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お月様が浮かぶコーヒーカップ 2

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 沢山の人が俺のカフェの開店に向けて手を指し伸ばしてくれる。しかもどれ一つとっても俺の人脈はなく、寧ろ俺の意志すら飲み込んで夢と理想が当然と言うくらいどんどん形となって出来上がって行く家の仕上がりの素晴らしさに感動しつつも気付いてしまう。
 あ、絶対これ俺の予算じゃ絶対足りてない。
 屋根を貼りかえて壁の張り替えて断熱材入れて基礎の強化に店舗づくり。水回りの増設、家具のリメイク、庭造り、駐車場整備に蔵の漆喰の塗り替え。単純に店舗づくりで予算は終了しているはずだ。それなのにこれだけの事をしてくれるのだ。
 何でここまでしてくれるのかと思いながら
「なぁ、先生。何で魔王の奴俺にこんな良くしてくれるんだ?
 高校の時はさ、はっきり言って仲よくなかったって言うかお互い無関心なはずだったのにさ」
 思わずと言うように聞いてしまう。
 自分の腕を枕にごろりと寝転んであくびを零す先生は
「そんな物あいつに直接聞け」
「それが難しいから聞いてるのに」
 真剣に聞いてるんだぞとむっとしてしまえば先生は片目だけけだるそうに開けて
「どうせあいつの大好きな爺さん達の恩人の為にやってるだけだろう。お前はそのおこぼれに預かってるだけだから。
 恩人の葬式に行けなかったあいつなりの自己満足にお前は付き合わされてると思って好きにやらせれてやれ」
 何だかあのわけのわからない生物とも言うべき魔王を語る先生の話し方が妙に教師臭くて何も言い返せなくなってしまうも一つだけ線引きはしておきたい。
「だけど俺、予算以上は難しいから」
 金の切れ目が縁の切れ目にならないように、それ以前にここまでよくしてもらってお金所か何も返せなかったらどうしようと心配なんだと不安を伝えておけばそれこそ問題ないと言う様に目を瞑り
「その辺は好き勝手やってる奴に押し付けて問題ない懸案だから心配するな」
 心配するなと言うが不安しかない言葉にどうしようと思って宮下を頼ろうと振り向くも、いつの間にか長沢さん含めて姿はなく、一瞬でも先生を教師としての尊敬を取り戻したのに、自らそれをぶち壊す教師に信頼は……
 本日教師はお休みと言う事でワンチャンあげることにした。
 
 それが後悔の始まりとなる事になるのも知らずにだ。

 いきなり先生は向くりと起き上って
「今日暇か?」
「え?明日はちょっと忙しいけど今日は時間空いてるけど……」
「なら行くぞ」
 そう言って着替えて来るから出かけてくると宮下に伝えて来いと言われた。
 よくわからないまま
「なんか先生について来いって言われたんだけど……」
「あー……
 とりあえず風呂場の所に着替えあるから借りちゃっていいから先生よろしく?」
 言えばちょうど玄関から姿を現した先生にむんずと掴まれて拉致られるように車に押し込められて町ではなく山の方へと連れて行かれるのだった。
 家の前から宮下が頑張れよーと手を振ってくれたけど
「どこ行くんっすか?」
「お前の不安を取り除きにだ」
 そう言って下り坂のない山道をどんどん昇って行く。
 途中エアコンを切って窓を開ければひやりとした空気は森の濃い匂いに満たされていた。
 とりあえず集落に入る為の細い道に見向きもせずバス停が所々姿を現す道をどんどん進んでいく。
 道なりにほぼ直進をしてやがて店舗が一つ見えた。
 山道を登り始めて初めての遭遇。 
 そして店舗名が
「宮下商店……」
「宮下の実家だな」
 店の駐車場で車を降りてこんにちはーと降りれば
「あら先生いらっしゃい。
 そちらは、生徒さん?」
「これは宮下と同級生で、夜月さん知ってますか?そこの孫になります」
「ええと、初めまして。夜月燈火です」
 言えば
「夜月と言えば惣太郎の孫か?何番目のだ?」
「末の子供です」
「そうか、そうか。惣太郎は幸せだなあ。
 翔太から話を聞いてるが、あの家でカフェを出すんだって?
 あの家を継いでもらえて惣太郎の親たちも喜ぶだろう」
 羨ましそうに、嬉しそうに語る人は
「幸田さん。まずは自分から自己紹介ですよ」
 先生の声掛けに思い出したと言う顔で
「悪いなあ。改めて幸田って言う、タクシードライバーやってて駅前によくいるから声をかけてくれ」
「はい、お世話になります」
 そんな自己紹介にそれじゃないだろうと先生が首を振りながら
「幸田さん……
 幸田さんは吉野が林業してた時夜月の爺さん達と一緒に働いていた仲間なんだ」
 奥から麦茶を持って来た宮下そっくりな人に
「こいつは大和と言って宮下の兄貴」
 雑な先生の紹介によろしくと牧歌的な空気を纏うお兄さんは麦茶を渡してくれた。



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