人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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空と風と 4

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 なだらかな芝生の斜面に池と松が中心の回遊式の配置。それを囲む様に花れと母屋があり、至る所に在る休憩所に足を運んではその景色を堪能する。そしてそのまま旅館の中に在る施設を巡る。図書館のようなスペースがあり、そこは綾人の家の二階のような場所でもあった。壁一面の本棚と、本好きがまったりと出来るようなまるで自宅にでもいるような錯覚をするスペース。CDを聞く先客が居たり、ジュースを飲みながらゴロゴロしているいい大人もいる。それを見て綾人が何かを考える様に固まっているので先生の家がどう変わるか何だか予想は出来たし、まだ改装が始まったばかりの麓の家。今からでも手を入れるには全く問題ない段階なので先生の家がどんどん変わっていくのが手に取るように理解は出来た。
 レンガを敷き詰めた床の部屋はすぐに外に飛び出せるような作りでこう言う土間も悪くないと眺めながら長い時を重ねて踏みしめられて磨かれたような光沢をもつ煉瓦をじっと見ていれば
「こう言うのもありだな」
 綾人のぼそりと言う様子に宮下は動画用のカメラを回すのだった。旅館で他にもお客がいるからと止めておこうなんて話していたのに資料として撮る分には良いだろうとじっくりとなめまわすように撮影する宮下はほんとマニアだと思う。
 宿泊客なので最後に支払いをと部屋代に回してもらってバーで一杯ワインを飲ませてもらった。あっさりと白ワインとチーズのオードブル。撮影した映像を見ながら先生の家の改造に手を加える。
「俺、隣の家の内装知らないけど、時代的には先生の家とほぼ同時期なんだよね?」
「同じ内田と長沢で作ってもらってるから内装とかも似てるぞ」
 圭斗はだから同じ癖があって作りやすいと言う。
「個人的には隣の土間をみんな煉瓦を敷き詰めようかどうしようか」
「枕木を詰めてもいいんじゃない?」
「シロアリの住処になる。こうなると石を敷き詰めるのもいいな」
「綾人が欲しい四阿もどういった物か何だか理解できたしね」
 そんな話をしていれば支配人がやって来た。
 どうもご挨拶にとか言う所なのだろう。席の傍らに立ちワインを舐めながら映像を見てスマホの小さな画面であーだこーだと呻く俺達にあっち行ってくれと言うわけでもなく一緒に建物の材質や作りの話しに混ざり、木工作家によって至る所にある家具を作ってもらったと言うのだ。味があるのはそう言ったアーティストだからかと納得すれば
「だったら今度麓の家の家具は俺に任せろ」
 圭斗が何やら触発されて先生の家の家具を大幅に改造しようと言い出した。
「お前な、俺家なんだぞ?」
「お前に設計させたら烏骨鶏ハウスの二階のように何もない窓だけの部屋になるだろう」
 これだからミニマムはと鼻で笑われてしまった。
「所で三人は設計か何かを?」
 全く知らないのにここまで話に入ってきた支配人さんの知識が凄いなと感心している間に宮下が簡単に俺達の説明をする。
 幼馴染で、高校生の同級生で、同じ村出身で……
「この動画を配信しているの俺達なんです。
 今度の企画でいつか雪山から降りなくちゃいけなくなった時の家のリフォームをする事にしてるのですが、あまり手を入れないつもりだったけどここにきて触発されまして」
 どうやら触発されてるのは圭斗だけではないようだ。
「なかなか凄い企画してるじゃないですか」
 簡単に烏骨鶏ハウスの二階のリフォームや古民家の改築を飛ばし飛ばしに見せてのプレゼンテーション。
「良いもの見に来たつもりだったのにこうやって体験すると欲が増えるなぁ」
 ただ体験して刺激になればと思って選んだのに、肝心の俺が刺激を受けてうずうずとし始めてしまっていた。
「ありがとうございます」
 支配人は褒め言葉と受け止めてくれて満足したのかごゆっくりしてくださいと一言残して去って行く支配人の姿が見えなくなった所で
「あの人何しに来たんだろ」
「偵察じゃね?」
 何て事もないと言う様に圭斗もスマホで二階の壁一面の書斎と縁側から優雅に正面の山肌を眺める景色を堪能できるような窓辺を大正レトロのように改造しよう提案する。駅が一番見やすい場所に格子窓を全面に張ってカーテンの代わりに障子も並べる。隅っこに机を置いてレトロなランプで明かりを取りながら酒杯を傾ける展望。縁側との境の障子を開ければ文豪でもいそうな書斎の数々。レトロな大きな机とゆったりとした椅子と……
「案外普通の部屋になったね」
「むしろ家の二階と変わらないな」
 辛辣な宮下と俺の感想に圭斗はワインを一気に飲み干して不貞腐れるのだった。
「俺としては別の離れの写真だけどこう言った風呂場が良い」
 綾人は檜風呂もいいよなといって風呂からそのまま外に出られる窓があるだけで、外から見えないように囲いで囲えばいいと言う提案もするが
「ここならできる事であって、麓じゃ水道管凍るぞ。水道管ならまだしも配水管が凍ると悲惨だぞ」
「やっぱり麓でも駄目かぁ」
 氷点下切りまくる地域では綾人の夢は厳しいようだ。



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