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雲の中でかくれんぼ 2
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出迎える様に家から出ればすぐ家の前にとめられた車から記憶から少しふっくらとしたチョリチョリさんと青い瞳と柔らかな金の髪の幼い顔立ちの男の子が車から降りてきた。
疲れたと言うようにぐったりとしていた子供と呼んでも良い年頃の彼は足元をうろつく烏骨鶏達に驚いてチョリチョリさんにくっつくも、両腕に抱えるバイオリンケースだろうか。心細そうに必死に抱えている様子に酷く脆い物を見てしまったとチョリチョリさんに視線を向けて
「遠い所いらっしゃい。
チョリチョリさんは初めてだね。やっと招く事が出来た」
「綾人君悪いね。うちの奥さんが絶対綾人君の家に連れて行くべきだって言ってね」
絶対言いそうだ。そして私も行くと叫んでそうだと思うも藪蛇は突かない主義なのでそこはスルーして
「何もできないけど、とりあえず上がってください。お茶でも飲みましょう。
圭斗も無理言って悪い。少し休憩してってよ」
朝チョリチョリさんから電話を貰ってからずっと振り回している圭太に申し訳なく、俺からも内田さんにも断りは入れてある物の
「せっかくだけど今日はちょっと力仕事もあるからこのまま帰る。
また何かあったら呼んでくれ」
「悪い。せめて少しだけど煮物作ったから持って行ってくれ」
電話を貰ってから手間賃代わりに猪の肉をゴロゴロと入れた煮物を作っておいた。それを強引に押し付ければ
「こっちこそ悪いな」
そう言って大きなタッパーに詰めたゴールデンウィークの時に買い込んだ野菜と肉の残りを全部ぶち込んだ煮物を圭斗に持たせてエンジンを止める事無く去って行った姿を見送れば、二人分のスーツケースを持つチョリチョリさんにまずは母屋の方に上がってもらう事にした。
「高いから気を付けてくださいね」
土間上がりの高さが既に連れの子供は目を白黒として囲炉裏を囲む部屋にどうすればいいのかと不安げにチョリチョリさんへと無言で訴える。
「本格的な古民家だな」
子供の事なんて気にせずにチョリチョリさんは靴を脱いで上がれば、それを見て同じように真似して靴を脱ぐ。見よう見まねで覚えようとする姿勢は素晴らしいとどこぞの高校生達の何で?何で?攻撃しか知らない奴らにも学ばせたいと……山に向かって吠えたい衝動を何とか抑え込む。
「それでもこっちは新しいから築百年はしてないから古民家って言うほど古くないらしいよ。
寧ろ改装しまくったけど離れの方が正真正銘の古民家だ。
明治以前の記録もあるからね」
幸治がビリビリに破いた大黒柱に打ち込まれた記憶は鉄治さんの手でもう一度書いてもらう事になった。浩太さんも幸治に拳骨をくらわせて以来、何だか前よりも少し距離が近くなったと言っていた。
最も勉強の出来なさにはびっくりしていたようだが、中学は一足先に中間テストがあったようで、ちゃんと結果が出た事で顔が少し明るくなったと言って感謝された。
確かにあれ以上下がる事のない内容なだけに一年の一学期からあんな調子だとどうなると不安も募るが、判らない事は一つずつ解いて行けばこれからもどんどん表情も変わるだろうからなんて言ってしまうのは、俺があまりにスパルタすぎてものすごく警戒されているからだろう。
と、幸治の事を思いだせばチョリチョリさんが連れてきた子供は同じ位だろうか。
この年齢の頃の成長何て判るかよと何処か大人びた子供に
『トイレは向こうの扉の先です。どうぞ自由に使って』
身振り手振りで飯田さんと飲んでいた時の話題で適当に覚えたフランス語で語りかければ、少年は顔を上げて
『借ります』
そう言って土間からぴょんと飛び降りて靴のかかとは踏まないようにきちんと履きなおすあたり間に合うかと不安になるも真っ直ぐ向かった様子を見守って
「チョリチョリさん、あの子何?
