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空と風と 7

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 良き旅とは良き出会いのある旅だと綾人は思う。
 そう言っても山奥に引きこもりがちの綾人が旅に行く先は大体東京。ほぼほぼ青山さんのお店に行ったり、年二回ほど東京の弁護士さんと会食をしながらの現状の確認の報告と今後の相談。
 今は親父は檻の中だが出てきた時の連絡やその時の身元引き受け人に俺はならない代わりに監視してくれる人との仲介などお願いをしている。そして、愛人の人たちの動向も見てもらっている。今では故郷の港町で両親と一緒に三世帯で生活をしているという。親父に支払い能力がないのでいまだに奪われたお金は取り戻せてないようだが、息子にはそれが大学の進学資金だったことだけは理解してもらえたようで微妙な距離を取りつつも緊張感ある清貧な生活をしているという。前に会った時に大学なんてバイトしてお金貯めてからでもいけるし、学生ローンを組んでいく人間も珍しくはないと一言残してきた。母親と仲良くできるかはわからないが、それでも自力でも進める道は提示してきた。俺みたいにまだ何もない場所でもなく交通の便も決して悪くはない所。難しい顔をしていたけど進学校にいたのだから馬鹿じゃないはず。学ぶにはお金が必要なこと、それを乗り切るには情熱が必要な事を伝え是非乗り越えてほしいとホテルであった時からひと回りほど痩せた感情の乏しい顔は俺に対して怯えてると言ったもの。弁護士さんと一緒に向こうの両親も挟んで知らなかった事を全員で強制的に共有し、お詫びにとどうやって用意したかなんて想像したくもないお金を包んでくれたが、それはもらっておくことにした。それで軽くなる心がある事を弁護士さんにも言われてたし、もし出してきたら受け取るようにと遠回しに示談を進められ、今更だしもう顔を合わせるつもりはないので乗っておく事にする。
「母の病院代として使わせていただきます」
 謝罪する頭が下げようもない位置にあるのにより一層低くなったものを見下ろしながら失礼させていただくのだった。
 一つの家庭を壊した。
 一人の女性の人生を壊した。
 いくら愛し合ってると言ってもこの国の法律ではどんな言い訳をしても許されない法が絶対の罪。
 手順を踏めば良かっただけなのにと冷めきった夫婦関係に綾人は今も思うも、結局は実家や山の集落の人間達への祝福された結婚と成功と言う見栄だけの関係を続けただけだった。
 だが今では綾人も大人になって何となく理解をする。
 母さんと昔の恋人との関係が終わってない事を知った親父が嫌がらせの為に婚姻関係を続けていたのでは?こんな事になっても離婚をしない理由とか想像すればただの意地と言うのも理解できる。それに二人の不倫についてお互い何も言わない、無関心、だからやりたい放題だったというのは取り残された息子だけが貧乏くじを引かされただけだったが。
 どっちにしても旅行と言うには弁護士さんとお腹と頭が痛くなる話をする事になるので丸一日俺との面談という内容でじっくりと話し合う面白みもかけらもない旅行が俺の旅だった。
 そんな旅しか知らないのにこの旅では朝から温泉を堪能して豪華な朝食を満喫し、昨日知り合ったタクシーの運ちゃんが時間通りやってきて観光スポットに効率よく連れて回ってくれるのだった。
 広島に来たのなら一度は見ておきたい原爆ドーム、そして広島城、縮景園、そこでタイムリミットだったが、タクシーの中での運ちゃんのガイドもついて修学旅行よりも充実した旅行だと楽しんだ所で新幹線の駅まで連れてきてくれた。
「お世話になりました」
 昨日同様多目に渡せばまた来る時があれば連絡をしてくれと去っていったものの一期一会のタクシードライバーに二度はないと思っている。そんな出会いを含めて旅の醍醐味だと新幹線の時間まで土産物屋に突入して留守番組と多分一緒に留守番をしてくれてるだろう森下さん達にも土産を買っておく。宮下も西野さんにお土産と言って定番のど定番もみじ饅頭を買って京都で別れ、またゴールデンウィーク辺りに帰るねと約束をする。その頃には雪が降らなければ良いなと思うも降っても積もることはあまりないので日陰の残雪も後少しだな、何て油断するとマイナスの世界になるけど庭からそろそろキムチの壺を雪山から発掘しておこうと考えた辺りから急な眠気に圭斗にもたれかかって少し休まさせてもらうのだった。
 
 新幹線を降りて乗り換えまで時間があるから何か食べようかと言う所でこの駅で話題のプラットホームできしめんを食べる事にした。安くて早くて温かくて。何の宣伝かと思うがお腹を空かせたビジネスマン達が火傷上等と言うように鰹出汁漂う売店を囲むようにして瞬く間に完食して去っていくのを横目に俺達も必死で食べるのはその場の空気だと言う事にした。なんせ電車の乗り降りのわずか数分の間に食べる猛者もいる。
「真似できないわ」
「俺たちは急ぐ事ないから良いんだよ」
 圭斗はもう一杯おかわりをすると言う食欲に俺はご馳走様をしてついでに土産も追加して買って戻れば三杯目を完食した圭斗が丼を戻した所でよく食べるなと感心すれば
「麺類っていくらでも食べれるから困るんだよ」
「飲みもんじゃねーって」
 それはどんな褒め言葉かと思うも乗り換えのホームに移動すればすでに電車は待機していて掃除のおばちゃんたちが室内掃除をしていて、終わった所で指定席に座れば程なくして出発の合図。
 この旅行ももうすぐ終わるんだなと少しだけの寂しさを覚えながら
「またどこか旅行に行こうな。今度は陸斗も連れて」
 どこが良いだろうかと、動物園、水族館などなど子供のうちに体験できなかった事をさせてやりたいと思っていれば
「だったら京都に行こう」
「意外と近場?」
「この地域の小学校の修学旅行先が京都で中学校が東京だ。行けなかったからあいつにも体験させてやりたい」
 それは圭斗もじゃないだろうかと思うも
「だったら香奈が来た時にみんなで一緒に行こう。宮下に案内させて我儘言って飯田さんの実家のお店でごはんを食べるって良いと思わないか?」
「門前払い食らわなければな」
 一見さんごめんなさいなお店だけにいざとなれば飯田さんを巻き込んでやろうと考えていれば
「お前今すごい悪い顔をしてるぞ?
 まさか飯田さんを巻き込むとか考えてないだろうな?」
「いくら何でも僕そんな事考えないよ」
 なーんて返す俺は自分でもわかるくらいの悪い笑みを浮かべていると自負しながら夏にはどこか行きたいなと、何だか俺が一番楽しんでいたような気もする。こんな旅なら何度だって行きたいとホワホワした気持ちを抱きながら駅を出た所で見慣れた暗さとヒヤリとした空気。幸田さんがタクシー乗り場で他の運転手さんとダベってるのを見た所で帰ってきたなーと実感する。
「今日は泊まっていくだろ?」
「ああ、悪いがお邪魔するよ。あいつらの土産もあるしな」
 そしてみなさんもきっと俺たちの姿を見るまで残っているのだろう。変に義理堅いからなと想像しながら数分後。賑やかな圭斗の家に無事到着となって出迎えてくれた陸斗達にお土産を家の中に運ばせるにだった。 






 
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