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決意は口に出さずに原動力に変えて 9
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楽しい時間はお母さんが酔い潰れたところでお開きとなった。量は大して飲んでない。二合ほど呑んで、うとうととなってしまったのだ。
「あまり呑めないのに頑張るから」
飯田さんは呆れていたもののあなた達は俺達の影で既に一升飲み干してるのですからね。二合なら女の人では少し少ないかもしれないけど標準だから。お母様が一般的な感覚を身につけていてほんと良かったですと言いたいね!
「薫手伝ってやんなさい」
「全くもう……母さん起きて」
「むーりー……」
「むりじゃなくて、ほら」
言いながらお母様をお姫様抱っこ……
なんか夢見てるのかな俺?
失礼ながらもお母様を身長から標準的な体重を想定すると五十キロほど。それをひょいと抱え上げて、お姫様抱っこからに縦抱き。
なんて言うか身長だからあまり気にした事がないけどあの筋肉のつき方から実用的な筋肉とは思ってはいたが……
それはお姫様抱っこではなくて俵抱きと言うものでは?
「落ちないようにしっかり捕まっててよ」
「それはどうかな~?」
なかなか捨て身の挑発。だけど安定した足取りで台所隣の部屋へと運んでお母様を下ろしたところで戻ってきた飯田さんは
「母がすみません。飲むとああなんです」
「ええ、まさか一見酔っているように見えなくて話上戸というか……」
「父も逃げ出す絡み酒で」
「お前とて逃げただろう。同罪だ」
既に二本目の一升瓶が空になろうとしているのでざるざると呑まないようにとっておきの一本を持ってくる。
獺●。
もちろん貰い物だ。キリッ!
しかしその瞬間二人の目がきらりと光ったのを見て、俺は失敗を悟った。もう好きにしてください。
そのまま二人はくいっと煽っては無言のまま唸って、またくいっとぐい呑みを傾ける。
言葉を交わさず、だけど二人仲良く分け合う様子にこれも一つの会話だろうかと思う事にする。と言うか俺のとっておきは既に三分の一ほど消えていた。ザルの本領発揮?!しっかりと味わってよと心の中で叫びながら
「俺も飲むー!」
きっと酔っていたのだろう。半泣きになって飯田さんに恵んでくださいなんて言っているあたり絶対酔ってるのだろう。
「はい。遠慮しないで言ってくださいね」
何故かまるで飯田さんの物のようなやり取りに話しかけるのも正座して三つ指ついてお伺いしなくてはいけない空気を醸し出していたお父さんがからからと笑っていた。
「私は満足したから寝るぞ。後は綾人が呑みなさい」
「お父さんありがとー!おやすみなさーい!」
「綾人も早く寝ないと薫みたいになるぞー」
「やだー」
「綾人さんそれは酷い!」
ショックを受けた顔を見てケラケラ笑う俺を置いてお父さんも台所横の部屋へと篭ってしまった。
途端に静かになってしまった室内に俺と飯田さんは静かに酒を酌み交わして妙に冷静になってしまって気が付いた。嬉しそうな口元で酒を飲む飯田さんはすごくご機嫌だ。
「なんか楽しそうですね?」
「はい。今度のお披露目の時のメニューもですが綾人さんが父と母をお父さん、お母さんと呼んでくれて」
「は?そんな風に呼んでないって!」
さすがにそんな失礼なことは言いませんと言うも否定せずニヤニヤ笑うからお酒の力を借りて顔を赤くして恥ずかしがってしまえば
「弟がもう一人か。かわいいなあ」
兄弟には憧れたけどこんな兄貴は嫌だと聞かなかったふりをしておく。
「所で随分と元気になられたみたいですが、その原動力は何かとお聞きしましても?」
「教えなーい」
くふふと笑いながらチェイサーではないが水を飲む。
口当たりのまろい甘さを覚えるようなこの水は山水だろう。普段から注意して飲まないようにしているのにと、十分飲用してもいい水だけど、アレを見て以来敬遠しているだけで全くもって問題ないのだが遠慮してしまう水の冷たさが心地よくてぐびぐびと飲んでしまう。
グラスを置いた俺は少しだけ冴えた頭で
「だけど何かしよう。何かしたい。そんな思いが止まらなくって。こんな所で立ち止まってるのはもう飽きたって思ったと言うかなんと言うか」
柔らかな視線が先を促す。思った事を全部言えと。
