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白銀の世界で春を謳う 5

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 二階はかつて蚕を飼っていた養蚕場だったらしい。なので元々広い室内と低い、いわゆる梁の巡らされた昔ながらの趣のある天井だ。
 前回見た時は所狭しと茅が干されていてこんな茅でも使えるのかと思った物の十分と言われた理由はしっかりと乾かされた物も必要でという事らしい。お役に立つのなら持ってってくれと渡したが、これから毎年茅を刈にきますと言う顔はススキ以外も欲しいなと言う視線にだったら育てに来いと言った覚えがある。下の田んぼだった所で上手く育てればいいが、詳しくは猟友会の皆様に教えてもらえばいいだろう。
 ブロワーを片手にパーカーの帽子をかぶってその上からゴーグルと粉塵マスク、軍手を装備して広げ切った窓に向かってスイッチオン。
 ブオオオオオオーーー
 想像以上に舞い上がる埃にこんな怪しい格好をしてでも良かったと部屋の一番奥から吐きだして行く。ゆっくりと足を進めながら進む。天井から壁は上から下に。梁の上もいつの間にか住み着いていたスズメバチの巣も今のうちに撤去する。二階に上がらなかったから気付かなかったよと意外な事に動物が潜り込んだ様子がないのには驚いていたが、換気らしき場所には細かな金属の網目の金網が二重に重ねてあり、これなら虫は入れど動物は入れんなと鼠対策の万全さにジイちゃんをそんけいした。
 一通り掃除をすれば陸斗が箒を持ってやって来た。あまりの埃と真っ黒になった俺の姿に唖然としていて、それに続いてきた先生と蓮司もあまりの酷さに下へと戻っていってしまった。頑張ったのに酷いと思いながら追いかけて下に降りて行ったら蓮司に手を引かれて窓の下へと連れてこられた。
 そして一面の雪化粧の庭の一角を黒く染める長年の埃をまき散らした場所をゆびさして
「掃除機って言う文明を知ってるか?」
「いや、すぐつまりそうだったから」
 そう言う先生は俺からブロワーを取り上げて俺に向かってブロワーを吹き付ける。もうもうと舞い上がる埃に圭斗も呆れていたが
「綾人、とりあえず軍手を変えて箒と雑巾で綺麗に磨くぞ」
「埃が丸まって外に落ちて行く様を是非とも見てもらいたかった」
「そこは落す前に一角に集めてゴミ収集だろ」
 蓮司にまで怒られてしまい、うちじゃゴミは外に吐きだすが常識だとバアちゃんに教えられた掃除だと主張して見るも誰も取り合ってくれなかった。判ってはいる物の解せぬ。 
 それからは陸斗と一緒に蓮司とホウキで丁寧に掃いてからの水拭き。大きな粗大ごみは茅を下ろした時に一緒に降ろしたのでほとんど何もない状態。だからこそ圭斗と一緒にリフォームをしようという話になった。ちなみに先生は剥がした壁板や傷んだ階段を外しては倉庫の一角に積み上げる手伝いをしている意外にも力仕事をまかされていた。
 昼になる頃には乾拭きも済ませてすっきりとした室内に俺は一足先に風呂に入らせてもらって朝から用意していたおでんを温め直す。勿論お風呂に入る前に準備した竈でご飯は炊きあがり、ちょうど蒸らすタイミング。風呂から出た所で陸斗が代わりに埃を落しに来て、蓮司も家風呂でシャワーを浴びていた。
 陸斗はすぐに着替えて頭を乾かしたら手伝いをしに来てくれて、その様子を見て蓮司も手伝ってくれる。陸斗を見て学ぶがよいとお皿やお箸を準備してくれる手際の良さはどこにお嫁に出しても問題ないねと見守ってしまう。嫁に出すつもりはないが。
