55 / 976
星空が広がるように 9
しおりを挟む
日が昇る前のまだ十分に暗い時間。
薄暗くもなくまだしっかりとしっとりと暗い四時前と言う早朝と言うにも早過ぎる時間。
吉野邸は既に活動を始めていた。
二階で眠る陸斗は流石に降りてこない物の、飯田さんが早めに五右衛門風呂を堪能する物音に山口さんが気が付いて人生初めての五右衛門風呂を楽しんでいたのだった。その間に飯田さんは昨日の残りで朝食を用意する物音で目を覚まし、二人でガタガタと朝食を準備する物音で俺も目を覚ますことになった。
「いやあ、俺も五右衛門風呂初めての体験ですよ」
朝食の準備が出来上がる頃に山口さんが風呂から出てきて簡単に作ったと言う料理人の言葉を信じちゃいけない朝食を先に頂き、小山さんも朝食を食べた後に五右衛門風呂を体験しての満足げな言葉に俺も田舎暮らしも悪いもんじゃ無いだろうと小山さんのにこやかな顔に満足する。
ただ昨日の夜はお酒を飲んでしまった為に堪能する事も出来ず、そして今も出発準備をする飯田さんにのんびりと入る時間もなく慌ただしい物になってしまったのが残念だけど。それは次回来てくれた時にゆっくりと味わって貰えば良いと思ってる。
荷物を詰め込む間に改築中の小屋を見て
「昨日飯田に見せてもらったけど随分と気合入れましたね」
ギャルソン自ら持ち込んだコーヒー豆で淹れてくれたコーヒーを啜りながら体を温める。本当に美味しいコーヒーは砂糖もミルクも要らないとここでもプロの技を堪能する一口は本当に贅沢な瞬間だ。
気温は十九度。
薄らと立ち込める霧に体感温度は二度ほど低いと感じている。
紳士にジャケットを羽織る山口さんを見習って小山さんもパーカーを羽織っているが、これから東京に帰ろうとする飯田さんは白いシャツだけの姿だった。当人は
「車に乗れば関係ないですし」
としれっと言う。
確かにそうかも知れないけど風邪ひくなよーと心の中で注意はしておく。うん。風邪ひいたら笑ってやろうと思いながら意外に体マッチョなんですねと農業で鍛えてる程度の俺とは全く体の作りが違う姿は正直羨ましくないもん!と言うところだろうか。
それはさておき辺りも明るくなってきて霧も少しずつ晴れてきて
「それじゃあ高速が混み出す前に行きます」
「気をつけて。
あと青山さんにもご心配おかけしましたって伝えてください」
言いながら畑の飯田さんのスペースから採れた野菜を積み込むのを小山さんも山口さんも一体それは何だい?と生暖かい目で見つめていた。
その視線を一身に受けた野菜を飯田さんは自慢げに
「帰ったらシェフと一緒に研究の時間です。そしてみんなで試食ですね」
「なるほど。その野菜で賄い料理を作って昼飯になるのか?!楽しそうだな!!」
「羨ましいでしょう?」
ニヤリと笑ってトランクをバタンと閉める。
小山さんは羨ましいと隠せない顔をむき出しにして
「その野菜少し分けろ!」
「みんな楽しみに待ってるんです。分ける分なんてありませんよ」
まるで子供のようなやりとりを俺と山口さんは困ったように眺めて
「後でうちの畑のところから持って行って下さい」
「それはありがたいです。昨日はあんなにも美味しい野菜をご馳走になりましてありがとうございます」
「野菜しかありませんが、今度来るときはゆっくりとして行ってください」
「でしたらこちらのお家ができた時、皆様にお披露目する時はどうぞうちの小山もご指名ください」
「ええと、まあ、飯田さんだけじゃ大変そうな時はお願いします」
そんな約束を当人抜きでするのは正当ではない。だけど仕事となれば話は別だ。彼らとてプロ。依頼があれば調整して来てくれるのも仕事のうちと割り切るぐらいには飯田さんと青山さんとは信頼関係ができているし、俺達の関係に絡みたいと言って来たのは山口さんの方だ。細々とした縁の大口でもない顧客だろうが折角の申し出には是非お願いしますと頭を下げる。
小山さんがベテランという枠を通り越してしまった山口さんを引き抜いた理由はこのスマートな気遣いや気配りができるプロフェッショナルな人柄なんだろうなと気づけば飯田さん達も言い合いを終えて
「ではまた来週」
「夜中も高速が混むんだから無茶しないでくださいよ」
改めての挨拶は苦笑まみれで、走り出した車を谷間の木々で見えなくなるまで見送る。
そして俺と山口さんと当然小山さんもまぜてお土産の野菜を紙袋に詰めて後部座席へと置き、先ほど話した山口さんとの話に承諾をもらって二人共山を降りて行った。
見送る時刻は向かいの山の稜線が藍色に染まるまだそんな時間。
この山奥の家を知る人が増えたにもかかわらず途端に静かになった庭の真ん中で下を向くよりはと空を見上げれば薄い霧越しの東の明るくなりだした夜空に浮かぶ明けの明星を見つけた。
薄暗くもなくまだしっかりとしっとりと暗い四時前と言う早朝と言うにも早過ぎる時間。
吉野邸は既に活動を始めていた。
二階で眠る陸斗は流石に降りてこない物の、飯田さんが早めに五右衛門風呂を堪能する物音に山口さんが気が付いて人生初めての五右衛門風呂を楽しんでいたのだった。その間に飯田さんは昨日の残りで朝食を用意する物音で目を覚まし、二人でガタガタと朝食を準備する物音で俺も目を覚ますことになった。
「いやあ、俺も五右衛門風呂初めての体験ですよ」
朝食の準備が出来上がる頃に山口さんが風呂から出てきて簡単に作ったと言う料理人の言葉を信じちゃいけない朝食を先に頂き、小山さんも朝食を食べた後に五右衛門風呂を体験しての満足げな言葉に俺も田舎暮らしも悪いもんじゃ無いだろうと小山さんのにこやかな顔に満足する。