もう後には引き返してやらないと言わんばかりに言質を取ろうとする無言の要求に俺はまだ形にならない言葉を探すように抽象的な事を並べる。
如何に思いが彷徨っている事を。
如何にあの時見たあれを情熱というのなら、俺も手を伸ばして手に入れたいと切々と訴える。
素面なら絶対恥ずかしくって言えない事を酒の勢いを借りて走り出した言葉達にゆっくりと丁寧に頷きながら黙って最後まで聞いてくれた飯田さんは最後に笑って言う。
「俺にも覚えがあります。このまま単に家を継ぐ事が本当にいいのかと。
もっと別の何かがあるのではと思って青山の所に行って探して出会ったのはやっぱり料理で。確かめる為にもフランスに行ってきましたが、確かめるまでもなくどんどんのめり込んで行って、フランス料理しか見えなくなった頃、青山にここに連れてこられて、また和食の良さも思い出しました。
知ってます?フランス料理はレストランなどで食べる華やかな高級料理な面ばかりを見られがちですが、本来はその土地に根付いた郷土料理なのです」
舌を湿らすようにぐい呑みを傾けて
「煮物と同じくゆっくりと時間をかけてじっくりと味に深みを加えて。雑味が入らないように丁寧に見守り、粗野になりがちな部分は綺麗に皿にもる事で美しく仕上げて。
礼儀と作法を守って堅苦しくてもその場の空気ごと美味しく召し上がれるように料理人側にも秩序を求められて。
賞を貰ったのにフランスで培ってきた技術や知識は系統が変わっただけで結局のところ既に父に仕込まれたものばかりだった事をここで思い出しました」
ゆっくりと息を吐き出しながらはにかむように笑い
「随分と遠回りしてきました俺が言うのもなんですが、綾人さんは俺みたいに時間を無駄にする事なく向かい合おうとしてます。まだ目的のものは見つかってないようですが、きっとお婆さま達から既に道を示してもらっているはずです。そう言う子になってほしいと願われて育てていただいたはずなので、大丈夫です。きっと気づいてないだけで見つかりますよ。綾人さんが望む未来を」
経験者の言葉ほど響く音はないと言うように言葉に出したい何かが揺すぶられてじっとしていられないと駆け出したいのに言いたい事を言った飯田さんはすくっと立ち上がり
「情けない俺の恥ずかしい話もしたしお酒も無くなった所で寝ましょうか」
いつのまにかとっておきの獺●が空っぽになっていた。まだ一口二口しか飲んでないと言うのにと言うか、いつの間にと言う衝撃の方が大きくて一気になだらかな気持ちになってしまった。
「綾人さんはどうします?」
「うん。俺も寝るよ」
「ではおやすみなさい」
珍しく饒舌な飯田さんはまるで逃げるかのように襖を閉めて寝ようとする姿を見送った俺は囲炉裏から炭を炭鉢に入れて蓋をして空気を遮断した後、後片付けは起きてからと言うように部屋の隅に置かれた机の上に食器を置いて簡単に片付ける。部屋に戻るも頭が冴えて眠気が来ない。
それよりも最後に飯田さんが言ったことは本当は誰よりも俺がわかっている。だって俺が誰よりもジイちゃんとバアちゃんの愛情を受け取ってきたのだから。
ただ二人のようにはなれないと怖気付いているただのチキンで。
そんな俺ができるのだろうかと怯えるも、もうここで足踏みするのはやめたと決めたばかり。
情報収集は得意だ。
パソコンを全部立ち上げてほしい情報をかき集める。
何がやりたいのかわからないのなら全部やってしまえばいい。
飯田さんだって十年以上の時間をかけたのだからすぐに納得できる答えが見つかるわけがない。だったら納得できるようにら何かを全部かき集めておけば自ずと答えは見えてくる。
たとえ迷走しようが俺には道を示してくれたジイちゃんとバアちゃんがいる。
二人がなにを願ったのかなんて知るわけもないけど……
もう何もしないでただ日々を生きるだけに過ごすのはもう終わりだ。
俺だけの決意は俺の内だけに秘めて次々に変わりゆく情勢を移すかのようなパソコンのモニターの光の嵐に、酔っ払っていた俺はゴミ箱に向かって盛大にゲロるのだった。
「あまり呑めないのに頑張るから」
飯田さんは呆れていたもののあなた達は俺達の影で既に一升飲み干してるのですからね。二合なら女の人では少し少ないかもしれないけど標準だから。お母様が一般的な感覚を身につけていてほんと良かったですと言いたいね!
