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第八章「神の剣と知られざる真実」

ならず者の街

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鉱山へと続く森の中にひっそりと存在する屋根が付いた井戸。そこは井戸に見せかけた秘密の工房であり、地下階段を降りた先には、鍛冶用の設備が設けられた巨大な空洞が広がっていた。
「ヒッヒッヒッ……お邪魔してすまんのう」
気味悪い笑い声を上げながらも、工房を訪れるゲウド。工房には、自身の刀を磨いていたロドルが佇んでいた。
「いつかの薄気味悪いジジイか。また依頼に来たのか?」
振り返らずに刀を置いて返答するロドル。
「ヒヒヒ……それ以外に何があるというのじゃ? この前の健闘ぶり、実に見事であったぞ」
ゲウドはちらつかせるように大量の金貨が入った袋を差し出す。ロドルはゲウドが持っている金貨の袋をジッと眺めていた。
「ヒヒ、お前さんに再び依頼させて頂こう。赤雷の騎士と呼ばれた男ヴェルラウド、クレマローズの王女レウィシアを始めとする連中の始末をして欲しいのじゃよ。こういう奴らじゃ」
ゲウドは水晶玉で、闇王との戦いに挑んでいるヴェルラウド一行とレウィシア一行の姿を映し出す。レウィシアが闇王と戦っている映像を見たロドルは険しい表情を浮かべる。
「今度の相手はいくらお前さんでも分が悪いかもしれんのでな。そこでこのワシも協力させて頂こうと思っての」
「何だと?」
「ヒヒ……流石のお前さんでもこやつらの相手は厳しいかの? まあ、そう焦る事は無い。奴らもお前さんと同様、人間じゃからのう。ワシの頭脳があれば、始末できる糸口は掴めるはずじゃて」
ロドルは眉を顰め、刀を手に取る。
「……前金をよこせ」
ゲウドは快く金貨が入った袋を差し出す。ロドルは袋を受け取ると、入っている大量の金貨を手に取って眺めた。
「ヒヒヒ、もし足りなければもっと持ってきてやるぞ。金貨ならいくらでもあるんじゃからな」
下卑た笑いを浮かべるゲウド。
「……いや、結構だ。頂くのは、貴様の命だからな」
ロドルは刀で瞬時にゲウドを斬りつける。
「ギャアア! な、何をするんじゃあッ!」
深々と斬りつけられたゲウドが苦痛の叫び声を上げる。
「貴様はあのケセルという道化の腹心だと聞いている。俺の敵となる奴と関わりのある輩の依頼を引き受ける気は無い」
ロドルは金貨の袋をゲウドに向けて投げ捨てる。
「うぐ……お、おのれぇぇ! 貴様もケセル様……いや、ケセルに仇名すというのか!」
「フン、貴様の知る事では無い」
喚き散らすゲウドに、ロドルは二本の刀を突き立てる。
「グギャアアアアア!」
二本の刀からは激しい雷撃が迸る。雷撃を受けたゲウドは断末魔の叫び声を上げながらも、全身を焦がした状態で白目を剥き、そのまま絶命した。刀が引き抜かれ、所持していた水晶玉が転がると、ロドルは即座に水晶玉を手に取り、床に叩き壊す。
「……クレマローズ王女レウィシア……あの時の女か……」
ロドルはかつて魔物クラドリオを討伐した際に遭遇したレウィシア一行の事を思い出していた。
「どうやら、運命の時が近いようだ」
突然ロドルの頭に響き渡る声。
「……トレノか」
同時に、ロドルから毛玉のような姿をした生物が現れる。ロドルが所持する雷の魔魂の化身トレノであった。トレノは静電気のような音を立てながらも目を光らせ、ロドルの頭の中に話し掛ける。
「俺の同士、そしてお前の同士となる者が現れる。お前は俺の適合者……いずれ奴らと共に戦う運命があるのだ」
