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牽制
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家に着いた安村はふぅー、と息を吐く。
(美咲君は諦めてくれるかな?)
じっくり話したことはなかったが、なかなか敏い子だ。きっと安村の牽制に気付いているだろう。
帰り道に寄ったコンビニで買ったタバコとライターをポケットから取り出すとベランダに向かった。
だいぶ前に止めたのに。
口淋しくてつい買ってしまった。
口に咥え、火を付ける。
店を出たときに舐めた飴の甘さがタバコの匂いに搔き消される。
「っ。ゲホッゲホッ」
久しぶりに吸ったタバコにむせる。
昔吸っていた銘柄の中でタール数が一番低いものにしたのに。
初めて吸ったときのように咳き込んでいる自分に、乾いた笑いが安村から漏れた。
ただの親友の妹でしかなかった美咲なのに。
気持ちを抑制しないと「妹」として思えなくなる。
いくら好意を寄せられたとしても親友の妹、それも男性と付き合ったことのない8歳も下の女性に言い寄るなんて、大の大人がすることではない。
今なら止められる。
安村は芽生え始めた気持ちを昇華させるように煙をくゆらせた。
安村は忘れていた。
吸わない間に名称が変わっていたタバコのように、知らないうちに気持ちが変化することを。
※
「酒を飲んだら口淋しくなるから」
店を出た安村は照れたように笑うと、美咲の前でポケットから取り出した飴を口に放り込んだ。
「ほら、美咲君も」
更に2つほど取り出すと美咲の手に押し付ける。
おばあちゃんちに行ったら置いてある類の、大きめで砂糖をまぶしているやつ。
久しぶりに見た。
「タバコを止めるときに、どうにも口淋しくてな。代わりに飴を舐めていた、というわけさ。今じゃ立派な飴好きのオッサンさ」
おどけた言い方に美咲は吹き出した。
酒のせいかツボに入って笑いが止まらない。
「そんなに笑うなよ。……今は酒飲んだあとくらいなんだから、飴を欲するのは」
「だ、だからって。この……チョイスは、渋いっ」
「色々試した結果だ。これが一番効くんだよ」
薬か何かのように言いのける安村にますます笑いが止まらない。
「困ったな……」
安村が眉を寄せるのをよそに、美咲はひとしきり笑ったのだった。
※
家に着いた美咲は安村に貰った飴を一つ口に頬張った。
大ぶりの飴だ。最初は舌で転がすのも一苦労。
外側にまぶしてあるザラザラしている砂糖。丁寧に舌で舐め取ると、飴本来の味が口に広がる。
(あ、レモンだ)
かき氷のレモンを食べたときのように柔らかい甘酸っぱさ。
口いっぱい広がる優しい味に美咲は微笑する。
堪能している内にふいに思い出した。
(そういえば……)
昔読んだ漫画でファーストキスはレモン味って書いていたことを。
じゃあこれが初キスの味……。
「ちょっ!なっ……」
一人顔を赤くする。
今まで飴の他、レモン味の食べ物なんか山程食べてきた時は一切思い出さなかったのに。
なんで今、思い出すのか。
「ファーストキス、か」
自らの唇に触れる。
24歳にもなって男性と付き合ったことない美咲は、キスも未体験だ。
どうせ、初めて触れるなら。
「安村さんがいい」
いつものように美咲君と呼んで、ニカッと笑って。
優しく唇に触れて貰えたらどんなに幸せだろうか。
「あーっ!もうっ」
美咲は近くにあったクッションを抱きしめた。
安村のことを考えるだけで顔が熱い。胸が苦しい。
男性と付き合ったことがなくても、この気持ちは知っていた。
15年前に経験したことがあるから。
美咲は息を吐くと、声には出さず口だけを動かしてある二文字を空に呟いた。
安易に言葉にしてしまったら、再び抱いたこの気持ちが叶わないまま破れてしまいそうな気がしたから。
(美咲君は諦めてくれるかな?)
じっくり話したことはなかったが、なかなか敏い子だ。きっと安村の牽制に気付いているだろう。
帰り道に寄ったコンビニで買ったタバコとライターをポケットから取り出すとベランダに向かった。
だいぶ前に止めたのに。
口淋しくてつい買ってしまった。
口に咥え、火を付ける。
店を出たときに舐めた飴の甘さがタバコの匂いに搔き消される。
「っ。ゲホッゲホッ」
久しぶりに吸ったタバコにむせる。
昔吸っていた銘柄の中でタール数が一番低いものにしたのに。
初めて吸ったときのように咳き込んでいる自分に、乾いた笑いが安村から漏れた。
ただの親友の妹でしかなかった美咲なのに。
気持ちを抑制しないと「妹」として思えなくなる。
いくら好意を寄せられたとしても親友の妹、それも男性と付き合ったことのない8歳も下の女性に言い寄るなんて、大の大人がすることではない。
今なら止められる。
安村は芽生え始めた気持ちを昇華させるように煙をくゆらせた。
安村は忘れていた。
吸わない間に名称が変わっていたタバコのように、知らないうちに気持ちが変化することを。
※
「酒を飲んだら口淋しくなるから」
店を出た安村は照れたように笑うと、美咲の前でポケットから取り出した飴を口に放り込んだ。
「ほら、美咲君も」
更に2つほど取り出すと美咲の手に押し付ける。
おばあちゃんちに行ったら置いてある類の、大きめで砂糖をまぶしているやつ。
久しぶりに見た。
「タバコを止めるときに、どうにも口淋しくてな。代わりに飴を舐めていた、というわけさ。今じゃ立派な飴好きのオッサンさ」
おどけた言い方に美咲は吹き出した。
酒のせいかツボに入って笑いが止まらない。
「そんなに笑うなよ。……今は酒飲んだあとくらいなんだから、飴を欲するのは」
「だ、だからって。この……チョイスは、渋いっ」
「色々試した結果だ。これが一番効くんだよ」
薬か何かのように言いのける安村にますます笑いが止まらない。
「困ったな……」
安村が眉を寄せるのをよそに、美咲はひとしきり笑ったのだった。
※
家に着いた美咲は安村に貰った飴を一つ口に頬張った。
大ぶりの飴だ。最初は舌で転がすのも一苦労。
外側にまぶしてあるザラザラしている砂糖。丁寧に舌で舐め取ると、飴本来の味が口に広がる。
(あ、レモンだ)
かき氷のレモンを食べたときのように柔らかい甘酸っぱさ。
口いっぱい広がる優しい味に美咲は微笑する。
堪能している内にふいに思い出した。
(そういえば……)
昔読んだ漫画でファーストキスはレモン味って書いていたことを。
じゃあこれが初キスの味……。
「ちょっ!なっ……」
一人顔を赤くする。
今まで飴の他、レモン味の食べ物なんか山程食べてきた時は一切思い出さなかったのに。
なんで今、思い出すのか。
「ファーストキス、か」
自らの唇に触れる。
24歳にもなって男性と付き合ったことない美咲は、キスも未体験だ。
どうせ、初めて触れるなら。
「安村さんがいい」
いつものように美咲君と呼んで、ニカッと笑って。
優しく唇に触れて貰えたらどんなに幸せだろうか。
「あーっ!もうっ」
美咲は近くにあったクッションを抱きしめた。
安村のことを考えるだけで顔が熱い。胸が苦しい。
男性と付き合ったことがなくても、この気持ちは知っていた。
15年前に経験したことがあるから。
美咲は息を吐くと、声には出さず口だけを動かしてある二文字を空に呟いた。
安易に言葉にしてしまったら、再び抱いたこの気持ちが叶わないまま破れてしまいそうな気がしたから。
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