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冬の訪れ 9
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朝目を覚ましたら白銀の世界だった。
雨戸を開けたら真っ白どころか今もじゃかじゃかと雪が降り続けていて
「通りで寒いはずだ」
寝る前は星の綺麗な夜空だったのにいつの間にだろうか。
「まあ、いつ雪が降ってもおかしくない季節だしな」
こんな山奥でも温暖化は確実に感じていたが、十二月に入った途端本格的に雪が降るあたり温暖化という言葉を疑ってしまう。
寒いこの家では一晩中ストーブの薪を燃やし続けるが、流石に火の勢いが弱まっており、ようは寒い。
土間に薪を積んでおいたのでその薪をくべれば少しの時間を置いて火が移り、ごうごうと炎を巻き上げていく様子にホッとしながら夜間に水を張ってお湯を沸かす。
それから離れにむかい、母屋よりも安全な暖炉に薪をくべて火の勢いを強くする。ロケットストーブ型の暖炉は竃オーブンと一体化するようなデザインで、煉瓦を組んで安全は考えられている。
この家のお披露目の時には暖かかったので使わなかったが、これからの季節は鍋をかけれる仕様になっているのでおでんとかが美味しいだろうなと今から楽しみにしている。
こちらの離れには水道管が通っている。凍結防止にヒーターがついているとはいえ、わずかな水滴や少し水を出していても排水管が凍りついたりするトラブルもあるし、対策として使うたびに水道管の水を抜くわけにはいかないと家の中を氷点下以下にしないようにとストーブを焚き続ける事を俺は選んだ。
薪の消費は仕方がないものの、内田さん達はそれを見越してこのロケットストーブを台所近くに設計してくれたのだ。ありがたいことに断熱材の効果から十分に暖かく、土間を見下ろす窓を開けておいたおかげで二回は暑いくらいで半袖でも大丈夫なくらいの気温になっていた。空気を循環させるファンがあれば良いのだろうが、照明器具は全て間接照明だけしか付けなかった。ファン付きの照明器具はつけれそうになかった。
ならばと業務用の扇風機ならいくらでもあるが、室内のイメージが壊れるなと手っ取り早く扇風機で空気を巡らすのだった。おかげで一階も驚くぐらい暖かくなったが、この暖かさは中毒になると慌てて母家に戻るのだった。
うん。母家は寒い。
いや、暖かいのだけど、広さの違いもあるし、断熱材がないだけでこんなにも違うのかという驚きの方が強かった。
「今まで気にした事なかったのになー」
居間の囲炉裏にも薪をくべる。温まるまでもう少し時間がかかるから今のうちに離れの冷蔵庫からかぼちゃと白菜を切って烏骨鶏ハウスに向かう。今日は正面からではなく、裏の処理場から入って二階に上がり、秋に刈り取ったススキを階段から投げ落とす。烏骨鶏達は大叫になったけど、かぼちゃを見た烏骨鶏達はすぐに別の意味で大騒ぎとなった。
「寒いからススキ足しておくなー。巣材にすると良いぞー」
木屑も先日大量にもらったので敷いたばかりでもふもふとしていたのにさらにススキも投入。朝なので卵を産みたいのか巣材を集めている様子をほっこりと見守りながら水を変えて餌も足しておく。外に出ないのと視線で訴える烏骨鶏も居たが外の真っ白な世界を見せて
「外は雪です。晴れるまで待ってください」
何て言えばすぐに寒いからか烏骨鶏は巣材とかぼちゃに夢中になるのだった。白菜の人気のないことよ。かぼちゃに満足すれば食べてもらえるから暫し待てと言って烏骨鶏ハウスを後にした。
烏骨鶏と言うか鶏を飼う条件はいくつか必要だと思う。犬猫みたいに慣れないこいつらに俺に慣れてもらうた為にはそれなりに手をかけ声をかけて餌で釣って可愛がるしかない。それができなければ逃げ回られるだけの間柄にあっという間に肉に変わっていた事だろう。そしてもう一つ。鶏を飼う上で絶対的に覚悟しなくてはいけないのは、昼夜逆転の生活はできないと言うこと。
太陽が昇るのと同時に目を覚まし、陽が沈むのと当時に就寝となる完璧な体内時計を持つ鶏に限らないだろうが、それを耐えることができなければ飼わない日向いい。烏骨鶏ハウスは冬場外に出さなくても済む様に大きめの設計になってるので放置しても良いが、今はもう撤去したかつての鶏小屋はホームセンターで売ってそうな犬小屋にネットがついているだけの大きさなのでぎゅうぎゅう詰めだった事を思い出す。冬場は土間に置いていた記憶があるが、この寒さなら記憶違いじゃないだろうと思いだすのは烏骨鶏達がきてからだ。