トレノの声は、雷の魔魂の適合者であるロドルにしか聞こえないものであった。ロドルはトレノの言葉の意味を考えつつも、動かないゲウドの死体を持ち上げては階段を登る。地上に出ると、ロドルはゲウドの死体をゴミのように森の中へ投げ捨てた。
「チッ……一先ず戻るか」
ロドルは二本の刀を携え、森の中を進んで行く。


賢者の神殿からは、二体の飛竜が飛び立っていく。スフレ達を乗せた飛竜ライル、レウィシア達を乗せた飛竜カイルであった。二体の飛竜はそれぞれの目的地へ向かおうとしていた。
「ねえ、リラン様」
「何だ?」
「この世界に人を生き返らせる力って、あるのかな。もしルイナスの人達にその力を持つ人がいたら……」
スフレの問いにリランの表情が険しくなる。
「……残念ながらそんな力は何処にも存在しない。それは地上に生きる者のみならず、神の間でも禁忌とされているのだ」
リランの返答にスフレは驚きの表情を浮かべる。
「一度失った命は決して戻らぬのが生を受けし者の理。それは神の理でもあり、神の理に反する行いは禁忌となる。死した者を生き返らせる方法は最初から存在しないどころか、あってはならぬものなのだ。例え理不尽な死であっても、それを受け入れなくてはならぬ」
厳しい表情でリランが言うと、スフレは何も言えずに俯いてしまう。
「お前の気持ちはよく解る。俺も何度か、死した者を生き返らせる方法があればと思う事もあった。だが、それもまた一つの運命として受け止めるしか他に無い。我々に出来る事は、死した者の分まで何かを成し遂げ、そして生きる事だ」
オディアンが冷静な声で言うと、スフレは再び顔を上げる。
「……そうね。そんな夢みたいな都合のいい話があるわけないもんね。もしかしたらと思ったけど……」
スフレは切ない表情のまま、雲が広がる空を眺めていた。
「ルイナスは北西の彼方だ。何が起きるか解らぬ。気を引き締めて行くぞ」
ライルは鳴き声を上げながらも、聖地ルイナスへ向かって行く。


レウィシア達を乗せたカイルは、ライルが向かう先とは逆の方向に飛んでいた。レウィシアはリランから与えられた手記の写しとコンパス付きの世界地図を眺めつつも、闇の都市ラムスの場所となる地へ向かわせるようテティノに指示する。ラムスの住民の間では噂になっているザルルの炭鉱の奥深くに存在する太古の遺跡と、遺跡の中に眠っている可能性があると推測されるヒロガネ鉱石に関する情報を得ようとラムスへ向かっているのだ。テティノはカイルに命令を与えるものの、飛行速度は遅めであった。ヴェルラウドは手を震わせながらも、手綱を掴んでいる。
「こいつ、もっと速く飛べないのか?」
飛行速度の遅さに不安を覚えたテティノが鞭を入れる。だが、カイルの移動速度は変わらない。
「いや、これくらいの速さで丁度いいと思うぞ」
そう言ったのはヴェルラウドであった。飛竜による空の旅が苦手な故、顔色を悪くしていた。
「ヴェルラウド、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
ラファウスが尋ねる。
「ああ……何とかな。空の旅にはなかなか慣れないんだ」
「まあ、そういう事でしたらあまり速く飛ばない方が良さそうですね」
会話を聞いていたテティノは、仕方ないなと思いつつも現状速度を維持したままカイルを操る。
「しかし、ラムスってところはならず者の街なんだろ? そんなところで話なんて聞き出せるのか?」
「今は直接行って確かめるのが一番よ。ならず者の街であろうと」
カイルはマイペースの速度のまま、着実に目的地となるラムスに近付いていく。旅立ってから一時間が過ぎようとした頃、荒地の中、高い塀に囲まれた都市を発見する。ラムスであった。
「あったわ。きっとあれがラムスよ」
