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生まれ変わりは皆様とご一緒に 5
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普段は朝靄の中から姿を現す飯田さんだが今日は雲の間から星空を覗かせる時間にやってきた。
だけど相変わらずの車から降りて
「明日の食材を受け取ってきたので冷蔵庫をお借りします」
「それはいいけど、今合宿してるからそっちのと混ざらないようにお願いするけど……」
「それは大丈夫です。こっちもプロなので」
さすがシェフと思うも飯田さんが抱えた箱には明日の日付と中身の材料。そして
「勝手に使ったら捌く。飯田。……って」
何のプロですかって聞きたいがこう言った管理のプロだったかそれ以上の意味ないよね?と無理矢理納得をすれば助手席の扉がガチャリと開いた。
「綾人君今晩は」
サマースーツを着て車から降りてきたのは
「え?青山さん?え?お店は?」
突然の訪問に思考が追いつかなかった。
「あはは、明日茅を降ろすって聞いたから最期に見にきたって言うのとお盆も近いからね。挨拶にも来たんだ」
言えば初めての遭遇の先生を見てにこりと笑う。
「今晩は。お休みの所に煩くしてしてしまい申し訳ありません」
スマートな動きで頭を下げての謝罪。競争相手も多く流行り廃りも早い東京で単価の高い客商売を十数年も続けていられるのはこう言った所作はもちろん相手を不快にさせないスキルがあっての事。美味しい料理ぐらいだけではあっという間に忘却の彼方へ送られてしまう中で美味しいにプラス何か、それを学び尽くした青山さんの店は徹底した従業員への教育も一役買っている。
何度か招かれて食事をした事はあるが、最初から最後まで居心地が良く、俺みたいなガキでも最上級の顧客と言うように扱ってくれてそれのどこにも嫌味を感じることがなく最初の緊張が嘘のように給仕を受けることができたのだ。
そんな接客のプロの謝罪に先生もシャツと短パンと言う家着スタイルを恥ずかしく思ってか
「こちらこそこんな格好で申し訳ない。まさかこんなに早くお見えになるとは思わなくって……」
相手はサマースーツに革靴だ。さらに三時間の長旅の疲れを隠さないその立ち姿に対して洗い晒しのヘアスタイルの先生が勝てる要素はどこにもなかった。
「それより中に入って下さい。どうぞ休んでください」
家に入って足を伸ばすように勧めるも
「叔父さん、休むのは食材を片付けてからですよ。運んじゃって下さい」
「ああ、ごめんね。食材運んだら先に手だけでも合わさせてもらおう。明日の朝になったら改めてご挨拶させてもらうか」
「ご丁寧にありがとうございます」
感謝をしたところでサマージャケットを脱いで袖のボタンを外して袖をめくる。
「夏でも長袖、暑くないんですか?」
何て聞いてしまうも
「この格好も仕事のうちだよ」
にこりと微笑み
「それに東京に比べたらここは別天地さ!」
ただいまの気温二十二度。エアコン入れても涼しいこの気温はこの季節手に入れるのは困難。むしろ東京から来たばかりなら寒いくらい!
袖を伸ばしボタンを止める。ジャケットは流石に着ないがそのまま荷物を持ち上げる。
「薫、荷物の指示を」
「野菜は台所に。肉は冷蔵庫に。
明日使うので冷凍せずに」
「じゃあ調味料も台所でいいね?」
「はい。もう少ししたら小山達も来ます。食器や盛り付けは山口も来るのでお願いするので叔父さんは大人しく座ってて下さい」
「薫、叔父に対してその言い方酷くない?」
「あんたはいつものようにコンダクターでいてくれれば良いんだから」
なんとなくポジションはわかった。だけどその前に
「薫?」
聞かずにはいられなかった。
「飯田薫。私と薫の母が付けた名前だよ」
ほんの少し飯田さんをかわいそうな目で見て
「生まれる前までずっと女の子だって思われてたからね」
ユニセクスな名前とは言えお腹に居る時から呼ばれ続けた名前をそうそう変える事はできずに定着した音は今も生き続けたと言う証だが
「因みに弟は庵です」
音は同じでも漢字は違っただろう母親の娘が欲しいと言う執念を感じる。
俺は今まで飯田さんの名前を聞いたことあったような気もするけどと言う程度の馴染みに改めて
「薫さん、明日の昼食の料理よろしくお願いします。後あいつらの朝食も」
台所にやってきた所で改めて言えば
「綾人さん。叔父に何聞かされたか大体わかりましたが良ければいつものように呼んでください。でなければ……」
「でなければ?」
なんだと言うのだと思うも俺には釜オーブンと言うカードがあると言うように見た目に反した可愛らしい名前の持ち主に向かって口角を上げていれば
「ポテトグラタンは前回で終了になりましたね」
「飯田さんってば面白い冗談言うんだから~」
やだなあなんて言いながら俺はポットで沸かしたお茶を淹れる。バアちゃんに扱かれて美味しく淹れれるようになったお茶は今の所飯田さんの首を傾げる事はさせていない。
「青山さんも上がってよ。お茶でも飲んで下さい」
なぜか先生を含めて全員が俺から顔をそらせていた。
ふっ、なんとでも言えよ。
胃袋を握られた相手に勝つ見込みはないと言い切るが良い!
