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日常とは 6

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 金曜日。廃人から少し復活した頃先生が陸斗と圭斗を連れてやってきてぼんやりと庭を闊歩する烏骨鶏を寝転んで眺めている俺を見て溜息を吐いた。失礼な奴め。
 でも仕方がない。そんな溜息をつきたくなるような姿な事を俺が今一番理解している。
 枕元にはビール、そして目の前には七輪。既にもうもうと上がる煙の中には良い感じに鶏肉と鹿肉が焼けている。皮から滴り落ちる脂が炭に熱せられて芳しい香りと香ばしい匂いを辺りに漂わせていた。
 今日の俺はかなりダメモードになっている。まあね。お盆前はだいたいこんなもんだよね。決算も近いしね。
 負ける勝負はしない。かといって俺の思う様に進むわけはなく、つまり今日は何の成果を上げる事がなく一日が終わってしまったのだ。こう言うのはよくあるがそれでも疲れるんだよとだらりとしてしまうのは仕方がないだろう。
 縁側で俺と同じように日向ぼっこを……焼き肉用に用意していた野菜を強奪していた烏骨鶏達も先生達の姿を見て逃げて行く。一応懐かれてるんだなとただの飼育係の餌やり当番じゃないと思う事にした。
「今日は負けか?」
「いんや、ドローって所」
「一体何の話しだ」
 頭が痛いと言う圭斗の顔は毎度こんな事になってるんじゃないだろうなと言う所だろうが
「綾人の週一のお仕事について。
 一週間分を集中しているだけあって先生真似できないわ」
「まぁ、綾人のやる事なんて一度も理解できた事なんてないが、相変わらずわけわからん事をしてるのか」
「ただの株の売買だよー。安全な株にしか手を出さないからほぼほぼ熟成を待つだけの簡単なお仕事だよー」
「ただそれ以外の株がお世話が大変って言うだけだ」
 先生は白い目を向けるもこの古民家で恩恵を散々味わっている先生にそんな目を向けられる謂れはないとそっぽを向く。
「とりあえず今日はいつもよりましな状態だな」
「こうやって飯の準備ができて食ってるくらいには」
「じゃあ風呂入ってくる」
 行って荷物を縁側の片隅にポンと置いて五右衛門風呂を楽しむ為の日本酒セットを持ち込むのだった。
「風呂に酒、身体によくねーぞ」
 圭斗の注意にも知らん顔で自分で用意したおつまみの刺身を持って行ってしまった。
 呆れたようにその背中を見送り
「陸斗、あんな大人になったらだめだぞ?」
「さすがに嫌です」
 先生の事を尊敬しているようだが、こう言った姿にいつもプラスの変化をマイナスにさせるインパクトってすごいよなと、俺も焼けた鳥肉に塩こしょうをふって口へと運んで頷く。
「そしてこういう人間にもなるな」
「ええと、せめて座って食べましょう綾人さん」
「座るのもしんどーい、このままでも全然不便ないしー」
「ちょうど高さ合わせやがって、宮下だろ甘やかす奴は」
「他に誰がいるの?」
 先生は問題外だと言えば沈黙するしかない圭斗はどっかりと座って焼けている肉に手を伸ばしてそのまま摘まんで口へと運ぶ。
「くっそー、やっぱり炭火焼ってうまいよな」
「お箸とお皿持ってきます」
「他にもおかずが置いてあるから持って来て。ご飯も炊いてあるからおこげ食べてもいいぞー」
「やった!お釜の御飯だ!」
 陸斗の密かな楽しみに嬉しそうな声が響く。
「おこげに醤油とか焼き肉のたれを垂らしてもう一度軽くあぶって食べるのが好きなんだ」
 一応保護者様に教えて置けば
「贅沢な食べ方を教えないでくれ」
 決して無理ではないが日々の生活の中では難しい調理方法を楽しむ俺に圭斗はガクリと項垂れていた。
「いやいや、陸斗のご飯の世界はものすごく狭い。
 鰻だって知らないぐらいだからな」
「実家に居た時は味噌汁と肉か魚を焼くか、後は畑で採れた野菜を焼くなり煮るなりだからな。
 揚げ物はスーパーの総裁コーナーで完結。俺も家を出て初めて侘しい食事をしてた事を理解したさ」
 香奈もなと呟く顔は情けないと言った物で頭を抱えてつい先日まで陸斗もそんな兄姉の背中を見て学んだ程度の知識しかないのを思い出せば綾人の飲みさしのビールをグイッと残り全部一気飲み。
「あいつの面倒は俺が見るって言ったのに情けない」
「お前の実家が異常なだけだ。これから一つ一つ教えればいいと思えば問題ないだろ」
「綾人に諭される屈辱。情けない……」
「お前何気に失礼だな」
 嘆きながらもしっかりと焼けた鳥肉をぱくつく圭斗こそ失礼だと思う合間にも陸斗は何度も料理を運んできてくれる。
 怪我人を働かすなんてと、客人ではない圭斗に手伝って来いと言えば陸斗は嬉しそうな顔で今の吉野家のアイスと肉が詰まっている冷蔵庫事情を披露すればまた圭斗に白い目で見られるのだった。本当にごめん。俺の欲望だらけだねと反省するしかない。
 とりあえず陸斗がご飯を持って来てくれたところでちゃんと座る。ご飯はおにぎりにしてくれて七輪の隅っこで焼きおにぎりを作りだす様子をほっこりと見守るその横で焼けた鳥肉を皿にとって風呂場へと持って行けば風呂の縁に座って足湯を楽しみながら愛用のぐい呑みで嬉しそうな顔で日本酒をなめていた。
 人ん家を自分の家の如く満喫しやがってと呆れてしまうも直ぐに圭斗がしし唐に味噌を乗せて焼いただけの物を追加して持って来た。良く判ってるじゃん!そんな先生の喜びの声に圭斗はニコニコしながら俺を七輪の元へと連れて来て
「これで当分戻ってこないな」
 冷蔵庫から見つけてきた牛肉を焼き始めるのを見て俺は沈黙した。


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