カイルは都市の入り口となる場所に降り立つ。入り口の門には、ラムスの名前が記された看板が立てられていた。早速ラムスに入るレウィシア達。殺風景な雰囲気が漂う中、荒れ果てた住居と建物が数多く並び、至る所で喧騒が絶えないというまさにならず者の街と呼ぶに相応しい場所であった。
「うええ、何だよこの街。こんなところに長居なんてしたくないな」
街の雰囲気に嫌悪感を示すテティノ。
「気を付けて行くわよ。こういった街は何があるか解らないわ」
レウィシアの一言に全員が頷く。一行が街を歩いていると、道の上で酒盛りをしている荒くれの男三人がレウィシアの姿をジロジロと注目し始める。
「おい、何だあの女。スッゲー綺麗じゃねえか」
「へへっ、さてはお姫様かな? この街には勿体ねえくらいだぜ」
「やべえぞありゃあ! でっけえバストじゃねえか! しかも動くたびに揺れてるしよ!」
口々に品の無い噂をする荒くれ達にレウィシアは不快感を覚える。
「チッ、鬱陶しい奴らだな」
ヴェルラウドが荒くれ達に鋭い目を向ける。
「あぁ? あの黒髪の野郎、俺らにガンつけやがったぞ」
「あの野郎をブッ殺すついでにあの女頂こうぜ!」
「それはいいな!」
荒くれ達が一斉にレウィシア達に近付いて来ると、ヴェルラウドはレウィシアを守るように立ちはだかる。
「何だ、何か用か?」
「あ? すっとぼけてんじゃねえぞコラ。今ガン飛ばしやがったろ」
ヴェルラウドはやれやれと呟きながら溜息を付くと、レウィシアが前に出る。
「乱暴な真似はお止めなさい。私達は無益な争いは望んでいません」
レウィシアが気丈に言い放つ。
「ギャハハハハ! やっべーなこの女! 最高に可愛いじゃねえかよ! 乱暴な真似はお止めなさい、だってよ!」
「スタイルも最高だしな! へっへっ、お持ち帰りして食っちまおうぜ!」
下品な笑い方をしながらも迫る荒くれ達に嫌悪感を抱きながらも身構えるレウィシア。ヴェルラウドは即座に剣を抜き、三人の荒くれに攻撃を加える。
「ヴェルラウド!」
思わず声を上げるレウィシアだが、荒くれ達は声を上げる間もなく一斉に倒れてしまう。峰打ちであった。
「峰打ちだ。こういう奴らの相手も慣れているからな」
剣を収めるヴェルラウド。
「こんな奴らでも傷つけずに倒すなんて流石だな」
感心したようにテティノが呟く。
「まともに話を聞いてくれる人がいたらいいけど……行きましょう」
街の状況と住民の様子を見て半ば先が思いやられると思いつつも、レウィシアは再び足を進める。有力な情報を探し求める一行だが、所々で荒くれに絡まれたり、強盗に目を付けられたりと次々と現れる悪党が後を絶たない有様であった。試しに倒した悪党からヒロガネ鉱石やザルルの炭鉱の遺跡について聞き出すものの、知っている者は誰一人おらず、様々な場所で情報を探そうにも、まともに取り合ってくれる人物すら見つからない状況で、これといった情報も掴めない程であった。
「なあ、もう直接炭鉱に行って確かめた方が良くないか? 大体こんなろくでなしだらけの街で良い話なんて聞けるわけないだろ」
テティノは嫌気が差している様子であった。
「前以て人々の話から確証を得る方が確実だと思っていたけど……これでは前途多難ね」
レウィシアが軽く溜息を付く。
「ところでレウィシア、ザルルの炭鉱の場所も何処か解っているのか?」
ヴェルラウドの問いに、レウィシアは言葉を詰まらせる。手記の写しと手持ちの地図にはラムスの場所は書かれているものの、ザルルの炭鉱の場所は書かれていないのだ。
「何だって? 何故肝心なところが抜けてるんだよ!」
「私だって知らないわよ。その為にこの街で話を聞こうと思ったから」
「あー! 何でこうもすんなりと上手く行かないんだ! さっさと用件を済ませてこの街から出たいのに!」
「もう、少しは我慢なさい。みっともないですよ」
喚くテティノに対して冷静に声を掛けるラファウス。
「せめて一人くらいまともな奴がいたらいいんだがな……」
ヴェルラウドが辺りを見回すものの、人相が悪い盗賊らしき風貌の男や荒くれの集団が目に付くばかりであった。一行は再び情報を探ろうと街を歩き始める。
「おっと! てめぇら、大人しくしな!」
突然、一人のゴロツキが背後からラファウスを抑え付け、短剣をちらつかせながら人質に取る。
「ラファウス!」
「てめぇら、余所者だよなぁ? この街に来たからにはそれなりの通行料を支払ってもらうぜ。でないとこのガキの命は無いと思うんだな」
身構える一行。人質に取られているラファウスは動じずに、冷静な表情をしていた。
「お止めなさい! その通行料はどれくらいになるのです?」
要求に応じるようにレウィシアが尋ねる。
「そうだなぁ。最低でも五万ゴルは払ってもらうぜ。持ってねぇなら、お前さんの身体で払ってもいいんだぜぇ? ギャハハハハハ!」
下品に笑うゴロツキを前に、レウィシアは込み上がる嫌悪感のまま拳に力を入れる。ゴロツキが大笑いしている隙に、ラファウスは魔魂の力を呼び起こし、風の魔法を発動させる。
「うおおおっ!」
風の魔法でゴロツキが吹き飛ばされると、ラファウスは即座にその場から逃れる。
「私達を甘く見てはいけませんよ」
ゴロツキに向けて冷徹に言うラファウス。
「て、てめぇら何者だ!」
ヴェルラウドが剣を抜き、テティノが槍を突き付ける。武器を手にした二人を前に、ゴロツキは怯んでしまう。
「ひ、ひいっ! 勘弁してくれえっ!」
その場から逃げるゴロツキだが、ラファウスは風の力で周囲にある樽や木箱を器用に操り、ゴロツキに向けて投げつける。
「うぎゃっ!」
倒れるゴロツキ。ヴェルラウドは剣を突き付けながらも、ゴロツキからヒロガネ鉱石とザルルの炭鉱の遺跡について聞き出そうとする。
「し、知らねえよ……オ、オレはただのチンピラだからよぉ」
「本当に何も知らないのか?」
「知らねえって! だ、だから勘弁してくれよ! さっきの事は謝るから!」
「……ならばとっとと消えろ。二度と俺達に関わるな」
逃げていくゴロツキを見据えつつも、ヴェルラウドは舌打ちする。
「あんた達。見かけない顔ね。さては余所者かしら?」
一行の前に、鉄製のフェイスマスクを装着した長身の女が立ちはだかる。両腕に蛇のタトゥーが彫られ、大きな胸が強調された黒い服とアウトローな雰囲気が漂う黒髪の短髪美女であった。
「あなたは?」
「この街の住民よ。何かお困りかしら?」
「ええ。ちょっと知りたい事がありまして、それで……」
レウィシアは事情を説明する。
「ふーん、ヒロガネ鉱石にザルルの炭鉱……久しぶりに聞いた名前ね」
「本当ですか?」
「外では騒がしくて落ち着かないから、静かなところに行きましょう」
女は一行を案内するように歩き始める。
「おい、あの女に付いていって大丈夫なのか? 明らかに怪しいぞ」
テティノがレウィシアに耳打ちをする。
「一先ず言う通りにしてみましょう。何か知っているみたいだし、何もないよりはマシだわ」
「でもなぁ……」
泳がせる目的を兼ねつつ、レウィシアは女の言う通りにして付いて行く。
「全く、どうなっても知らないぞ」
渋々と後に続くテティノ。女が案内する先は、古びた建物であった。建物の中に潜入し、地下階段を降りては突き当たりにドアがある大広間に出ると、女の足が止まる。これは罠かと思わず一行が身構えた瞬間、女は懐から瓶を取り出し、蓋を開ける。すると、瓶から紫色の煙が出現し、煙は瞬く間に大広間を覆う。
「な、何これ……げほっ! うっ、涙が……」
