9 / 976
古民家生活憧れますか? 5
しおりを挟む
飯田さんは俗にいう犬属性というか俺の後ろを黙って追いかけてきて水路から分岐した生簀に初めて気がついたようだった。
それは?とも聞かずに黙って俺の後ろから開けたいくつかのコンクリで出来た生簀の一つの金網の蓋を覗き込めば
「これは虹鱒、か?」
「じいちゃんの代から養殖している奴。時々旅館のおっちゃんが買いにくるな」
寂れた宿屋、何を間違ってかやって来る客。定期的に収入があるのは宿屋のおっちゃんには良いがうちの虹鱒の数は限りある物。市場の値段は知らないが安く卸している自覚はあるから断っても嫌な顔を見せない限り商売は続ける気で居る。
うちの生簀は沢の流れと同じで脂肪を貯めこむ隙もないというのが自慢だが子供達はゆったりとした流れの中で育てて居るから安心して卵を産めと言うのが養殖場の亡き主人の言葉だ。
「で、何匹ほしい?」
聞きながら一番下の生簀にキャベツを放り込む。目を点にして俺を見ている飯田さんはそれでも冷静に
「とりあえず、一人頭二匹だろうか?」
言われてて一番上流に近い一番大きい生簀から大きめの個体を八匹ほど網で掬った。
バケツの中でピチピチと跳ねる虹鱒をほらよと渡せば飯田さんは急いで台所へと向かい、流しで手際よく虹鱒をさばいていた。
腹を開いて内臓を落とし、四匹に塩を振って定番の塩焼きにするつもりらしい。
俺はそれを見ながら薪を熾せば飯田さんの尊敬する視線をなぜか背中で受け止めるも彼は手を休めずに今度は衣をつけてバターがないために油でフライを作っていく。
その合間にもほうれん草を炒めたりキャベツを酢で漬けたりマヨネーズを作ったりと忙しそうに料理を作るのを眺めていれば
「あっははは、なんか最高のおもちゃ箱をみつけちゃったみたいね」
青山さんは沢村さんと共に賑やかな台所に現れて『ごめんね』と言うけど一月程も入院してないばあちゃんが戻ってきたみたいで俺は迂闊にも涙をこぼし落とすのだった。
体が悪かったにもかかわらずせめて俺が高校を卒業をするまでと気力だけで病を無視してきたバアちゃんの治療期間は一月も必要としなかった。
本格的な受験シーズンを目の前にセンターすら受けようとしない俺に電話が数少ない交流手段のバアちゃんが得た知識に不安に駆られ、それに何も言わない息子夫婦と喧嘩した挙句に病院に入院する事になったのを知ったのはバアちゃん亡後の沢村さんとの何気ない会話だった。いや、沢村さんだったから何気なくだったのかもしれないが、それからは俺はバアちゃんが遺産を病院で知り合った沢村さんにお願いして作った遺言通り両親を含めた遺産相続人全員を黙らせて一人受け継いで今ここに居る。
こんな深い山奥で一人暮らしはかなりきつい物で高校に通うバス仲間に烏骨鶏という鳥を譲ってもらったりして賑やかに暮らそうと思えど生活音とはそう言う物ではないだろうと骨身に知らしめた所で飯田さんはバアちゃんの生活音を思い出させてくれるのだった。
リズム良い包丁の音、そしてナベの歪んだ蓋から沸き起こる湯気の音、せわしなく歩く土間独特の音。
右に左にと動く台所に響く足音に、七人兄弟だと言っていたジイちゃんの兄弟と子供達をもてなす数の食器達の音、不覚にも人であふれかえっていた幼い思い出を思い出して青山さんにしがみついて泣いていた俺の目の前に差し出されたのは飯田さんが用意してくれた家族が正常だった時に年に一度のお祝いに見た時のような料理の数々だった。
遺産相続で叔父達とその叔母達を始め実の両親とも言いあいする中で沢村さんが周囲に聞こえよがしに大声でバアちゃんの遺言を瓏々と語り、バアちゃんの願い通りにする事を薦めてくれたものの、おじさん、おばさんと声を掛けていた人達からのあの心臓を鷲掴みにするような冷たい視線は二度と会いたいと思う物ではないほどの恐怖だった。
なのに、数居る孫の中で俺を大切にしてくれたバアちゃんを思い出させるような男に不覚にも泣かされて、そして泣きながら飯を食うと言う醜態をさせた男は
「良かったらまた料理をしにきても良いだろうか?」
「……飯田さんなら歓迎するよ」
そう言ってしまってから火曜日の仕事が終わってから高速を飛ばして来て二晩泊まって金曜日の仕込みの時間に間に合うように帰ると言う、せわしない男が毎週のように来るようになったのはもうちょっと遠慮を覚えろと言う物だろうか。
最もうちの冷蔵庫を既に支配し、農業用の業務用冷蔵庫も発見されたので俺が二十歳を過ぎてから酒類も持ってきてくれるようになったので歓迎はしている。
「綾人君にあまり悪い事覚えさせちゃだめだよ」
青山さんはお盆近くになると一緒に来て仏壇に手を合わせてくれる時に言う言葉。あまりここに都会の空気を持ってきたくないんだろうなと思うのだろうが、生憎このネット社会では手に入れられない方が珍しい位充実しているので飯田さんは俺の数少ない話し相手としてやって来てくれているのをなんとなく理解している。
なんせ、油断すると一日声を出さない日なんてザラだからなと、会話の仕方を時々忘れそうな自分にさすがにまずいなと言う気持ちはちゃんとある。
