81 / 84
キリマンジャロとモンブラン 12
しおりを挟む
今朝がた飯田さんと一緒に突然姿を現した綾人に
「おまっ?!フランスに居るんじゃないのかよ!!」
と叫んでしまったけど
「あ?そんなのめんどくさい事に巻き込まれそうだから適当に言っておいただけに決まってるだろ」
「なっ!!
ああ?じゃあ、昨日の篠田達の反応、あれも仕込みかよ?!」
「さすが親友!連絡無くても完璧だな」
「今度親友辞めろって言っておく」
「なんで?!」
あの微妙な空気を知らないから慌てるのだろうけど大体どんな状況か想像が付いているように飯田さんもどこか頷いている。ちゃっかりと綾人の見えない所で。この人も苦労したんだなと察する事が出来るぐらい交流を重ねてきたが俺達とは別に美園親子は葬式のような空気を醸し出していた。
「お父さんごめんなさい。私、店、継ぐの無理かも……」
会心の出来だと思っていたケーキの酷評に心がぽっきりと折れたかのように両手で顔を覆ってしまった娘と
「いや、儂も母さんが作ってくれたケーキを頑なに作り続けたのが研究不足となって未熟さを知る事が出来なかったんだ」
飯田さんの手厳しすぎるコメントに美園さんも涙を堪えて悲しげな顔をしていた。
この話の流れから行くと美園屋さんのケーキは亡き奥様の思い出の味と言う事なのだろう。
さすがにこれは思い出に傷をつけると言う事になるのではとハラハラしていれば
「とりあえず時間も時間ですのでお互いお店の準備に戻りましょう。
美園屋さん、この後ちょっとお店の方にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大したおもてなしは出来ませんが……」
と言うかこのタイミングでお邪魔するのかとメンタルの強さ真似できないと綾人の背後でブルってしまう。
これ以上何言われるか判らないと言う様にと家に帰る親子と一緒について行く飯田さんを見送りながら
「大丈夫かな?」
不安になって大丈夫って言って欲しい所だが
「むしろここからが本番。頑張れよって応援するのがマナーだ」
「何そのマナー?!」
驚く俺とは別に綾人はそのまま店を出て
「飯田さん帰って来たら先に帰ってますって伝えて。一応LIME入れておくけど」
何て帰って行って、さっきまで修羅場が繰り広げられていた店内は途端に静かになり、俺は心の安らぎを求めるように蓄音機で何故かクリスマスソングを聞いていた。
あの日は結局夕方になって飯田さんは戻ってきて
「本日はご迷惑おかけしました。
とりあえず今日の収穫はこれぐらいなのでおすそわけです」
そう言ってシュークリームと和栗のモンブランを置いて山に帰って行った。
今日はもうケーキなんて食べたい気分になれなかったけど、足の早い物なので閉店後の夕食を食べてから頂く事にした。
朝は美味しい状態で飲めなかったキリマンジャロでリベンジ。
裏庭を見下ろすカウンターテーブルに爺ちゃんのコレクションのランプに明かりを灯してケーキを頂く。
窓から忍び込む空気はすっかり秋らしくなり、油断すると寒ささえ感じてしまう。
風に乗って部屋中にコーヒーの香りが広がり、満足な仕上がりにゆっくりと口を湿らすようにコーヒーを飲んで、まずは随分姿が変わってしまったシュークリームを頂く。
前は薄い色の薄い生地だったが少し濃くなったシューを一齧りすれば香ばしさとクリームの水分を吸ってもクシュクシュにならない生地はサクッと歯切れも良く、そして驚くほど濃厚なクリームに密かに感動してしまった。
「全然別物じゃん」
驚きのあまりに気が付けばシュークリームをぺろりと食べていた。
いや、ご飯食べたばかりだぞ俺と思いながらもこうなると栗の取り扱いなら真骨頂の美園屋さんの和栗のモンブランも期待せずにはいられない。
そして食べずにはいられない。
コーヒーを飲もうとした所で、いや待て。こう言う時は水だ。
コーヒーで味を濁らさないように水だと言う様にシュークリームの濃厚な甘さとコーヒーの香りを洗い流してモンブランと対峙する。
「おまっ?!フランスに居るんじゃないのかよ!!」
と叫んでしまったけど
「あ?そんなのめんどくさい事に巻き込まれそうだから適当に言っておいただけに決まってるだろ」
「なっ!!