「薫手伝ってやんなさい」
「全くもう……母さん起きて」
「むーりー……」
「むりじゃなくて、ほら」
言いながらお母様をお姫様抱っこ……
なんか夢見てるのかな俺?
失礼ながらもお母様を身長から標準的な体重を想定すると五十キロほど。それをひょいと抱え上げて、お姫様抱っこからに縦抱き。
なんて言うか身長だからあまり気にした事がないけどあの筋肉のつき方から実用的な筋肉とは思ってはいたが……
それはお姫様抱っこではなくて俵抱きと言うものでは?
「落ちないようにしっかり捕まっててよ」
「それはどうかな~?」
なかなか捨て身の挑発。だけど安定した足取りで台所隣の部屋へと運んでお母様を下ろしたところで戻ってきた飯田さんは
「母がすみません。飲むとああなんです」
「ええ、まさか一見酔っているように見えなくて話上戸というか……」
「父も逃げ出す絡み酒で」
「お前とて逃げただろう。同罪だ」
既に二本目の一升瓶が空になろうとしているのでざるざると呑まないようにとっておきの一本を持ってくる。
獺●。
もちろん貰い物だ。キリッ!
しかしその瞬間二人の目がきらりと光ったのを見て、俺は失敗を悟った。もう好きにしてください。
そのまま二人はくいっと煽っては無言のまま唸って、またくいっとぐい呑みを傾ける。
言葉を交わさず、だけど二人仲良く分け合う様子にこれも一つの会話だろうかと思う事にする。と言うか俺のとっておきは既に三分の一ほど消えていた。ザルの本領発揮?!しっかりと味わってよと心の中で叫びながら
「俺も飲むー!」
きっと酔っていたのだろう。半泣きになって飯田さんに恵んでくださいなんて言っているあたり絶対酔ってるのだろう。
「はい。遠慮しないで言ってくださいね」
何故かまるで飯田さんの物のようなやり取りに話しかけるのも正座して三つ指ついてお伺いしなくてはいけない空気を醸し出していたお父さんがからからと笑っていた。
「私は満足したから寝るぞ。後は綾人が呑みなさい」
「お父さんありがとー!おやすみなさーい!」
「綾人も早く寝ないと薫みたいになるぞー」
「やだー」
「綾人さんそれは酷い!」
ショックを受けた顔を見てケラケラ笑う俺を置いてお父さんも台所横の部屋へと篭ってしまった。
途端に静かになってしまった室内に俺と飯田さんは静かに酒を酌み交わして妙に冷静になってしまって気が付いた。嬉しそうな口元で酒を飲む飯田さんはすごくご機嫌だ。
「なんか楽しそうですね?」
「はい。今度のお披露目の時のメニューもですが綾人さんが父と母をお父さん、お母さんと呼んでくれて」
「は?そんな風に呼んでないって!」
さすがにそんな失礼なことは言いませんと言うも否定せずニヤニヤ笑うからお酒の力を借りて顔を赤くして恥ずかしがってしまえば
「弟がもう一人か。かわいいなあ」
兄弟には憧れたけどこんな兄貴は嫌だと聞かなかったふりをしておく。
「所で随分と元気になられたみたいですが、その原動力は何かとお聞きしましても?」
「教えなーい」
くふふと笑いながらチェイサーではないが水を飲む。
口当たりのまろい甘さを覚えるようなこの水は山水だろう。普段から注意して飲まないようにしているのにと、十分飲用してもいい水だけど、アレを見て以来敬遠しているだけで全くもって問題ないのだが遠慮してしまう水の冷たさが心地よくてぐびぐびと飲んでしまう。
グラスを置いた俺は少しだけ冴えた頭で
「だけど何かしよう。何かしたい。そんな思いが止まらなくって。こんな所で立ち止まってるのはもう飽きたって思ったと言うかなんと言うか」
柔らかな視線が先を促す。思った事を全部言えと。
もう後には引き返してやらないと言わんばかりに言質を取ろうとする無言の要求に俺はまだ形にならない言葉を探すように抽象的な事を並べる。
如何に思いが彷徨っている事を。
如何にあの時見たあれを情熱というのなら、俺も手を伸ばして手に入れたいと切々と訴える。
