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キャンプ・キャンプ・キャンプ 12
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待つその間、先生のお気に入りだったぐい飲みを洗う。伏せて置いていたとは言え薄っすらと積る埃はどうしようもない。それから小鉢に野沢菜をモリッとのせて、ジャガイモを塩茹でしておく。シチューを食べた後とはいえ摘むにはやっぱり塩気のある魚があると良いだろうか。だがこの季節の魚は痩せてるんだよなとなれば簡単に砂糖と醤油で牛肉のしぐれ煮にしようか。甘めに作ってジャガイモを添えれば……むしろ肉じゃがにすればよかった?
わたわたと牛肉を煮ながら半熟卵を作って味は沁みてないが殻が向けた所で一緒にたれに絡めておけばそれで十分だろう。
「あとそれから……」
「綾人はこれからパーティを始めるつもりか?」
いつの間にか風呂から出てきた先生の呆れた声にふと我に戻る。
「あれ、もう出てきたの?」
聞けば時計を見上げる視線に既に一時間近く経っていた事を知る。
「いつの間に……」
「いや、なんか申し訳ないと言うか……」
机に並ぶ料理の数々に先生はニマニマと笑って
「こんなにも俺が会いに来て喜ばれるとは思わなかったな」
「そんなんじゃないし!」
「あの涙のお別れの仕方をしたから二度と来れないと思ったけど、案外もっと早く来ればよかった?」
「寂しくて泣いたわけじゃないし!それに早く来ればよかったと思うならもっと早く来い!」
何か嬉しさと先生の軽口のなつかしさ、そして先生も再会に喜んでいるように口の端が弧を描いていて、それを無視するようにお盆に出来た料理の数々を持って囲炉裏へと向かう。
草履の引きづる音を聞きながら高い土間上がりにお盆を一度おいてからよいしょと上り、いつもの定位置に二人して座る。
台所にも近いが仏間にも近いいわゆる上座。先生はトイレやお酒を取りに行くのに便利な場所。なんとなく定位置が決まっているが一月ぐらいのブランクではこの位置に変動はない。
タオルを首にかけながら髪を拭くのを見ながら小さなテーブルに料理を乗せて二人で摘まみやすいように置く。そしてお酒は、最初こそ冷だが、囲炉裏に置いた五徳の上で温めた徳利が呑み頃になるのを待つ。
既に風呂場でゆっくりとお酒がまわった顔はほんのりと赤味が差していて
「久しぶりに飲んだな」
一緒に日本酒を飲んだ所で思わず首をかしげる。
「呑んでなかったの?」
「いや、呑んでも美味くなくってな。久しぶりに味覚までやられたかと思った」
久しぶりと言う事は離婚した時だろうか。
そんな事聞いた事が無かったので何時の話しだと思うもただ苦笑して
「お前のばあさんに飯を食わして貰ってから少しずつ美味いなぁって思うようになったな」
「かなり重症だったんだな」
「年単位だったから重症だったな。だからここにきてばあさんに説教されながらいろいろ手伝わされて」
「こき使われてたよね」
「良いんだよ。おかげで夜に寝れるようになったんだから」
音もなく笑い
「山の手入れを教えてもらって、山を歩かされて、今思い返しても必死になって追いかけて行ったのに息切らさずにひょいひょい登ってったな」
「妖怪ババアだからな」
なんて言う事をと言うとこだろうが実際高校生の綾人より体力の上を行っていたのでそう呼んでも間違いない。決して綾人がへなちょこ体力しかなくても宮下でさえ追いかけれなかったのだからもう仙人とかそう言ったたぐいだと思う事にすれば納得できたのでそう言う事にしておくし、この意見には先生も賛成だったので思わず乾杯とぐい呑みを重ねるのだった。
「ここは良いな。飯は上手いし、シチュー作ったのは陸斗か?あいつの薄味具合いいよな」
「シチューがしょっぱくてどうする」
「久しぶりに腹いっぱいに食べれた」
「そういやなんか痩せたね」
「一月で五キロ落ちた」
「ヤバくね?」
「何とか停滞期に入ったけどな」
「どんなダイエット」
笑えなくてしぐれ煮のたれを絡めた半熟ゆで卵を二つに割る。たらりと垂れた黄身にしぐれ煮の牛肉を絡めて食べれば先生も美味そうだと言いながら同じように食べる。
「美味い。
飯が美味いって幸せだな」
なぜか視線を反らせて日本酒を口へと運ぶ。まともじゃ聞いてられない気がした。
「今の学校そんな酷いの?」
だけど話が進まないから嫌でも先生の口から吐き出す。
「酷いって言うか、クラス全員がお前の劣化版だ。
ほら、先生が持ちうけた生徒の中は宮下レベルを最低にお前が上限と言う幅広い生徒と知り合って来た」
「これは宮下に報告するべきかどうしようか」
「ああ、これはあいつにも何度も言って来たからまだ言ってるのかってぐらいの反応しかしないぞ」
それもどうなんだと思うも
「大学もそこそこいい所まで行けるだろう。東京の大学だって十分射程距離だ」
「本当の進学校だな」
私立でもないのだからガチ勢の学校かとどんな学校か理解すれば
