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白銀の世界で春を謳う 14

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 それは蓮司の長い冬休みが終わりを告げた事を意味するのだろうか。それともさらに厳しい冬に突撃するのだろうか。
「本来なら喜ばしい事なのにすっきりしない顔だな」
 先生もすっきりできないわなと難しい顔をすれば
「あの親あっての俺だから、今まで通りというわけにはいかない。
 まずは多紀さんの映画の番宣って言う仕事と記者会見まではしないが囲み取材って言うメンドクセーって仕事が決まった。
 まぁ、母親達の事は弁護士さんに丸投げしてるとは言え決着がついたから報告するってなってさ」
「有名人ってこう言う時辛いな」 
 不安げな顔をして話し込めば陸斗も不安げな顔を隠せずには戻ってきた。
「まぁ、それで金貰ってるんだ。気合入れてきますわ」
「それはいいが、どうやって帰るつもりだ?」
 先生の質問に来る時は飯田さんの車で便乗して来た事を思いだして、タクシーもやってこないこの深い山事情を思い出して真っ青になる。そんな蓮司を見て溜息を零し
「だったら明日俺が送ってやるよ。日帰りはつかれるから東京で一泊してくる」
 綾人は迷わず東京行に手を挙げた。  
 だけど蓮司は難しい顔をして
「烏骨鶏達は良いのかよ」
「そこ心配する所か?」
 先生が苦笑交じりに一日位放っておいても大丈夫だぞとつっこむも
「綾人が行くなら烏骨鶏の面倒は俺が見るさ。
 陸斗には葉山と下田に来てもらえば心配はないだろうし、お隣さんにもお願いしておけば大丈夫だろう」
 意外にも近所付き合いは上手くできているようだ。
 お隣に陸斗と同じ年の女の子と小学生の弟がいるらしく、弟の方の宿題を面倒見たりしてお隣の奥さんを頼ったり頼られたりといい関係のようだ。
「じゃあ陸斗はまた先生と一緒に帰ろうな」
「はい」
 少し不満そうだが学校がある以上帰らなくてはいけない。聞き分けがよろしいと思いつつも申し訳なさは一杯だ。
「だったら俺は……」
 今日は帰ると言いだしそうな既にアルコールをしっかりと摂取した山川さんに何を言ってると綾人は捕まえて
「明日の朝一に出る予定なので圭斗達も居るのでゆっくりしてってください。飲酒運転は厳禁です」
「まぁ、烏骨鶏の小屋の予定も少し詰めて行きましょう」
 まだまだ何も決まってないですよと言う圭斗にそれじゃあと言葉に甘える山川さん。
「じゃあ今夜はお別れパーティーだな!」
 既にパーティー状態の先生は陸斗に日本酒を持ってこさせて鹿肉でユッケを作らせていた。野生の肉だけど大丈夫かという心配は先生しか食べないから大丈夫とたんに先生が食べたかっただけのようだ。まぁ、いつも食べてるしねと、なら俺達はたたきにしようかと言えば陸斗の口の端から涎が垂れていた。
 ったく、どこでそんな贅沢覚えさせたんだよ!うちでは食べさせた覚えないぞ!と御立腹のお父さんに反論すれば飯田さんが作ってくれましたとやっぱりお前か!!!な神の仕業なら仕方がないと言うものだ。
 俺もいろいろ罠にはめられて謎な物も食べれるようになったしね。このわたも食べれるようになったんだから如何に飯田さんの飯テロが半端ない物かが分るだろう。幸せすぎて体重管理だけは注意している。
「突然来て突然帰る事になって迷惑かけてすみません」
 俺を背にみんなに平謝りな蓮司だけどそれは俺に言う物だろうと突っ込みたい。
「まぁ、また何かあれば駆け込んでくればいいから。
 部屋は余ってるしな」