ああ?じゃあ、昨日の篠田達の反応、あれも仕込みかよ?!」
「さすが親友!連絡無くても完璧だな」
「今度親友辞めろって言っておく」
「なんで?!」
あの微妙な空気を知らないから慌てるのだろうけど大体どんな状況か想像が付いているように飯田さんもどこか頷いている。ちゃっかりと綾人の見えない所で。この人も苦労したんだなと察する事が出来るぐらい交流を重ねてきたが俺達とは別に美園親子は葬式のような空気を醸し出していた。
「お父さんごめんなさい。私、店、継ぐの無理かも……」
会心の出来だと思っていたケーキの酷評に心がぽっきりと折れたかのように両手で顔を覆ってしまった娘と
「いや、儂も母さんが作ってくれたケーキを頑なに作り続けたのが研究不足となって未熟さを知る事が出来なかったんだ」
飯田さんの手厳しすぎるコメントに美園さんも涙を堪えて悲しげな顔をしていた。
この話の流れから行くと美園屋さんのケーキは亡き奥様の思い出の味と言う事なのだろう。
さすがにこれは思い出に傷をつけると言う事になるのではとハラハラしていれば
「とりあえず時間も時間ですのでお互いお店の準備に戻りましょう。
美園屋さん、この後ちょっとお店の方にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大したおもてなしは出来ませんが……」
と言うかこのタイミングでお邪魔するのかとメンタルの強さ真似できないと綾人の背後でブルってしまう。
これ以上何言われるか判らないと言う様にと家に帰る親子と一緒について行く飯田さんを見送りながら
「大丈夫かな?」
不安になって大丈夫って言って欲しい所だが
「むしろここからが本番。頑張れよって応援するのがマナーだ」
「何そのマナー?!」
驚く俺とは別に綾人はそのまま店を出て
「飯田さん帰って来たら先に帰ってますって伝えて。一応LIME入れておくけど」
何て帰って行って、さっきまで修羅場が繰り広げられていた店内は途端に静かになり、俺は心の安らぎを求めるように蓄音機で何故かクリスマスソングを聞いていた。
あの日は結局夕方になって飯田さんは戻ってきて
「本日はご迷惑おかけしました。
とりあえず今日の収穫はこれぐらいなのでおすそわけです」
そう言ってシュークリームと和栗のモンブランを置いて山に帰って行った。
今日はもうケーキなんて食べたい気分になれなかったけど、足の早い物なので閉店後の夕食を食べてから頂く事にした。
朝は美味しい状態で飲めなかったキリマンジャロでリベンジ。
裏庭を見下ろすカウンターテーブルに爺ちゃんのコレクションのランプに明かりを灯してケーキを頂く。
窓から忍び込む空気はすっかり秋らしくなり、油断すると寒ささえ感じてしまう。
風に乗って部屋中にコーヒーの香りが広がり、満足な仕上がりにゆっくりと口を湿らすようにコーヒーを飲んで、まずは随分姿が変わってしまったシュークリームを頂く。
前は薄い色の薄い生地だったが少し濃くなったシューを一齧りすれば香ばしさとクリームの水分を吸ってもクシュクシュにならない生地はサクッと歯切れも良く、そして驚くほど濃厚なクリームに密かに感動してしまった。
「全然別物じゃん」
驚きのあまりに気が付けばシュークリームをぺろりと食べていた。
いや、ご飯食べたばかりだぞ俺と思いながらもこうなると栗の取り扱いなら真骨頂の美園屋さんの和栗のモンブランも期待せずにはいられない。
そして食べずにはいられない。
コーヒーを飲もうとした所で、いや待て。こう言う時は水だ。
コーヒーで味を濁らさないように水だと言う様にシュークリームの濃厚な甘さとコーヒーの香りを洗い流してモンブランと対峙する。
55
お気に入りに追加
400
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
【完結】欲しがり屋の妹が私の物を奪うので、街のゴロツキ(プロ)に奪う方法を習いました
もう書かないって言ったよね?
大衆娯楽
双子の姉であるメアリーは、今日も妹のアシュリーに自分の物を奪われていた。家庭菜園の野菜達にお水をあげていると、アシュリーがお小遣いで買った蝶のブローチを持って、妹がやって来たのだ。
断れば泣き叫んで近所迷惑になるし、駄目だと言っても、いつの間にか黙って取ってしまう。妹は何を言っても聞かないので、いつものように諦めて、あげてしまった。
でも、今日の妹は珍しく野菜にも興味を持った。鉢植えの中に小さなリンゴの木のようになっている赤い実を指差して聞いてきた。それはメアリーがお小遣いを前借りして、やっと購入した貴重な種で育てたプチトマトだった。
メアリーが「甘い野菜」だと答えると、妹はメアリーが一度も食べた事がないプチトマトを全部食べてしまった。そして、「一個も甘いの無かったよ」と言うと、口直しにクッキーを食べに行ってしまった。
ブチッと流石にメアリーの我慢も限界だった。二ヵ月間の努力の成果が二分で奪われてしまった。そして、妹に二度と奪われないように、奪うプロに技を教わる事を決めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる