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キリマンジャロとモンブラン 8
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狭い町と言うのはあっという間に噂話が広がって行く。
そして噂と言う物は大体当人の耳に入る頃にはほとんどの人が知っている。
田舎恐ろしい……
ただでさえ夜月の孫と言う名前が既に知れ渡っていると言うのに今回の噂と言う物は
「あら燈火ちゃん、まだケーキメニューにならないの?」
「美園さんの所のケーキは美味しいからな。。和栗のモンブラン食べた事あるか?まだなら是非一度食べると良いぞ?」
「所でケーキはいつ始めるんだい?
私あそこの大納言シュークリームが好きなのよ。
お抹茶のクリームと何より美園屋さんの餡子は絶品だから。それが合わさってとっても罪深いのよ?」
圧が半端ないです。
こういう時は
「綾人助けてー!」
『あ、悪い。今フランスだから無理』
つい先日まで我が物顔で店のロフトを占領していた自由人は何の予告もなく海外に出かけていた。
隣の県にある最寄りのケ〇タッキーに買いに行くようなノリでフランスに行くのかよとイラッとしながらも
「美園さん所のケーキを三日月でも取り扱うって言う噂が広まってるんだけど」
「あー……」
想像しながら途方に暮れているようだが
「まぁ、そうなったらお客様の希望に応えるのも仕事だ。
飯田さんに連絡しておくから一度飯田さんと全種類食べてみて考えてみても良いと思う」
「そうなるとトーストが売れなくなる」
必死に練習したワッフルのあのがんばりは必要だったかと今更ながら考えてしまうが
「みんながみんなケーキを切望しているわけじゃない。
朝っぱらからケーキが食べたいって言うのはまずいないだろうからな。
時間限定、曜日限定、そう言うのを考えて美園屋さんにも無理のないようにお願いするのも一つの手だと思う。
数とかが分らなければ委託販売と言う形で売れた数だけ買い取りをしても良いと思うし、そこは美園屋さんと相談すると良い。ただあの夕希だっけ?何を言い出すか判らないから相談する時は飯田さんを必ず連れてご主人と話すように」
「ああ、うん。もう師匠に頼る事にする」
「そうだな。一人で考えるよりはましな判断だ」
店主なのに店の運営権に関与する権限が一切ないのは俺の不徳とする所。一応専用のPCを用意して綾人が教えてくれた経理のソフトで閉店後事務処理をする。
数少ない行程だが的確な指示が書いてあるので既に暗記しても確認してしまう悲しい性。その後は明日発注する物の確認などなど。やる事はたくさんあって大体終わる頃晩飯に炊いたご飯が出来る頃合い。そしてお風呂も沸いた。
ほっとする時間を迎えた所であさりの味噌汁と宮下が差入れしてくれた謎肉の角煮を貰うのだった。
肉質は豚に近いが……
「イノシシかシカならオッケー。大丈夫。食べ慣れたし美味しい奴」
なんて言いながらも一口食べた所陥落するのもお約束。
判って入るんだ。
宮下家の食卓は世間一般とは変わっているかもしれないが美味いのは確定だ。更に飯田さんが来た時に差入れしてくれるご飯は何を出されても絶対おいしいって言う神飯。ただし食材が不明と言うのが怖いだけで……
「負けるな俺。気にしたら負け」
人生の中で今一番野菜を食べてる気もするが、それでも美味しく食べられるのだから野菜幾らでも持って来いって言えてしまう。
いや、別に母さんのご飯がどうのとか言う話しじゃないんだよ?
生まれてから高校卒業するまでずっと母さんのご飯食べて来たけど母さんのご飯も大好きだぞ?
ただ飯田さんのごはんがおいしすぎる罪料理なだけなんだよ?
母さんだって飯田さんの料理食べてタッパーに詰めて持って帰った人でなしなんだぞ?って言うか、俺の飯持ってかないでください。切実に訴えるも奪いに来る時は変りにカレーとかを持ってくるようになって、交換すればいいって話しじゃない。俺の飯返せ、だ。
とりあえず今日は神飯ではない宮下家のお袋の味なので母さんの味とは違う味付けを味わいながらネットでニュースをチェックしていれば店電が静かに騒ぎ出した。だけど暫くして閉店のアナウンスが流れる物のその向こうで人の声が聞こえた。
「あー、お店もう閉まっちゃってたか」
聞こえたのは夕希さん。
というかアナウンスが流れてても向こうの話し声って聞こえるんだと言う方が衝撃だった。
「まあ、いいか。明日会いに行けばいいよね」
なんてぼやいた所で電話を切ったらしく音声も終わった。
時計を見ればまだ非常識と言うには微妙な時間。
だけど綾人に言われている。
二人きりでは会うな、と。
どうしたもんかと思うも困った時はご近所さんがいるじゃないか!