煙は、強力な催涙ガスであった。更に女が別の瓶を取り出しては蓋を開け、白い煙が辺りを覆い尽くす。睡眠ガスであった。二重のガスを吸い込んだ一行は一瞬で猛烈な眠気に襲われ、その場で眠ってしまう。
「先ずはあそこへ連れて行かなきゃね。お前達、今すぐこいつらを運びな」
女が指示するとドアが開き、現れた数人の男達が眠るレウィシア達を運んで行った。


「うっ……」
レウィシアが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。手足には鉄球が取り付けられた重い鎖による拘束が施され、周囲を見渡すと手足を拘束された状態で眠っている仲間達の姿があり、仲間達の傍らには長剣を持った数人の男がいる。そして正面には、立派な座椅子に腰を掛けている女の姿があった。フェイスマスクを外した女はコーヒーカップを片手に煙草を吹かせていた。
「フフ、ようやく目覚めたわね。私の名はジュエリーラ。ちょっと手荒な真似をして悪かったわね」
ジュエリーラと名乗る女に、レウィシアは鋭い目を向ける。
「あなたは一体……何が目的でこんな真似を!」
「そう声を荒げないで頂戴。先ずはあんた達の話の続きを聞こうかしら」
「何ですって?」
「あんた達は、ヒロガネ鉱石を探す為にザルルの炭鉱の遺跡について知りたいんでしょう? その話の続きを聞こうと言ってるのよ」
何が目的なのかと思いつつもレウィシアは旅の目的について一通り話すと、ジュエリーラは眉を顰めながらも、灰皿に吸殻を置く。
「……ちょっと骨のありそうな余所者かと思ったけど、あんた達ならば役に立ちそうね。宜しい。あんた達には協力者として働いてもらうわ」
「協力者ですって?」
「ザルルの炭鉱の遺跡に眠ると言われる伝説のヒロガネ鉱石を探す協力者になってもらうと言ってるのよ。あんた達の目的なんでしょう?」
睨みを利かせるレウィシアに顔を近付けてはそっと頬を撫でるジュエリーラ。思わずその場から逃れようとするレウィシアだが、ジュエリーラは構わず話を続ける。
「あんたと黒髪の男が協力者で、後の二人は人質よ。つまり、あんたには断る権利は無いという事。あんた達のような腕の立つ協力者は他にいないからね。断ったらその場で人質がどうなるかお解り?」
目覚めないテティノとラファウスの喉元には、ジュエリーラの部下となる男達の剣が突き付けられていた。ジュエリーラの強引なやり方に思わず反論しようとするレウィシアだが、当初の目的を果たす事を含め、テティノとラファウスを守る為にジュエリーラの協力に乗る事にした。
「うっ……」
ヴェルラウドが目を覚ます。
「あら。丁度もう一人の協力者がお目覚めのようね」
ジュエリーラの声に思わず顔を上げるヴェルラウド。
「お前は……やはり罠だったんだな」
「罠? 確かにそう言われればその通りね。でもこれは、あんた達にとって好都合な話じゃない? 私との協力でヒロガネ鉱石が探せるんだから」
「何だと?」
ジュエリーラが指を鳴らすと、部下の男達がテティノとラファウスを運んで行く。
「おい、二人を何処へ連れて行くつもりだ!」
ヴェルラウドが声を荒げる。
「人質だから牢屋に入れておくのよ。心配しなくても部下がちゃんと世話をしてくれるわ。人質はあくまであんた達を協力させる為。用が済んだら逃がしてやるつもりだから」
「ふざけるな! 貴様は何者なんだ!」
「煩い男ね。逆らうと人質を殺すように指示するわよ」
ヴェルラウドは必死で拘束から逃れようとする。
「……ヴェルラウド。今は彼女の言う通りにしましょう。彼女に協力すればヒロガネ鉱石が手に入るかもしれないから」
「何を言ってるんだ。本当にそれでいいのか?」
納得いかない様子のヴェルラウドだが、レウィシアは物憂げな表情をしつつも黙ってヴェルラウドを見つめている。ジュエリーラはレウィシアとヴェルラウドの手足の拘束を解く。
