上 下
77 / 976

生まれ変わりは皆さまとご一緒に 1

しおりを挟む
 学校以上の勉強漬けの合宿を一日体験した一年生は二日目の早起きに苦戦したものの直ぐにこの環境に慣れた様に朝から上島兄弟に連れられて畑に収穫に出かけていた。いや、まだ寝ぼけているようだから朝日と言うか早朝の冷たい空気に当てて目を覚まさせている。
 昨日は夜遅くまで大騒ぎしていたようでばたばたと家の間取りでは決して移動できないような距離の足音が響いていたが、怪我がなければ放っておくし、屋根から落ちたら自業自得だとお帰りしてもらうしかない。とは言え一人朝ぶろに入ってさっぱりしているおっさんもとい先生は野沢菜とワサビでお茶漬けにしてさらさらと食べて既に食事を終えていた。普段家で食べて居るメニューと変わらない食事を続けるあたりマイペースだった事を疑わずにはいられない。目の前の高校生達と言うか水野は朝から豚汁をみて
「冷凍うどん貰っていいですか?!」
「セルフでどーぞ」
 朝ごはんは俺が作っているので安心して食べるがよい。
 水野の料理の出来はギャンブルなのにこう言った事はいち早く頭が回る。その様子を見て植田、上島の三年チームはどんぶりを持ち出して来て他にも食べるか聞いている。この様子じゃ全員強制だなと全部食べてくれるなら構わないと朝からヘビーなメニューを作っていた。勿論こんなにも食べれないと陸斗や同じ一年の下田辺りも顔を引き攣らせているものの周囲の雰囲気で気が付けば完食していた。もっともお替りする猛者もいたが残念な事にうどんの玉は数があるのだよ。物足りなさそうな顔なんて無視をして俺はいつもの通りご飯を豚汁でさらっと頂き、山のようなキュウリやトマトを切っただけのサラダも食べて行く。高校生たちの食事風景を見てよく朝から食べれるなと感心すれば先生は散歩に行ってくると言って生徒を連れて坂の下の宮下商店まで往復すると言う。それを聞いて宮下に連絡を入れて着いたらお水を飲ましてくれとお願いだけはして置いた。
 そして散歩に出かけた隙に掃除と洗濯を始め、終わった頃に帰ってきた一行の手にはビニール袋がぶら下がっていた。
「なんだそれ?」
 聞けば
「向かう途中連絡が入って花畑のお花を摘んできてくれって言われて皆で株元から千切ってもってったらお駄賃ってもらいました」
 みんなの片手にはペットボトルと駄菓子が幾つか。
「道路沿いの花が入用だったんだと」
 先生もきゅっとペットボトルのお茶を飲む。
「ああ、お盆近いからね」
「って言うかそれでいいんですか?」
 葉山の言葉に誰もが確かにと思うも
「一応うちの土地だが手入れは宮下のおばさんがしているし。耕して種をまいて肥料をやって山水の水路を上手く入れ込んだのもおばさんだし」
「宮下のおふくろさんやるなぁ」
 水やりは一切せずで問題ない畑を作り上げていた。
「この近所だとどの家もみんな庭で仏壇用の花を育ててるかもしれないけど墓参りの花なんてもう少し先に用意するつもりだったんだろうけど、お盆のシーズンみんな旅行に出かけるから一足早くってなると時期が読めないってぼやいてたからな」
「仕入れはギャンブルだからな。用意して全部売れないっていう時もあるから。それなら自分で育てて用意すればいいって言う根性宮下に学んでほしかった」
「宮下はあれでいいんだよ。
 邪魔な葉っぱを外して色んな種類の花を合わせて束にして立派な売り物っぽく見せるセンスはおばさんにない」
「まぁ、かなり残念なセンスだからな」
 何で年に一度のお盆で榊と菊の花、しかも黄色だけしか用意しないとツッコミを入れたいのは山々だが、この近辺の人はそのセンスをずっと伝える事が出来ずにウン十年過ごしてきた。
 もっとも俺が他の色の菊を入れないの?と聞けばこの時期持ちが悪いからねぇと消極的な返答。
 なので最高気温三十度の山で宮下に育てさせればすぐにおばさんが仕事を取り上げていた。それはそれは楽しそうに色とりどりの花を植えるも残念な花束を作り上げるセンスに宮下に任せる事にした。勿論好評で帰郷してきた人達が買ってくれたり、普通にお土産としてお買いいただけるアイテムとなっている。
 宮下家の庭は駐車場にして潰しちゃったからね。余分な土地はジイちゃんが買い上げたからね。花を作る庭ないからね。ご近所がかなり遠くても人の目の多い店だからおおっぴらに作ること出来ないからね。
 そんなわけで道沿いの草刈りの手間を省く代わりに花壇となり、吉野さんの家の曲がり角どこかしら?という質問にはあそこの蕎麦畑とお花畑を通った先だよと言ってもらえるようになりました。
 年々拡張されているような気はするけど対雑草とおばさんの生きがいとなってるならいいかとビニール袋の底には手作りの漬物があり、ありがたくお昼に頂く事にしよう。
 帰って来てやっと勉強が始まる頃内田さんがやって来た。
 トラックには沢山の資材を積んで
「おはようございます。皆さんもう勉強の時間ですか」
 妙にやつれた顔の浩太さんが無理やりと言う様に笑顔を作って挨拶をしてくれた。昨日の話しを俺から聞いた先生はのんびりとした顔で
「さっき食後の運動で宮下商店まで行って帰って来た所なんですよ。
 足もくたくただろうし大人しく座らせるには一番ですので」
 意外な事に先生はけろりとした顔で笑ってへばっている奴らを見て笑う。夜は自堕落な生活をしているが意外な事に一人山歩きを楽しんだりしている先生を俺はこの人って一体なんだと何度頭を悩ました事か。先生にはこの山の散歩道があるらしくどういうルートか知らないけど途中の岩場で休憩して弁当を食べて帰ってくるのが散歩コースらしい。当人曰く
「街中じゃ運動らしい運動なんて出来ないからな」
 そう言って熊の居る山の中を散歩するのはどうなんだろうかと思うも一応小さな斧と鉈は持ち歩いていると言う心強いのか不安しかない言葉を信じる事にする。裏山を歩くと顔に当りそうな枝が落した後があったり密集して生えそうな若木が切られていたり、落葉樹でもない木の下に落ち葉が敷いてあったりとどこか歩きやすいので山の手入れをしてくれているのかと少し有り難く思ったりしている。
 決して松茸の群生地を探しているとは思ってない。
 同じ村の人達にも秘密にしていると言うか木を見ればばれるかもしれないが我が家の山のどこかに確かにあるが、生憎裏山から行ける場所ではないし今はまだシーズンでもない。俺は一応場所を知っているがあまり行きたいと思わない場所なので年に何度か手入れに行く程度に留めている。先生には見つけたら食べていいよと言った覚えがあるが、まさか今も探しているとは考えないようにしている。




しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

アマツバメ

明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」 お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、 雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。 雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、 謎の多い彼女の秘密に迫る物語。 縦読みオススメです。 ※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。 イラスト:雨季朋美様

ハッピークリスマス !  非公開にしていましたが再upしました。           2024.12.1

設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

窓を開くと

とさか
青春
17才の車椅子少女ー 『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』 人間1度は訪れる道。 海辺の家から、 今の想いを手紙に書きます。 ※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。 ☆イラスト(大空めとろ様) ○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/ ○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg

処理中です...