意外に忘れてる記憶があるなと窓の雨戸を大きく広げて登り出した太陽の光を取り込む。たとえ厚い雲に覆われたとしても朝を迎えたと言う事を烏骨鶏達に教えれば
「こーっ、こーっ、こーっ……」
烏骨鶏が卵を産もうとする声。
烏骨鶏ハウスを出ようとした足を止めて待てばすぐに鳴き止み、直ぐにぴょんといた場所から移動してかぼちゃを突き出した。ことんと置かれた少し青みを帯びた卵は持って行けと言わんばかりに鎮座してあって……
「いただきます」
可哀想とかは思わない。
今はオスメス分けているので無精卵だから温めても腐るだけだ。
始まったばかりの寒い朝。
朝からお粥を作って最後に溶き卵をサラッと流す。濃い黄身の色は餌の配合次第。濃厚なのは餌がいいからだろうと自画自賛。
囲炉裏のそばに年季の入った程よい高さの机に朝食を並べて
「いただきます」
舌の上で踊る熱々のおかゆに翻弄されながら黄金に輝く半熟の烏骨鶏の卵を啜る。
「うめぇ」
喉を通って胃袋にじんわりと広がるお粥の熱と臭みのない卵の甘味にじゅるじゅるとはしたなく音を立てながら、時折口の端から汁が溢れ出るて、手の甲で拭う。だけどレンゲで運ぶ手は止まらず啜りながら飲み込んでを繰り返す。
瞬く間になべの中は空になった。
ほうと一息つけば卵の甘さだけが余韻として残る。
「あー、今日はもう満足」
もう何もやる気も起きない満足感と幸福感。ごろりと横になって囲炉裏にあたりながらうとうととしてしまう。
だけどその前に
「すみません。本日のお約束は雪が酷いのでデータだけ送ります」
樋口さんにメッセージとデータ。それにいつの間にか吹雪だした雪景色の写真を添えて送信。暫く待たずに
「春になって道路が安全になったら会いましょう」
そんな洒落にならない返信。
必要書類はデータで十分なので合う必要もないのだろうが沢村さんがなるべく山に引きこもらせない様にバアちゃんに頼まれてるらしく、週一の会合を開いているが、流石のこの雪の振り方に沢村さんも今日は中止ですねと苦笑してくれた。
冬は始まったばかり。
一晩で1メートル越えも普通にあるこの地域ではパウダースノーでカマクラどころか雪だるまも作れないけど、朝から雪見で一杯と言う楽しみを早速堪能することにした。
雨戸を開けたら真っ白どころか今もじゃかじゃかと雪が降り続けていて
「通りで寒いはずだ」
寝る前は星の綺麗な夜空だったのにいつの間にだろうか。
「まあ、いつ雪が降ってもおかしくない季節だしな」
こんな山奥でも温暖化は確実に感じていたが、十二月に入った途端本格的に雪が降るあたり温暖化という言葉を疑ってしまう。
寒いこの家では一晩中ストーブの薪を燃やし続けるが、流石に火の勢いが弱まっており、ようは寒い。
土間に薪を積んでおいたのでその薪をくべれば少しの時間を置いて火が移り、ごうごうと炎を巻き上げていく様子にホッとしながら夜間に水を張ってお湯を沸かす。
それから離れにむかい、母屋よりも安全な暖炉に薪をくべて火の勢いを強くする。ロケットストーブ型の暖炉は竃オーブンと一体化するようなデザインで、煉瓦を組んで安全は考えられている。
この家のお披露目の時には暖かかったので使わなかったが、これからの季節は鍋をかけれる仕様になっているのでおでんとかが美味しいだろうなと今から楽しみにしている。
こちらの離れには水道管が通っている。凍結防止にヒーターがついているとはいえ、わずかな水滴や少し水を出していても排水管が凍りついたりするトラブルもあるし、対策として使うたびに水道管の水を抜くわけにはいかないと家の中を氷点下以下にしないようにとストーブを焚き続ける事を俺は選んだ。
薪の消費は仕方がないものの、内田さん達はそれを見越してこのロケットストーブを台所近くに設計してくれたのだ。ありがたいことに断熱材の効果から十分に暖かく、土間を見下ろす窓を開けておいたおかげで二回は暑いくらいで半袖でも大丈夫なくらいの気温になっていた。空気を循環させるファンがあれば良いのだろうが、照明器具は全て間接照明だけしか付けなかった。ファン付きの照明器具はつけれそうになかった。
ならばと業務用の扇風機ならいくらでもあるが、室内のイメージが壊れるなと手っ取り早く扇風機で空気を巡らすのだった。おかげで一階も驚くぐらい暖かくなったが、この暖かさは中毒になると慌てて母家に戻るのだった。
うん。母家は寒い。
