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17.贅沢

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どこまでこの男は気遣いができるんだ。
星野から渡されたプレゼントの時計の紙袋に封筒が入っているのに気づいたのは、部署を異動してからだ。

すぐに袋を開けることは出来なかった。自分から断ったのに。
いや、違う。
楓が伝えないといけなかった付き合いの終わりも、空気を察した星野が言った。
時計と一緒に入っていた封筒もそうだ。

『新しい部署での活躍を楽しみにしているよ』

楓が使いやすいようにプロポーズのことは一切書いていない。
星野らしい気遣いに楓はなぜかモヤるのだ。
気を回しすぎるから。先回りして傷つかないようにしてくれる。
嬉しいけれど、星野の本音はどこにあったのだろうか。
一緒に過ごしている間はいつも優しかった。いつも楓のことを考えてくれた。優先してくれていた。

モヤモヤするのはきっと、楓が元カレにされていたことを星野に対してしてしまっていたから。
星野にかつて元カレと付き合っていたときの自分を重ね合わせる。

ワガママで振り回して、都合のいい関係で居させた。
元カレにちゃんと自分の本当の気持ちを伝えたかった。
星野の本音を聞いてあげたかった。

今更考えても、どうしようもないことだけど。

楓はそっと手紙を元に戻した。そして時計を手に取る。
楓の好きなトノー型のデザインだ。日付も表示されるタイプ。
そっと腕にはめてみる。
時計部分がクラシカルだからか、赤みが強い茶色の革ベルトでもスッと肌に馴染む。

「本当、隙がないなぁ」

こんなデザインの時計が一本欲しかったのだ。
今持っているメタリックベルトの時計と対比するようなフェミニンなデザインのもの。
なかなか好みのものと出会えなくてずっと探していたのに。
彼はあっさり見つけてくる。
楓よりも楓のことを知っているかのように。

楓が今まで出逢った男性でも三本の指に入るくらいいい男。
逃した魚は……。
楓はそこまで考えて首を振った。

星野との人生は重ならなかった。
ただ、それだけ。

未練なんか、ない。
……多分。



総務の仕事の進め方は営業とは真逆と言っていいほどだった。
チームプレーといいつつ、個に頼っていた営業とは逆に、総務では課全体での仕事量の管理が徹底されていた。
「うちは営業と違って色んな働き方の人が在籍しているから。
フルタイム正社員、時短、在宅、派遣にパート。産育休取っている社員も多いし、子育て中の人も沢山いるから、みんなで支え合っているの」
課長から異動初日に受けた言葉だ。役職はそのままの主任の楓はゆくゆくは日々の仕事の割振りを担当していくそうだ。

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