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流星雨と共に 15

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 顔を背けたのにぐいぐいと次は何時解体しますか?なんて言うちょっとヤバめな主張には家が完成したら烏骨鶏をと言う約束を取り付けて落ち着いてもらいながらや寸胴鍋に山ほどある味噌煮込みにお替りを取りに行けば
あ……
 その声は誰だったか振り向けば
「綾人さん!今すごい大きな流れ星が流れて行きました!」
 陸斗の声だったらしい。
 弾むような声はあんな大きな流れ星見た事ないと言った物。
「そろそろ見れるようになったか?」
「暗くなれれば見れるよ」
 明るくて見えなかっただけでとっくに始まってる天体ショー。ピークは真夜中だけど一時間に十数個は見えるはずだ。
「いつも思いますが、ほんとここは星が多いですね」
 いつの間にか日本酒を持ち出して来た飯田さんは小さなアルミの鍋にお湯を張って徳利を沈めていた物をおちょこに注いで舐めるように飲んでいた。
 俺はまだ味噌煮の方が魅力的だからビール片手に肉にかぶりついていたけど、飯田さんはお皿の上に置いて箸で解しながら食べるその様子に大人だなと感心してしまった。
「あまりに星が多すぎて星座図鑑が役に立たなかったけどな」
 子供の頃学校で借りた星座図鑑を持ってこのバアちゃんの家に遊びに来た事を思い出す。
 襲い来るような漆黒の闇の中で降りそそがんばかりの数の星。初めて見る流れ星は儚い物ではなく線を描くような、願いを三回唱えるくらいの力強さを残して行く。塵となって消えゆく存在なのに心に強く、そして夢のように美しく今も感動として住み着いたのをきっかけに星の魅力に取りつかれるのだった。だけど実際はあまりの星の多さに星座図鑑では星の数が手抜き過ぎて見付けられないと言う事態。従兄弟達とああだこうだ言いながらやっとの思いで北斗七星を見つけたのだった。小学校で誰もが学ぶ星座を こんなにも必死になって探す事になるとは思わなく、それが切っ掛けで俺は天体と言う物に酷く嵌った。それこそNA●Aに行けるように、JA●Aじゃダメなのかって?だって日本は人飛ばさないんだもん。もっとも調べるうちにスペースシャトル計画が終了を迎える事となったのはショックだったが……この星空があったからこその俺の青春があったのだ。中学生の時にNA●Aのページを見てた時に世界中の俺の年齢ぐらいの子供に向けて星に興味がある、科学に興味がある仲間たち集まれ!みたいなページを見付けて親父に留学したいとお願いしたけどお前みたいなやつがやって行けるわけないだろうと却下された苦い思い出がある。
 あの時の俺に親に黙ってでも申し込めよと今なら言ってやりたいが、当時の俺はまだ親の言う事に従う無抵抗な子供で、宇宙飛行士の履歴を調べて同等の学歴を付けてなんて考えをもとにその大学に行く為にと進路を想定して夢を膨らませていたのに……気が付けばこんな山奥で星を眺めるだけの人生が始まっていた。
 いや、地に足を付けて日々自然と戦ってもいるけど、さすがに宮下も圭斗も俺と同じように星を語らう言葉はついぞ出なかった。だけど判りやすい流星群を眺める会。バーベキューと言う究極の餌と共に俺の夢だった物を語れば二人は何時も黙って耳を傾けてくれていた。何言ってるか判らなくって黙るしかないと言う理由かもしれないが、それでも邪険にしたりしないし、そんな物で食っていけるわけがないと否定される事もなかった。
 俺にはそれで十分だ。
 俺の静かな熱は未だに密かにくすぶっていて、山を越えた向こうにあるシュミット望遠鏡を覗きに行ったり、ネットで宇宙ステーションからのライブ映像を見ながらチャットをしたり、消えない熱はただのマニアと成り下がって焦れ続けてる程度の物になってしまっている。
 とは言えこの立地を利用しないわけがない。
 ただ今この星空をライブ配信しています。
 絶え間なく俺達の声を拾い続けるも、ただひたすら星空を写し、時々飯田飯に変るだけ。PCで確認しながら実況中継をするわけでもなくただぼんやりと眺めるだけの画面には勿論流れ星が映し出されている。手ごろな価格で買える高感度カメラを設置しておくだけでプラネタリウム程度には写る星空に視聴者のみなさんに一時心を奪われてもらえればいい。
 どうだ!バアちゃんの山を見直しただろ。
 地球の反対側のネットの上の知り合いも見に来てくれてこの星空を堪能してくれているもののそれ以上に飯田飯に憑りつかれていた。
 判る。
 判るぞその気もち。
 定期的にテロる飯田飯の破壊効果ははっきり言って俺の動画の再生数よりグンと跳ね上がるぐらいの効果をもたらしている。
 料理人の賄飯。
 これ以上に魅力的な物はないと俺は思っている。
 日常的に食卓に上る物が、日常と変わらない素材がシェフの手で作り上げられるだけで全くの別物へと変る。そして今回は独特の匂いのある猪がメイン。独特な野性味を旨味に変えてしまう飯田マジックは圭斗と陸斗のコンビが懇切丁寧に語ってくれるので皆さん涎を垂らしながら骨付き肉が食されていく様子を見守っていた。
 誰だよ、こんなひどい動画撮る奴。
 俺だけど。
 やがて酔っぱらって潰れたり、カメラの周りもネット越しの視聴者も姿を消してもやがて俺が起きだして飯田さんも起きて朝食を食べたり五右衛門風呂に入る様子だったり、何よりこの山の暮らしで一番贅沢な太陽がのぼる様子を見守る光景を最後にライブを終えるのだった。
 反響は凄かったと思う。主に料理に対して。あと飯田さんの入浴シーン。みんな好きだなぁと感心しながらも風呂につかりながらレモンバームを軽く結んで風呂に浸かる様子はついに自分を料理しだしたと騒がれる始末。ゆっくり風呂も入れないと嘆いている姿が密かに俺は好きだったりする。
 太陽が光を先に届ける頃風呂から上がりご飯の支度を終えて畑でお土産を物色する姿にこんな時間にもかかわらず見てくれた人は飯田さんの行動を可愛いと言ってくれる。身長百八十を超えた大柄な人でもかわいいって言うんだとなんとなく腑に落ちない物を覚えるもワンコがはしゃいでると言う感想は皆さん同じなようで本人には教えられないなとこの件は黙っている事にする。いつかはばれるだろうけどそれまでは黙っていると言うのが親切だ。
 そして太陽がのぼる前に東京に戻る飯田さんを皆さんとともに見送れば、薄ら明るい空に流れ星が一筋消えて行く。
 だけどそれを最後に太陽が夜空をかき消して
「みなさんおやすみなさい」
 この挨拶を最後に俺はPCをシャットダウンした。

 

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