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壁越しの秘密基地 2

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「じゃあ荷物片づけて来ます」
「ついでに布団を縁側で寝るまで干すけどいつもの押入れの布団使っちゃうよ」
 もうすぐ日も暮れるのにそう言って二人は台所隣の部屋に在る引き戸を開けた中に在る階段からトントンと足取り軽く上って行った。
「あんな所に階段があったんですか?」
「ドアで隠れてるから判りづらかったかな」
 引き戸の奥に階段が隠れているなんてと、ここに住んで一週間ほどする陸斗の驚きの声にそう言えば言った事なかったなと俺は先生にお茶を出しながら
「昔この家が林業をしていた時までさかのぼる話だそうだが、その頃は羽振りもよく使用人も居たらしくってこっちの土間を挟んだ炊事場に住まわせていたって聞いている。
 二階に住んでると不思議だろ?家の正面から見た面積に対して二階が狭いような気がして」
「ええ、もっと奥まで部屋があっても良いと思いましたが……」
「新入りだったり所帯持ちじゃない奴らはこの一階に雑魚寝、所帯持ちだったりそれなりに仕事を任された奴は二階って住み分けされてたんだと」
 呆れたと言う様に言うもそれは向上心にもつながり、所帯を持ちたいと言うモチベーションにもなる。運がよければ親方一家の家に招かれる事もあるだろうしと時代を反映する考えに今の時代の俺としてはありえないと頭を抱えるが、どのみち俺には関係ないとこの時代の人間で良かったと胸をなでおろす。なんせ親の代まで恋愛の結婚なんてありえない、きちんとしたお家のお嬢さんとお見合いをしてからじゃないとみっともない、子供を介して夫婦になればいいと言われてきたのだ。釣鐘書があればいいってわけじゃないだろうって突っ込みたかったが少なくとも東京に居た時には聞いた事のない話だった。
「今じゃそれを利用して合宿場の部屋になっていると言うわけだ」
「どこかの民宿を借りたとしてもこんなにもお安く利用できる所はないからな。
 それにこの環境は良すぎる。コンビニを探しに夜中に脱走する事も出来ないし、何かあればすぐ親を呼び出せる距離。それに生徒からも好評なんだよ。今時薪割五右衛門風呂マジありえんwwwって」
「そんなこと言う奴らは崖から突き落としてお終いの刑だ」
「と言う割には毎度重労働の刑で済ませている癖に」
「悪いね。人手は常に不足している。貴重な労働力を逃して溜まるかって言う奴だ」
 ここでは草むしりは草刈り機を使用、庭の剪定にはチェンソー、落ち葉にはブロワーとエンジンが付いた物を駆使する場所だぞ?ゴミ?そんなの谷底に落としてしまえだ。今頃積もりに積もった枯葉は立派に腐葉土となっておろうと虫達の産卵場になっているだろうと言う事は目を瞑っておく。
 バタバタと賑やかな天井を眺めながら
「とりあえず先生は先に風呂に入ってください。折角圭斗に沸かせたんだから一番風呂浸かって温度確かめて来て下さい。俺はまだシャワーだけだし陸斗も足場の悪い五右衛門風呂なんて使わせれないので」
「うむ、悪いな」
 言うもいそいそとおふろセットを持って台所の勝手口から出て行ってしまった。勿論おふろセットの中には日本酒が当然のようにあったのはあまりに馴染み過ぎていて疑問を持たなかっただけだが、これで当分は出てこないからその間に飯の準備をする事にした。
 さりげなく台所に置かれたスーパーの袋にはちゃんと野菜と肉が入っていた。誰だいつまでも机の上に放置するヤツは?さっさと冷蔵庫に入れろと仕分けをする。卵だったり牛乳だったりいろいろ入っていて何を作るつもりなのかと思えば今度はどたどたと言った足音で階段を駆け下りる物は二人分。
「綾人さん、、せんせーがいないなら今のうちにご飯作りましょう!」
「あ、あの俺がやります」
 ここで何かお役に立たなくては、と言うすっかりと家族に躾けられた奴隷根性に二人は小首を傾げて
「怪我人に重い物を持たせるのはなぁ水野?」
「所で怪我はどれぐらい酷いの?どこまでよくなった?」
「ええと……」
 水野の立て続けの質問に戸惑いながらも陸斗は答える。
「左腕とあばらにひびが入って、痛みは少しずつ和らいできましたが、内出血が酷いです」
 へー?なんて言いながらいきなり水野がシャツを捲れば湿布を包帯で巻いた場所からはみ出した内出血痕と他にも幾つも残る痣の数に無神経の水野ですらその直後体が硬直していた。たぶん大げさな話しを聞いていたもんだろうけど実際はそれ以上だったのだろう。凍りついた空気の中に植田の悲鳴が響く。
「きゃー!水野君のえっち!」
 そう言って水野の手を叩き落として陸斗の頭を抱きしめるようにして引き寄せながらシャツを直し
「いきなり脱がそうとするなんてひどい!お嫁に行けなくなったらどうするの!責任とってぇ!」
「ふぇ?あれ?あ、ごめんなさい?」
「ごめんなさい?じゃねぇ!
 地に頭を付けて侘びろ!」
 甲高い裏声からのドスの効いた地の這うような演技がかった一人二役の声に
「ええ?!綾人さん!」
 途端に始まったヲタクの寸劇に陸斗はおろおろするだけだがこいつらを預かった俺はいつの間にか植田に蹴り落とされて土間に転がっている水野を見て呆れた視線を向ける。
「陸斗が男の子だから問題はなかったがこれが女の子だったらお前、チョンってされても問題ない懸案だぞ」
「あ、あの……チョン、とは?」
 顔を引きつらせる水野に
「犯罪者にその股のブツは必要ねえって話しだ」
 股を抑えて後ずさる様子に溜息を零し
「見せてくれたら見る、もしくは許可を貰ってから見る。それぐらい高校生なら理解して出来て当然だ。親兄弟でもそれぐらいの配慮は当然あるべきだしましてや初対面。お前がした事はもはや暴力と言うんだぞ」
 友達同士ならふざけ合ったと言う言葉もあるだろうが、初めて言葉を交わしてまだ十数分の間柄。植田がしっかりと陸斗を守りつつも水野の反省を最後まで見せる為に陸斗を逃がさないように両肩に手を置いていた。植田やはり出来る子だと心の中で褒め
「判ったら今夜の夕食当番は水野一人だ」
「綾人さんそれじゃあ甘いと思います」
「なら合宿が始まるまで水野が担当だ」
「綾人さん朝食が食べれる気がしません!」
「植田、お間はどっちの味方だ」
 呆れて聞けば
「逆に聞きますが太陽と一緒に寝起きする人に平均的高校生の生活をどう合わせればいいのですか?」
 真剣な目で語られる植田は誰が五時起き何てするんだよと言った物だろうか。
 その視線の隣の陸斗に視線を合わせるもやはりつい、と視線を反らされてしまう。陸斗も早いが俺はそれ以上だからなと反省を込めて
「朝は七時に起きて朝食をお前ら二人で準備して食べる。作る分には用意しておくから」
 俺からその言葉を引きだせば満足げにガッツポーズ。前回俺に合わせて作らせたのがよほど堪えたと見て良いだろうと少しだけ俺も反省しておく。
「じゃあ水野は早速料理を作ってよ。先生が風呂から上がってくるまでによろしく。
 生姜焼きとみそ汁とご飯でいいから。向こうの冷蔵庫に在る漬物も出してきてね」
「うす」
 何故か帰宅部なのに運動部系の返事。反省をしてか心持声が沈んでいるがそれはご飯を食べれば持ち直すだろう。それがこいつらとのやり取りの気楽な所で、何かと理由を付けてうちに住み付こうとする厄介な所だ。










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