不倫相手の子じゃないだろうね?」
なんて思わず聞いてしまうもチョリチョリさんの要素の欠片も混ざらない子供に失笑しながら
「俺の弟子だよ。名前はオリヴィエ・ルベル、十五歳だ。
六歳の時にはすでにプロとして活動しているバイオリンの天才児でね、向こうじゃ有名人だ。
ほら、親が教育熱心でノイローゼ気味になる子供ってどんな分野でもいるじゃない?」
「あー……」
全くのノータッチだった子供時代なので今一つよくわからないが話の腰を折らないように先に進める。
「ずーっと学んでいた師が病気になってついに引退してね。その師、ジョルジュって言う飲み仲間なんだが彼からオリヴィエの事をよろしくと頼まれたんだ。
俺は弟子を取らないって断ったんだけど、あの子を見て親から引き離さないとって。ジョルジュもそれが目的で押し付けて来てね、この国に連れてきたんだ」
「良く許可出ましたね……」
そう言う親なら執着して絶対手を離さないと思ったけど
「オリヴィエは学校に通わせずひたすらバイオリンだけをやらされてたみたいで、向こうじゃ珍しくもないんだけどいわゆる虐待って奴で親は親権をはく奪されたわけだ。
とりあえず親権はジョルジュが持ってるらしいが、向こうじゃ熱狂的なファンもいるからいずらくなってしまってね……」
寂しげな顔でトイレの方を見ながら
「とりあえず俺が預かったから一緒に居させてもらうけど、静かな環境を与えてあげたかったんだ」
それだけでどれだけ好奇心の視線と共に心もとない言葉を投げつけられたか想像が出来てしまう。
「でも綾人君が片言でもフランス語喋れてよかった。オリヴィエは向こうの言葉が話せてもこっちの言葉はさっぱりだから助かったよ」
「俺のは飯田さんに教えてもらった簡単な会話で使う言葉ぐらいですよ」
知識も単語があっても発音が怪しく残念と言われた物の
「全く使えないよりはあの子も心強い」
ありがとうと頭を下げる頃にはトイレの水が流れる音がして彼が戻ってきた。
また靴をちゃんと履いて土間を渡り、靴を脱いでチョリチョリさんの横で胡坐を真似るように座る姿がどこか幼く見えて笑えてしまうも
『ようこそこの山に。
ここの住人の吉野綾人です。綾人って呼んで』
記憶を集めた簡単な自己紹介に少しだけ警戒を解いたオリヴィエも
『オリヴィエ・ルベルだ。
お世話になります』
態度とは別になかなかの性格だと笑みを作りながら俺は評するのだった。
疲れたと言うようにぐったりとしていた子供と呼んでも良い年頃の彼は足元をうろつく烏骨鶏達に驚いてチョリチョリさんにくっつくも、両腕に抱えるバイオリンケースだろうか。心細そうに必死に抱えている様子に酷く脆い物を見てしまったとチョリチョリさんに視線を向けて
「遠い所いらっしゃい。
チョリチョリさんは初めてだね。やっと招く事が出来た」
「綾人君悪いね。うちの奥さんが絶対綾人君の家に連れて行くべきだって言ってね」
絶対言いそうだ。そして私も行くと叫んでそうだと思うも藪蛇は突かない主義なのでそこはスルーして
「何もできないけど、とりあえず上がってください。お茶でも飲みましょう。
圭斗も無理言って悪い。少し休憩してってよ」
朝チョリチョリさんから電話を貰ってからずっと振り回している圭太に申し訳なく、俺からも内田さんにも断りは入れてある物の
「せっかくだけど今日はちょっと力仕事もあるからこのまま帰る。
また何かあったら呼んでくれ」
「悪い。せめて少しだけど煮物作ったから持って行ってくれ」
電話を貰ってから手間賃代わりに猪の肉をゴロゴロと入れた煮物を作っておいた。それを強引に押し付ければ
「こっちこそ悪いな」
そう言って大きなタッパーに詰めたゴールデンウィークの時に買い込んだ野菜と肉の残りを全部ぶち込んだ煮物を圭斗に持たせてエンジンを止める事無く去って行った姿を見送れば、二人分のスーツケースを持つチョリチョリさんにまずは母屋の方に上がってもらう事にした。
「高いから気を付けてくださいね」
土間上がりの高さが既に連れの子供は目を白黒として囲炉裏を囲む部屋にどうすればいいのかと不安げにチョリチョリさんへと無言で訴える。
「本格的な古民家だな」
子供の事なんて気にせずにチョリチョリさんは靴を脱いで上がれば、それを見て同じように真似して靴を脱ぐ。見よう見まねで覚えようとする姿勢は素晴らしいとどこぞの高校生達の何で?何で?攻撃しか知らない奴らにも学ばせたいと……山に向かって吠えたい衝動を何とか抑え込む。
