方が上回る。
「何言ってるのよ。お礼を言いたいのは私達の方よ?」
「って、何かありましたっけ?」
 素で何かしたか俺と思うも
「翔太の事よ。 
 いつも綾人君に迷惑かけて。今回だってどうやって慰めようかと思ってたけど、こうやって仕事に誘ってくれて少しずつ元気になれて凄く感謝してるの」
 お皿の上に盛りつけられていく天ぷらは野菜ばかりではなく海老もたくさん並んでいる。残ったら天丼にしようとじゅるりと涎が垂れるのをタオルでさりげなく拭く。
「長沢さんの所にも連れてってもらって、京都の仕事も引き続き教えてもらえる事になったらしいから。あの子の天職が続けられて本当にうれしいの」
 県の職員の時のぼろぼろになった姿を思えばあの生き生きとした姿こそ親が見たかった子供の成長とした物だろう。
 特に過去に何かといろいろあったらしいとしか聞いてない宮下のおっとり具合、ずいぶん心配させてきたのだろうなと言うのは高校の時代で十分には理解はできる。三年目にして俺のパシリとしてようやく落ち着いたと言う話しだが、それは人伝の話しなのでふーんと言う程度にしか当時は聞いてなかった。
「綾人君と三年の時に一緒のクラスになって初めて遊ぶようになったでしょ?弥生ちゃんもすごく喜んでくれてね、ほんとあの二人の子供なのに何て良い子なんだろうって感心してたの。
 まぁ、ちょっとやんちゃな所は在ったけど、それは男の子なら仕方がないと思ってるわ。うちは大和も翔太も少し引っ込み思案で大人しい子供だったから、圭ちゃんみたいに引っ張ってくれて本当に助かったわ。
 寧ろ翔太が女の子だったらお嫁にもらってもらいたいぐらいに」
「いえ、俺はもうお婿に行けない身体なので……」
 まっぱで歩いてる所をよそ様の奥様にもろみられて笑われるなんて一生のトラウマだ。
 俺が何を言いたいのか理解してかまたコロコロと笑ってやり過ごしてくれた後
「ほんとおんぶにだっこで迷惑かけてるのは判ってるのだけど、どうぞこれからも翔太と仲良くしてあげてね」
 あげてね、なんて言う割には不安げで、不安を隠すように笑うからこそのそんな顔。
 まるで俺に捨てられたら最後とでも言わん顔はきっと子供を思う親ならではの当たり前の心配なのだろう。
 知識ではわかっていてもそんな愛情は知らないわけでもない。
 病院に居た時の婆ちゃんから何かあった時の俺の心配をする顔そのものだから。そんな思い出と重なる表情でお願い、と言うより縋られてしまうまでは言わないけど、羨ましいと言うより
「仲良くしてあげてねって、こちらこそ仲良くしてくださいですよ。
 今日も山でいろいろ世話してもらってほんと助けてもらってます。
 おばさん達知らないけど俺がおおざっぱだから宮下がまめまめしく世話をしてくれてるから何とかなってるんです。近くの集落から離れてるのにもかかわらずここで何とかなってるのはほんと宮下のおかげだから。
 恩には恩で返せってバアちゃんの教え、ってわけじゃないけど。恩を返さないといけないくらいのものを宮下からたくさんもらってるからこそ困った事があったら手を差し伸ばすんです。それが友達だろって」
 ずずっ……
 少し湿っぽい音が聞こえたが聞こえないように囲炉裏の焚火に薪を足す。
 俺もかなり恥ずかしくってタオルで顔を隠しながら無言になってしまえばお蕎麦の用意が出来たのかこの季節でも用意してくれたざるそばを俺の座ってるそばの机に天ぷらと蕎麦つゆと蕎麦湯も忘れずに一緒に並べ、蕎麦がきを出汁の入った鍋に入れて囲炉裏にかけてくれた。
「本当にそう言ってくれてありがとう」
「こちらこそ気を使っていただいてありがとうございます。
 ただ、面と向かって言うのは恥ずかしいので絶対言わないでくださいね」
 悶える様にタオルをずらして顔を見られないように隠せば小さく微笑むような笑い声が聞こえ
「そろそろお父さん達のごはん準備しないといけないから戻るわね」
「うわっ、おじさん達まだだったの?」
「食べたかったら大和か翔太が勝手に準備するから気にしないで」
 何ていつものように笑いながら
「またお蕎麦打ったら持って来るわね」
「楽しみにしてます!」
 なんていつもと変わらない別れの挨拶。
 母親とはああいう物なんだと子供の見えない所で心配する姿こそ親の愛情の一つなのだと羨ましく思いながらも確かにそれはバアちゃんにもしてもらい、一つ一つ確認するまでもなく幸せを噛みしめながらら遠ざかる車の音を聞きながらそばを啜る。
 だけどおばさんがこうやって純粋なる好意で蕎麦を打つ理由を素直に受け入れられず
「今おばさんがお蕎麦持って来てくれたんだけど何かあった?」
「親父がぎっくり腰をして……」
 そんなLIMEでのやりとり。
 知らなければよかった。
 やっぱりただのお蕎麦じゃなかったかと思うも美味しいに罪はない。
 日本酒を持ち出して密かな楽しみで日本酒に蕎麦を一筋潜らせてつるんと啜った。

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