素面なら絶対恥ずかしくって言えない事を酒の勢いを借りて走り出した言葉達にゆっくりと丁寧に頷きながら黙って最後まで聞いてくれた飯田さんは最後に笑って言う。
「俺にも覚えがあります。このまま単に家を継ぐ事が本当にいいのかと。
もっと別の何かがあるのではと思って青山の所に行って探して出会ったのはやっぱり料理で。確かめる為にもフランスに行ってきましたが、確かめるまでもなくどんどんのめり込んで行って、フランス料理しか見えなくなった頃、青山にここに連れてこられて、また和食の良さも思い出しました。
知ってます?フランス料理はレストランなどで食べる華やかな高級料理な面ばかりを見られがちですが、本来はその土地に根付いた郷土料理なのです」
舌を湿らすようにぐい呑みを傾けて
「煮物と同じくゆっくりと時間をかけてじっくりと味に深みを加えて。雑味が入らないように丁寧に見守り、粗野になりがちな部分は綺麗に皿にもる事で美しく仕上げて。
礼儀と作法を守って堅苦しくてもその場の空気ごと美味しく召し上がれるように料理人側にも秩序を求められて。
賞を貰ったのにフランスで培ってきた技術や知識は系統が変わっただけで結局のところ既に父に仕込まれたものばかりだった事をここで思い出しました」
ゆっくりと息を吐き出しながらはにかむように笑い
「随分と遠回りしてきました俺が言うのもなんですが、綾人さんは俺みたいに時間を無駄にする事なく向かい合おうとしてます。まだ目的のものは見つかってないようですが、きっとお婆さま達から既に道を示してもらっているはずです。そう言う子になってほしいと願われて育てていただいたはずなので、大丈夫です。きっと気づいてないだけで見つかりますよ。綾人さんが望む未来を」
経験者の言葉ほど響く音はないと言うように言葉に出したい何かが揺すぶられてじっとしていられないと駆け出したいのに言いたい事を言った飯田さんはすくっと立ち上がり
「情けない俺の恥ずかしい話もしたしお酒も無くなった所で寝ましょうか」
いつのまにかとっておきの獺●が空っぽになっていた。まだ一口二口しか飲んでないと言うのにと言うか、いつの間にと言う衝撃の方が大きくて一気になだらかな気持ちになってしまった。
「綾人さんはどうします?」
「うん。俺も寝るよ」
「ではおやすみなさい」
珍しく饒舌な飯田さんはまるで逃げるかのように襖を閉めて寝ようとする姿を見送った俺は囲炉裏から炭を炭鉢に入れて蓋をして空気を遮断した後、後片付けは起きてからと言うように部屋の隅に置かれた机の上に食器を置いて簡単に片付ける。部屋に戻るも頭が冴えて眠気が来ない。
それよりも最後に飯田さんが言ったことは本当は誰よりも俺がわかっている。だって俺が誰よりもジイちゃんとバアちゃんの愛情を受け取ってきたのだから。
ただ二人のようにはなれないと怖気付いているただのチキンで。
そんな俺ができるのだろうかと怯えるも、もうここで足踏みするのはやめたと決めたばかり。
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飯田さんだって十年以上の時間をかけたのだからすぐに納得できる答えが見つかるわけがない。だったら納得できるようにら何かを全部かき集めておけば自ずと答えは見えてくる。
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二人がなにを願ったのかなんて知るわけもないけど……
もう何もしないでただ日々を生きるだけに過ごすのはもう終わりだ。
俺だけの決意は俺の内だけに秘めて次々に変わりゆく情勢を移すかのようなパソコンのモニターの光の嵐に、酔っ払っていた俺はゴミ箱に向かって盛大にゲロるのだった。
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