「それでもこっちは新しいから築百年はしてないから古民家って言うほど古くないらしいよ。
寧ろ改装しまくったけど離れの方が正真正銘の古民家だ。
明治以前の記録もあるからね」
幸治がビリビリに破いた大黒柱に打ち込まれた記憶は鉄治さんの手でもう一度書いてもらう事になった。浩太さんも幸治に拳骨をくらわせて以来、何だか前よりも少し距離が近くなったと言っていた。
最も勉強の出来なさにはびっくりしていたようだが、中学は一足先に中間テストがあったようで、ちゃんと結果が出た事で顔が少し明るくなったと言って感謝された。
確かにあれ以上下がる事のない内容なだけに一年の一学期からあんな調子だとどうなると不安も募るが、判らない事は一つずつ解いて行けばこれからもどんどん表情も変わるだろうからなんて言ってしまうのは、俺があまりにスパルタすぎてものすごく警戒されているからだろう。
と、幸治の事を思いだせばチョリチョリさんが連れてきた子供は同じ位だろうか。
この年齢の頃の成長何て判るかよと何処か大人びた子供に
『トイレは向こうの扉の先です。どうぞ自由に使って』
身振り手振りで飯田さんと飲んでいた時の話題で適当に覚えたフランス語で語りかければ、少年は顔を上げて
『借ります』
そう言って土間からぴょんと飛び降りて靴のかかとは踏まないようにきちんと履きなおすあたり間に合うかと不安になるも真っ直ぐ向かった様子を見守って
「チョリチョリさん、あの子何?
不倫相手の子じゃないだろうね?」
なんて思わず聞いてしまうもチョリチョリさんの要素の欠片も混ざらない子供に失笑しながら
「俺の弟子だよ。名前はオリヴィエ・ルベル、十五歳だ。
六歳の時にはすでにプロとして活動しているバイオリンの天才児でね、向こうじゃ有名人だ。
ほら、親が教育熱心でノイローゼ気味になる子供ってどんな分野でもいるじゃない?」
「あー……」
全くのノータッチだった子供時代なので今一つよくわからないが話の腰を折らないように先に進める。
「ずーっと学んでいた師が病気になってついに引退してね。その師、ジョルジュって言う飲み仲間なんだが彼からオリヴィエの事をよろしくと頼まれたんだ。
俺は弟子を取らないって断ったんだけど、あの子を見て親から引き離さないとって。ジョルジュもそれが目的で押し付けて来てね、この国に連れてきたんだ」
「良く許可出ましたね……」
そう言う親なら執着して絶対手を離さないと思ったけど
「オリヴィエは学校に通わせずひたすらバイオリンだけをやらされてたみたいで、向こうじゃ珍しくもないんだけどいわゆる虐待って奴で親は親権をはく奪されたわけだ。
とりあえず親権はジョルジュが持ってるらしいが、向こうじゃ熱狂的なファンもいるからいずらくなってしまってね……」
寂しげな顔でトイレの方を見ながら
「とりあえず俺が預かったから一緒に居させてもらうけど、静かな環境を与えてあげたかったんだ」
それだけでどれだけ好奇心の視線と共に心もとない言葉を投げつけられたか想像が出来てしまう。
「でも綾人君が片言でもフランス語喋れてよかった。オリヴィエは向こうの言葉が話せてもこっちの言葉はさっぱりだから助かったよ」
「俺のは飯田さんに教えてもらった簡単な会話で使う言葉ぐらいですよ」
知識も単語があっても発音が怪しく残念と言われた物の
「全く使えないよりはあの子も心強い」
ありがとうと頭を下げる頃にはトイレの水が流れる音がして彼が戻ってきた。
また靴をちゃんと履いて土間を渡り、靴を脱いでチョリチョリさんの横で胡坐を真似るように座る姿がどこか幼く見えて笑えてしまうも
『ようこそこの山に。
ここの住人の吉野綾人です。綾人って呼んで』
記憶を集めた簡単な自己紹介に少しだけ警戒を解いたオリヴィエも
『オリヴィエ・ルベルだ。
お世話になります』
態度とは別になかなかの性格だと笑みを作りながら俺は評するのだった。
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――― 2024.12.1 再々公開 ――――
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