人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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流星雨と共に 8

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 宮下の謎のスキルの恩恵もあって奥の事務用デスクは中古家具屋で手に入れた立派な机をサンドかけたりニスを塗ったりしてリメイクした物を使う事にした。仕上がりには満足しているし、先日浩太さんが来た時は手慣れた物だなと、リメイクしていた宮下を褒め称えるのだった。
 正直俺もこんなにも手際が良いとは思わなかった。
 図工・美術はいつも作品のクオリティが謎なほど高かったが、綾人にいろいろ作れと言われただけではこうも上手になるとは思えない出来栄えで、今度長沢さんの工房に行こうと俺を抜いて約束していたのははっきり言って嫉妬してしまう。
 でも俺は俺で方向性が決まっているので今更長沢さんの所で修業とはいかず、当面陸斗を育てる事に集中する事にする。
 机も出来て、机の高さに合わせたソファも作った所で無事事務所開きが出来る状況になった。
 壁には作り付けの本棚を作ってそこにはまだ少ないファイルや見本、サンプルを並べる。この地域の代理店さんや工務店さんも高齢化が進み細かな仕事とか引き継いだりもしているが、それでも町の便利屋さんとして頑張ろうと過疎化の上に高齢化そして限界集落を抱えるこの一帯では電球を一つ変えるだけでも大騒ぎとなる。そして歳だからといろいろ我慢を通してとんでもない事になる家が多い。雨の日になると家の中に滝が出来る家だって珍しくはなく、子供一家や親戚に言われて初めて手を加えると言う節制ぶり。安くそしてコンパクトに仕上げる事を求められて、新築物件ばかり取り扱っていたからそのギャップに戸惑っていたのは最初だけ。こう言った事にはなれている内田さんに相談したり、辞めた会社の前社長に話しを聞いてもらったりと自分の中にしかない常識とすり合わせてギャップを埋めている。
 時間的にお茶をしようかと台所で冷えた麦茶と綾人がもらった頂き物のクッキーを持って中庭を覗く居間へと向えば陸斗は綾人の手作り学習帳で勉強している所だった。俺と香奈とは違い既に夏休みの宿題を終わらせていてそこはちゃんと誉める。そして綾人の鬼畜ぶりが発揮され……陸は既に二学期の勉強に取り掛かっていた。気付いているのかな?あいつを盲目的に信じるなよと心の中で注意はしつつとりあえず黙って見守っているけど綾人は陸をどうしたいのか兄として親としても不安だ。
 香奈もずっと台所でいろいろと書類整理などをしてくれていたけどいつの間にか自分の仕事に切り替わっていた。なんでも
「陸が隣でまじめに勉強しているのに……」
と言う事らしい。相乗効果で何よりだと眺めながら綾人は草刈りは終わり伸び放題の庭木の剪定をしてくれていた。
 雑草は綺麗に無くなりポンと置かれた手熊手で片づけてくれたのだろう。
 一部コンクリで均していたとは思えないほどのぼうぼう加減は前に皆さんが来てくれた時に車のタイヤで踏み均してくれたとは言え生命力の方が強かった。健気にもまた育ちだした雑草に綾人が農協に行ってこの除草剤を買って来い、そしてばらまいておけと言われたっ通り実践したら草がみるみると言うわけではないが枯れて行き、今綾人によって刈り取られ、庭の一角に纏められていた。その後何故か鍬を持ち出して来て庭を耕して……と言うわけではなく風で飛ばされてきた土がコンクリの上を覆ってその上のわずかな土で育ったと言う雑草の根性ぶりには尊敬を思うも、似非農家の綾人から見たらやっぱりただの雑草で、あっさりと土ごと庭の一角に纏められてしまうのだった。
 次に取り掛かっていたのは隣家との境の植木で、柵を越えて鬱蒼としているのははっきり言ってお隣さんにご迷惑としか言えないだろう。
 空き家だった事もあり誰にも文句を言えないままだった所に俺が購入。きっと言いたかったんだろうけど相手が二十代の若造と言う事で様子見だった所を綾人が……俺も事務所から見えていたけど気持ちいいほどばっさばっさと切って行った。
 庭の人の身長より高いセイタカアワダチソウを植木用のバリカンでバッサリと半分の高さにジョリジョリと刈って行どもそも光景も爽快だった。
 やがてお隣さんもモーター音が気になって顔を出してくれた所で綾人の必殺人の良い笑顔で対応。普段は感情もなくましてや今は死んだ魚の目モードに突入しているのに声をかけられた時はにこやかスマイルのアイドル顔負けの爽やかさを振りまく営業ぶりは見様見真似でできるスキルではない高校時代から、多分その前から磨いた外面だ。効果の程は隣のおばさんと言うかおばあさんを一瞬でメロメロにさせる技にさすがバアちゃんっ子と賛辞を送っておく。
 大きな枝を切り取り、そして葉っぱのついた枝を切り落とす手際の良さに改めて山で生活している事を思い知るのだが、葉っぱの枝葉雑草と一緒に纏め、大きな枝は倉庫の軒下へとまとめて置いていた。
「そんなのどうするつもりだ?」
「んなの乾燥させてそのうちバーベキューの燃料にするに決まってるだろ」
と一蹴。
 山育ちだと改めて感心するのだった。
 俺がやったら一日がかり、もしくは日をまたいでの仕事になっただろう草刈りと剪定はわずか半日で終わってしまってさすがのお隣さんも反対側のお隣さんも驚きのようだった。
 全く別の家のようになってしまった広い庭に昔の友人の家を思い出して感傷に浸りながら写真を撮って送信。すぐに返信があって親に見せたらそれこそ喜んでくれた事を綾人にも見せるも今のあいつにはまだそれを受け入れるだけの余裕はない。俺が代わりに適当に無難な返事をしながら
「お前は草刈り好きなのか?」
 そんな質問に
「草刈りしている間は無心になれるから。
 前はただばさばさ切り落としていたけど今じゃ次に花が咲くのはとか切り落としていい枝とか考えるからよそ事を考える暇がない。
 だけど今回はそれ以前に何も考えたくなかったから花芽がどうのとか考えずに切り落としたぞ」
 無表情での言葉に苦笑。
「そもそも今は樹木の手入れの季節じゃないんだ。
 三月、六月、九月、遅れても一カ月。
 花が咲き終わった所が樹木の一年の終わりを全く無視してるんだから来年花が咲くとは思うなよ」
と文句を言う始末。
 こいつが面倒見が良いのは知っていたがここまで面倒見のいい奴とは思いもしなくて頭を撫でてありがとうと言う。
 陸斗にやる癖で綾人にもうっかりとやってしまうものの案外こいつがこれが嫌いではないのは体験済み。暫く大人しくしているこいつの汗ばむ頭を撫で、香奈が声をかけてくれたのを合図にお茶の時間になるのだった。
 
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