 味噌仕立てのおでんの中味は卵に大根に人参といったおなじみの物から鳥肉、猪肉、牛筋にモツ、おなじみのはんぺんに蒟蒻。甘めの赤みそで真っ黒になってしまった姿を見て日本酒が欲しくなるけど昼だけじゃ食べきれない量をガッツリと作ったのだ。今夜もおでん決定だとあまりの量を見てうんざりする蓮司だが、先生は既に今夜の晩酌は日本酒だと言う様に舌なめずりをしていた。
「おでんじゃねぇ」
 味噌仕立てのおでんは初めてのような蓮司に俺と先生は首を横に振り
「これはこれで病み付きになるんだよ」
 確かに味は濃いかもしれない。とはいえ第一印象よりもあっさりとしていて見た目ほどしょっぱくもない。あめ色に焚き上げられ大根を恐る恐ると言うように食べる蓮司だがどうやら予想に反したお味を気に入っていただけたようでがつがつと食べて行く様子にもう俺達は何も言わない。陸斗も何度か食べていてお気に入りは渋くモツだったりする。鍋で迷子にならないようにと筋肉同様串にさして放り込んである。一人何本とは決めずに作ったが迷いなく鍋から拾い上げる様子に
「陸斗君、先生の楽しみをお願いだからこれ以上食べないで」
「気にする事ないぞー。成長期なんだからしっかりと肉を食べとけ」
「うん」
「綾人!圭斗が酷い事を言う!!!」
「先生は大根でも食ってろ」
 うぜえと鍋から大根を二つほど先生に贈呈。
「あーーーっっっ!!!」
「俺の大根が食えんと言うのか」
 なんて様子に何故か隣に居た蓮司が距離を開ける理由を聞きだしたいが
「それよりも何でおでんに味噌入れるんだ?
 名古屋かあの辺りにも味噌おでんがあったけどそっちの出身じゃないだろ?」
「うちはバアちゃんが味噌を作ってたからその名残だな」
「味噌まで自家製とか?!」
「俺は作らんぞ。
 まぁ、知っての通り畑で大豆を育てて豆みそだな。作るんだよ。
 八月に収穫して、味噌を作って発酵させて年明けごろから食べごろになるんだ。毎年張り切って一年分作るんだけど、どうしてもこの頃になると前年度の発酵しすぎた味噌が大量に残って、味噌おでんになるんだ。
 宮下の家とか猟友会の人達の所にも押し付けていたから、まぁ、バアちゃん自慢の味噌だな」
 そうして味噌おでん文化がここに在ると言うわけだと言う説明にへー何て言いながらも蓮司は汁をご飯にかけて食べていた。通だな。
「でもこれは良いな。思ったより食べやすい」
「〆のうどんもお薦めだ」
「半熟卵が必須だ」
 言いながらも誰もがご飯をお替りしてお釜のご飯を食べきってしまった所で昼食は終了。誰がどう見ても食べ過ぎだ。
 少しばかりの休憩を置いて作業は再開。烏骨鶏達は寒いだろうと馬小屋に移動させた。周囲も壁で囲まれているし、大好きな野菜くず(?)も盛りだくさんだ。何より雪が吹き込まない場所なので土もあるし、雑草も生えている。
 何で最初からここで烏骨鶏を飼わないのかと問われた事もあったが、烏骨鶏を飼い始めた時ここはまだ見事なゴミダメだったのだ。バアちゃんが他界して数か月の時間をかけて片づけ終わる前にまだそれなりに片付いていた倉庫の一角で烏骨鶏を育て始めて野生の動物達が侵入できない場所なだけにそこで育て始めたのが今に至る、そんな話。
「馬が居ればここで育てればよかったんだろうけどね」
「それよりお婆さん結構ゴミを溜めこんだんだな」
「まぁ、そう言う溜めこみたいお年頃なんだよ」
 そんな説明に蓮司は自分はそうならないぞと困惑を浮かべながらも自分に言い聞かせている様子を見て何やら収集癖でもあるのだろうと生暖かい目で見守る事にしていた。



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