「まぁ、麓の高校でもお前は行けただろうがな」
「当時その選択が出来なかった俺が恨めしい」
「その選択をしなかったくせによく言う」
ははは……
バアちゃんが亡くなって親族とのもめにもめた時だっただけに進路どころか将来すら考える余裕のない俺は何も選ばなかった立派な引きこもりだと思う。
わたわたと牛肉を煮ながら半熟卵を作って味は沁みてないが殻が向けた所で一緒にたれに絡めておけばそれで十分だろう。
「あとそれから……」
「綾人はこれからパーティを始めるつもりか?」
いつの間にか風呂から出てきた先生の呆れた声にふと我に戻る。
「あれ、もう出てきたの?」
聞けば時計を見上げる視線に既に一時間近く経っていた事を知る。
「いつの間に……」
「いや、なんか申し訳ないと言うか……」
机に並ぶ料理の数々に先生はニマニマと笑って
「こんなにも俺が会いに来て喜ばれるとは思わなかったな」
「そんなんじゃないし!」
「あの涙のお別れの仕方をしたから二度と来れないと思ったけど、案外もっと早く来ればよかった?」
「寂しくて泣いたわけじゃないし!それに早く来ればよかったと思うならもっと早く来い!」
何か嬉しさと先生の軽口のなつかしさ、そして先生も再会に喜んでいるように口の端が弧を描いていて、それを無視するようにお盆に出来た料理の数々を持って囲炉裏へと向かう。
草履の引きづる音を聞きながら高い土間上がりにお盆を一度おいてからよいしょと上り、いつもの定位置に二人して座る。
台所にも近いが仏間にも近いいわゆる上座。先生はトイレやお酒を取りに行くのに便利な場所。なんとなく定位置が決まっているが一月ぐらいのブランクではこの位置に変動はない。
タオルを首にかけながら髪を拭くのを見ながら小さなテーブルに料理を乗せて二人で摘まみやすいように置く。そしてお酒は、最初こそ冷だが、囲炉裏に置いた五徳の上で温めた徳利が呑み頃になるのを待つ。
既に風呂場でゆっくりとお酒がまわった顔はほんのりと赤味が差していて
「久しぶりに飲んだな」
一緒に日本酒を飲んだ所で思わず首をかしげる。
「呑んでなかったの?」
「いや、呑んでも美味くなくってな。久しぶりに味覚までやられたかと思った」
久しぶりと言う事は離婚した時だろうか。
そんな事聞いた事が無かったので何時の話しだと思うもただ苦笑して
「お前のばあさんに飯を食わして貰ってから少しずつ美味いなぁって思うようになったな」
「かなり重症だったんだな」
「年単位だったから重症だったな。だからここにきてばあさんに説教されながらいろいろ手伝わされて」
「こき使われてたよね」
「良いんだよ。おかげで夜に寝れるようになったんだから」
音もなく笑い
「山の手入れを教えてもらって、山を歩かされて、今思い返しても必死になって追いかけて行ったのに息切らさずにひょいひょい登ってったな」
「妖怪ババアだからな」
なんて言う事をと言うとこだろうが実際高校生の綾人より体力の上を行っていたのでそう呼んでも間違いない。決して綾人がへなちょこ体力しかなくても宮下でさえ追いかけれなかったのだからもう仙人とかそう言ったたぐいだと思う事にすれば納得できたのでそう言う事にしておくし、この意見には先生も賛成だったので思わず乾杯とぐい呑みを重ねるのだった。
「ここは良いな。飯は上手いし、シチュー作ったのは陸斗か?あいつの薄味具合いいよな」
「シチューがしょっぱくてどうする」
「久しぶりに腹いっぱいに食べれた」
「そういやなんか痩せたね」
「一月で五キロ落ちた」
「ヤバくね?」
「何とか停滞期に入ったけどな」
「どんなダイエット」
笑えなくてしぐれ煮のたれを絡めた半熟ゆで卵を二つに割る。たらりと垂れた黄身にしぐれ煮の牛肉を絡めて食べれば先生も美味そうだと言いながら同じように食べる。
「美味い。
飯が美味いって幸せだな」
なぜか視線を反らせて日本酒を口へと運ぶ。まともじゃ聞いてられない気がした。
「今の学校そんな酷いの?」
だけど話が進まないから嫌でも先生の口から吐き出す。
「酷いって言うか、クラス全員がお前の劣化版だ。
ほら、先生が持ちうけた生徒の中は宮下レベルを最低にお前が上限と言う幅広い生徒と知り合って来た」
「これは宮下に報告するべきかどうしようか」
「ああ、これはあいつにも何度も言って来たからまだ言ってるのかってぐらいの反応しかしないぞ」
それもどうなんだと思うも
「大学もそこそこいい所まで行けるだろう。東京の大学だって十分射程距離だ」
「本当の進学校だな」
私立でもないのだからガチ勢の学校かとどんな学校か理解すれば
「まぁ、麓の高校でもお前は行けただろうがな」
「当時その選択が出来なかった俺が恨めしい」
「その選択をしなかったくせによく言う」
ははは……
バアちゃんが亡くなって親族とのもめにもめた時だっただけに進路どころか将来すら考える余裕のない俺は何も選ばなかった立派な引きこもりだと思う。
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