「……ジュエリーラと言ったわね。あなたの目的は本当にヒロガネ鉱石なの?」
改めて問い詰めるレウィシア。
「そうだと言ってるでしょう? 何か気になる事でも?」
「……道化師の男……ケセルという名の男をご存知かしら?」
ケセルとの関連性を問うレウィシアだが、ジュエリーラは全く知らない様子であった。
「知らないわよ、そんな奴。あんた達のお友達?」
「私達の敵よ」
「ふーん、あんた達にも敵がいるのね」
ジュエリーラは再び鋼鉄のフェイスマスクを装着しては、レウィシアとヴェルラウドの剣を差し出す。
「一応言っておくけど。もし私に何かしたら人質の命は無いと思う事よ。武器を持ったらさっさと付いて来な」
高圧的に命令するジュエリーラ。剣を手に取ったレウィシアは黙って歩き始めるが、ヴェルラウドは内心戸惑いつつも剣を装着し、レウィシアの後を追った。
「いいわね? 人質のお世話はしておきなさい」
「へい! お任せください!」
部下の男に命令を下しては階段を登るジュエリーラ。レウィシア達が捕えられた場所は、地下に設けられたジュエリーラ一味のアジトだったのだ。
「ジュエリーラ。お前の方こそ、人質に何かあればどうなるか解っているんだろうな」
敵意剥き出しにヴェルラウドが言う。
「口答えするんじゃないわよ。あんた達が協力者として働いてくれたら人質の命は保障するって言ってるのよ。これだから男は嫌いよ」
ふてぶてしい態度で返答するジュエリーラに怒りを感じるヴェルラウド。
「ヴェルラウド、落ち着きなさい」
レウィシアが宥める。
「あんな女の言う事が信じられるのか?」
「信用しているわけじゃないけど、今はあの人に付いて行くしかないわ。それに、テティノやラファウスだってそう簡単にやられはしない」
テティノとラファウスの無事を信じているレウィシアは歩き続ける。煮え切らない現状に半ば苛立ちながらも、ヴェルラウドは渋々とレウィシアと共に足を進めた。


テティノとラファウスは、それぞれ隣同士の牢屋に入れられていた。二人が目覚めたのは、牢に入れられた後の事であった。
「ちくしょう、何なんだこれは! 出せ! 出せえっ!」
手足の拘束は解かれているものの、囚われているという現状にテティノがもがき始める。
「テティノ、気が付かれましたか」
隣の牢からラファウスが声を掛ける。
「ラファウス! レウィシアとヴェルラウドは?」
「解りません。此処にいるのは私とあなただけのようです」
「何だって……?」
レウィシアとヴェルラウドがいない事に不安を覚えるテティノ。そこで見張りの男がやって来る。
「お前達はジュエリーラ様の目的を果たすまでの間は人質だ。用が済めば解放してやる」
「何だと!」
もがきながらも声を荒げるテティノ。
「そう血を登らせるな。食事くらいは与えてやる。ジュエリーラ様が早く戻る事を祈るんだな」
「黙れ! 僕達の仲間はあと二人いるんだ! 二人は何処にいる!」
「あの二人はジュエリーラ様の協力者だ。ヒロガネ鉱石を探す為のな」
「何っ?」
テティノは驚きの声を上げる。
「ジュエリーラというのは私達を誘い出したあの女ですか。何故あの人が……」
ラファウスはジュエリーラの目的が気になりつつも、レウィシアとヴェルラウドの事を考え始める。見張りの男が去ると、テティノは鉄格子の扉に蹴りを入れる。
「何のつもりか知らないけど、あいつはやっぱり悪者なんだろ? このまま大人しくしてるわけにはいかないからな」
牢から脱出しようとするテティノだが、ラファウスは心を落ち着かせ、その場に腰を掛けた。
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