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山を歩くも柵はどこだ 10

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 綾人さんが部屋に戻ってから俺は簡単なお菓子を作る。まだ畑には野菜がないので店で残っていた処分するはずのフルーツを煮て持って来た物を冷蔵庫から取り出す。パティシエの小沢がキャンセル分のフルーツをどうしようかという所で青山が綾人さんに買い取ってもらおうと提案した所でだったらパイを焼くと良いと竈を知っているので準備をしてくれた。
 今竈に入っているコンフィーユは一時的避難してもらい、竈の温度を上げてパイを焼く温度に調整する。竈の温度の感覚はフランスで学んだ感覚。一応調理用の温度計で窯の中を計るも、だいたい一致しているので問題ないとこの感覚を大切にしようと思う。
 そばの机で電気コンロでじわじわと煮られるコンフィーユの横でパイの生地を伸ばす。冷凍パイ生地は実に優秀で伸ばしてクリームチーズを適当に置いて砂糖をまぶして焼いただけでも十分美味しいお菓子になる。無限に食べる事の出来る常備食のような危険な罠になりかけてしまうも突然のお客が来たりした時にさっと作れてさっと出せて、それでいて気取らなく出来たてのパイが食べられると言う何とも便利なおやつに何度助けられたかと思ったりしたこともあったが、今回は時間もあるのでちゃんと手土産になる様にフルーツで彩るパイを作る。
 一つは今夜俺達が食べる様に、もう一つは皆さんで食べてもらう様に……いやちょっと待て。
 目の前にビスケットの箱が幾つも積まれているのを見て急転換する事を決める。
「タルトに変更だ」
 ビスケットの箱の賞味期限を見て眉間を狭めながらもボールに箱から取り出したビスケットの個包装の袋から取り出して行く。とは言え折角温めた竈も燃料の薪がもったいない。
 うん。
 両方作ればいい。
 ニヤリと笑えてしまうのは仕方がないだろう。
 幸いな事にフルーツはたくさんある。
 カットして残ったフルーツも店の都合で下準備はしてもらえたのだ。フレッシュフルーツもある。青山も太っ腹なところを見せるが、綾人さんに預けているお金が上手く化けて還元していると言う所だろう。綾人さんの錬金術を思えば逆にせこい。いや、だからあの立地でオーナーをやってけるんだと考えさせられる。
 とは言え今はおやつの時間まで時間もあるし有効に使わなくてはいけない。
「お菓子作りなんてここに来ないとしないから楽しいなぁ」
 本職の前で趣味程度の腕前を披露する勇気はさすがにないのでここでは伸び伸びと作る事を心に決めているが手元ではビスケットをガンガン粉末になる様に砕いて笑みを浮かべていた。時々綾人がびびって逃げて行く事を飯田はまだ知らない。
 バターと混ぜ合わせて固くなりがちなタルト生地を型に敷き詰めて冷蔵庫で冷やす。何とこの方法だとオーブンで生地を焼く必要はないうえに堅くもなりません。
 その間にカスタードを作る。
 卵黄に砂糖を入れて混ぜる。白っぽくなるまで混ぜてあらかじめ振るっておいた薄力粉とコーンスターチを粉っぽさがなくなる程度まで混ぜる。混ぜすぎるとグルテンが出て来るので要注意。勿論小麦粉の代わりにコーンスターチだけでもいい。温めた牛乳を一気に入れないように混ぜて強火で焦げないようにとろみがつくまで一炊きしたら今度はバットに広げて空気に触れさせないようにラップをかけて冷蔵庫で直ぐに冷やす。バットからぷりんと剥がせれば完璧だ。剥がしたらもう一度カスタードをよく混ぜ合わせてタルト生地に流しこみ
「フルーツを飾って完成」
 にんまりとスライスしたイチゴを並べれば綺麗な物だと自己満足。
 生地が堅くない分崩れやすいので型のままキャンプ用コンテナを入れて保冷剤を入れる。
 そして同時進行で作ったパイ生地にもカスタードを塗って店から持ってきフルーツをぎっしりと詰めてパイに蓋をしてもうオーブンへ。竃の効果で潰れがちな土台の生地もサックリと焼ける様子は窓からまめにチェックだ。
 さらにカスタードを作ったついでに牛乳と合わせてプディングも作っておいた。
 カスタードで作れるお菓子っていっぱいあるよねと、シュークリームも作りたかったがさすがにこれだけ甘い物を作れば勘弁してくれと言う人が一人や二人出てきてもおかしくないだろう。だから食感を楽しむようにパイ生地の残りをフライパンで焼きながらキャラメリゼして、シナモンを振りかけただけのスティックパイも用意しておいた。
 ラップや紙トレーやプラスチックのフォークとスプーンと水筒にコーヒーを淹れて一応砂糖ももって準備万端。
 預かってる鍵でちゃんと鍵を閉めて車で先生の元家へと向かうのだった。
 
 

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