人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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旅立つ君に 2

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「ずいぶんとまあ、いきなりだな」
「たまにあるのよ。向こうの先生が体調悪くなって急遽辞める事になってね、って。先生もこっちにそれなりにいるでしょ?そろそろ移動あるかと思ったら今なのよ」
 やれやれと言う顔だが、それを知らずに卒業してしまった卒業生達は会えなくなることを知っているのだろうかと思うも
「まぁ、公立高校の教師の使い勝手の良い所よ」
 せめて家から通えるところにしてくれればいいのにとぼやく様子に
「じゃあ、あの家は?」
「まぁ、別荘としてて持っててもいいけど、税金かかるからねぇ。売れれば売ってもいいかもな。こっち来た時はいつもみたいに綾人の家に泊まればいいし、圭斗の家にも俺の部屋を確保してあるし」
「いや、せんせーの家、間違っても売れねえだろ」
「つーかさ、せんせーの部屋なんてないぜ?」
「お前ら元担任に対して冷たくないか?」
 サザエをほじくり出しながら抗議をするが
「先生の家を掃除させられた時に家の中でハクビシンに会った時はマジビビったし」
「あの頃の綾人は可愛かったよな。ゴキブリ見て悲鳴あげちゃってさ。それが今じゃチェンソー振り上げてクマに襲いかかる子になっちゃって、先生びっくりだよ」
 ほじくり出したサザエから肝を取り分けて肝醤油を作り、それに身を絡めて堪能する。
「うめえ!日本酒おかわり!」
 植田が綾人に引きながらお酌をする。
「待て、何についてそんな目で俺を見る」
「あやっちの全部っす。
 ゴキで悲鳴とか熊にチェインソーとか。アイスホッケーのマスクした映画が昔ありましたよね?」
「ジェイ●ン君のお話?ハロウィンになると渋谷にもやってくるよ」
 どうでも良さげに焼き牡蠣の熱と戦いながらも攻略する様子はさすがに恥ずかしいというのを懸命に誤魔化している証拠だろうか。
「それよりも屋根だけじゃなくってやっぱり家の中までハクビシンは入ってくるのですか?」
 牡蠣の殻を開けながら素直に疑問を飯田が問えば
「そこは先生の家の特殊事情があるから。いくらなんでも人が住んでいる家なら屋根から降りてこないよ」
 簡単な宮下の説明にだったら何で?というよりも
「特殊事情?」
 上島も疑問を覚えながらも牡蠣の殻むきを手伝っている。
「あんな所に人が住んでいるのかってぐらいのゴミ屋敷だからな」
「積もり積もって七年分。思い出が詰まった我が家は獣達もやってくる魅惑の我が家だ」
 見た事ないだろう下田達も牛タンを食べる手を止めてしまった。
「何だろう。お世話になった先生のために引越しのための先生の家の掃除に行こうかって提案しようと思ったんだけど」
「川上、そんな危険な提案は止めろ。
 絶対一日じゃ終わらないから」
 牡蠣から箸を離して何を思い出したのか震える綾人に焼いた伊勢海老で海老グラタンを作った飯田は思い出すなというように差し出せばもう忘れたと言わんばかりに一人伊勢海老のグラタンを抱えて恍惚と堪能していた。
 圭斗は飯田の綾人の扱いがぞんざいすぎないかと不安になるも、その横で伊勢海老の刺身を用意されれば真っ先に手を伸ばすのだった。勿論海老だけではなく蟹の刺身も用意すれば陸斗が
「初めて食べました!」
とこれもお約束の感動に目をキラキラとさせながら蟹の足を下田と葉山と一緒に空を仰ぐようにしてつるんと食べるのだった。
 そして身の方は先生が甲羅に集められた味噌と共にに日本酒を入れてアテにするという未成年が手を出せない暴挙ぶり。さすがに独り占めはダメですよと飯田が一気に飲むというこれも酷い暴挙だがいいぞもっとやれ!とのエールをもらう様子に高山は飯田への嫉妬を募らす横で綾人は真剣な目で海老グラタンの味噌を懸命に攻略していた。
「あ、ラム肉の香草焼そろそろ食べごろです。熱いうちにかぶりついてください」
 飯田の指示に綾人を覗く全員がラム肉に群がる中飯田は鮑の殻に雲丹を盛り付けて牡蠣の隣で貝焼きを作り始めた。
「シェフー、こんなの食べたら明日から何食べればいいかわからなくなるんだけどー?」
 とても両手にラム肉を持って食べるやつの言葉じゃねえと思うがそこは飯田。
「大丈夫です。俺は毎日食べてるけど次の日も毎日美味しくご飯をいただけますので」
「味見で毎日食べてるだけだろ。それにこれだけの腕なら毎日ご飯は美味いよな!」
「先生も料理の上手な方をみつけて再婚なさって下さい」
「キーッツ!プロポーズ断られたヤローに言われたくない!」
 両者致命的大ダメージ。
 高校生達は宮下の指示によって肉ゾーンに避難をし、綾人は海鮮コーナーで黙々と口を動かし圭斗は聞こえないという顔で雲丹うめえと貝焼きを焦げだした隅っこから攻略するのだった。


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