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春の足音はゆっくりじっくり 2

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 内田さんと長沢さんと別れて圭斗の家に足を運ぶとまだまだ春休みなので陸斗も家に居て、一人冬の間中々掃除できなかった納屋の掃除をしていたのだった。庭の隅には俺も覚えのある使えなくなった穴の開いたザルや、苗箱が山ほどあった。
「だいぶはかどってるな」
「綾人さんいらっしゃい」
 一生懸命に片付けをしていたから声をかけるまで気がつかなかったようで驚いた顔が嬉しそうに次第に笑顔に変わっていく。歓迎されるっていいなと思いながらも陸斗はマスクと軍手をして、頭もタオルを巻いている姿は俺も覚えがあるよとそれでも埃で汚れた顔を微笑ましく眺めながら
「ゴミはどうするんだ?何だったら帰りにクリーンセンターに寄るぞ?」
 すっかり顔なじみになってしまったクリーンセンターのおっさん達にまたきたかと笑われるかもしれないが、なんて考えていたものの
「ゴミはまだあるけど苗箱とかは上島さんが引き取ってくれるって言うんだ」
 他の農具もともにいろいろ引き取ってくれると言う。
「機械系は綾人が前に引き取ってくれたから良いが……」
「ああ、あれ宮下兄がメンテして使ってくれてるぞ」
 独学で配線などを直してしまった大和さんも一応俺達が第二種電気工事士の免許を取った次の時にこっそりとっていたと言う。ほんとに密かに広がっていたんだなと思うも工具一式揃ってたし、弟の勉強ノートもあったからやってみたら取れたからと弟には聞かせれない事をさらっというのだった。まぁ、その時は宮下も家を出ていたから気兼ねせずにと言う所なのだろう。
「大和さんすげーな……」
「おかげでおばさんの花畑がどんどん充実してるし」
「おばさん相変わらずちゃっかりしてるな」
 寧ろおばさんが使いたくって宮下兄に直させていたような気もすると思いだしながらも宮下家がそれで楽しいならいいじゃないかといつもお世話になってる家の平和は何よりと綾人は見守っていた。
「それよりも陸斗、そろそろおやつの時間にするから顔と手を洗っておいで」
「ケーキ買って来たから食べようか」
 街中に在るケーキ屋さんだがなかなかどうして美味しいんだよと無性に甘い物が食べたい時はご厄介になっているのは何もコンビニだけではない。
 車の中に置きっぱなしにしてたせいか少しかたがっていたが問題はないレベル。普通のショートケーキとザッハトルテとベイクドチーズケーキ。チーズケーキは圭斗だがチョコか普通のイチゴのケーキか悩む様に選べば陸斗は迷いなくイチゴのショートケーキを嬉しそうな顔で選ぶのだった。うん。これからはフルーツを乗せた奴にしようと陸斗がお茶の準備をしてくれてる間に圭斗に言えば
「お前の考え方なんかもうジジイだな。孫を可愛がるジジイそのものだぞ。内田さんレベル」
「は?」
 内田レベルとはさすがにショック。
 俺はあんなジジバカじゃないと主張したいものの圭斗の呆れた視線と思いの外ショックを受けた言葉に頭の中が整理出来ずにフリーズしてしまうも同じ事を宮下に言われたような気もしたようなそうでもないような、そんな目で見られてたかもと何だか泣きたい気分になって来たが
「それより始まったぞ。陸斗ー」
 呼べばまだ水色の濃い紅茶を淹れたマグカップを持って来てくれた。
 ケーキを食べながらティーパックの紅茶を蒸らしておけばいいと放置しながら昼のワイドショーの映画の紹介コーナーを見守るのだった。
 何やらゲストで夏に見た美女美男の四人組が拍手に迎えられて紹介された。
「おお、蓮司だ。こうやって見ると本当に芸能人だなって思うな」
 ここで山籠もりしていた人物と同一には見えない垢抜けた姿に
「蓮司さんってかっこよかったんですね」
 思わず圭斗と二人で腹を抱えながら声を立てて笑ってしまう。
 山生活初心者の生活ぶりは陸斗も見ていて不安になるようなおぼつかない手つきは終始心配しかなかった。
 そして烏骨鶏の世話を一緒にしてコミュニケーションを図ったもののその手つきも足取りも動物の世話をさせるのが不安になる働きぶり。
 一緒に掃除や遊び場を作ることで話をしたりすることはあれど主に教える立場だったから、テレビのモニターの向こうの垢抜けたイケメンなお兄さんだと言うことはすっかりと忘れていたのだ。
「まあ、このかっこよさを生み出すための修行だと思えば納得するだろ?」
「?」
 綾人の言葉にわからず小首傾げていたが画面は映画の一幕に変わり、撮影の様子やスタッフとのやりとり、そして見どころ、ぜひ見て欲しいところを紹介する様子から蓮司がズームアップされる。
 久しぶりにカメラの前に立った、今世間の注目を集めているだけにここで本人登場は注目度が桁違いに上がる上に一挙一動が世の皆様気になるらしい。
 だけど満を持して多紀さんが出演させたのだ。何を言われても揺るぎない精神で迎え撃ち、余裕の笑みを携えて存分に自分の魅力を垂れ流していた。
『それにしても映画の時から体一回り大きくなったんじゃない?』
 司会とのやり取りで肩や背中、胸周りをいやらしく触られて
『やめてください!きゃー!』 
 なんて笑いもとりながら映画の映像からひとまわり逞しくなった、主に上半身に均整の取れたイケメンは今までになかった包容力だろうかを身につけ今は安心感を感じてしまう。
 山から降りても体を鍛え続けたのだろうと理解ができてしまった。
『何かスポーツ始めたの?』
『ちょっと武者修行に出されまして』
『今時?!』
 司会者の驚きを合図に大爆笑!
『雪山に放り出されて薪割りとかめっちゃ大変だったんですよ!』
『今時そんなガチな修行やるんですか?!』
 司会者もびっくりな雪山生活は俺のルーティンだ。それなのにこの体格差は……プロテインか?などと考え違いであろうことを考えてしまう。
 紅茶を啜りながら少しだけ懐かしいと思う、少しだけ緊張からかキーが高くなってる声に耳を傾けながらスマホを取り出してメッセージを送っておく。
「まだまだ修行が足らんようだな」
 蓮司以上に薪を割っているのに筋肉がつかなくって思わずジェラシーと言うように言うが
「何をやらせるつもりだよ」
 圭斗も陸斗もケーキを口に運びながらインタビューに耳を傾けて器用にも俺には呆れた目を向けて
「決まってるだろ。次は草刈りだ」
「陸斗、ク●カリマサオさんで文明の理を教えてやれ。あいつ鬱陶しすぎる」
「マサオさん楽しいよね。なんかいくらでも乗れるよ」
 草刈機に楽しさを見つける高校生はどうかと思うも
「まあ、二度と来ることはないし、来ない事があいつが元気な証拠だ」
 少し寂しく思えどそれが平和な証拠。
 また逃げ出したくなるような時があればゆっくりとした時間の中に逃げ込んでこればいいし、くいしばって立ち向かうのも蓮司の自由。
 陸斗と烏骨鶏の餌をあげるのも楽しそうだったがここを出て顔を上げて自分の両足で立っているのだ。
 それを応援するが友情だろうと寂しさには気づかない顔でただかっこいいだけの脱却を山で成長した蓮司に誇らしく思う綾人なのだった。
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