いや、暖かいのだけど、広さの違いもあるし、断熱材がないだけでこんなにも違うのかという驚きの方が強かった。
「今まで気にした事なかったのになー」
居間の囲炉裏にも薪をくべる。温まるまでもう少し時間がかかるから今のうちに離れの冷蔵庫からかぼちゃと白菜を切って烏骨鶏ハウスに向かう。今日は正面からではなく、裏の処理場から入って二階に上がり、秋に刈り取ったススキを階段から投げ落とす。烏骨鶏達は大叫になったけど、かぼちゃを見た烏骨鶏達はすぐに別の意味で大騒ぎとなった。
「寒いからススキ足しておくなー。巣材にすると良いぞー」
木屑も先日大量にもらったので敷いたばかりでもふもふとしていたのにさらにススキも投入。朝なので卵を産みたいのか巣材を集めている様子をほっこりと見守りながら水を変えて餌も足しておく。外に出ないのと視線で訴える烏骨鶏も居たが外の真っ白な世界を見せて
「外は雪です。晴れるまで待ってください」
何て言えばすぐに寒いからか烏骨鶏は巣材とかぼちゃに夢中になるのだった。白菜の人気のないことよ。かぼちゃに満足すれば食べてもらえるから暫し待てと言って烏骨鶏ハウスを後にした。
烏骨鶏と言うか鶏を飼う条件はいくつか必要だと思う。犬猫みたいに慣れないこいつらに俺に慣れてもらうた為にはそれなりに手をかけ声をかけて餌で釣って可愛がるしかない。それができなければ逃げ回られるだけの間柄にあっという間に肉に変わっていた事だろう。そしてもう一つ。鶏を飼う上で絶対的に覚悟しなくてはいけないのは、昼夜逆転の生活はできないと言うこと。
太陽が昇るのと同時に目を覚まし、陽が沈むのと当時に就寝となる完璧な体内時計を持つ鶏に限らないだろうが、それを耐えることができなければ飼わない日向いい。烏骨鶏ハウスは冬場外に出さなくても済む様に大きめの設計になってるので放置しても良いが、今はもう撤去したかつての鶏小屋はホームセンターで売ってそうな犬小屋にネットがついているだけの大きさなのでぎゅうぎゅう詰めだった事を思い出す。冬場は土間に置いていた記憶があるが、この寒さなら記憶違いじゃないだろうと思いだすのは烏骨鶏達がきてからだ。
意外に忘れてる記憶があるなと窓の雨戸を大きく広げて登り出した太陽の光を取り込む。たとえ厚い雲に覆われたとしても朝を迎えたと言う事を烏骨鶏達に教えれば
「こーっ、こーっ、こーっ……」
烏骨鶏が卵を産もうとする声。
烏骨鶏ハウスを出ようとした足を止めて待てばすぐに鳴き止み、直ぐにぴょんといた場所から移動してかぼちゃを突き出した。ことんと置かれた少し青みを帯びた卵は持って行けと言わんばかりに鎮座してあって……
「いただきます」
可哀想とかは思わない。
今はオスメス分けているので無精卵だから温めても腐るだけだ。
始まったばかりの寒い朝。
朝からお粥を作って最後に溶き卵をサラッと流す。濃い黄身の色は餌の配合次第。濃厚なのは餌がいいからだろうと自画自賛。
囲炉裏のそばに年季の入った程よい高さの机に朝食を並べて
「いただきます」
舌の上で踊る熱々のおかゆに翻弄されながら黄金に輝く半熟の烏骨鶏の卵を啜る。
「うめぇ」
喉を通って胃袋にじんわりと広がるお粥の熱と臭みのない卵の甘味にじゅるじゅるとはしたなく音を立てながら、時折口の端から汁が溢れ出るて、手の甲で拭う。だけどレンゲで運ぶ手は止まらず啜りながら飲み込んでを繰り返す。
瞬く間になべの中は空になった。
ほうと一息つけば卵の甘さだけが余韻として残る。
「あー、今日はもう満足」
もう何もやる気も起きない満足感と幸福感。ごろりと横になって囲炉裏にあたりながらうとうととしてしまう。
だけどその前に
「すみません。本日のお約束は雪が酷いのでデータだけ送ります」
樋口さんにメッセージとデータ。それにいつの間にか吹雪だした雪景色の写真を添えて送信。暫く待たずに
「春になって道路が安全になったら会いましょう」
そんな洒落にならない返信。
必要書類はデータで十分なので合う必要もないのだろうが沢村さんがなるべく山に引きこもらせない様にバアちゃんに頼まれてるらしく、週一の会合を開いているが、流石のこの雪の振り方に沢村さんも今日は中止ですねと苦笑してくれた。
冬は始まったばかり。
一晩で1メートル越えも普通にあるこの地域ではパウダースノーでカマクラどころか雪だるまも作れないけど、朝から雪見で一杯と言う楽しみを早速堪能することにした。
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