人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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顔を上げる勇気 3

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 宮下と圭斗が友情を確認してた頃俺と先生は烏骨鶏ハウスに二階にいた。
 先生を床で正座に座らせ、俺は木の椅子に座り、その申し訳なさそうに垂れる頭の旋毛を眺めていた。
「ったく、温泉の景色を銭湯の景色にしやがって」
「ごめんなさい」
 と言ってる割には全く反省してないのは知っている。
「人の金だと思ってやりたい放題だな」
「そこはしっかり請求してください」
「内田さんに工事費含めて先生に回してもらうよ」
 家を買い取った余裕があるのか、それとももともとそのつもりだったのかはそのうち本音が聞けるだろうから今は追及しない。
「ったく、やるなって言ってるわけじゃないんだ。事前に一言言ってくれって話しなんだよ」
「そしたら綾人ダメって言うだろ?」
「当然だ。俺の家だしな」
 先生がこんな無謀な事をする理由はこの小屋の工事を大変お気に召した後遺症なのはわかってるつもりだ。しまったなぁと悩みながらも 
「先生は家の裏山担当だろ?」
「まぁ、今年は岩場から先の開けた所まで道を作り上げるのが目的だからな」
「んなとこ知らねーよ」
 去年やっと岩場まで行ったって言うのにその先がどうなってるのかなんて判るわけねーだろと野性の磁石を持つ先生の方向感覚を尊敬はするものの
「んなのドローン飛ばして確認しながら道を探せばいいだけだろ」
 意外とハイテクな探索をしていてあっけに取られれば
「しまった。内緒にしてたんだ……」
「尊敬してたのに……」
 大人の汚さを改めて思い知った。
「まぁ、あれだ。
 農業が機械化が進むように探検も機械化が進んだそれだけだ」
「説得力ありすぎて余計に悔しい!」
 こんな時ばかりまっとうな事を言いやがってと思っていれば先生は足がしびれたと言うようにゴロンと床の上に転がった。
「それはそうと下の家はいつから使うつもりだ?」
「いつになるだろうね。とりあえず宮下にはしっかりと怒られた。
 気が早すぎるんだってさ。
 いつ帰って来るかも本当に帰って来るかもわからないのに、帰って来てもそこに住むかなんてわからないのに高い買い物するんじゃありませんって」
「堅実な宮下らしいな」
「最悪、宮下の言えば店をたたんだ時、あの場所で不便だった時一家でそっちに移ってもらってもいいと思ってるし」
「親孝行しすぎだろ」
「俺だって圭斗の家の倉庫改造してそっちでもいい位だし」
「一番安心な場所だな。その前に別宅を持ちすぎだ」
「皆様の親切に甘えさせてもらってます!」
「圭斗の家は嫁さんを貰う前までの限定だな」
「陸斗は隣の森村さんの家でいいか」
「いや、庭に一軒ぐらい家が建てれるだろう」
「建てれるな」
「そして想像するな」
 先生は何故か俺が既に陸斗の為の家を脳内で設計始めているのに気づいてか待てと言う。
「そこは建築の勉強した陸斗が作る所だろ」
「……」
「お前は財布を持ってローンの利息位のお世話かお祝いで頭金ぐらいで良いんだよ」
 一瞬その頭金で全額払うんじゃなかろうかと高山は危惧する物の
「いいか、家って言うのは自分の思いで建てて苦労して何年もかけて高い金を支払い続けてそこに長く住むから愛着がわくんだ。
 お前みたいに気分でポンポン買える人間はほんの少数なんだし、お前が住む家じゃないんだ。住む人間が一番の思い入れを入れなくてどうする」
「先生、離婚でもぎ取ったお金で買ったから興味持てずにあんなゴミ屋敷にしたなんてただの言い訳だよ」
 妙に説教臭くなってきたから先に釘を刺せば途端に閉ざす口元を俺は睨みつける。
「先生が選んで買ったんじゃないの?」
「まあね。でもさ、まさか一括で家が買えるなんて思わないじゃん?」
 築数十年で空家歴二ケタ目を迎えるような建屋の資産価値はほぼないに等しい。あるのはいろいろ条例に引っかかる立地の土地代位。むしろこの代金でさえ高いのかもしれないと思いつつも俺が初めて訪れた時のお屋敷はどちらかと言うと廃墟と言う言葉の方がしっくりとくる。
 あの晩泊めてもらったお礼に俺が寝る部屋だけ綺麗にしたと言うか、一部屋しか綺麗にならなかったと言うか、初めての家でぐっすり寝れた理由はそこに尽きる。次の日も同じシャツを着るのは抵抗があった物の未開封だからと貸して貰えた服に素直にそでを通す勇気はなく次の日もそのまま学校に行ったのだった。
「あの家は景色だけは良かったからね。
 春は正面の山が花が咲いて、夏は襲い掛かるような山の緑に、秋は紅葉を眺め、冬は水墨画の世界。そこに一筋の電車が通っていく、凄いと思わないか?」
「一時間に一本か二本の電車を眺める為に外を眺めつづけるなんて俺には無理だね」
 年をとっても車が手放せない理由にどれだけの人が街の中で人生を完結するのだろうかと思うも
「一人だとな、その待ち時間が楽しみなんだよ」
 まるでガキが情緒とか理解できるかと言っているようだが何を待っているのだろうかと考えて、止めた。
 まさか先生を捨てた元奥さんが来るのを待ってるとか言ったらぶん殴ってやると心の中で毒づいていれば
「卒業生たちが何か思い出してふらりと帰って来た時頼って足を運んでくれた時迎え入れてやればと思ってな」
 想像した事のない言葉で返された。


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