それは?とも聞かずに黙って俺の後ろから開けたいくつかのコンクリで出来た生簀の一つの金網の蓋を覗き込めば
「これは虹鱒、か?」
「じいちゃんの代から養殖している奴。時々旅館のおっちゃんが買いにくるな」
寂れた宿屋、何を間違ってかやって来る客。定期的に収入があるのは宿屋のおっちゃんには良いがうちの虹鱒の数は限りある物。市場の値段は知らないが安く卸している自覚はあるから断っても嫌な顔を見せない限り商売は続ける気で居る。
うちの生簀は沢の流れと同じで脂肪を貯めこむ隙もないというのが自慢だが子供達はゆったりとした流れの中で育てて居るから安心して卵を産めと言うのが養殖場の亡き主人の言葉だ。
「で、何匹ほしい?」
聞きながら一番下の生簀にキャベツを放り込む。目を点にして俺を見ている飯田さんはそれでも冷静に
「とりあえず、一人頭二匹だろうか?」
言われてて一番上流に近い一番大きい生簀から大きめの個体を八匹ほど網で掬った。
バケツの中でピチピチと跳ねる虹鱒をほらよと渡せば飯田さんは急いで台所へと向かい、流しで手際よく虹鱒をさばいていた。
腹を開いて内臓を落とし、四匹に塩を振って定番の塩焼きにするつもりらしい。
俺はそれを見ながら薪を熾せば飯田さんの尊敬する視線をなぜか背中で受け止めるも彼は手を休めずに今度は衣をつけてバターがないために油でフライを作っていく。
その合間にもほうれん草を炒めたりキャベツを酢で漬けたりマヨネーズを作ったりと忙しそうに料理を作るのを眺めていれば
「あっははは、なんか最高のおもちゃ箱をみつけちゃったみたいね」
青山さんは沢村さんと共に賑やかな台所に現れて『ごめんね』と言うけど一月程も入院してないばあちゃんが戻ってきたみたいで俺は迂闊にも涙をこぼし落とすのだった。
体が悪かったにもかかわらずせめて俺が高校を卒業をするまでと気力だけで病を無視してきたバアちゃんの治療期間は一月も必要としなかった。
本格的な受験シーズンを目の前にセンターすら受けようとしない俺に電話が数少ない交流手段のバアちゃんが得た知識に不安に駆られ、それに何も言わない息子夫婦と喧嘩した挙句に病院に入院する事になったのを知ったのはバアちゃん亡後の沢村さんとの何気ない会話だった。いや、沢村さんだったから何気なくだったのかもしれないが、それからは俺はバアちゃんが遺産を病院で知り合った沢村さんにお願いして作った遺言通り両親を含めた遺産相続人全員を黙らせて一人受け継いで今ここに居る。
こんな深い山奥で一人暮らしはかなりきつい物で高校に通うバス仲間に烏骨鶏という鳥を譲ってもらったりして賑やかに暮らそうと思えど生活音とはそう言う物ではないだろうと骨身に知らしめた所で飯田さんはバアちゃんの生活音を思い出させてくれるのだった。
リズム良い包丁の音、そしてナベの歪んだ蓋から沸き起こる湯気の音、せわしなく歩く土間独特の音。
右に左にと動く台所に響く足音に、七人兄弟だと言っていたジイちゃんの兄弟と子供達をもてなす数の食器達の音、不覚にも人であふれかえっていた幼い思い出を思い出して青山さんにしがみついて泣いていた俺の目の前に差し出されたのは飯田さんが用意してくれた家族が正常だった時に年に一度のお祝いに見た時のような料理の数々だった。
遺産相続で叔父達とその叔母達を始め実の両親とも言いあいする中で沢村さんが周囲に聞こえよがしに大声でバアちゃんの遺言を瓏々と語り、バアちゃんの願い通りにする事を薦めてくれたものの、おじさん、おばさんと声を掛けていた人達からのあの心臓を鷲掴みにするような冷たい視線は二度と会いたいと思う物ではないほどの恐怖だった。
なのに、数居る孫の中で俺を大切にしてくれたバアちゃんを思い出させるような男に不覚にも泣かされて、そして泣きながら飯を食うと言う醜態をさせた男は
「良かったらまた料理をしにきても良いだろうか?」
「……飯田さんなら歓迎するよ」
そう言ってしまってから火曜日の仕事が終わってから高速を飛ばして来て二晩泊まって金曜日の仕込みの時間に間に合うように帰ると言う、せわしない男が毎週のように来るようになったのはもうちょっと遠慮を覚えろと言う物だろうか。
最もうちの冷蔵庫を既に支配し、農業用の業務用冷蔵庫も発見されたので俺が二十歳を過ぎてから酒類も持ってきてくれるようになったので歓迎はしている。
「綾人君にあまり悪い事覚えさせちゃだめだよ」
青山さんはお盆近くになると一緒に来て仏壇に手を合わせてくれる時に言う言葉。あまりここに都会の空気を持ってきたくないんだろうなと思うのだろうが、生憎このネット社会では手に入れられない方が珍しい位充実しているので飯田さんは俺の数少ない話し相手としてやって来てくれているのをなんとなく理解している。
なんせ、油断すると一日声を出さない日なんてザラだからなと、会話の仕方を時々忘れそうな自分にさすがにまずいなと言う気持ちはちゃんとある。
141
お気に入りに追加
2,670
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
裏路地古民家カフェでまったりしたい
雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。
高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。
あれ?
俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか?
え?あまい?
は?コーヒー不味い?
インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。
はい?!修行いって来い???
しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?!
その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。
第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!
家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!
雪那 由多
ライト文芸
恋人に振られて独立を決心!
尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!
庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。
さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!
そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!
古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。
見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!
見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート!
****************************************************************
第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました!
沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました!
****************************************************************
アマツバメ
明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」
お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、
雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。
雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、
謎の多い彼女の秘密に迫る物語。
縦読みオススメです。
※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。
イラスト:雨季朋美様
ハッピークリスマス ! 非公開にしていましたが再upしました。 2024.12.1
設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が
この先もずっと続いていけぱいいのに……。
―――――――――――――――――――――――
|松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳
|堂本海(どうもとかい) ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ)
中学の同級生
|渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳
|石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳
|大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?
――― 2024.12.1 再々公開 ――――
💍 イラストはOBAKERON様 有償画像
透明な僕たちが色づいていく
川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
表紙イラスト aki様
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる