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まずは一歩 3
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生活サイクルは夏休み前辺りから変化があったがやっとというべきか通常に戻りかかっていた。
死ぬほど頭を使ってトドメと言わんばかりにめんどくさい先生のお世話をして、自堕落の極地へと引き摺り込まれる所詮お前はこの程度だと言わんばかりの究極のダメ人間を味わせてくれる。
「メリハリがあっていいじゃないか」
言ったのは宮下だったか。月曜から木曜日のインターバル、その中に飯田さんと言うご褒美イベントもある。結構いい生活だと言うことを思い出して囲炉裏に置いた五徳の上で焼かれている牛肉に舌鼓を打つ。
美味い肉は塩で十分じゃん。
だけど俺はとれたてのワサビをすりおろしたワサビ醤油を選ぶ。このツーンと加減が殺戮的だ。悶えながらビールを飲む目の前でも同様に先生も床の上で悶えていた。
「これはよく効くなあ。
最初はマイルドだと思っていたのに鼻からツーンと抜けていく辛み。チューブのワサビ使えなくなる」
「ワサビの皮を剥かずにすると良いと聞いたから実践しただけなんだけどね。飯田のお父さんから聞いたんだ」
そしてもう一切れワサビ醤油で食べて
「飯田さんは当然の顔でいつもワサビの皮を剥かずに出してましたよってしれっとした顔で言うんですよ」
「シェフの奴確信犯だな。
ワサビの皮を剥くか剥かないかで味が変わる事を知っていたんだろうな。それでシェフの飯美味しい!シェフはやはり一味違うってチヤホヤされたいんだろう」
「飯田さんがチヤホヤされて喜ぶって言うのは想像できないけど、ほんのちょっとの些細なコツを知ってるかどうかでご飯の進み具合が変わるからね」
「くそっ、なんで今日はこんなにも白米が進むんだ……」
「ご飯が美味しいっていい事じゃん」
「この生姜味噌だけでご飯一杯いけるなんて詐欺だ」
「アクセントに炒って刻んだ栗を入れてみたんだけど、やっぱりクルミの方が良かった」
「この間の素揚げの栗がもう一度食べたい」
「だったら明日拾いに行ってくださいよ」
さも当然と言うもあっさりと天気次第だなと断られてしまった。当然だ。と言うか本当に取りに行くんだと言う方に関心をした。
ここは雨が降れば長袖が欲しいと思うくらいに夏でも寒い。しかも九月に入ればしっかりと寒さを覚える。多少の雨に濡れるのを楽しむ季節はもう終わったのだ。これからは雨に濡れれば低体温症との勝負の季節。風邪をひいたと同時に一気に肺炎へ命懸けだ。昔血筋だけの従兄弟が雨の中遊んだ後に病院に担ぎ込まれて行ったのを見送った覚えがあるから間違いない。俺は雨だからと二階の縁側で宿題やってたから馬鹿と一緒にされなかったけど、それが今では自衛隊に入って立派な脳筋になっていた。多少の雨でも大丈夫。健康になったじゃないかと感心しておく。
「栗もいいが銀杏を食いたい」
「銀杏の木が必要ですねー。雄株と雌株が必要ですねー。後臭いから植えるなら家から離れた所に植えたいですねー。葉っぱの掃除が面倒だからしなくてもいい場所に植えたいですねー」
だったら銀杏買えば十分じゃないかとの俺の中で出された結果だが
「タダでザルほど食えるものほど美味いものは無いじゃないか。木のメンテナンスぐらい先生頑張るよー?」
「当然でしょ?落ち葉や枯れ草とか木の下に集めて肥料がわりにして下さいよ」
「化学肥料を使わない健康的な土作り。素晴らしい」
化学肥料を買いに行くのもめんど臭いし車に肥料の匂いがつくのも臭いしね。軽トラで買いに行った時もあるけど体に臭いが移るんだよ。滅入りながらの帰宅の時間が一番苦痛となるのでその日は美味しいものをしこたま買ってテンションを上げるのだが……
嫌気がさしてガソリン代と思ってネットで山ほど購入。置き場はたくさんある我が家なので未だに山を築いている肥料は今も健在だ。誰だよめんどくさがって五十袋買うバカは。草しか生えんと言ったのは宮下だ。その通り過ぎて涙が出てきた……
ネットで調べて有機石灰と牛糞堆肥を購入。その後宮下のおじさんに馬糞でよければ馬を飼ってるやつを紹介したのにと言ってくれた。本当にありがたい申し出だけど、やっぱり東京生まれの東京育ち。何が違うとは言えないもののやっぱり商品として売られているものとフレッシュで水分抜いて発酵したものがトラックの荷台で山になって、途中曲がり角とかでボトボト落としながらやってくると言う光景はなかなかにして堪えることができない。
農家の皆さん本当にごめんなさい。所詮は趣味の農家なのでガチ勢のようにはなれません。
ごめんなさいと誰に言うわけでもなく心の中で謝ってしまうが所詮俺一人食べていく程度の畑にはあまりにも購入した肥料が多すぎたのだ。今も思い出せる宅配便の涙目の無言の訴え。彼が来るたびに出来た野菜を分けるようにしているが今も話題は「あの肥料使い切りました?」だ。かなりの根深いトラウマを植え付けてしまったようだ。
それはさておき
「この間下の畑に圭斗と陸斗を連れて行ってきたんだけどさ」
「病み上がりの時か。ったく、お前はほんとじっとしてないな」
「使える時間は決まっているからね」
牛タンをジュワーっと焼いた物にレモンをキュッと絞りパラパラと岩塩をかける。夏前に作った塩レモンがなくなったのでこれで代用。ネギ塩だとあっさりしすぎるからと工夫を凝らした俺を見かねて飯田さんが作ってくれたものが第一号だ。オリーブオイルと合わせて黒胡椒を混ぜればレモンドレッシングになりますよとお手軽ドレッシングの作り方を教えてもらった。悔しい事にトマトとの相性が抜群でレタスも山ほど食べることができた。何よりも飯田さんが作るマヨネーズはお酢の代わりにレモン塩を入れるのだ。美味しかったなと、面倒だったら市販のマヨネーズにスプーンいっぱい足すだけでも十分ですよと教えてもらって、俺はそれで楽しむ事にしている。
「所で下の畑ってアレだろ?元蕎麦畑だったか?」
「先生に話したことあったっけ?」
「問題児の家への家庭訪問の時にいろいろ聞かされただけだよ」
「ふーん。先生って職業も大変だね」
滅多に人の来ないこの家ではそれはさぞ歓迎されただろうと同情をしておく。と言うか何を話していたか気になるが聞かない方がいいだろう。絶対泣くと、バアちゃんの思い出はまだまだ濃ゆいままなのだ。
「で、下の畑がどうしたんだ?」
もしゃもしゃとシシトウを齧ってビールを煽りはーっと酒精を吐き出す。立派なおっさんだなと微笑ましく俺はこんなおっさんにはならないぞと眺めながら
「蕎麦畑の奥に柿とか八朔とかの木があってさ、そこの金柑の木を一本あいつん家に移植したんだ」
「この季節に?」
「まあ、ここより暖かいから大丈夫だろうと思って」
「適当だなあ」
「ダメだったら春にもう一度移植するよ」
「それよりも柿か。干し柿作るのか?バアさんの干し柿は美味かったぞ」
茶菓子で干し柿は渋い。だけど俺はガリガリの甘柿が食べたいと思う。オーブンで焼いてほじくって食べるのも良い。手入れをしてない柿の具合はどうだかと思いながらも猿も見向きしない柿の木を明日見に行って来ると先生に言えば
「俺も付いて行く」
「栗はどうするんだ?」
「来年までお預けだ」
気の長い話だと呆れるが
「この間獣道作っただけだから来ても雑草しかないよ」
「そんなもの草刈り部隊を用意すればいい」
言いながらスマホを取り出し
「おう、水野か」
『先生っすか?いきなりどうしたんです?』
スピーカーからこぼれ落ちた声に耳を傾けていれば
「綾人の所の放置畑の草刈りしたいと思わないか?」
『バイト代出ます?』
先生は出せるかと言う問いに
「バイト代出してもいい仕事をするのなら」
向けられたスマホに向かって言えば
『やります!あと上島も誘って良いですか?』
バイトで稼ぎたい二人の食いつきは半端ない。
「誘って来るのなら。ナイロン上下とゴーグル必須な。後粉塵マスクがあればなお良い」
昼飯ぐらいは食わせてやると言えば後で上島と相談してまた連絡します!俺は参加でお願いします!ともの凄い勢いで連絡が回り、何故か上島弟と植田まで来る事になってお前ら仲良しだなと先生と苦笑するのだった。
------------ーーーー
あけましておめでとうございます。
今年ものんびりでよろしくお願いします。
死ぬほど頭を使ってトドメと言わんばかりにめんどくさい先生のお世話をして、自堕落の極地へと引き摺り込まれる所詮お前はこの程度だと言わんばかりの究極のダメ人間を味わせてくれる。
「メリハリがあっていいじゃないか」
言ったのは宮下だったか。月曜から木曜日のインターバル、その中に飯田さんと言うご褒美イベントもある。結構いい生活だと言うことを思い出して囲炉裏に置いた五徳の上で焼かれている牛肉に舌鼓を打つ。
美味い肉は塩で十分じゃん。
だけど俺はとれたてのワサビをすりおろしたワサビ醤油を選ぶ。このツーンと加減が殺戮的だ。悶えながらビールを飲む目の前でも同様に先生も床の上で悶えていた。
「これはよく効くなあ。
最初はマイルドだと思っていたのに鼻からツーンと抜けていく辛み。チューブのワサビ使えなくなる」
「ワサビの皮を剥かずにすると良いと聞いたから実践しただけなんだけどね。飯田のお父さんから聞いたんだ」
そしてもう一切れワサビ醤油で食べて
「飯田さんは当然の顔でいつもワサビの皮を剥かずに出してましたよってしれっとした顔で言うんですよ」
「シェフの奴確信犯だな。
ワサビの皮を剥くか剥かないかで味が変わる事を知っていたんだろうな。それでシェフの飯美味しい!シェフはやはり一味違うってチヤホヤされたいんだろう」
「飯田さんがチヤホヤされて喜ぶって言うのは想像できないけど、ほんのちょっとの些細なコツを知ってるかどうかでご飯の進み具合が変わるからね」
「くそっ、なんで今日はこんなにも白米が進むんだ……」
「ご飯が美味しいっていい事じゃん」
「この生姜味噌だけでご飯一杯いけるなんて詐欺だ」
「アクセントに炒って刻んだ栗を入れてみたんだけど、やっぱりクルミの方が良かった」
「この間の素揚げの栗がもう一度食べたい」
「だったら明日拾いに行ってくださいよ」
さも当然と言うもあっさりと天気次第だなと断られてしまった。当然だ。と言うか本当に取りに行くんだと言う方に関心をした。
ここは雨が降れば長袖が欲しいと思うくらいに夏でも寒い。しかも九月に入ればしっかりと寒さを覚える。多少の雨に濡れるのを楽しむ季節はもう終わったのだ。これからは雨に濡れれば低体温症との勝負の季節。風邪をひいたと同時に一気に肺炎へ命懸けだ。昔血筋だけの従兄弟が雨の中遊んだ後に病院に担ぎ込まれて行ったのを見送った覚えがあるから間違いない。俺は雨だからと二階の縁側で宿題やってたから馬鹿と一緒にされなかったけど、それが今では自衛隊に入って立派な脳筋になっていた。多少の雨でも大丈夫。健康になったじゃないかと感心しておく。
「栗もいいが銀杏を食いたい」
「銀杏の木が必要ですねー。雄株と雌株が必要ですねー。後臭いから植えるなら家から離れた所に植えたいですねー。葉っぱの掃除が面倒だからしなくてもいい場所に植えたいですねー」
だったら銀杏買えば十分じゃないかとの俺の中で出された結果だが
「タダでザルほど食えるものほど美味いものは無いじゃないか。木のメンテナンスぐらい先生頑張るよー?」
「当然でしょ?落ち葉や枯れ草とか木の下に集めて肥料がわりにして下さいよ」
「化学肥料を使わない健康的な土作り。素晴らしい」
化学肥料を買いに行くのもめんど臭いし車に肥料の匂いがつくのも臭いしね。軽トラで買いに行った時もあるけど体に臭いが移るんだよ。滅入りながらの帰宅の時間が一番苦痛となるのでその日は美味しいものをしこたま買ってテンションを上げるのだが……
嫌気がさしてガソリン代と思ってネットで山ほど購入。置き場はたくさんある我が家なので未だに山を築いている肥料は今も健在だ。誰だよめんどくさがって五十袋買うバカは。草しか生えんと言ったのは宮下だ。その通り過ぎて涙が出てきた……
