上 下
127 / 976

焦って急いでも着地地点は結局同じ、と思ったら大間違いだ 4

しおりを挟む
「おはよー」
「うーっす」
 玄関の引き戸が開けられる重い音と共に二人の声が室内に響いた。
 返事をする前にずかずかと遠慮なく上がってきた足音は合わない物のそのまま台所に来て
「香奈ちゃんの見送りに来たよ」
「同じく顔を見に来た」
 声は宮下と綾人だった。
「ほら、先生も挨拶して」
「おう、うん。また帰って来いよ」
 ずびずびと鼻水を流して泣いていて陸斗が慌ててティッシュを持って来てくれた。
「相変わらず涙もろいんだからー」
 綾人がゴミ箱を抱えてここに捨てろと教育をするのは助かったが普段どうなってるかは……短いながら先生の家で寝泊まりしたから理解してます。あんな家に陸斗を住ませるわけにはいかない!と綾人に頼めばよーく理解している綾人はそれが良いと言ってくれてほっとしたのだった。
 あんな家ってどんな家だって?
 この地域の家は駅周辺じゃなければそれなりに庭付き駐車場付と都会では考えられないくらい広い。
 そんな中でも先生の家はわりとこじんまりとしていて一人暮らし、もしくは一家族が住むにはちょうどいい大きさだ。ほら、田舎だから三世帯四世帯あたりまえなんだよ。思わず生家の様子を思い出して六畳一間が俺達三人の部屋だった事を思いだしてしまった。当然跡取りの兄貴は八畳の部屋を独り占め。ベットもタンスもこたつまでちゃんと用意されていて、俺達はいわゆるせんべい布団でガタの付いた机を共有していただけだった。もっとも三人いつも一緒だったから寒いとかそう言った気にはならなかったが、その場所さえ奪われた陸斗の事を思いだすともう少し真面目に家に帰ればと反省はしている。
 そうそう、先生の家はと言えばコの字型の家で中庭があるのが特徴だ。
 高校の時雪が酷くて帰れなかった時先生の家に泊めてもらったけど、その時は雨戸も閉めきって、まだ引っ越したばかりで物も少なく寒々しい家だとしか覚えはなかったが、久しぶりに泊まったらそれは別の家になってたぐらい酷かった。
 唯一の救いは先生が一切自炊をしなかった事だろうか。そして最悪な理由はゴミを一切捨てないと言う所。
「一応ご近所にも悪いから俺達もたまに来て掃除はしてるんだよ?」
 宮下は言うが、そのたまにの頻度はどれぐらいだろうか。
「俺はお外専門だから」
 綾人はそう言って何もない庭を指差すのだった。
 草木も植えず、でもほんの少し申し訳なさそうに数本植わっているだけ。
 金木犀に沈丁花に躑躅。ちなみに中庭には何もなく軒先から垂らされた鎖樋の先に大きな水瓶があるだけ。
 綾人が言うには日当たりの悪い中庭なので植物を育てるには向かないから。椿ぐらいなら良いだろうが、その前に雑草対策で石を敷いたから諦めたと言う。
 嘘つけ。
 やる気が無かったくせに、と言うのは高校時代のただお祖母さんだけに心配させないように気を配ってた時代を知っているからのそれ以外一切やる気を失ってた時代を高校三年間見ていたからだ。
 まぁ、先生にはこの庭の何もないぐらいがちょうどいいかもしれないが、水瓶を覗けばそこには魚が住んでいた。
「これは……良いのか?」
 エサは?誰が世話を?
 疑問を覚えながら鮒金を見るように覗けば金魚達は瓶の底に隠れるのだった。「餌はボウフラで十分。時々餌をやりに来るが、立派に野生化しただろ」
 水替えは雨が降れば入れ替わるし、既に生態系が確立するほど放置されているのだ。今更手を入れる方が魚の命を脅かすと知らん顔を決め込む綾人とは別に
「ちゃんと俺がエサを週一であげてるよ」
 底に沈められた鉢植えから伸びたスイレンがぷかぷかと浮いているのを見てそれなりに楽しんでいるのは理解できた。
 家の周りにも石を敷き詰めて雑草はその隙間から目を伸ばした根性がある奴だけ。
「通りすがりに抜いてるからそこまでひどくないはずだよ」
と宮下は言うが
「外回りは綾人担当じゃないのか?」
「そこは臨機応変に」
 そっと視線を反らして知らん顔をするのだった。でもおかげで一応小ざっぱりとした外観は保てている。
 玄関まで植えられた沈丁花に隣庭との境に植えられた金木犀。塀の代わりに植えられた躑躅。住む前から置いてあった瓦を短く藁を刻んで土に練り込んだものを挟んでミルフィーユ状態にした塀が中庭の入り口で目隠しになっている。所々根付いた雑草が風に撫でられているものの、この枯れた感じは先生にはぴったりと言うか、これなら日差しの入らない中庭には悪くないといえようか。
 ちなみに綾人作だと言う。
 全く持ってあいつの知識とスキルは謎だと感心しながらも部屋の中を見ればこれぞ独身男の家だ……先生が作り上げた芸術だとすぐに理解できた。
 一人暮らしの二階建て。部屋は余すぎだろうと言うも夏は涼しい中庭に面した部屋を。寒い冬場は底冷えから逃げるように二階に移動。斜面に建つ家の窓からの風景は荒々しい巨大な岩が転がる川と昔の宿場町を見下ろすロケーションは時間が止まったように変わっていない。
 最も背後の室内には山ほどのプリントが積み上げられて崩さないように注意しなくてはいけない状況に窓も開けることができないが、寝る場所と食べる場所は常に宮下と綾人によって守られている。
「ほんと先生ってしょうがないよね」
 そう言って洗濯物は一室を室内乾燥の為に改造してそこに干してそこから着るというクローゼットを兼ねた部屋には一年の半分が冬のこの地域ではそれもアリだなと思う。
 どのみち冬場は外に干せないから縁側もしくは全自動乾燥機を頼らなくてはいけない。ならうちにも二階にそう言った部屋を作ってもいいかなと考える。
 暖房の暖かい空気は上へと逃げる軽さを利用して吹き抜けのそばにあるのが理想的だと、想像はいくらでも膨らむ。



「ねえ、圭ちゃんがなんか変なんだけど」
「ああ、あれか。別に気にすることはない。単なる職業病だろうから、宮下悪いけど香奈を連れて土産でも先に買ってこい。
 俺は陸斗達を見ながら先生と留守番してるから。
 圭斗はこうなったら暫く戻ってこないから放置で十分。ついでに昼飯買ってこい。はい、お昼代。
 香奈もそれぐらいの余裕はあるだろ?」
「お昼は一緒に食べるつもりで一日早く余裕持って帰るんだから大丈夫だけど……」
「圭斗なら大丈夫。今は少しそっとしておいてやれ…むしろ今は関わるな」
 不気味にも笑ったり唸ったりする兄の意外な一面を初めて見て香奈は宮下に促される様に買い物に出かけるのだった。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...