ご飯を食べ終えて後片付けをした所で
「篠田ー、今から会えるー?」
「んー?飯なら食べた後だぞ?」
「いや、俺も食べたし」
「じゃあ、来ても良いぞ」
「いや、その基準ってどうよ?」
苦笑しながら俺は少し涼しくなりだした空気に薄手の上着を一枚はおり、冷蔵庫からビールを何本か手にして篠田の家へと向かうのだった。
そして噂と言う物は大体当人の耳に入る頃にはほとんどの人が知っている。
田舎恐ろしい……
ただでさえ夜月の孫と言う名前が既に知れ渡っていると言うのに今回の噂と言う物は
「あら燈火ちゃん、まだケーキメニューにならないの?」
「美園さんの所のケーキは美味しいからな。。和栗のモンブラン食べた事あるか?まだなら是非一度食べると良いぞ?」
「所でケーキはいつ始めるんだい?
私あそこの大納言シュークリームが好きなのよ。
お抹茶のクリームと何より美園屋さんの餡子は絶品だから。それが合わさってとっても罪深いのよ?」
圧が半端ないです。
こういう時は
「綾人助けてー!」
『あ、悪い。今フランスだから無理』
つい先日まで我が物顔で店のロフトを占領していた自由人は何の予告もなく海外に出かけていた。
隣の県にある最寄りのケ〇タッキーに買いに行くようなノリでフランスに行くのかよとイラッとしながらも
「美園さん所のケーキを三日月でも取り扱うって言う噂が広まってるんだけど」
「あー……」
想像しながら途方に暮れているようだが
「まぁ、そうなったらお客様の希望に応えるのも仕事だ。
飯田さんに連絡しておくから一度飯田さんと全種類食べてみて考えてみても良いと思う」
「そうなるとトーストが売れなくなる」
必死に練習したワッフルのあのがんばりは必要だったかと今更ながら考えてしまうが
「みんながみんなケーキを切望しているわけじゃない。
朝っぱらからケーキが食べたいって言うのはまずいないだろうからな。
時間限定、曜日限定、そう言うのを考えて美園屋さんにも無理のないようにお願いするのも一つの手だと思う。
数とかが分らなければ委託販売と言う形で売れた数だけ買い取りをしても良いと思うし、そこは美園屋さんと相談すると良い。ただあの夕希だっけ?何を言い出すか判らないから相談する時は飯田さんを必ず連れてご主人と話すように」
「ああ、うん。もう師匠に頼る事にする」
「そうだな。一人で考えるよりはましな判断だ」
店主なのに店の運営権に関与する権限が一切ないのは俺の不徳とする所。一応専用のPCを用意して綾人が教えてくれた経理のソフトで閉店後事務処理をする。
数少ない行程だが的確な指示が書いてあるので既に暗記しても確認してしまう悲しい性。その後は明日発注する物の確認などなど。やる事はたくさんあって大体終わる頃晩飯に炊いたご飯が出来る頃合い。そしてお風呂も沸いた。
ほっとする時間を迎えた所であさりの味噌汁と宮下が差入れしてくれた謎肉の角煮を貰うのだった。
肉質は豚に近いが……
「イノシシかシカならオッケー。大丈夫。食べ慣れたし美味しい奴」
なんて言いながらも一口食べた所陥落するのもお約束。
判って入るんだ。
宮下家の食卓は世間一般とは変わっているかもしれないが美味いのは確定だ。更に飯田さんが来た時に差入れしてくれるご飯は何を出されても絶対おいしいって言う神飯。ただし食材が不明と言うのが怖いだけで……
「負けるな俺。気にしたら負け」
人生の中で今一番野菜を食べてる気もするが、それでも美味しく食べられるのだから野菜幾らでも持って来いって言えてしまう。
いや、別に母さんのご飯がどうのとか言う話しじゃないんだよ?
生まれてから高校卒業するまでずっと母さんのご飯食べて来たけど母さんのご飯も大好きだぞ?
ただ飯田さんのごはんがおいしすぎる罪料理なだけなんだよ?
母さんだって飯田さんの料理食べてタッパーに詰めて持って帰った人でなしなんだぞ?って言うか、俺の飯持ってかないでください。切実に訴えるも奪いに来る時は変りにカレーとかを持ってくるようになって、交換すればいいって話しじゃない。俺の飯返せ、だ。
とりあえず今日は神飯ではない宮下家のお袋の味なので母さんの味とは違う味付けを味わいながらネットでニュースをチェックしていれば店電が静かに騒ぎ出した。だけど暫くして閉店のアナウンスが流れる物のその向こうで人の声が聞こえた。
「あー、お店もう閉まっちゃってたか」
聞こえたのは夕希さん。
というかアナウンスが流れてても向こうの話し声って聞こえるんだと言う方が衝撃だった。
「まあ、いいか。明日会いに行けばいいよね」
なんてぼやいた所で電話を切ったらしく音声も終わった。
時計を見ればまだ非常識と言うには微妙な時間。
だけど綾人に言われている。
二人きりでは会うな、と。
どうしたもんかと思うも困った時はご近所さんがいるじゃないか!
ご飯を食べ終えて後片付けをした所で
「篠田ー、今から会えるー?」
「んー?飯なら食べた後だぞ?」
「いや、俺も食べたし」
「じゃあ、来ても良いぞ」
「いや、その基準ってどうよ?」
苦笑しながら俺は少し涼しくなりだした空気に薄手の上着を一枚はおり、冷蔵庫からビールを何本か手にして篠田の家へと向かうのだった。
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