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農家の皆さん本当にごめんなさい。所詮は趣味の農家なのでガチ勢のようにはなれません。
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「この間下の畑に圭斗と陸斗を連れて行ってきたんだけどさ」
「病み上がりの時か。ったく、お前はほんとじっとしてないな」
「使える時間は決まっているからね」
牛タンをジュワーっと焼いた物にレモンをキュッと絞りパラパラと岩塩をかける。夏前に作った塩レモンがなくなったのでこれで代用。ネギ塩だとあっさりしすぎるからと工夫を凝らした俺を見かねて飯田さんが作ってくれたものが第一号だ。オリーブオイルと合わせて黒胡椒を混ぜればレモンドレッシングになりますよとお手軽ドレッシングの作り方を教えてもらった。悔しい事にトマトとの相性が抜群でレタスも山ほど食べることができた。何よりも飯田さんが作るマヨネーズはお酢の代わりにレモン塩を入れるのだ。美味しかったなと、面倒だったら市販のマヨネーズにスプーンいっぱい足すだけでも十分ですよと教えてもらって、俺はそれで楽しむ事にしている。
「所で下の畑ってアレだろ?元蕎麦畑だったか?」
「先生に話したことあったっけ?」
「問題児の家への家庭訪問の時にいろいろ聞かされただけだよ」
「ふーん。先生って職業も大変だね」
滅多に人の来ないこの家ではそれはさぞ歓迎されただろうと同情をしておく。と言うか何を話していたか気になるが聞かない方がいいだろう。絶対泣くと、バアちゃんの思い出はまだまだ濃ゆいままなのだ。
「で、下の畑がどうしたんだ?」
もしゃもしゃとシシトウを齧ってビールを煽りはーっと酒精を吐き出す。立派なおっさんだなと微笑ましく俺はこんなおっさんにはならないぞと眺めながら
「蕎麦畑の奥に柿とか八朔とかの木があってさ、そこの金柑の木を一本あいつん家に移植したんだ」
「この季節に?」
「まあ、ここより暖かいから大丈夫だろうと思って」
「適当だなあ」
「ダメだったら春にもう一度移植するよ」
「それよりも柿か。干し柿作るのか?バアさんの干し柿は美味かったぞ」
茶菓子で干し柿は渋い。だけど俺はガリガリの甘柿が食べたいと思う。オーブンで焼いてほじくって食べるのも良い。手入れをしてない柿の具合はどうだかと思いながらも猿も見向きしない柿の木を明日見に行って来ると先生に言えば
「俺も付いて行く」
「栗はどうするんだ?」
「来年までお預けだ」
気の長い話だと呆れるが
「この間獣道作っただけだから来ても雑草しかないよ」
「そんなもの草刈り部隊を用意すればいい」
言いながらスマホを取り出し
「おう、水野か」
『先生っすか?いきなりどうしたんです?』
スピーカーからこぼれ落ちた声に耳を傾けていれば
「綾人の所の放置畑の草刈りしたいと思わないか?」
『バイト代出ます?』
先生は出せるかと言う問いに
「バイト代出してもいい仕事をするのなら」
向けられたスマホに向かって言えば
『やります!あと上島も誘って良いですか?』
バイトで稼ぎたい二人の食いつきは半端ない。
「誘って来るのなら。ナイロン上下とゴーグル必須な。後粉塵マスクがあればなお良い」
昼飯ぐらいは食わせてやると言えば後で上島と相談してまた連絡します!俺は参加でお願いします!ともの凄い勢いで連絡が回り、何故か上島弟と植田まで来る事になってお前ら仲良しだなと先生と苦笑するのだった。
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あけましておめでとうございます。
今年ものんびりでよろしくお願いします。
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