人生負け組のスローライフ

生まれ変わりは皆様とご一緒に 10

　準備が出来ればここぞとばかりに奥様方が張り切って用意された食事を庭に出来たテーブルや、足を伸ばしたいお年寄り用に家の中にも机を繋げて料理を並べていた。
　見るからに足りないお茶は宮下のおふくろさんに五ケース程配達をしてもらう。百二十本のペットボトルの中にはお茶とジュースが用意されていた。皆さん車なのでビールやお酒はご遠慮してもらうのは常識として当たり前だが、世の中常識知らずはどこにでもいる。
　料理が並び、子供達や奥様方はこんな山奥でお目にかける事が出来るなんてと待ちきれないと言わんばかりにフランス仕込みの美しい料理を見て大興奮をし、そしてお年寄り達は若いフランス料理のシェフだと言うのに地元の野菜を使った日本料理や馴染のある、だけど自宅ではテーブルに上がらないような丁寧な作りの料理に目を輝かしていた。
　もともと上げ膳なだけでも大喜びな人達が食事に出かけなくてもそう言った料理を出してもらえるのは凄く贅沢な物でお昼だから帰ろうとする人に声をかければそれは嬉しそうな顔で机についてくれた。
　いただきます。
　しようとする時になって邪魔が入るのはお約束と言う物だろうか。　
　宮下のスマホが鳴って今頃茅を取りに来る奴がいるのかと飽きれた地元の農家さんに誰ともなく呆れていれば
「綾人！圭斗と陸斗を隠して！篠田が来るよ！」
「はあ？」
　圭斗は判らないと言う顔をしていたが、水野と植田が陸斗は勿論圭斗ごと二階へと連れて行き、上島兄弟がいくつかの料理と飲み物を二階へと運ぶのだった。
　大工さん達は何が起きたのかと眉間を狭める中、仲良くなった地元の農家さんが簡単に説明するのだった。
「この村一番の厚かましい嫌われ者さ」
　この村でもその評価かと言う間にものすごいスピードで駆けあがってくる車が見えてきた。
「ったく、あの家の子供達は跡継ぎ以外皆良い子達ばかりなのに、どうしてあんな親から生まれちまったんだろうなぁ」
　やけに大きな声で響いた呟きに何となく全員が察してくれて……若さとは偉大だと思う。何やら奥様衆が悪だくみと言わんばかりの顔で何やらひそひそと話をしていた。
「うわっ、怖い光景」
　先生は背を向けて失笑を零しながら
「授業参観日に集まる母親とか部活動で集まる母親とかのろくでもない空気臭しかねえ」
「せんせーいつか刺されるよ？」
「せんせーねぇ、嫁さんが男作って出て行った時でもう女の人と関わるのは止めたから気にしない事にしたの」
　風の噂では件の元嫁は今借金抱えて男に捨てられたと言う話らしく、その追跡から逃げる為にも家を出て間違っても近寄りもしない田舎に身を潜めていると言う。だけど公立の学校の先生なんだから転勤とかあるけどどうするんだよと聞くも家はそのままにマンスリーマンションを転々するかこの地方の学校を巡るつもりだと開き直っていた。
　そんな小声のやり取りに宮下はちらちらと二階を見るから上を見るなとくぎを刺す間に篠田夫妻が車から降りてきた。
「いやぁ遅くなってすみません」
　こんな時間でこのタイミングで夫婦そろって満面の笑みで姿を現すと言う全く悪びれてない様子に誰もがそれだけで呆れ果てた視線を向けるも
「ごめんなさいねぇ、今さっき話を聞いたから来るのが遅れちゃって。
　あら、お昼まで用意してくれたの？助かるわぁ」
　そう言って何故か子供を喜ばせるようにと華やかに作った料理の前に子供を押しのけて座るのだった。
　あっけにとられる子供達と奥様達、そしてそんな光景見慣れた村人でも声をかけるタイミングを逃してしまうも背後が賑やかになったと思ったら
「あんた達いい加減にしてくれ！」
　顔を合わせないように隠せと言ったはずなのに出て来るかと思って先生と一緒に天を仰ぐ。
「あら圭斗、久しぶりじゃない。その様子ならちゃんと一人でやれてたのね」
　親元を離れた子供とは言えかける言葉じゃねーよと睨んでしまうも早速取り皿と箸を持ち、まだ誰も箸をつけてないのに二人は勝手に食べだすのを見て圭斗は宮下を背中に張り付かせたままずるずると引っ張りながら両親の前に立つ。
「誰もあんた達なんか招待してないだろ！」
　うん。俺も招待してないし内田さんには篠田家のある集落には悪いけど話しすらしてもらうのを断っている。
「何言ってるの？この狭い村じゃ招待されなくても持ちつ持たれつに決まってるじゃない。ねえ？」
「そうだぞ？そうやっていかないとこの不便な山間ではろくに作物を作る事ができないんだからな。協力しないとな？」
「そうよ？吉野君は圭斗のお友達でしょう？ならなおさら仲良くしないと」
　そんな親だから俺を家に呼んだりする事もなく近寄らせなかった理由は判っていたつもりだったが……話を聞いていた時よりも頭のおかしい謎理論の展開に正直ついて行けるわけがない。
「それにしてもさすが吉野だ。こんな山奥でよく手を込んだ料理を用意したもんだ」
「ほんと美味しい。今晩のおかずに頂いて帰りましょう。
　それよりも圭斗、そこの茅を打ちのトラックに乗せて置いて頂戴。
　何時までも親に指示させるようなみっともない真似させないでよ」
　全くとろいんだから早くしてよねと言いながら次々と取り皿に山のように料理を乗せた上にタッパーまで持ち出してきた。さすがに誰もが「おばさんまだ誰も料理を手にしてないのに何をしてるんだ！」とつっこむも聞こえちゃいないと言う様に無視をするしぎゃくに「おいしー！」なんて声でかき消してしまう。この異変に気づいてか様子を見に来た飯田さん達もあっけにとられながらもこちらに足を運ぼうとするもいろんな経験豊富だろう山口さんが飯田さんと小山さんを出さないように家の中に押しとどめてくれてた上に子供達を家の中に呼んで他の料理を食べさせるのだった。
　周囲からいくら野次を飛ばすも聞いちゃいない。奥様方達も嫌味を言うもそもそも話が通じない相手だ。こんな状況の中でほんと頭がおかしい位に美味しそうに料理を食べている。ここは気が済むまで食べて去ってもらうべきかと思うも車がまた一台軽トラがやって来た。更に上手がいたかと思うも

「何だ？何で篠田が吉野の家に居る」

　軽トラから降りてきたのは長沢さん、名前を喜八と言う。