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さあ、始めようじゃないか 3

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 俺は宮下の話をする前に今圭斗の家でおきている話を宮下に説明をする。
 現れた岡野夫妻の姿はフランス以来の再会で、広い庭を乳幼児用のおもちゃを押しながら遊ぶ姿にさすがにほっこりとした顔で見守っていた。
 凛ちゃん可愛い。
 可愛い正義。
 乳幼児の無垢さに癒されるも、おぼつかない足で転んでしまい泣いてしまうその姿に俺たち全員が慌てると言う……
 こう言う時ってほんと男って無能だなとただ慌てるだけの俺達は抱き上げ大丈夫と安心させる母親実桜さんを偉大だと思うのだった。
 そんな景色を眺めながらも俺達は実桜さんにお昼をお願いしてざっと内装の手伝いをする間に足場は完成せて業者は去っていく。仕事早いなーと感心しながらどこで見つけたのかそこそこ備品の中古のシステムキッチンをあっという間に直していた台所に設置していた。所々錆びも浮いていたし、そこそこ美品でも浮き立つ経年劣化はこの小屋の中でもそこまでの古さは感じない。それに当の本人が前に住んでいた場所の物に比べたら綺麗だと大喜びなのだから放っておこう。ちなみに実桜さん、昨日のうちに退職手続きをして前のアパートも解約して、住所変更もすると言うその行動力には驚く以外あれば教えてほしいと言う決断力は是非見習いたいと関心をする。
 取り合えず宮下にもバールを持たせて働けとパーカーを脱がせて廃墟になりかけた小屋の中に放り込めば悲しいかな身体に染みついた習性で断熱材を持って来ただけなのに自らまきこまれた森下さんの指示にこき使われるのは誰が見ても宮下の様子が変だったから。何を抱えているのかわからないけど、そんな事を考える余裕がない位忙しく働かせている間にあっという間にお昼になって、ご飯を食べながら西野さんの話をするのだった。
 皆さん盛大に俺に軽蔑する視線を向けるも
「とりあえず、長沢さんが折角学んだ技術を遊ばせるなって言ってくれたから当面は長沢さんの所に通うつもりだよ」
 チキン南蛮弁当を食べながら言うけど
「ああ、悪いけど宮下は圭斗の会社に就職する事になるからそこんとこよろしく」
 無情にも宮下のチキン南蛮が箸から落ちてテーブルの上にポトリと転がった。
「は?圭斗の会社?就職?何……?」
「ほい圭斗、これ宮下の履歴書」
「もらっとくけど相変らず鬼だなお前」
「有能な人材を遊ばせておくほど俺は親切じゃないんだよ」
「何でだ?有能な人材ってところがパシリって聞こえる不思議は……」
 疑問を浮かべる森下さんは正しく俺の考えを理解してくれていて俺は正解と頷く。
「元々宮下の器用さは高校時代から俺は知ってるし、宮大工の技術も素晴らしいとは思うけど今時の普通の家には必要ない技術。だけど荒々しくってどこか適当だった宮下の技術が洗礼されてきたのは今まで上げてきた動画が証明している」
 スマホで動画サイトに繋ぎ宮下から送られた動画を編集していた俺がその成長を見てきたのだ。西野さんや長沢さんレベルには全く及ばないけど、蒼さんを超える技術は既にあると思うからこその選んだ言葉は有能。
「そんでもって宮下、実は圭斗の事務所だが株式会社にクラスチェンジする事にしたんだ」
「ええと、個人営業だったんだよね?」
 苦手分野だけど幼馴染の状況を思い出して言葉にする様は働く以上に他の事を考えられない状況になっている。
「岡野さん達が離れに住む事になったのはなんとなく理解してると思う」
 言えばコクンと頷き
「圭斗と一緒に働く事にしたついでに株式会社に変更する事にしたんだ」
「ええと、それで何かいい事あるの?」
 苦手な分野だけに良い事が何かもわからない宮下に
「まず、社会的に信頼を得る事が出来る」
 なんて言ってもピンとこない宮下。
「社会保険の義務が生じる。つまり、健康保険と厚生年金保険の加入が義務付けられる。国民年金の加入に比べて高額になるかもしれないけど年を取った時、いずれの自分の為の投資と言えば損はないから旨みは多い。
 まあ、細かい事は沢村さん達に任せればいいけどそれだけお金を必要とする。だけどそこは自分達の確かな投資と思えば問題ない。当面役員報酬なんて夢のまた夢だけど、これから圭斗にも宮下にも家族が増える、そう考えれば奥さんの為にも、そして生まれる子供の為にも少しでも安定した環境は整えてあげたい」
「だけど株式って言うくらいだから株とかあるんでしょ?それはどうするの?」
 意外なこと知ってるなと驚きは無表情な顔で気付かれないようにして
「俺が出資者になって株を所有する。
 当たり前だが非公開株で上場するつもりもない。
 設立するに当たりいろいろ手続きが必要だけど、そこの所は詳しい司法書士の知り合いのある沢村さんを通してお願いする事になってるから安心してほしい。
 とりあえず圭斗の事務所を本店所在地にするから。
 仕事を得る事の難しいこの地域で何が出来るかアピールをする事が営業になるからそこは頑張ろう」
 言いくるめる様に言葉を叩きこめば宮下は理解不能と言うように目を回していた様子に俺は笑いながら
「とりあえず田舎でもこんなに楽しい仕事が溢れてると動画で発表して行く。営業代わりじゃないが、こうやって少しでもアピールしていくぞ」
 そんな俺の提案に宮下は素直に首を傾けて
「で、何の仕事をやるのさ」
 全員が手に職を持っているのにこの質問。俺はそこまで説明しないといけないのか、いや宮下だから説明しないといけないのだったなと約一年の離れていた時間の溝を埋めるのに頭を痛めるのだった。


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