ただ昨日の夜はお酒を飲んでしまった為に堪能する事も出来ず、そして今も出発準備をする飯田さんにのんびりと入る時間もなく慌ただしい物になってしまったのが残念だけど。それは次回来てくれた時にゆっくりと味わって貰えば良いと思ってる。
荷物を詰め込む間に改築中の小屋を見て
「昨日飯田に見せてもらったけど随分と気合入れましたね」
ギャルソン自ら持ち込んだコーヒー豆で淹れてくれたコーヒーを啜りながら体を温める。本当に美味しいコーヒーは砂糖もミルクも要らないとここでもプロの技を堪能する一口は本当に贅沢な瞬間だ。
気温は十九度。
薄らと立ち込める霧に体感温度は二度ほど低いと感じている。
紳士にジャケットを羽織る山口さんを見習って小山さんもパーカーを羽織っているが、これから東京に帰ろうとする飯田さんは白いシャツだけの姿だった。当人は
「車に乗れば関係ないですし」
としれっと言う。
確かにそうかも知れないけど風邪ひくなよーと心の中で注意はしておく。うん。風邪ひいたら笑ってやろうと思いながら意外に体マッチョなんですねと農業で鍛えてる程度の俺とは全く体の作りが違う姿は正直羨ましくないもん!と言うところだろうか。
それはさておき辺りも明るくなってきて霧も少しずつ晴れてきて
「それじゃあ高速が混み出す前に行きます」
「気をつけて。
あと青山さんにもご心配おかけしましたって伝えてください」
言いながら畑の飯田さんのスペースから採れた野菜を積み込むのを小山さんも山口さんも一体それは何だい?と生暖かい目で見つめていた。
その視線を一身に受けた野菜を飯田さんは自慢げに
「帰ったらシェフと一緒に研究の時間です。そしてみんなで試食ですね」
「なるほど。その野菜で賄い料理を作って昼飯になるのか?!楽しそうだな!!」
「羨ましいでしょう?」
ニヤリと笑ってトランクをバタンと閉める。
小山さんは羨ましいと隠せない顔をむき出しにして
「その野菜少し分けろ!」
「みんな楽しみに待ってるんです。分ける分なんてありませんよ」
まるで子供のようなやりとりを俺と山口さんは困ったように眺めて
「後でうちの畑のところから持って行って下さい」
「それはありがたいです。昨日はあんなにも美味しい野菜をご馳走になりましてありがとうございます」
「野菜しかありませんが、今度来るときはゆっくりとして行ってください」
「でしたらこちらのお家ができた時、皆様にお披露目する時はどうぞうちの小山もご指名ください」
「ええと、まあ、飯田さんだけじゃ大変そうな時はお願いします」
そんな約束を当人抜きでするのは正当ではない。だけど仕事となれば話は別だ。彼らとてプロ。依頼があれば調整して来てくれるのも仕事のうちと割り切るぐらいには飯田さんと青山さんとは信頼関係ができているし、俺達の関係に絡みたいと言って来たのは山口さんの方だ。細々とした縁の大口でもない顧客だろうが折角の申し出には是非お願いしますと頭を下げる。
小山さんがベテランという枠を通り越してしまった山口さんを引き抜いた理由はこのスマートな気遣いや気配りができるプロフェッショナルな人柄なんだろうなと気づけば飯田さん達も言い合いを終えて
「ではまた来週」
「夜中も高速が混むんだから無茶しないでくださいよ」
改めての挨拶は苦笑まみれで、走り出した車を谷間の木々で見えなくなるまで見送る。
そして俺と山口さんと当然小山さんもまぜてお土産の野菜を紙袋に詰めて後部座席へと置き、先ほど話した山口さんとの話に承諾をもらって二人共山を降りて行った。
見送る時刻は向かいの山の稜線が藍色に染まるまだそんな時間。
この山奥の家を知る人が増えたにもかかわらず途端に静かになった庭の真ん中で下を向くよりはと空を見上げれば薄い霧越しの東の明るくなりだした夜空に浮かぶ明けの明星を見つけた。
131
お気に入りに追加
2,678
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
後悔はなんだった?
木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。
「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」
怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。
何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。
お嬢様?
私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。
結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。
私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。
その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの?
疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。
主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる