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繰り返す変化のない俺の日常 8

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 一樹が壊滅的なのは理解し、カワカミがしっかりと勉強さぼっている事は理解できた。まぁ、修正が聞く程度だから良しとしよう。
 ネットで話したけど北部の奴らも順調な仕上がりを見せていて、先生との朝の勉強会や昼の勉強会もだんだん人数が増えて来た事に嬉しさと不満が半々にぼやくのを笑いながら聞くのだった。
 とりあえずは今日は勉強会ではないので植田と上島コンビが作る夜食を持って高校生達は圭斗を巻きこみ離れでス●ブラとマリ●大会に徹すると宣言するのだった。
 相変わらず朝は六時にご飯と言ってあるのでそれから昼まで寝かせておけば静かだろうと生暖かい目を向けてこの期間の感謝と言う様に場所とゲームを貸してあげるのだった。
 そして俺は先生と一対一で飲んでいる。勿論今夜のお酒はお土産の
「スコッチ!ちゃんとした旨いやつだ」
「ハイボールでもいけるように炭酸水も用意してます。
 おつまみには焼き鳥と焼き鳥を」
「やっぱり食べ慣れた焼き鳥は美味いな。あと烏骨鶏も美味い。あ、ロックで十分だ」
「鍋で自ら丸々煮るのが最高だけど、時間がかかりすぎるから」
「冬場の囲炉裏でじっくり遠火で煮ると美味いんだよな」
「ええと、この冬作らせていただきます」
 言いながらも俺と先生の正面では通年よりも早く囲炉裏が炎を上げていた。
 揺らめくように踊る炎を眺めながら
「九月の始めなのに何時の間に囲炉裏が復活したんだか」
「ああ、あの三馬鹿が綾人が帰って来る前に準備しようって頑張ってたぞ。
 お前毎年熱出すからな。原因も判ってるんだから居ないうちに準備しとけって植田の指示で水野と上島が働かされてたぞ」
 言いながら土間に置かれたロケットストーブもまだ暑い季節なのにと思うのにも用意された物は既に試運転済みだった。
「まぁ、火を扱うから上島のオヤジさんに設置してもらったから安心だぞ」
「確かに安心だな」
 俺も力強く頷いてしまえばグラスの中の氷が崩れる音がきこえた。
 囲炉裏には五徳を置いて圭斗が買ってきてくれためざしとエイのひれを炙っている。日本酒の方がよかったかと思うもドイツ土産のソーセージの缶詰を持ち出して来てソーセージも焼きだす。
「フランスは楽しかったか」
「カールとバーナードが色々な所連れて行ってくれたから慌ただしかったよ」
「充実した顔をして言うな」
「おかげでドイツ語とイタリア語、スペイン語、他にもいくつか覚えたよ」
「勉強し過ぎだ」
 そっと笑う先生からは何処かほっとしたような空気を感じた。
「アンティークの目利きも出来るようになったし、ヨーロッパの歴史と言う背景からの成り立ちとか、やっぱり地元の人の言葉は教科書で習うよりも奥深いですね」
「当然だ」
 何をいまさら言ってると言う先生の言葉が妙に教師っぽくって笑えてしまう。
「シェフの方が大丈夫か?」
 珍しい事に先生が飯田さんの事を心配していた。
「オリオールとの事ならもう大丈夫。
 肝心のオリオールがオープンに向けて一緒に働いていた時以上にやる気に満ちていてそれに付き合う飯田さんの方が参っていた事を伝えれば
「さすが師匠!いいぞ、もっとやれー!」
「飯田さんの再教育じゃないけど、技術のチェックや教えた事の復習のチェックが常に入ってたから。
 あの人、営業の才能はないけど料理への情熱は半端なかったですね」
「まぁ、時代がオリオールの爺さんの時だったらそれでもよかったのかもしれないがな。子供が店を受け継がないと判ったら後はさっさと店を閉めるタイミングを見計らうだけだったはずなのに、逆にその機会を見過ごしてやっちまったなって感じだったけどな」
 その結果が一家離散とは何とも言えんと言うが、それでも周囲の協力があって修復を図ってる当たり皆良い人だよねと眺めている俺は一家離散で修復不可能な家庭の子供だからと自分に言い訳していた。

「そんな顔するな」
 
 ふいに先生の手が頭に乗せられた。
 何事と先生を見るも、もう片方の手であぶっていたエイひれをひっくり返しながら
「お前の親はお前が師と仰ぐ人達がいるし、兄弟が欲しけりゃ離れに居るのに声が丸聞こえのあいつらが居る。
 何かあったらどこに居ても駆けつけてくれる宮下もいるし、なんだかんだ言ってお前をほっとけない間抜けなシェフもいる。
 お前の賢さが一瞬の優しさを色濃く忘れられない弊害で家族を手放せないかもしれないけど知ってるか?家族と言う物は増えていく物なんだ。
 今じゃこの山の奴らだけじゃ飽きたらず国外にもいるくらいだ」
 グイッとスコッチを飲み干した後新たに注ぎ、指先で解け残った氷をくるくると回して冷やしながら
「お前が家族の呪縛から逃げられない事は判ってる。
 親父さん出て来るんだって?
 間違いなくここに来るから怖いんだろ。絶対怖いってお前は言わないけど」
 言って一口飲んで
「だけど対策なんていくらでもできる。お前はその方法も理解しているからだ」
 二杯目を注いだばかりだと言うのにそれを一気に煽り
「多分俺はその時の綾人の側にはいられないだろう。
 だけどその場にいるのは俺じゃない。先生が言いたい事は判るだろ?」
 これは何の授業だろうかと言うくらいの真剣な声。
 言われなくても判っている。
 吉野の事は吉野で形をつけろ。
 俺が頼るのは先生でもなければ圭斗でもなく宮下でもない。
 昔ながら吉野を支えてくれる人を頼れと言っている。
 幸田さんを始め長沢さんや長谷川さん、水野さんに他にも沢山の今も吉野を支えてくれる人達がいるのだ。
 この戦いは俺が吉野の主だと言う事を、親父はもうここに居場所がない事を知らしめるその為の戦い。
 たとえ心のどこかに今も父の愛情を求める俺が居ても、それはもう二度と手に入らない事を、そしてそれは俺が切り捨てた物だと自分に再度確認する場だと自分に言い聞かせて

「近いうちに親父が来る。来たら報告はするけど大丈夫。
 今はみんなが居る事俺はちゃんと理解してくれてるから。一人で何とかしないから大丈夫だよ」

 きっとそれが自分に言い聞かせる為の言葉だと言うのを先生は理解していて、だけど俺の心の家の戦いを理解してくれた先生は何も言わずにグラスを傾けるだけだった。




 
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