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停戦③
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南門――レオナルド達が今大軍で攻め込んでいる方はブラフ。本命は北の森を抜けたところにある通用口だ。
小さな出入り口一つがあるだけの北門。周りは森に囲まれており、森を守るように大きな川が流れている攻め込みにくい立地なのだ。
側防塔もなく、見張りの兵士が二人立っているだけ。
潜入調査しているときにやけに手薄なのに気づいて、北門までのルートを整備しておくように指示を出していたのだ。
一時間に一回、兵士が交代するタイミングで奇襲をかけるようにグウェンには命じている。
こちらの作戦を知ったかのように北の方から来ているらしい人物。
グウェンは今頃、作戦を一時中断してレオナルドの合図を待っているはずだ。
南門の方角、あるいはルトニアの首都の方角の東から来ていたら停戦の周知をする前にグウェンたちの奇襲は成功していただろう。
「北の森……か。偶然……か?」
「どうだろうな。とりあえず停戦の印を挙げている者がいる以上、一旦兵を引かねばならないな」
「あぁ、狼煙を挙げて皆に知らせるように。また旗を掲げたものを見つけたら、ここに案内してくれ」
了解、といい側仕えのアラン以外の者の動きが慌ただしくなる。
他の者が捌けるのを待って、レオナルドはアランに小声で問いかけた。
「こちらの作戦がバレている可能性は?」
「ゼロじゃないが……低いだろうな」
「そうか」
あと、と言い、アランは紙切れを差し出した。
「先程の伝令が持っていたものだ。開けてみろ」
渡された紙を見たレオナルドは目を見張った。
そして、腑に落ちた表情でつぶやいた。
「なるほどな」
紙には【S・F】とだけ書かれていた。
レオナルドの顔が変わる。話が分かるレオの顔から、冷ややかな王子の顔つきに。
そんな顔をしているレオナルドは、ゾッとするほど美しい。
この顔をしている時のレオナルドは、冷徹な判断しか下さない。
アランはホッと胸を撫で下ろす。
やけに他国の聖女に肩入れをしていたから、いざというときの判断が甘くなるのではと懸念していたのだ。
この顔をしているときのレオナルドは大丈夫。
国の利益を第一に考え、冷静で時に無情な判断をすることができる。
第二王子として育てられたとしても王座につく可能性は充分ある立場。
アタナス帝国は常に大国だ。統率する者は時に無慈悲でなくてはならない。でないと国を守れないからだ。
王子に生まれたものの宿命か、周りにいる者は全てが善人ではない。
道具・駆け引き・打算・姦計・欲心……。
王位継承権第一位といえど、正妻の子でない兄を亡き者にしようとして計画を立て、正妻の子であるレオナルドを利用しようとする。
人間の裏の面を幼い頃から見てきたのだ。
帝王教育という名目で他者を冷静に判断し、時に切り捨てる訓練は幼い頃から実践してきているレオナルドは恐ろしいほど無慈悲になれる。
(いいか悪いか分からないがな)
遠い親戚――はとこの関係――として付かず離れず仕えてきたアランの心の内をよそに、レオナルドは冷ややかな声で告げた。
「さて、丁重にもてなそうか。王子様自ら来てくれるのだから」
「そうだな」
レオナルドの言葉にアランは深く頷いた。
小さな出入り口一つがあるだけの北門。周りは森に囲まれており、森を守るように大きな川が流れている攻め込みにくい立地なのだ。
側防塔もなく、見張りの兵士が二人立っているだけ。
潜入調査しているときにやけに手薄なのに気づいて、北門までのルートを整備しておくように指示を出していたのだ。
一時間に一回、兵士が交代するタイミングで奇襲をかけるようにグウェンには命じている。
こちらの作戦を知ったかのように北の方から来ているらしい人物。
グウェンは今頃、作戦を一時中断してレオナルドの合図を待っているはずだ。
南門の方角、あるいはルトニアの首都の方角の東から来ていたら停戦の周知をする前にグウェンたちの奇襲は成功していただろう。
「北の森……か。偶然……か?」
「どうだろうな。とりあえず停戦の印を挙げている者がいる以上、一旦兵を引かねばならないな」
「あぁ、狼煙を挙げて皆に知らせるように。また旗を掲げたものを見つけたら、ここに案内してくれ」
了解、といい側仕えのアラン以外の者の動きが慌ただしくなる。
他の者が捌けるのを待って、レオナルドはアランに小声で問いかけた。
「こちらの作戦がバレている可能性は?」
「ゼロじゃないが……低いだろうな」
「そうか」
あと、と言い、アランは紙切れを差し出した。
「先程の伝令が持っていたものだ。開けてみろ」
渡された紙を見たレオナルドは目を見張った。
そして、腑に落ちた表情でつぶやいた。
「なるほどな」
紙には【S・F】とだけ書かれていた。
レオナルドの顔が変わる。話が分かるレオの顔から、冷ややかな王子の顔つきに。
そんな顔をしているレオナルドは、ゾッとするほど美しい。
この顔をしている時のレオナルドは、冷徹な判断しか下さない。
アランはホッと胸を撫で下ろす。
やけに他国の聖女に肩入れをしていたから、いざというときの判断が甘くなるのではと懸念していたのだ。
この顔をしているときのレオナルドは大丈夫。
国の利益を第一に考え、冷静で時に無情な判断をすることができる。
第二王子として育てられたとしても王座につく可能性は充分ある立場。
アタナス帝国は常に大国だ。統率する者は時に無慈悲でなくてはならない。でないと国を守れないからだ。
王子に生まれたものの宿命か、周りにいる者は全てが善人ではない。
道具・駆け引き・打算・姦計・欲心……。
王位継承権第一位といえど、正妻の子でない兄を亡き者にしようとして計画を立て、正妻の子であるレオナルドを利用しようとする。
人間の裏の面を幼い頃から見てきたのだ。
帝王教育という名目で他者を冷静に判断し、時に切り捨てる訓練は幼い頃から実践してきているレオナルドは恐ろしいほど無慈悲になれる。
(いいか悪いか分からないがな)
遠い親戚――はとこの関係――として付かず離れず仕えてきたアランの心の内をよそに、レオナルドは冷ややかな声で告げた。
「さて、丁重にもてなそうか。王子様自ら来てくれるのだから」
「そうだな」
レオナルドの言葉にアランは深く頷いた。
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