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優雅な城主には程遠い 1

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 ここから先は俺達は自分の持ち場に分かれる。
 岡野妻は庭師のチームに混ざり身振り手振り、そして岡野妻のスマホ使いに和気藹々と庭を作っていく。最初に芝生を剥がしてくるくると丸めて別の場所で保管する。ありがたい事にこの城には幾らでも芝生を移植できる場所があるので、同時進行でそちらに準備をして移して行く。その際岡野妻のユンボ技術がきらりと光った。
数センチの地面を削って芝生ように刈っておいた肥料を混ぜて慣らして行く。それだけでも一日がかりになる所を夕方までには終えて剥がした芝生を敷き詰めて陽が沈むまでには仕上げとばかりに水をまいて完成するのだった。
 そんな作業が一日で終わるわけはないがそれを終わらせてしまったのだから岡野妻を誰もが一目置いてみるようになった。
 さらに岡野妻の指示で庭のデザインを大まかに杭と糸を使ってラインを引く所まで出来てしまった。
 手書きは壊滅的だがPCでのデザイン画は職人にとってもなじみ深い設計書となっていたのでイメージ写真と合わせてとても理解がしやすかった。
 とりあえず綾人が見た時には何故か岡野妻がこの現場を取り仕切っていたので放っておこうかと今庭の一角にはちみつ色をしたコッツウォルズストーンが山のように届いて積み上げられていくのをにんまりと眺める。薄く平べったい石が庭の一角でトラックで山のように届けられるのを皆さんは死んだような魚の目で眺めながら
「綾人さん、大きいのは石畳ようだよね?」
 クレーンで下ろされるコッツウォルズストーンを見ながら岡野妻はやりがいがあるねぇと庭師の血をたぎらせている。
「設計図通り駐車場からの通路と庭先の一部に敷き詰めて、小さいのは花壇用だね。四阿の床材にも使いたいし一応十分足りるようには購入してある」
「フランスでイギリスの思いが爆発してるねぇ。ま、私もコッツウォルズストーン好きだから大歓迎だけどね!大好きが止まらなーい!」
 と言って石にほおずりする猛者に顔大丈夫かと聞きたかったがその間にこっそりと距離を取って本来のリーダーにあれは野に放ってこそ輝く素材だから上手く使ってくださいねと伝えてこの場から逃げる様に去り、次今はもうクラブハウスの面影のないレストランへとたどり着いた。
 ダイニング側は天井を剥がし、高くなった分開放感のある室内を見回しながら石畳の床に木の床を作っている所だった。既に白く輝く漆喰が塗られ、どこかまだ乾ききってない匂いがほんのりと残っていた。窓枠は城と違って新しい建築物なだけにサッシが嵌めてあった。銀色のピカピカではなくクロムのメッキみたいなくすんだ色だからまあこれはこのままでいいかと思って見ていれば
「アヤト、一度さび止めを塗っておこうか」
 バーナードJr.事クレイグさんがサッシを見ていた俺に気を利かせて聞いてくれた。
「そうだね。今のうちに一度手を入れておいた方が良い所はお願いしても良いですか?」
「もちろん」
 言いながらにこにことしながらも動こうとしないのでまだ何か聞きたい事があるのかと見上げれば
「この壁の漆喰だがこのような無地で良かったのか?」
 ぐるりと見回してああ、と思う。
「少し色混ぜた方がよかったですか?」
 聞くも彼は苦笑して
「いや、模様とか付けれるだろう?こんな感じに」
 言いながらしゅっしゅと腕を振り回して描く弧に綾人は理解をすれば
「これで良いですよ。
 食堂だから埃が積りやすい凹凸は避けたかったですし、メンテナンスはシンプルの方が時間を取られなくていいし。
 この部屋ではあくまでも料理が主役だから。テーブルの上が映えるようにしたいし、花壇が出来上がれば窓の外の景色も華やかになる。そうなると何処かほっとするような何もない空間が恋しくなるんだ。この壁は視界が疲れないようにするための避難場所だから」
 そんな俺の主張にクレイグさんは少し考えるそぶりをして
「なるほど。別に技術がどうとか言う話しではなかったのだな」
「むしろごまかしがきかないまっ平らの方が難しいでしょ?
 歪みがあれば光の反射もたわむ。影も歪になる。
 あそこの何枚か以外は山川さんの仕事だよね。俺の家でも山川さんに塗ってもらったけど神経質な人だと湾曲した壁とか鬱陶しがるだろうから下手に誤魔化さずに直球勝負のほうが親切だと俺は思うんだ」
 もちろんそう言った模様を入れるのも技術な事は理解しているけどねと付け加えておけば
「アヤトは神経質な方なのか?」
「そうじゃないつもりだけど歪んでいるのに気付くとそればかり目が行くからね。あらさがししてるようで嫌じゃないか」
 肩をすくめて俺って意外と意地が悪いんですよと笑いながらロッカールームだったキッチンの見学に行く。
 そして見覚えのあるメーカーのキッチン。
 小首かしげながら飯田さんに電話をすれば
『綾人さん何かありました?』
 何やらカチャカチャと聞こえる金属音に昼食の準備を始めているのだろう。
 あまり長く邪魔をしないようにと通話だけにしようと決めて
「今レストランのキッチンに居るんだけど、なんか見た事あるメーカーだなって?」
 ガチャ…… ツー、ツー……
 犯人はお前かと、まあわかりきっていた犯人を確認しただけだが
「俺って上客だなぁ」
 ぼやいてしまうのは仕方がないだろう。
 二年連続でこんなプロ仕様のキッチンセットを買う庶民何て聞いた事ないだろうと自分でも呆れてしまう物のピカピカのキッチンセットは既に水道も通るようで水がはねた後が残っていた。
 トイレも今風の奴だし物凄い勢いで完成に向かって行ってる事に微笑んでしまう。
「この調子なら城の台所にも明日から手を入れられそうだな」
 ちょうど後ろを通り過ぎた浩太さんがぎょっとした顔で自分の耳が聞き違いではと言う様にしているのを俺はさすがに知らなかった。



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