 肩をバンバン叩く先生にもここは俺の家だと言いたい。もっとも酔っぱらいの先生に通じるわけもない。酔っ払ってなくてもだが。
「これからの方が辛いことだらけだ。
 頼る親も信用ないだろうが、綾人君を頼る指示を出してくれた見る目のある人もいる。
 爺さんの言う所蓮司君の冬はこれから本格的になる所だから。
 辛かったら逃げて当然良い。その時は迷わずこの家に戻っておいで」
「山川さん……」
 感涙と涙ぐむ蓮司もあれだが
「ここ、俺の家……」
「今はそこにこだわってやるな」
 圭斗の手が肩にポンと乗せられ、慰める様に陸斗が隣でビールの御酌をしてくれた。
 誰だ。高校生にこんな気配りを教えた奴。先生しかいないなと睨みつけてるも知らん顔だ。
 ついに泣き出した蓮司につられるように山川さんももらい泣き。
 悪いが蓮司よ、圭斗陸斗兄弟と俺はそんな程度で泣けるほど心は豊かではない。一緒に泣いてやれなくて悪いなとその光景を見守りながら午後は仕事にならないだろうからと陸斗を連れて晩御飯を考える。何が食べたいかと聞くもここはみんなでお鍋でも食べようとなんとなく仲間意識をと言うメニューだが、俺には分かる。陸斗はたんにボタン鍋を食べたいのだろう。さっき冷凍庫に行った時猪の肉に目が釘付けだったのを俺はちゃんと見てたぞ。とは言えさすが胃袋に忠実な十代。山程のカラアゲを食べておいてもまだ食べるか?まあ、それぐらい幾らでも食べさせてやると冷凍庫の奥の方にある肉なので陸斗にはここで待たせて取りに行くのだった。
 そして冷凍庫から帰ってくれば陸斗以外は誰もいなかった。
「どこに消えた?」
 聞けば
「烏骨鶏の二階に。
 せっかくだから二階のレイアウト決めようかってみんなで行っちゃったよ」
「酔っぱらいの行動原理理解できねー」 
 なんて頭抱えている間にも陸斗は伝言は伝えたからと烏骨鶏達を甘やかしに傷んだミカンを抱えて外に飛び出すのだった。
「俺、ここの家主なんだけどな」
 鍋に水をはって昆布を投げ込む。とは言え圭斗達は大工が趣味と仕事。楽しそうで何よりだと何を始めたか知らないが工具のモーター音を響かせ始めたあたり当分帰ってこないなと土間のガラス戸や襖、もう何年も閉めた事のない台所への木戸も閉ざして玄関を開ければ突然の大きな音に烏骨鶏達が俺の顔を見て飛び込んできた。烏骨鶏ハウスを作る前には土間に住ませていたこともあり、俺は慣れているものの当時の烏骨鶏はもう居ない。だけどあったかいからかストーブの近くに集まってくるので丸焼きにならないようにサークルで近づけないようにした。まあ、焼けたとしても美味しくいただいてやろう。なんせチキンだからな。
 後はいたずらしないように白菜を適当に切って水をはった皿を置いておけばそのうち大人しくなるはずだ。
 その間台所への木戸を烏骨鶏が入ってこれないだけの隙間を作って鍋を仕込むことにする。野菜をざく切りにして猪の肩ロースを薄くスライスする。薄く一枚一枚ずらしながら並べてクルクルと巻いて立てたところでパッと手を離せば綺麗なボタンの花が咲いた。
 肉の赤と脂身の白のコントラストが美しい花に満足してまた一輪、また一輪と咲かせて行く。
 我ながらなかなかの渾身の作。飯田さんに教えてもらって何度も練習した甲斐があるものだと自画自賛。
 自慢の野菜も準備もできたし、昆布だしに酒と醤油で味を整えて塩で微調整。後は腹を空かせたタイミングで火を入れればいいだろう。
 くえーっ、くーっ、くー、と烏骨鶏達も落ち着いてか何やらおしゃべりをし出している。後始末は、まあめんどくさいが今日ぐらいいいだろうとスマホを取り出して多紀さんと連絡を取るのだった。

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