なぜか飯田さんはかわいそうな子を見る目で俺を見て
「叔父さん、早く荷物片付けて御仏前に挨拶しましょう」
その返答は誰も返さず、代わりに漆黒の闇が広がる山間に静かな笑い声だけが響いていった。
だけど相変わらずの車から降りて
「明日の食材を受け取ってきたので冷蔵庫をお借りします」
「それはいいけど、今合宿してるからそっちのと混ざらないようにお願いするけど……」
「それは大丈夫です。こっちもプロなので」
さすがシェフと思うも飯田さんが抱えた箱には明日の日付と中身の材料。そして
「勝手に使ったら捌く。飯田。……って」
何のプロですかって聞きたいがこう言った管理のプロだったかそれ以上の意味ないよね?と無理矢理納得をすれば助手席の扉がガチャリと開いた。
「綾人君今晩は」
サマースーツを着て車から降りてきたのは
「え?青山さん?え?お店は?」
突然の訪問に思考が追いつかなかった。
「あはは、明日茅を降ろすって聞いたから最期に見にきたって言うのとお盆も近いからね。挨拶にも来たんだ」
言えば初めての遭遇の先生を見てにこりと笑う。
「今晩は。お休みの所に煩くしてしてしまい申し訳ありません」
スマートな動きで頭を下げての謝罪。競争相手も多く流行り廃りも早い東京で単価の高い客商売を十数年も続けていられるのはこう言った所作はもちろん相手を不快にさせないスキルがあっての事。美味しい料理ぐらいだけではあっという間に忘却の彼方へ送られてしまう中で美味しいにプラス何か、それを学び尽くした青山さんの店は徹底した従業員への教育も一役買っている。
何度か招かれて食事をした事はあるが、最初から最後まで居心地が良く、俺みたいなガキでも最上級の顧客と言うように扱ってくれてそれのどこにも嫌味を感じることがなく最初の緊張が嘘のように給仕を受けることができたのだ。
そんな接客のプロの謝罪に先生もシャツと短パンと言う家着スタイルを恥ずかしく思ってか
「こちらこそこんな格好で申し訳ない。まさかこんなに早くお見えになるとは思わなくって……」
相手はサマースーツに革靴だ。さらに三時間の長旅の疲れを隠さないその立ち姿に対して洗い晒しのヘアスタイルの先生が勝てる要素はどこにもなかった。
「それより中に入って下さい。どうぞ休んでください」
家に入って足を伸ばすように勧めるも
「叔父さん、休むのは食材を片付けてからですよ。運んじゃって下さい」
「ああ、ごめんね。食材運んだら先に手だけでも合わさせてもらおう。明日の朝になったら改めてご挨拶させてもらうか」
「ご丁寧にありがとうございます」
感謝をしたところでサマージャケットを脱いで袖のボタンを外して袖をめくる。
「夏でも長袖、暑くないんですか?」
何て聞いてしまうも
「この格好も仕事のうちだよ」
にこりと微笑み
「それに東京に比べたらここは別天地さ!」
ただいまの気温二十二度。エアコン入れても涼しいこの気温はこの季節手に入れるのは困難。むしろ東京から来たばかりなら寒いくらい!
袖を伸ばしボタンを止める。ジャケットは流石に着ないがそのまま荷物を持ち上げる。
「薫、荷物の指示を」
「野菜は台所に。肉は冷蔵庫に。
明日使うので冷凍せずに」
「じゃあ調味料も台所でいいね?」
「はい。もう少ししたら小山達も来ます。食器や盛り付けは山口も来るのでお願いするので叔父さんは大人しく座ってて下さい」
「薫、叔父に対してその言い方酷くない?」
「あんたはいつものようにコンダクターでいてくれれば良いんだから」
なんとなくポジションはわかった。だけどその前に
「薫?」
聞かずにはいられなかった。
「飯田薫。私と薫の母が付けた名前だよ」
ほんの少し飯田さんをかわいそうな目で見て
「生まれる前までずっと女の子だって思われてたからね」
ユニセクスな名前とは言えお腹に居る時から呼ばれ続けた名前をそうそう変える事はできずに定着した音は今も生き続けたと言う証だが
「因みに弟は庵です」
音は同じでも漢字は違っただろう母親の娘が欲しいと言う執念を感じる。
俺は今まで飯田さんの名前を聞いたことあったような気もするけどと言う程度の馴染みに改めて
「薫さん、明日の昼食の料理よろしくお願いします。後あいつらの朝食も」
台所にやってきた所で改めて言えば
「綾人さん。叔父に何聞かされたか大体わかりましたが良ければいつものように呼んでください。でなければ……」
「でなければ?」
なんだと言うのだと思うも俺には釜オーブンと言うカードがあると言うように見た目に反した可愛らしい名前の持ち主に向かって口角を上げていれば
「ポテトグラタンは前回で終了になりましたね」
「飯田さんってば面白い冗談言うんだから~」
やだなあなんて言いながら俺はポットで沸かしたお茶を淹れる。バアちゃんに扱かれて美味しく淹れれるようになったお茶は今の所飯田さんの首を傾げる事はさせていない。
「青山さんも上がってよ。お茶でも飲んで下さい」
なぜか先生を含めて全員が俺から顔をそらせていた。
ふっ、なんとでも言えよ。
胃袋を握られた相手に勝つ見込みはないと言い切るが良い!
なぜか飯田さんはかわいそうな子を見る目で俺を見て
「叔父さん、早く荷物片付けて御仏前に挨拶しましょう」
その返答は誰も返さず、代わりに漆黒の闇が広がる山間に静かな笑い声だけが響いていった。
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――― 2024.12.1 再々公開 ――――
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